

George Lewis and his Ragtime Band / Jazz At Vespers ( 米 Riverside RLP12-230 )
先日、トラッド・ジャズの巨匠コレクター Cotton Club さんのブログにお邪魔して、「ジョージ・ルイスはいいですねぇ」なんてお話をさせて頂いて、
久し振りに聴いてみたいなあ、などと考えていたら、週末の新入荷のエサ箱でこうして邂逅する。中古漁りではこういうことがよくある。
リヴァーサイドの完オリで盤面ピカピカの安レコ。トラッドは残念ながら人気がない。
トラッド・ジャズは20代の終わり頃によく聴いていたけど、最近はすっかりご無沙汰している。単にそこまで手が回らないという理由からだ。
トラッド・ジャズはアメリカの大地のように肥沃で広大な領域で、いっちょ噛みしたくらいではどうにもならない。今はほんの端っこの一部を
ちょこっと齧るので精一杯。
ジョージ・ルイスはレコードが膨大にあって、素人にはどれから聴けばいいかわからないが、幸いにもブルーノートやリヴァーサイドからも
リリースされているので、お馴染みのこのレーベルあたりから入るのがわかりやすい。ブルーノートの話はまた別途するとして、今回はこの
リヴァーサイド盤である。オリジナルはEMPIRICALというレーベルの10インチで、こちらはライセンス販売になるそうだ。リヴァーサイドは
レーベル立上げ期に自社録音音源が少なかったので、最初はこういう他社ライセンスのレコードを作って売るところからスタートしている。
ニュー・オーリンズやディキシーランドのジャズはアメリカの他の音楽と同様、ブルースやラグタイムなどの原初の音楽から派生した音楽だが、
それらに最も近い距離にある。奴隷制度の過酷な生活の中から生まれたそういう音楽が表現する苦悩を一旦後退させて、白人や白人との混血たち
が好んだ軽い音楽と入り混じることで発展してきた。そのため、注意深く聴くといろんな音楽的要素が随所に練り込まれているのがわかる。
特に、このラグタイム・バンドの演奏はそういう元々の特質に加えて、ある種の洗練さを身に纏っている。それはまるで上質な麻の生地で作られた
ボタンダウンのシャツのような質感だ。苦々しい生い立ちは人目に触れないようにして、成熟した音楽へと昇華することで、人々を楽しませる
一流の芸術として生まれ変わることができた。だから、一見陽気な雰囲気の中にもそこはかとない哀しみのようなものがうっすらと漂い、それが
心地よい哀愁となって聴く人の心を癒す。ルイ・アームストロングのように強烈でわかりやすい個性で売らず、純粋に音楽的で控えめだった
ジョージ・ルイスの音楽がここまで大きくなったのは、そういうところがあったからだろうと思う。
スマホ片手に「続・公爵備忘録」を睨みながら、トラッド・ジャズのレコードを漁ると迷いがなくていい。これに勝る手引書は他にないのだ。
このレコードはGeorge Lewisの傑作で、厳密には再発ですが、オリジナルより音が良く、入手しやすく、かつお値段的にも安い。多くの人に聴かれれば、自分のことのように嬉しいです。