Kai Winding / Solo ( 米 Verve Records V-8525 )
カイ・ウィンデイングという人がジャズ愛好家からどのような評価をされているのかよくわからないが、大方の人は無視しているんじゃないだろうか。
というか、正確に言うと、好き/嫌いになる前に評価しにくいタイプのレコードばかりで、正直、手に余る存在というところだろう。
一番ポピュラーな "Jay & Kai" だって、ただでさえ取っつきにくいトロンボーンが2本で絡み合うということで敬遠されがちだろうし、聴いたところで違いもよくわからず、
という感じかもしれない。ただ、実際はそんなことはなく、よく聴けば2本のトロンボーンの音色はまったく違っていて、鼻のつまったようなくぐもった音色の方がJ.J.で、
大きく張りのあるビッグ・トーンの方がカイである。フレーズもJ.J.の方が歌うようになめらかで自然な感じなのに対して、カイの方は音圧一発という感じだ。
そんな訳で過小評価という以前に評価対象外となっているカイ・ウィンディングだが、彼の等身大の良さがわかるレコードにぶつかった。その名もずばり "Solo" という。
このアルバムのいいところは全編ワン・ホーンであること、音楽はメイン・ストリームど真ん中、音が非常に良い、という3拍子が揃っているところに加えて、とどめは
値段が安いということだ。私が拾ったのは680円で、このレコードの立ち位置というものをよく表している。
ピアノ・トリオに数曲でディック・ガルシアのギターが加わりながらバックを務める。ピアノはロス・トンプキンスで、この人はジョー・ニューマンのコーラル盤や
ジャック・シェルドンのジャズ・ウェスト盤でピアノを弾いていたデトロイトのピアニスト。そういうシブいメンツに支えられながら、カイのトロンボーンがまるで
落雷のような音圧で鳴り響くなかなかすごい演奏になっている。とにかく、このレコードは耳が痛くなるくらい音圧が高い。
ロリンズが吹いて有名になった "How Are Things in Glocca Morra" のアップ・ビートで始まり、他にもセンスのいい選曲が並ぶ。フレーズは起伏に富んだイマジネイティヴな
ものでダレるところはまったくない。トロンボーンはサックスやトランペットに負けることのないリード楽器だということがよくわかる。モダン・トロンボーンのワン・ホーン
はそもそも数が少ないので、そういう意味でもこれは貴重な1枚と言える。