報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ダンテの離日」

2019-04-06 19:56:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月16日08:20.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅西口]

 飴玉婆さん事件から数日後、稲生とマリアは大宮駅西口パスプールにいた。
 実際はロータリーから外れたバス乗り場である。
 そこで羽田空港行きのバスを待っていた。
 ダンテが離日するに辺り、今度は見送りに行かなくてはならなかったからだ。
 幸いにしてその後、羽田空港から白馬行きの高速バスがあり、それで屋敷まで帰れそうだった。
 まさかとは思うが、ダンテがそれに合わせてくれたのかは分からない。

 稲生:「あっ、バス来ました」

 バス停の反対車線を白と青のストライプの塗装が目を引くバスがやってきた。
 国際興業バスである。
 それはロータリーの中をぐるっと回ると、高速バス用の停留所までやってきた。

 係員:「はい、お待たせしました。羽田空港行きです」

 警備員の姿をした年配の係員が、バスが停車すると荷物室のドアを開けた。

 稲生:「チケットを渡しておきます」
 マリア:「ありがとう」

 荷物は係員に預けて、稲生達はコンビニで発券した乗車券を手にバスに乗り込んだ。
 空港行きは予約者優先乗車制であるが、座席指定制ではない。
 空いている席に座るというわけだ。
 西武バス大宮営業所始発である為、この時点で2〜3人ほどの先客がいた。
 メインはこの大宮駅西口。
 ここからぞろぞろと乗客が乗り込む。
 春休みの時期だから乗客も多いのだが、それでも満席にならなかったのは、けして不人気路線だからではない。
 空港行きはどうしても渋滞による遅延を嫌がる飛行機搭乗者がいるので、需要数が逆方向より少ないだけである。
 その代わり、空港からの便は時間帯によっては満席になる。
 飛行機に乗り終わった後はそこまで時間を気にする乗客は少なく、また旅行の後で却って荷物が多い為、電車を乗り継ぐ労苦よりも直通バスに乗った方が良いというわけだ。
 車両の真ん中辺り、進行方向左側に座った魔道師2人も、占いでこのバスがほぼ定時に運行することを知っていたのでそうしたわけである。
 だいたい窓側席が全部埋まり、稲生のように通路側にも何人か座った状態で、発車の時刻が迫って来た。
 白い帽子を被った運転手が荷物室扉の閉扉を確認して、それからバスに乗り込んでくる。
 その後、ブザーの音と共に大きなスライドドアが閉まった。
 ヒュンダイ・ユニバースと違って、脱力感のあるブザー音ではない。
 今でも高速バスで折り戸式のタイプは存在するが、だいたいスライドドアタイプが主流ではないだろうか。
 この方がスマートに見える上、密閉性も高いので空調が効きやすいというメリットがある。
 デメリットは開閉速度が遅いので、停留所の多い路線では折り戸式を用いている所もある。

〔「お待たせ致しました。羽田空港行き、発車致します」〕

 放送があってから、バスは大宮駅西口を出発した。
 まずは国道17号線(中山道)に向かってすぐ市道に入り、首都高速の出入口に向かう。
 車内の自動放送では日本語の放送が流れてから、次に英語放送が流れる。
 ネイティブのマリアには、この英語放送が聴き易いものなのかどうか不明だ。
 その後で中国語や朝鮮語が聞こえて来る。

 マリア:「師匠、マリアンナです。今、空港に向かっています。交通手段はバスです」
 イリーナ:「分かったわ。私達は車よ。反省文はちゃんと持って来てる?」
 マリア:「ええ……はい」

 マリアは複雑な顔をして答えた。
 尚、この交信は魔法石を通して行われている。
 マリアはブレザーに、稲生はスーツに着けていた。
 ちょうど前者なら校章、後者なら社章のバッジを着ける位置である。
 それらと比べれば少し大きく、まるで宝石でも着けているくらい煌びやかである。

 稲生:(まるでインカムでの交信だな)

 そうは思ったが、実際と違うのはイヤホンを使用していないということ。
 イリーナの声が、頭の中に入って来るといった感じだ。

 稲生:「結局先生、うちに来ませんでしたね。父さんががっかりしてました」
 マリア:「まあ、それが目的じゃないからね。しょうがない。ダディからは占って欲しい内容について、メモはもらったんでしょ?」
 稲生:「ええ、まあ」
 マリア:「反省文と一緒に師匠に渡せばいいさ」
 稲生:「そうですね」

[同日10:05.天候:晴 東京都大田区羽田空港 東京国際空港・国際線ターミナル]

 バスは多少混雑に巻き込まれたものの、だいたい定時に終点に到着した。
 渋滞も加味したダイヤ設定になっているらしい。
 やはりというべきか、国際線ターミナルで降りる乗客達は外国人が多い。
 しかも比較的アジア系よりも、欧米系の方が多かった。
 ダンテ一門は白人魔女が多いだけに、その人種の女性を見ると稲生は一瞬身構えるのだった。

 マリア:「多分この空港には見送りの魔道師しかいないよ?」
 稲生:「いやあ、ハハハ……」

 稲生は苦笑いしながらバスを降り、預けた荷物を受け取る。
 それからターミナルの中に入った。

 エレーナ:「よお、御両人」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。先輩方……お、おはようございます……フフフ……」

 ターミナルに入ると、エレーナとリリアンヌがいた。

 エレーナ:「反省文書いて来たか?」
 稲生:「一応ね」
 エレーナ:「パソコンで書いて来たのか?まあ、私もだけどな。マリアンナは?あ?手書きか?」
 マリア:「悪かったな、パソコン使えなくて」
 稲生:「でもマリアさんの字、きれいだからいいじゃないですか」
 マリア:「ありがとう」
 エレーナ:「おっ、ここで早速イチャラブか?あ?」
 リリアンヌ:「フフ………フ」
 マリア:「ウザ!」

 とにかく急いで出発ロビーに向かう。

 稲生:「大師匠様、またロンドンに向かわれるんだって?」
 エレーナ:「“魔の者”が尻尾出してるらしいぜ?そろそろ最終決戦の時期かもな」
 稲生:「マジか」

 出発ロビーに向かうと、イリーナとアナスタシア組の面々がいた。
 ポーリンやその他のグランドマスター達はいない。
 恐らくポーリンはアルカディア王国の宮廷魔導師の仕事が忙しいのだろうし、マルファは……確変が止まらなくて困っているのかもしれない。
 他の大魔道師達は外国が拠点なので、ダンテと離日するタイミングがズレているのだろう。
 恐らくダンテはそれらが全員離日したのを見てから、最後に離日すると思われる。
 責任者として、だ。

 エレーナ:「大師匠様!」

 エレーナはピタッと歩みを止めると、サッと片足をついた。

 稲生:(またタイミングずれた!)

 どうしても気をつけの姿勢からお辞儀をしてしまいがちの日本人魔道師。

 ダンテ:「フム。今度から目上への挨拶は『お辞儀』にしようかな」

 ダンテは白色のものが混じった髭に手をやりながら微笑を浮かべた。
 それ以外はやはり褐色肌である。
 目鼻立ちも……アラブ系ではないが、アジア系……というわけでもなさそうな……とにかくそういう顔立ちなのだ。
 ダンテは山高帽を被った。

 イリーナ:「先生、それではどうぞお気をつけて」
 アナスタシア:「万難は既に排しております」
 ダンテ:「ありがとう。楽しいパーティーだったよ」

 ダンテは恐らく『信者』が寄越して来たであろうファーストクラスのチケットを手に、セキュリティエリアの中へと入って行った。
 見送り客はここまでだ。
 鉄道駅なら入場券を買えばホームまで見送りできるのと違う。

 イリーナ:「ナスっちはどうするの?」
 アナスタシア:「私達は成田空港に移動して、そこから別便でヨーロッパへ向かうよ。先生がイギリスなら、こっちはロシアって所ね」
 イリーナ:「アタシ達は日本に避難してるわ」

 イリーナは目を細めたまま言った。
 アナスタシアは黒髪を肩の所で切っているが、瞳はエメラルドグリーンだ。

 アナスタシア:「じゃあ、私達はこれから移動よ。車を用意して」
 男性弟子:「はっ!」

 ダンテ一門で数少ない男性弟子はイリーナ組に1人と、全体数の多いアナスタシア組に限られている。
 但し、組違いということもあり、稲生との絡みは全く無い。
 組違いなのに、他の組と絡みたがるエレーナの方が異端者なのである。

 イリーナ:「さーて、帰る前にランチでもしていこうかね。少し早いけど」
 稲生:「バスは午後から出発なので余裕ですよ」
 エレーナ:「ゴチになります!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。ゴ、ゴチになりますです……」
 マリア:「お前らは帰れ!」
 イリーナ:「まあまあ、いいじゃないの。今やポーリンとは仲直りしたんだし(建前)、もうケンカは無しよ?」
 マリア:「私のこと魔界の週刊誌に流しやがって!」
 稲生:「奉安堂も爆破しようとしたよな!?」
 エレーナ:「まあまあ、水に流してくれよ〜」

 ダンテ門流の綱領、『仲良き事は美しき哉』。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする