[4月21日11:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺]
対象者にこの世で会えぬと分かった以上、急いで帰京する必要があった。
取りあえず敷島とエミリーは大石寺境内にあるタクシー乗り場へ向かい、そこからタクシーに乗ることにした。
改修工事中の三門の南には国道が通っており、その更に南側にタクシー乗り場はある。
幸いそこに空車のタクシーが止まっていて、敷島達はそれに乗り込んだ。
エミリー:「新富士駅までお願いします」
運転手:「あ、はい。新富士駅ですね」
タクシーがバス停と一緒になっているロータリーのような所から公道へ出ようとした時だった。
『特急 大石寺』と書かれた路線バスが入線して来たのである。
運転手:「だいぶ遅れたな……」
運転手はそのバスを横目で見てポツリと呟いた。
だがその時、敷島は電話中だった。
敷島:「……そうなんですよ。行ってみたら、とんでもないことになってましてね。取りあえず、現場から離れることにしましたよ」
平賀:「そうですか。それは残念です」
敷島:「あのKR団最後の女性科学者の親族ならガチだったんですけどねぇ……」
平賀:「ガチだったからこそ狙われたんでしょうね。1人だけピンポイントで狙ったのでは、例え死んだにしても、我々にはそれが誰なのかすぐに分かりますから。無関係の人間も複数集まってて、対象者が特定できないうちに全員殺せば、少なくともエミリーの生体反応は使えない。非常に残酷な話ですが、それがテロというものでしょう」
敷島:「KR団も潰れて久しいのに、今度は一体何なんですかね?」
平賀:「犯行声明も出ていないのでは、何とも言えませんね。警察には?」
敷島:「地元の警察が出動していましたし、後、私の方で鷲田警視に連絡しておきました」
平賀:「気を付けてくださいね。敷島さんも、本来は狙われる側の人間なんですから」
敷島:「私にはエミリーがいますからね。ややもすれば、シンディも使えますし。平賀先生こそ、新たにマルチタイプを造ってみたらどうでしょう?」
平賀:「簡単に言わないでくださいよ。製造費用だけで50億円はするんですから」
敷島:「DCJさんの希望小売価格でしょ、それは?」
平賀:「自分には七海がいるから大丈夫ですよ」
敷島:「メイドロイドを強化した方が安上がりってわけですか。昔、何かそんな話をしたような気がしますね」
平賀:「ありましたねぇ。確か、南里先生が御存命だった頃の話ですよ」
敷島:「ああ、それくらい昔でしたか。いやいや……」
平賀:「敷島さんは、東京に戻られるんですか?」
敷島:「今日の所はそうした方がいいでしょうね。火事が鎮火した後は消防や警察の現場検証が入るでしょうから。鷲田警視からも、『現場を荒らすな』と言われてますしね」
平賀:「なるほど。とにかく、自分も気をつけますから、敷島さんも気をつけて」
敷島:「分かりました」
敷島は電話を切った。
[同日12:00.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]
タクシーが新富士駅前に到着する。
エミリー:「タクシーチケットで払います」
運転手:「はい」
エミリーがボールペンで金額を書き込んだ。
手の動きが人間と比べて機械的な所は、やはりロイドと言える。
運転手:「ありがとうございました」
敷島:「どうも」
敷島とエミリーはタクシーを降りて駅構内に入る。
エミリー:「今度の列車ですが、凡そ10分で発車します」
敷島:「マジか!まだ昼飯食ってないんだよなぁ……」
エミリー:「駅弁にしては如何でしょう?」
敷島:「朝も駅弁だったんだがな。まあいい。俺は駅弁買ってるから、エミリーはキップ買っといてくれ。自由席でいいから」
エミリー:「かしこまりました」
敷島は駅弁とお茶を買い、エミリーは自動券売機で東京までのキップを2人分購入した。
この場合、エミリーは機械の体なので、本来は乗車できないことになる。
Pepperが新幹線に乗車できるかどうかで揉めたことがあるそうだ(ソース不明)。
そこは人間のフリして乗るということだし、エミリー達ならそれが可能だということだ。
但し、検査が厳しい航空便では完全にアウトである。
その為、アメリカに行く時は完全に『荷物』扱いで乗せることになる。
敷島:「よし、行くぞ」
エミリー:「はい」
〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、12時9分発、“こだま”644号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車と13号車から15号車です。……〕
遠くの方からN700系車両がやって来て、副線ホームに入って来る。
空いている後ろの車両に歩いて行くうち、進入した列車が巻き起こした風に、エミリーの赤いショートボブの髪とスリットが深く入った黒いスカートが靡いた。
艶めかしい足がスリットの隙間から覗くが、この足でいとも簡単に非常口の鉄扉を蹴破ることができるのである。
〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございます。……〕
名古屋始発の“こだま”号ということもあり、編成の端の車両は空いていた。
そこに乗り込んで、2人席に悠々と座る。
敷島:「何の収穫も無く戻ることになるとは……。またアリスに嫌味言われることになるな」
エミリー:「お疲れさまです」
エミリーはそう言うしか無かった。
そうしているうちに、後続列車が轟音を立てて通過していく。
どうやらダイヤの方は何とか回復できたようだ。
発車の時間になると、ホームから発車ベルが微かに聞こえて来る。
東京駅では発車メロディだったが、新富士駅ではただのベル。
〔1番線、“こだま”644号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
敷島が弁当を食べている間に、列車はスーッと走り出した。
敷島:「俺と同じオーラを放つ人間を見つけたってお前達が騒いだ時にはびっくりした。もしかしたら、俺と同じアンドロイドマスターになれる人間だったかもしれないのに残念だ」
マルチタイプに命令できる人間として、オーナーとユーザーを登録している。
しかし異様にAIが発達したマルチタイプには、それらの『言う事』には従っても『心服追従』はしない。
ましてや登録外の人間の『お願い』は聞いても、『命令』は聞かないことも多々ある。
エミリーはあくまで人間に対しては礼節や敬意を重んじているというだけであって、けして『心服』しているわけではない。
それが『心服』した相手が敷島唯1人というだけである。
そして、それはシンディも同じであるという。
これではいつ反旗を翻されるか分からないので、他にマスターたる人間が必要という声は出ている。
そしてその候補者は人間ではなく、彼女らが選ぶという形になってしまっているのだが、エミリーが反応した人間がいた。
それを追って静岡まで来た2人であったが、結果は御覧の通りの有り様というわけである。
対象者にこの世で会えぬと分かった以上、急いで帰京する必要があった。
取りあえず敷島とエミリーは大石寺境内にあるタクシー乗り場へ向かい、そこからタクシーに乗ることにした。
改修工事中の三門の南には国道が通っており、その更に南側にタクシー乗り場はある。
幸いそこに空車のタクシーが止まっていて、敷島達はそれに乗り込んだ。
エミリー:「新富士駅までお願いします」
運転手:「あ、はい。新富士駅ですね」
タクシーがバス停と一緒になっているロータリーのような所から公道へ出ようとした時だった。
『特急 大石寺』と書かれた路線バスが入線して来たのである。
運転手:「だいぶ遅れたな……」
運転手はそのバスを横目で見てポツリと呟いた。
だがその時、敷島は電話中だった。
敷島:「……そうなんですよ。行ってみたら、とんでもないことになってましてね。取りあえず、現場から離れることにしましたよ」
平賀:「そうですか。それは残念です」
敷島:「あのKR団最後の女性科学者の親族ならガチだったんですけどねぇ……」
平賀:「ガチだったからこそ狙われたんでしょうね。1人だけピンポイントで狙ったのでは、例え死んだにしても、我々にはそれが誰なのかすぐに分かりますから。無関係の人間も複数集まってて、対象者が特定できないうちに全員殺せば、少なくともエミリーの生体反応は使えない。非常に残酷な話ですが、それがテロというものでしょう」
敷島:「KR団も潰れて久しいのに、今度は一体何なんですかね?」
平賀:「犯行声明も出ていないのでは、何とも言えませんね。警察には?」
敷島:「地元の警察が出動していましたし、後、私の方で鷲田警視に連絡しておきました」
平賀:「気を付けてくださいね。敷島さんも、本来は狙われる側の人間なんですから」
敷島:「私にはエミリーがいますからね。ややもすれば、シンディも使えますし。平賀先生こそ、新たにマルチタイプを造ってみたらどうでしょう?」
平賀:「簡単に言わないでくださいよ。製造費用だけで50億円はするんですから」
敷島:「DCJさんの希望小売価格でしょ、それは?」
平賀:「自分には七海がいるから大丈夫ですよ」
敷島:「メイドロイドを強化した方が安上がりってわけですか。昔、何かそんな話をしたような気がしますね」
平賀:「ありましたねぇ。確か、南里先生が御存命だった頃の話ですよ」
敷島:「ああ、それくらい昔でしたか。いやいや……」
平賀:「敷島さんは、東京に戻られるんですか?」
敷島:「今日の所はそうした方がいいでしょうね。火事が鎮火した後は消防や警察の現場検証が入るでしょうから。鷲田警視からも、『現場を荒らすな』と言われてますしね」
平賀:「なるほど。とにかく、自分も気をつけますから、敷島さんも気をつけて」
敷島:「分かりました」
敷島は電話を切った。
[同日12:00.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]
タクシーが新富士駅前に到着する。
エミリー:「タクシーチケットで払います」
運転手:「はい」
エミリーがボールペンで金額を書き込んだ。
手の動きが人間と比べて機械的な所は、やはりロイドと言える。
運転手:「ありがとうございました」
敷島:「どうも」
敷島とエミリーはタクシーを降りて駅構内に入る。
エミリー:「今度の列車ですが、凡そ10分で発車します」
敷島:「マジか!まだ昼飯食ってないんだよなぁ……」
エミリー:「駅弁にしては如何でしょう?」
敷島:「朝も駅弁だったんだがな。まあいい。俺は駅弁買ってるから、エミリーはキップ買っといてくれ。自由席でいいから」
エミリー:「かしこまりました」
敷島は駅弁とお茶を買い、エミリーは自動券売機で東京までのキップを2人分購入した。
この場合、エミリーは機械の体なので、本来は乗車できないことになる。
Pepperが新幹線に乗車できるかどうかで揉めたことがあるそうだ(ソース不明)。
そこは人間のフリして乗るということだし、エミリー達ならそれが可能だということだ。
但し、検査が厳しい航空便では完全にアウトである。
その為、アメリカに行く時は完全に『荷物』扱いで乗せることになる。
敷島:「よし、行くぞ」
エミリー:「はい」
〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、12時9分発、“こだま”644号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車と13号車から15号車です。……〕
遠くの方からN700系車両がやって来て、副線ホームに入って来る。
空いている後ろの車両に歩いて行くうち、進入した列車が巻き起こした風に、エミリーの赤いショートボブの髪とスリットが深く入った黒いスカートが靡いた。
艶めかしい足がスリットの隙間から覗くが、この足でいとも簡単に非常口の鉄扉を蹴破ることができるのである。
〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございます。……〕
名古屋始発の“こだま”号ということもあり、編成の端の車両は空いていた。
そこに乗り込んで、2人席に悠々と座る。
敷島:「何の収穫も無く戻ることになるとは……。またアリスに嫌味言われることになるな」
エミリー:「お疲れさまです」
エミリーはそう言うしか無かった。
そうしているうちに、後続列車が轟音を立てて通過していく。
どうやらダイヤの方は何とか回復できたようだ。
発車の時間になると、ホームから発車ベルが微かに聞こえて来る。
東京駅では発車メロディだったが、新富士駅ではただのベル。
〔1番線、“こだま”644号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
敷島が弁当を食べている間に、列車はスーッと走り出した。
敷島:「俺と同じオーラを放つ人間を見つけたってお前達が騒いだ時にはびっくりした。もしかしたら、俺と同じアンドロイドマスターになれる人間だったかもしれないのに残念だ」
マルチタイプに命令できる人間として、オーナーとユーザーを登録している。
しかし異様にAIが発達したマルチタイプには、それらの『言う事』には従っても『心服追従』はしない。
ましてや登録外の人間の『お願い』は聞いても、『命令』は聞かないことも多々ある。
エミリーはあくまで人間に対しては礼節や敬意を重んじているというだけであって、けして『心服』しているわけではない。
それが『心服』した相手が敷島唯1人というだけである。
そして、それはシンディも同じであるという。
これではいつ反旗を翻されるか分からないので、他にマスターたる人間が必要という声は出ている。
そしてその候補者は人間ではなく、彼女らが選ぶという形になってしまっているのだが、エミリーが反応した人間がいた。
それを追って静岡まで来た2人であったが、結果は御覧の通りの有り様というわけである。