Wynton Kelly / Kelly Blue ( 米 Riverside RLP 12-298 )
あるレーベルで、同一時期、同一スタジオ、同一レコーディング技師、同一マスリング技師、であるにもかかわらず、レコード再生時の音質の良し悪しに
大きくバラつきがあるのはなぜだろうと不思議に思う。 録音に使うマイクの種類やセッティングは毎回違うだろうから、そういうものが違いとなって現れるのかも
しれないし、エンジニアも人間だからその日の気分によって音への感度にムラがあったりしたのかもしれない。 工業製品としての品質に異様なこだわりをみせた
ブルーノートでさえ音質のバラツキは大きいのだから、他のレーベルでは何を言わんやである。
3大レーベルの一角として名盤を量産したリヴァーサイドだが、ヴァン・ゲルダー信仰者の多いジャズマニアからは音質面で評価されず、常に3番手の扱いを
受けている。 複数のスタジオと複数のエンジニアを使ったせいでレコードの音質のバラツキが他レーベルより大きかったのは事実で、サウンド面で統一した
レーベルカラーを持てなかったのがこのレーベルの弱点だったけど、1つ1つ聴いて行けばびっくりするような音で鳴るものもあるのがわかる。
例えば、この "Kelly Blue" なんかは恐ろしく音がいい。 音楽的には世間で言われるほど優れているとは思えないけれど、とにかく音質が圧倒的にいいので、
その生々しい臨場感にジャズらしさが溢れていて、これはすごいものを聴いた、と理屈抜きに思わせられるのだ。
録音技師はジャック・ヒギンズ、マスタリングはジャック・マシューズが担当しているが、この2人は1959年前後にタッグを組んでいて、たくさんの録音を
手掛けている。 この時期の2人の録音にはグリフィンの "The Little Giant" やモンクの "5 By Monk By 5" など音のいい作品もあるが、逆に
エヴァンスの "Portrait In Jazz" のようにパッとしないものもあり、エンジニアの名前が音質の良さを担保してくれない。
この "Kelly Blue" の音の凄さはA-2の "Softly, As In A Morninng Sunrise" を聴けば一番よくわかる。 これがあのウィントン・ケリーか、と思うような
デーモニッシュな演奏で、ピアノの弾き方が普段とは全然違う怪演なのだが、それ以上にピアノの音が記憶の中のケリーの音とはまったく違う。
グランドピアノがフルトーンで鳴っていて、その残響すべてがそのまま録られていて、これは上手い録音だと思う。
エヴァンスのポートレイトもこの音で録ってくれていたら、とつくづく残念に思う。 このギャップの大きさはオーディオ機器のグレードなどでは埋めようがなく、
我々の手ではどうにもならない。
ただの平凡なサラリーマンです。個人的な嗜好・見解100%のブログで恐縮ですが、何かのお役に立てれば幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。