Zoot Sims / ZOOT ( 米 Argo LP 608 )
若い頃から既に老成した雰囲気を持っている人って結構いる。 大体の場合、10代の頃から "おっさん" という有難くないあだ名を付けられたりする。
でも、年を取って久し振りに会うと昔と全然変わってないなあということになり、逆に若い頃はシュッとした男前だったのに今じゃ老けて見る影もなく
劣化したのもいたりして、果たしてどちらがいいんだろうという話になったりする。
ズート・シムズもおそらくは前者のタイプだったんじゃないかと想像する。 初期プレスティッジの頃から大人びたプレイで頭一つとび出ていて、以降
晩年までスタイルも音楽も高値安定を維持し続けたような印象だろう。 パブロ時代にようやく実年齢が演奏に追い付いたかな、という感じだ。
ただ、このアーゴ盤をじっくりと聴いていると、そういう俯瞰した時の粗い印象の中でもやはり若々しい勢いとみずみずしい感覚で吹いているなあと
いうことに気が付くようになった。 演奏があまりに上手過ぎてサックスが音楽の中に見事に溶け込んでいるから普段はあまり考えないけれど、
高音域帯を中心にフレーズを構成して弾むようなノリで明るい表情を作っているのはこの時期ならではだと思う。
スタン・ゲッツのバンドでは雑な所が目立って興を削いでいたジョン・ウィリアムスもここではとても丁寧な演奏をしていて、音楽が上手くまとまるのに
貢献している。 4人が余裕で処理できる範囲内のスピード感に抑えているところがこのアルバムにゆとりの感覚をもたらしているようなところがあり、
それが作品を成功に導いている。 ズートには2管編成のアルバムが多いけれど、この人の語り口を味わうにはこういうワンホーン以外は考えられない。
アーゴに唯一残したアルバムで彼の魅力が最大限に伝わるような内容になっているのはおそらくは偶然ではない。 アルバム制作陣は何をするべきかが
わかっていたのだろう。 選曲も他レーベルのものとは一味違っていて、他のアルバムでは代替が効かないスペシャルな1枚となっている。