

Bill Evans Trio with The Symphony Irchestra ( 米 Verve V-8640 )
ビル・エヴァンスの美音に溢れた傑作にも関わらず、おそらく一番まともに評価されず、聴かれることのない作品だろう。まずジャケットが最悪で、
これが人を寄せ付けない。おまけに素材がクラシックで交響楽団がバックとくれば、普通のエヴァンス・ファンでも避けて通る。エヴァンス・ファンの
熱心さというのは本当に凄くて、ネットを見ているとその探究度合いには驚かされるけれど、そんな中でもこのアルバムへの関心は高くないようだ。
ジャズのピアニストがクラシックへ接近しようとするのは珍しいことではなく、レーベルが要求するピアノ・トリオ物をある程度作り終えると、
腕に自信のある者はそういうことを考えるようになる。 ただ、今まで聴いたこの手のアルバムで感心したものはあまりなかった。
やはりクラシックのピアニストと比べると技術的に大きく劣るのはどうしようもなくて、そういう粗ばかりが目立つし、作品の解釈もちょっと
違うんじゃないかという違和感を感じることが多い。純粋なクラシックじゃないんだからというのはわかっているし、そんなに厳格な聴き方を
することはないんだけれど、でもどうしたって本流と比べてしまう。
その点、このエヴァンスのアルバムはそういうジレンマを感じることがまったくない。 なぜなら、これは根本的にクラシックのアルバムではなく、
まっとうなジャズの作品だからだ。 主題は原曲のものを使っているけれど、その後は普通にビル・エヴァンス・トリオの音楽をやっている。
だからディズニーの楽曲を演奏しているのと何ら変わらない。バックのオーケストラもトリオの演奏を邪魔しておらず、全体のバランスが
とてもいい。クラウス・オガーマン指揮のオーケストラも一糸乱れぬアンサンブルで硬質でスマートでデリケートなスコアを演奏する。
このオケは一流だ。
取り上げられている楽曲は美メロで物憂げな曲想のものばかりなので、翳りのある優美な音楽となっている。録音はRVGで、ピアノの音は
くっきりとしていて音質も良好。 決して企画先行のお仕着せの内容ではなく、エヴァンス自身が真剣に取り組んだヴァーヴ時代の傑作だと思う。