Marty Paich / Marty Paich Trio ( 米 Mode MOD LP 105 )
最近のヘビロテNo.1はこの安レコ。 マーティー・ペイチをピアニストという目線でまともに聴いたのは最近のことで、これが驚いてしまった。
食わず嫌いは直さなければいけないと自戒しているつもりだけど、どうやら聴き逃しているものはまだたくさんありそうだ。
MODEレーベルのレコードは大量に流通していてエサ箱の常連だから、値段は高くない。 それでも触手が伸びないのは私がウェスト・コースト・ジャズが
嫌いだからに他ならない。 聴かないレコードは買ってもしかたがない。 それに加えて、彼の書いたホーン・アンサンブルのアレンジが嫌いだから
というのもある。 この人が書くスコアは教科書的凡庸さでまったく面白くない。 息子の方が遥かに才能があると思う。 そういう先入観が邪魔して
これまで手に取ることなくきたが、値段の安さに負けて試聴してみると、イメージとは違うピアノが鳴りだして驚くことになった。
意外に重たい音で、口数も少ないところが気に入った。 このレーベルのサウンドはカラカラに乾いた軽いものが多い印象があるけれど、このピアノは
音が濡れている。 雨上がりの後、アスファルトに溜まった水溜まりに映る街の風景を見ているような気分になる。 レッド・ミッチェルのベースも
メル・ルイスのドラムも重い。 しっとりとしたサウンドで、演奏も非常に落ち着いている。 こんなに素晴らしい演奏だとは思わなかった。
よく知られているように、このレーベルのレコードは程度の差はあるにしても基本的にカゼをひいている。 だから現物を試聴しなければ買えない。
このレコードも疵はないのに所々で薄くチリチリいう。 こだわるならカゼをひいていないものを気長に探せばいいのだろうけど、私はこれ以上は
深追いしないでおこうと思う。 このレコードに関してはそういう話に終始するよりは、内容の素晴らしさを語るべきだと思うからだ。