The Jimmy Giuffre 3 / Fusion ( 米 Verve V-8397 )
とにかく不器用な人だったなあ、と思う。 私がこの人を知ったのは学生時代に観た「真夏の夜のジャズ」だったけれど、あの "The Train And The River"を
聴きながら、「ジャズをこんな風にカントリーっぽく演奏してもいいんだ」とユルい衝撃を受けた。 つまり、難解なものに仕立てて格上げするのではなく、
わかりやすい方へ寄せて異化するという逆転の発想にちょっと驚いた。 上品なスーツを着て、スタン・ゲッツを少し男前にしたような顔で懸命にサックスを
吹く彼の姿はとても印象的だった。 それからアトランティック盤を探してよく聴いたけど、クールでもなく室内楽的でもない、また違うタイプのジャズの
世界があることを知った。
だから、後にこういう現代音楽風なことをやっていたことを知っても特に違和感はなかった。 この人ならそうなっても全然おかしくないと納得できた。
いわゆるフリージャズとは違う質感で、もっとナチュラルな感覚で演奏されていると思う。 ジャケットの裏面の本人の解説で、今まで以上に演奏家の
間にインタープレイが必要であることを痛感したから、と制作の動機を説明しているけれど、ポール・ブレイ、スティーヴ・スワローとのなめらかな纏まりは
上手くいっている。 そして、この纏まり感はブルックマイヤー、ジム・ホールとのトリオが持っていたものと基本的には同質で、更にそれを推し進めた
ものだということもわかる。
ジュフリーのクラリネットは終始穏やかな表情で断片的なテーマ部を噛み砕きながら自由に漂う。 ポール・ブレイも適切な音数で寄り添い、スワローの
ベースが重く硬質な音で全体をがっしりと支えている。 全体的に非常に穏やかで典雅で柔和な表情の静かな音楽で、これはとてもいい。 ヴァーヴには
この半年後に同じメンバーで録音された "Thesis" というアルバムもあるけれど、そちらは私にはあまりピンとこなかった。
ジュフリーはゲッツやズートらと一緒にウディ・ハーマン楽団を支えた白人テナーの先頭集団にいた人だけど、王道のストレートなジャズ・アルバムを
ほとんど作らず、そのカタログには一癖も二癖もある作品が並ぶ。 そのせいでまともに聴かれることもなく、評価もされていないのは残念だと思う。