報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「サングラスの人々」 2

2019-04-14 19:23:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月10日00:15.天候:晴 群馬県甘楽郡下仁田町郊外山中 夜ノ森家]

 夜ノ森家の主人、夜ノ森治夫氏の昔話が終わった頃には日付が変わっていた。
 この話を聞いて、私は夜ノ森家は呪われていると思った。
 もちろん、探偵たる私がそんなオカルトチックなことを言ってはいけないのは分かっている。
 だが、そんなオカルトを狂化学で実現させてしまった製薬会社と関わってしまった為、科学的に証明できる呪いは信じることにしている。

 夜ノ森:「そういうわけですから、この家には“座敷童”がお住まいになっているのです。もしもこの家で小さい女の子の姿を見ても、けして驚かれぬようにお願いします。もしも機嫌を損ねたりしようものなら、如何に私共であっても、愛原さん達の安全は保障致しかねます」
 愛原:「なるほど……」

 私はメモを取りながら、夜ノ森氏の話を聞いた。

 愛原:「つまり御主人方、この家の方々は渡辺さんの仰るような心配事は無いということですか」
 夜ノ森:「はい。あれは弟の息子で、弟達は伊勢崎に住んでいます。パチンコ店経営で成功したようですが、私にはそういう事業には興味がありません」

 名字が変わったのは、恐らく渡辺氏が婿養子だからだろう。

 夜ノ森:「確かに私達は座敷童のおかげで、夜型の生活になってしまいました。しかし、基本的に座敷童というのは夜に現れるものです。幸せの為ならそれでもいいでしょう」
 愛原:「今は幸せだと?」
 夜ノ森:「はい。お陰様で、今は体がとても丈夫になりました。歳と共に体の衰えを感じていたのですが、それも無くなりました。さすがに、見た目に若返ることまではできないようですがね」

 生活の糧はどのようにして得ているのか、とても興味があったが、それは聞くのをやめた。

 夜ノ森:「甥っ子には私からまた連絡しておきます。ですので、特に何も心配しないでください」
 愛原:「はあ……分かりました」

 肝心の調査先がこれではどうしようも無いな。

 夜ノ森:「遥々東京からお越しで、疲れたでしょう。客間を用意しておきましたので、今夜はこちらでゆっくりお休みください」
 愛原:「……はい」
 夜ノ森:「といいつつ、始発電車に合わせた形にはなると思いますが」
 愛原:「始発電車?」
 夜ノ森:「はい。まだこの季節でしたら、朝の5時くらいは薄暗い時間帯ですので、何とか駅までお送りできると思います」
 愛原:「そうですか」
 夜ノ森:「それでは、客間へご案内しましょう」

 夜ノ森氏が立ち上がって、襖を開けた時だった。

 夜ノ森:「あっ!」

 廊下を逃げるようにして去って行く1人の少女がいた。

 夜ノ森:「童様!お待ちください!この方々は久しぶりの来訪者で……」

 後ろ姿はまるでリサのようだった。
 全体的に黒とグレーの服が目についた。
 だから少女は薄暗い廊下の奥の闇に吸い込まれるようにして消えていった。

 愛原:「あれが座敷童ですか?随分と恥ずかしがり屋さんのようで……」

 仮面を着けていたとはいえ、堂々と私達の前にタイラントを引き連れて現れたリサとは大きな違いだな。

 夜ノ森:「そうなんですよ。でも、こりゃひょっとすると、愛原さん、ラッキーかもですよ?」
 愛原:「えっ?」
 夜ノ森:「童様はもしかしすると、愛原さん達に関心をお示しになったのかもしれません」
 高橋:「先生。幼女に手を出すと犯罪なのはもちろん、リサがブチギレますよ?」
 愛原:「分かってる!」
 夜ノ森:「もし良かったら、夜の電車で帰りませんか?上手く行けば、童様を愛原さん達に御紹介できるかもしれません」

 それは興味がある。
 あるのだが……。

 愛原:「それって、私達も夜専門になれってこと?それはそれでなぁ……」
 夜ノ森:「大丈夫ですよ。まるで仙人みたいな生活ができるようになります」
 愛原:「仙人!……あんまり興味無いですね。でも、座敷童には興味があります。会って話をするだけってことはできませんかね?」
 夜ノ森:「それは童様の御意思によります。私達は童様の御意思に従っているだけですので……。とにかく、私から話だけでもしておきましょう」
 愛原:「よろしくお願いします」

 もし神通力でも持っているような少女だったら、それはそれで面白い。
 ここまで来た甲斐があるというものだ。

[同日01:00.天候:雨 夜ノ森家・1F客間]

 私達は8畳間に敷かれた布団に横になっていた。
 まるで旅館のように浴衣まで貸してくれて、本当に旅館に泊まっているかのようだ。
 風呂やトイレも薄暗い電球1つだけで、それだけは少し不気味だった。
 そして、この客間もだ。
 この部屋の照明は、天井からぶら下がった笠付きの電球が1個と、枕元の行灯(これも中は電球)だけだった。
 節電の為にしては不自然だ。
 だったら電球ではなく、むしろ蛍光灯にした方がいいし、もっと言うならLEDの方が消費電力も少なく、それでいて明るい。
 多分、蛍光灯やワット数の大きい電球にしてしまうと眩しいのだろう。
 この薄暗い電球でさえ眩しいと言っているくらいだ。
 そして普段、照明は点けないのだと。
 私達は常人だから、仕方なく客人に合わせて点灯しているだけだと。

 愛原:「どう思う、高橋?」
 高橋:「異常だと思いますね。さすがの俺も、夜にサングラス掛けて車は運転しないっスよ」
 愛原:「だよなぁ」

 夜ノ森家の人々を夜目しか効かなくし、尚且つ完全夜型の、まるで吸血鬼のような生活スタイルにさせた座敷童とやらの正体を是非見てみたいものだ。
 依頼人の渡辺氏には、『夜ノ森家の人々は元気にやっていますから、何も心配無いですよ。後で夜ノ森氏から連絡してくれるそうですよ』という報告でもいいのだろうが、やはり一流の探偵はその報告で留めてはいけない。
 どうしてそうなったのかという所まで含めた報告をして、初めて依頼人は納得できるのではないだろうか。
 今後の事は依頼人が考えることであるから、それ以上の首は突っ込まない。
 その為にも、夜ノ森家の人々をあんな風にした座敷童に会う必要があると思われる。
 恐らく相当危険なことではあるだろうが。

 愛原:「さっき一瞬見た感じなんだけど……あの座敷童」
 高橋:「はあ……」
 愛原:「何か、感じがリサに似ていたと思わないか?」
 高橋:「そうですか?俺は全然似てないと思いますけどね」
 愛原:「! そうか……。ま、取りあえず寝よう」
 高橋:「はい」

 私は照明を消した。
 但し、行灯の豆電球だけは消さなかった。

 高橋:「いいんスか?いつも先生は部屋を真っ暗にして寝ていらっしゃいますが?」
 愛原:「ああ、これでいい」
 高橋:「……分かりました」

 果たして、これから何が起きるだろうか?
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“私立探偵 愛原学” 「サングラスの人々」

2019-04-14 17:20:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月9日22:15.天候:雨 群馬県甘楽郡下仁田町 上信電鉄下仁田駅前]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は群馬県の山あいの町までやってきた。
 電車で終着駅までやって来たのはいいのだが、電車を降りると駅の外に出された。
 私はトイレを借りる為に再び駅構内に入り、高橋は一服することにした。
 で、私がまた駅の外に出ると……。

 愛原:「? 高橋?高橋、どこ行った?」

 駅前の喫煙所に高橋の姿はいなかった。
 迎えらしき姿も見当たらない。
 一体、どうなってるんだ?

 高橋:「先生!」

 するとその時、高橋が通りの方からやってきた。

 愛原:「何やってるんだ?」
 高橋:「サーセン。タバコ切らしたもんで、コンビニでも無いかと思って探してたんです」
 愛原:「禁煙しろよ。空き箱をグシャッとやってさ」
 高橋:「却って禁煙できなくなるフラグが立つので、それはやめた方がいいと思います」
 愛原:「ところで、通りの方に迎えの車らしき物は見えたか?」
 高橋:「いや、無かったっスねぇ」
 愛原:「迎えが来るという話だったんだがな……」
 高橋:「いい度胸してますね」
 愛原:「少しくらい待ってもいいんだけど、何しろ雨降ってるからなぁ……」

 心なしか雨足が強くなったような気がする。
 と、その時だった。
 駅前ロータリーに入って来る1台の黒塗りの車が現れた。

 高橋:「おっ、レジェンドっスよ」

 それが改造車であれば地元・群馬県の走り屋ではなかろうかと思うのだが、そうでは無さそうだ。
 で、私達の前に止まる。
 もっとも、レジェンドは走り屋からも敬遠されているらしいが。

 運転手:「お待たせしました。愛原様ですね?」
 愛原:「あ、はい」
 運転手:「どうぞ、お乗りください」

 運転手はまるで斉藤家のお抱え運転手のように折り目正しい態度であったが、こんな夜なのに何故かサングラスを掛けていた。

 運転手:「では、すぐに出発します」

 私と高橋はリアシートに乗り込むと、車が走り出した。
 駅前ロータリーを出ると、通りをまた山の方に向かって走る。
 ワイパーが規則正しい動きでフロントガラスの上を動いている。

 愛原:「あの、運転手さん」
 運転手:「はい、何でしょうか?」
 愛原:「夜なのにサングラスで見えるんですか?」
 運転手:「申し訳ありませんが、見えるんですよ。むしろ、晴れていると、掛けないと眩しいくらいで」
 愛原:「ええっ?」

 どうやら、本当に不思議なことがこれからあるみたいだな。

[同日22:45.天候:雨 群馬県甘楽郡下仁田町郊外山中 夜ノ森家]

 駅前を出てしばらくは他に車も走っていたり、街灯も明るい場所を走っていたのだが、段々と寂しい所を走るようになった。
 終盤には街灯すら無い所を走行していた。

 愛原:「!」

 それでも公道だったのだろうが、それが不意に車が左折した。
 その時、私が見たのはこういう看板だった。

 愛原:「『この先、私有地につき、部外者の立ち入りを禁ず。 夜ノ森家』」
 運転手:「御主人様はこの辺り一帯の山をお持ちなのです」

 土地持ちか。
 それで富裕層なのか。
 そこから少し走ると、ようやく明かりが見えて来た。
 これが洋館ならホラーチックだろうが、ここは日本であり、住んでいるのは日本人である。
 日本家屋だ。
 それでも建築費用は何億と掛かっていそうな純和風の大きな家屋である。

 運転手:「到着です。お疲れさまでした」
 愛原:「どうも」

 一瞬、高級旅館やお寺に来たかのような錯覚を覚えたが、それはすぐに打ち消した。
 運転手も降りて、私達を玄関に案内した。
 高級旅館や料亭なら、もう少し明るいのではないだろうか。
 というのは、確かに照明は点いているのだが、何だか照度が低い。
 まず、蛍光灯が使われていない。
 かといって、LEDというわけでもない。
 昔ながらの電球だ。
 それも100ワットとか、そういう強力なものは無いだろう。

 夜ノ森:「東京から遥々起こしくださいまして、ありがとうございます」

 玄関で出迎えてくれたのは、和服姿の初老の男だった。
 しかしこの男もまたサングラスを掛けていた。

 夜ノ森:「私、この家の主人の夜ノ森治夫と申します」
 愛原:「これはどうもご丁寧に……。東京から参りました愛原学と申します」
 高橋:「助手の高橋正義っス」
 夜ノ森:「どうぞ、お上がりください」

 玄関で靴を脱いで上がる。
 廊下も薄暗く、中には明かりの無い区間もあった。

 愛原:「御主人。先ほどの運転手さんもそうでしたが、御主人もダンディなサングラスをお掛けで……」
 夜ノ森:「ああ、これですか。どうも目が悪くなりましてね……これは必須なんですよ。どうぞ、応接間へ」

 応接間は往々にして洋間になっているものだが、ここではやはり料亭の個室のような造りになっていた。

 愛原:「依頼人の渡辺さんから、夜にお訪ねするように言われまして、こんな時間になってしまったんですが……」
 夜ノ森:「あ、はい。渡辺の言う通りですよ。私達は夜しか活動しないのです」
 愛原:「は!?」
 夜ノ森:「今、お茶を持って来させますので……」
 愛原:「お、お構いなく。それより御主人、夜しか活動しないというのは?お仕事が夜勤のそれという意味ですか?」
 夜ノ森:「必然的にそうなりますが、昼は基本的に寝ているもので……」

 そりゃ夜仕事してたら、寝るのは昼間になるだろう。
 それにしても、だ。

 愛原:「えっと……。なかなかシックな御宅ですね。やはり、こういう日本建築は落ち着きますよ」
 夜ノ森:「これは祖父の代に建てたもので……。それを改築して使っているのですが、洋風にする気は無かったですね」
 愛原:「失礼ですが、途中で真っ暗な所がありました。御主人方はもう慣れていらっしゃるでしょうが、少し危険では?」
 夜ノ森:「あー、確かにそうですね。前向きに善処します。いえ、私達は夜目がよく効くので、照明も点けなくて大丈夫なんですよ」
 愛原:「えっ!?」
 夜ノ森:「今回は愛原様方がお見えになるので点灯していますが……。それでも暗いですかね?」
 愛原:「あ、いえ。それは各々家庭の事情というものがありますから。……で、それは昔からそうなんですか?」
 夜ノ森:「いえ、ここ数年くらいのことですかね」
 愛原:「差し支えなければ、何がきっかけで夜目が効くようになったのか教えて頂けないでしょうか?」
 夜ノ森:「ああ、いいでしょう」
 夜ノ森夫人:「粗茶でございますが……」
 愛原:「ああ、どうぞお構いなく」

 夜ノ森夫人も着物姿がよく似合う美熟女であるのだが、やはりサングラスを掛けていた。
 これでマシンガンでも持たせれば、“極道の妻たち”かな?

 夜ノ森:「あれは忘れもしません。今から5年前の夜のことです」

 夜ノ森氏が昔話を語っている間にも、私達には魔の手が迫っていた。
コメント (1)
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