廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

優れたプロデューサーの下で

2018年10月14日 | Jazz LP (United Artists)

Kenny Dorham / Matador  ( 米 United Artists UAJ 14007 )


ロック畑からは総じて評判の悪いアラン・ダグラスだが、独自の才能があったことは認めざるを得ない。 アンダーカレントもマネー・ジャングルも、この人が
いなければ出来上がらなかった。 ユナイテッド・アーティスツでダグラスがプロデュースした作品は、そのアーティストの作品群の中では独特の高みを極めたもの
という評価を得て残っている。 スノッブな芸術手法に頼らず、結果的に芸術点の高い作品に仕上げているのだから、まあ凄いのは間違いない。

アンダーカレントやマネー・ジャングルに共通するアルバム全体を薄っすらと覆っているある種の暗さがこのアルバムにもある。 ドーハム、マクリーン、ティモンズ
というこの顔ぶれは、他のレーベルであれば凡庸なハードバップ・セッションで終わっていただろう。 ところが、"マタドール" というキー・コンセプトを使って
異国情緒を違和感なく滑り込ませることで、このアルバムは格調の高さを帯びた作品へと持ち上がることになった。

アルバム全面をコンセプチュアルにしなかったのは賢明な判断だったと思う。 そんなことをすればジャズらしさが失われてさぞかし胡散臭い内容になっただろう。
A面の雰囲気がうまくB面にも引きずられていて、普通のハードバップの演奏にも関わらずプラスαの雰囲気が漂っている。 よく計算された設計になっていると思う。

部品1つずつを単眼的に見れば各メンバーの演奏は如何にも彼ららしい演奏をしているが、アルバム全体が普段の彼らの力量以上のものに仕上がっているのは
プロデューサーの手腕によるところが大きかったはずだ。 ただ、それでもA面でのドーハムのラッパは情感のこもった印象深いものだし、マクリーンの
"Beautiful Love" は最良のバラードとなっている。 このアルバムはケニー・ドーハムのアルバムとして見ても、ジャッキー・マクリーンのアルバムとして見ても、
エヴァンスにとってのアンダーカレントと同じような位置付け、つまり他の多くの作品たちとは少し離れたところに孤高の峰としてそびえ立ち続けるだろう。


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2 コメント

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Unknown (cotton club)
2018-10-16 20:43:42
アランダグラスの回顧録みたいな記事を読んだことがありますが、プロデューサーとしての感性は独特ですね。ドルフィーに惚れ込んで録音テープを何十時間も回しっぱなしにした話なんか、他のプロデューサーには有り得ないと思います。それが今日のジャズファンの心に訴えるのでしょう。それが正当な評価なのかもしれません。ジミヘンへの悪行三昧を忘れられない(私みたいな)人はいるでしょうけど。
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Unknown (ルネ)
2018-10-17 06:25:31
ロックに比べて、ジャズはプロデューサーのことが語られることが少ないですね。 語られたとしても、大抵は悪口です。
テープを切り刻んだテオ・マセロ、とか。
でも、アルバムの半分はプロデューサーのものじゃないか、と思うことがあります。 その存在が前面に出るのがいいか悪いかは別にしても、名盤の陰にはプロデューサーの存在があるのは間違いないと思います。
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