Dizzy Gillespie, Stan Getz, Sonny Stitt / For Musicians Only ( 米 Verve MG V-8198 )
冒頭の "Be Bop" からソニー・スティットのアルトが爆発する、只事では済まない恐ろしいアルバムである。スタン・ゲッツも "Focus" で見せた
ほの暗い怪演で真っ向から対抗する。ディジーも抑制の効いた切れるような演奏で猛スピードでぶっ飛ばす。3人がそうやってソロを回していく
様子がとにかく凄まじい。A面はまるで嵐のように過ぎ去っていく。
B面に行くとギアが一段シフトダウンして、今度はトルクが深く効いて身体ごとグイっと前へと持っていかれるような演奏で、こちらもA面に
負けず劣らず。スティットのアルトが歌って歌って、歌いまくる。ディジーの抑えた演奏が圧巻で、破たんが一切なく、リー・モーガンが3人
いても敵わないようなパーフェクトな演奏を聴かせる。何と言うコントロール加減だろう。
このアルバムの白眉はソニー・スティットで、「パーカーに似ている」と言われた所以はここにあるんだなと納得させるキレッキレのアルトが
脳天に突き刺さる。自己名義のアルバムでは聴くことができない、別人へと豹変したちょっと怖さを感じるような演奏をしている。
このアルバム全体を聴いて感じる興奮や高揚感は、コルトレーンの "Ascension" にも通じる。ジャズという音楽が原初的に持っていたであろう
スリルがこんなにも無防備な形で提示されているケースは、なかなか他には思い出せない。
アルバム・タイトル通り、職人としての技を競い合うというコンセプトに徹しているところが素晴らしいが、それでもよくある只のジャム・
セッションには終わらず、非常に高度で豊かな音楽性も同時に感じることができるという、アルバムとして奇跡的な仕上がりになっているのは、
やはりスタン・ゲッツの存在の影響だろうと思う。この時期の彼の音色にはどこか文学的な匂いがあって、そのフレーズが加わることで
やかましい騒音になりがちな音の塊たちは音楽を取り戻し、音楽が音楽であり続けるのだ。
嬉しいことに、このアルバムは音がすごくいい。サウンドが安定しないヴァーヴ・レーベルの中でも間違いなくトップランクの音質で、
楽器の輝きが他のタイトルとは全然違う。Vee Jayレーベルのような輝かしいモノラル・サウンドで、3人の巨匠の存在感の重さが際立つ
素晴らしい音場感だ。