報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「群馬県山中へ向かう」 2

2019-04-12 19:13:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月9日20:25.天候:曇 群馬県高崎市 JR高崎駅→上信電鉄高崎駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「長らくのご乗車、お疲れさまでした。まもなく終点、高崎、高崎に到着致します。到着ホームは2番線、降り口は右側です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度をしてお待ちください。高崎からの乗り換え列車をご案内致します。上越新幹線下り……」〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今度の依頼先は群馬県だ。
 私と助手の高橋は、依頼人が寄越した電車のキップを手に群馬県入りを果たしたわけだ。
 しかし、まだここが到着地点ではない。
 群馬県最大都市、高崎市が現地であれば楽だったのだが、うちのような弱小事務所がそんな美味しい仕事を簡単に手に入られるはずは無かった。

〔「……上信電鉄線ご利用のお客様は、一旦改札を出て0番線にお回りください。……」〕

 まだ乗り換えがあるのである。

 愛原:「高橋、そろそろ着くぞ」
 高橋:「……はっ!すいません。つい居眠りして……」
 愛原:「いや、いいんだよ。どうせ電車内じゃ、何もすることが無い」

 電車はゆっくりと高崎駅のホームへ入線した。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、高崎、終点、高崎です。お忘れ物の無いよう、お降りください。2番線に到着の電車は、回送電車です。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕

 私達は電車を降りると、跨線橋の階段を上がった。

 愛原:「ここで乗り換えだ」
 高橋:「本当に山奥まで行かされるってことですかね?」
 愛原:「そういうことになるな」

 車内放送にもあった通り、改札口を出る。
 ここで乗車券は回収されるわけである。
 私達は今度は依頼人から渡された別のキップを手に、上信電鉄の乗り場に向かった。
 鉄道会社が違うので、乗車券も別になるのである。
 渡されたのは回数券だった。
 それで上信電鉄の乗り場に行くと……。

 愛原:「おっ、ちょうど電車が来た所だ」

 2面1線のホーム。
 どうやら降車ホームと乗車ホームに分かれているようだ。
 駅員がいて、降りて来た乗客のキップの回収や定期券のチェックをしている。

 愛原:「何か、見覚えのある電車だなぁ……」

 地方私鉄らしく、『ワンマン』の表示がローカル鉄道っぽい。

 高橋:「西武線の3ドア車にそっくりですね」
 愛原:「おお、そうだ!そうか、中古車なんだ!よく知ってるな、高橋!?」
 高橋:「少年院にトリ鉄がいましてね、そいつがウザく教えてくれましたよ」
 愛原:「トリ鉄?撮り鉄だろ?」
 高橋:「いえいえ。俺にはよく分からないんですが、何でも電車の部品やら駅の部品やらパクッてタイーホされて少年院に来たヤツだったんですが……」
 愛原:「盗り鉄かい!」

 私が呆れて回数券を駅員に渡そうとすると……。

 駅員:「今からもう乗られます?」
 愛原:「えっ、何が?」
 駅員:「発車は21時1分なんですよ」
 愛原:「はあ!?」

 まだだいぶある!
 それで下り電車の割に、乗客が疎らだったのか。

 愛原:「……ちょっとトイレ行って来る」
 高橋:「あ、俺も行ってきます!」

 あの元・西武電車じゃ車内にトイレも付いてないだろうから、今のうちに行っておくことにしよう。

[同日21:01.天候:曇 上信電鉄55列車先頭車]

 特にやることも無いので、トイレの後は結局車内で過ごすことにした。
 発車の時刻が近づく度に乗客が増え始め、発車の時間になる頃には座席も全部埋まり、ドア付近に立席客が出るくらいにまではなった。
 如何に2両編成のワンマン電車でも、平日夜の下り電車で、このくらい乗らないとダメだろう。
 で、独特の発車メロディがホームに鳴り響く。
 テレサ・テンが歌っていた“美酒加珈琲”とかいう歌をアレンジしたものであるということは、後で知った。
 こちらはバタバタ走って駆け込み乗車してくる乗客がいたのか、それを待ってからの発車となった。
 ワンマン電車なので、この前の慰安旅行で乗った銚子電鉄と同じく、運転士がドア扱いをしている。
 何か、客終合図っぽいブザーが鳴ったと思うと、それでドアが閉まった。
 警笛を軽く鳴らし、電車が走り出す。

〔お待たせ致しました。上信電鉄をご利用頂き、ありがとうございます。この列車は、各駅停車の下仁田行きです。次は南高崎、南高崎。降り口は、1両目前右側ドアです。お降りの方は、運転士すぐ後ろまでお進みください〕

 高橋:「先生、この電車で終点まで行くと1時間くらい掛かるそうですよ?」
 愛原:「マジか。本当に夜だな。本当にそんな時間に到着していいのかな?」
 高橋:「あの店長、それでいいと言ってましたけどね……」
 愛原:「下仁田と言ったらネギくらいしか思いつかんのだが……」

 私は作者と同様、ネギが嫌いなのだ。
 下仁田の皆さん、ごめんなさい。

 愛原:「どうせ終点まで乗るんだし、寝てても大丈夫っぽいな」
 高橋:「そうですね」

 この上信電鉄、車両によってはボックスシートもあるようなのだが、この元・西武電車はロングシートだけだ。
 だが私にとっては、むしろこの座席の方が寝れる。

[同日22:03.天候:雨 群馬県甘楽郡(かんらぐん)下仁田町 上信電鉄下仁田駅]

 ……と言った所で、初めて乗る不慣れな電車でそう簡単に寝れるわけも無い。
 乗客は高崎駅を離れる毎に減って行き、終点に着く頃にはドア横の座席に何人か腰掛けているだけとなった。
 で、しかもやはり山あいを走っている為なのか、急カーブが多く、電車は車輪を軋ませてゆっくりと走る。
 夜だから分からないが、昼間はまるでトロッコ列車が走っているかのような風景が広がっているのではないだろうか。

〔上信電鉄をご利用頂き、ありがとうございました。まもなく終点、下仁田、下仁田です。どなた様もお忘れ物の無いよう、お支度ください。終点、下仁田です〕

 車内にそんなアナウンスが流れて、私は大きく伸びをした。

 愛原:「おい、高橋。もうすぐ着くぞ」
 高橋:「……あ、はい」

 ガタガタとポイントを通過する音が聞こえるが、カーブはしていないので、そのまま真っ直ぐホームに入るらしい。
 そしてドアが開くと、駅員が出迎えていた。
 どうやら終点の駅ということもあってか、この駅にも駅員はいるらしい。

 高橋:「先生、ちょっと一服していいっスか?」
 愛原:「ああ、いいぞ」

 駅前ロータリーに喫煙所くらいあるだろう。
 私も、もう一度トイレに行くことにした。

 愛原:「もし迎えが来てるかもしれないから、もしその時は待っててもらってくれ」
 高橋:「分かりました」

 高橋は駅の外に出て行き、私は駅の中にあるトイレに向かった。
 雨が降っているせいか肌寒い。
 それでトイレも近くなるってもんだ。

 愛原:「ん?」

 トイレを済ませた後、駅前ロータリーに出た私は首を傾げた。

 1:喫煙所に高橋がいなかった。
 2:まだ迎えが来ていなかった。
 3:携帯に着信があった。
 4:高橋が携帯で何か喋っていた。
コメント (2)
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“私立探偵 愛原学” 「群馬県山中へ向かう」

2019-04-12 10:15:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月9日18:45.天候:曇 東京都台東区上野 JR上野駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はこれから仕事で群馬県に行く予定だ。
 こんな夜に?
 そう、こんな夜に。
 依頼人が、調査するのは夜にして欲しいというからだ。
 その理由は、『そこにいる人達が夜型だから』ということだが、何だかよく分からない。

 高野:「先生、着きました」
 愛原:「うん、ありがとう」

 私と高橋は事務員の高野君が運転する車で、上野駅に乗り付けた。
 ここから電車で群馬県に向かうこととなる。
 え?群馬県は車が無いと不便だから、そのまま車で行けばいいんじゃないのかって?
 私もそう思うのだが、何故か依頼人は電車で行って欲しいということなのだ。
 それはガチのようで、既にチケットまでもらっている。
 依頼人が行って欲しい現地というのは、駅近なのだろうか。
 住所を見る限りではそんなことはない。
 むしろGoogleアースで調べて見ても、普通に山中なのだ。
 迎えが行くから心配しないで欲しい、ということなのだが……。

 高野:「怪しい依頼ですからね。スマホのGPSは入れたままにしてくださいよ?」
 愛原:「うん、分かってる」
 高橋:「言われるまでもねぇ。いざとなったら、俺のベレッタが火を噴くぜ」
 愛原:「ただのライターだろ。全く」

 私は呆れて車を降りた。
 そして、高橋を伴って駅構内へと入って行った。
 構内は平日の夜ということもあり、多くの通勤客でごった返していた。
 私達は階段の昇り降りはせず、そのまま中央改札口へと入って行く。
 今日は新幹線では行かない。
 というのは、依頼人が寄越して来たキップというのが……。

 愛原:「えー、19時ちょうど発、特急“スワローあかぎ”5号、高崎行き。14番線からだな」
 高橋:「新幹線じゃなくて、在来線で、しかもグリーン車じゃないとは、先生をナメてますね?」
 愛原:「そんなことは無いと思うよ。普通車でも指定席だし」

 “スワローあかぎ”号が基本的には全車指定席であることは、後で知った。

 愛原:「夕飯がまだだった。駅弁買って行こう」
 高橋:「うっス。ビールは何がいいですか?」
 愛原:「そうだな……って、おい。これから仕事だぞ?飲めるわけねーだろ!お茶にしろ!」
 高橋:「サーセン」

 私は幕の内弁当を買った。
 これが一番無難だな。

 愛原:「遠慮しないで好きなもん買っていいぞ」
 高橋:「先生と同じヤツでいいです」
 愛原:「本当にいいのか?牛肉弁当とかでもいいんだぞ?」
 高橋:「先生はそれにしないんですか?」
 愛原:「肉なら昨日ガッツリ食っちゃったし……」
 高橋:「それもそうですね。さすが先生っス」
 愛原:「いや、別に俺の嗜好だし……」
 高橋:「幕の内弁当ください」
 愛原:「オマエなぁ……。まあいいけど」

 私達は駅弁とお茶を手に14番線に向かった。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。14番線に停車中の列車は、19時ちょうど発、特急“スワローあかぎ”5号、高崎行きです。……〕

 そこに行くと既に7両編成の特急列車が停車していた。
 かつては特急ホームの16番線や17番線から発着していたヤツであろう。
 というか私も昔、乗ったことはある。

 愛原:「先頭車だな」
 高橋:「先生を歩かせるとは、やはりナメて……」
 愛原:「別にいいよ、7両分くらい。だいたい、探偵が歩くのを嫌がったら仕事にならないぞ?」
 高橋:「メモっておきます!!」

 高橋のヤツ、根はマジメなんだがなぁ……。
 この低いホームにも足早に、もっと前の方へ歩いて行く人達が大勢いる。
 これは私達の乗る電車の後で、隣の15番線から出る当駅始発の普通列車に乗る人達だ。
 始発駅なので早めに並べば座って帰れる為、なるべく空いている前方の車両へと向かっているのだろう。
 それに比べ、こちらは全車指定の特急列車だ。
 多少の優越感がある……かどうかは人それぞれかな。
 私達は電車に乗り込むと、指定された席に座った。
 実はこの電車に乗るキップには他に、『座席未指定券』なるものもあるようなのだが、あまりよく分からないシステムだ。
 私達のように最初から指定席のキップを持って来た客が優先なので、その客が乗って来たら退けなければならないとか、人によってはトラブル上等のシステムだったような……?

 愛原:「ここだな」

 進行方向右側の席が確保されていた。
 私達は早速テーブルを出してそこに座った。

 愛原:「腹減ったな。とっとと食おう」
 高橋:「はい」

 ホームに面している方の席の為、足早に15番線に並ぶ乗客の姿を横目で見ることになる。
 先頭車なので、あまりこの電車に乗り込んでくる乗客を見ることは少ない。
 尚、有効長が15両編成分あるホームで、7両編成の電車が来たらどうなるか?
 しかも、ホームが頭端式(行き止まり式)の場合。
 あまり下り方向に寄っている階段を下りて来ると、『あれ?電車がいない』なんてことになってしまうのである。
 10両編成くらいあれば、何とかその10号車が見えるからいいのだが。

 愛原:「最後の晩餐にならないといいんだがなぁ……」
 高橋:「でしたら、もう少し高い弁当にしておけば良かったですかね?」
 愛原:「そこじゃない」

[同日19:00.天候:曇 JR高崎線4005M電車7号車内]

 発車の時間になり、閉め切られた窓の外から微かに発車ベルが聞こえて来る。
 発車メロディではなく、電子電鈴と呼ばれるベルだ。
 時計を見ると、ほぼ定時である。
 全席指定の電車なので、慌てて駆け込む利用客もそうそういないのではないか。
 その為か、電車はスムーズに発車した。
 但し、しばらくはゆっくり走っていたが。
 低いホームから高い線路へと昇らないと行けないのと、そこへ出る為のポイントを渡らないと行けない為か。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の電車は高崎線回りの特急“スワローあかぎ”5号、高崎行きでございます。ただいま、上野の駅を19時ちょうど定刻に発車致しております。これから先の停車駅をご案内致します。次は、赤羽に止まります。赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、北本、鴻巣、熊谷、深谷、本庄、新町、終点高崎の順に止まります。……」〕

 ほぼ快速と同じような停車パターンだな。
 要は、新幹線の止まらない町へ向かう利用客の為の電車であると考えていいかもしれない。
 沿線の埼玉県市部の駅に律儀に停車しているところを見ると、恐らくそうなのだろう。

〔「……終点、高崎には20時25分の到着です。……」〕

 1時間25分の旅か。
 新幹線で約1時間だから、確かにのんびりしているかもしれない。
 それでも、普通列車の鈍行よりは速いだろうが。
 日本の特急列車というのは、必ずしも『速く走るから特急』という意味では無いという。
 この電車だって、さっきも言ったように(埼玉県内においては)快速とほぼ同じ停車パターンだし。
 特急リバティーが運行される“リバティーあいづ”号だって、各駅停車区間が相当あるって話だからな。

 高橋:「先生、駅で迎えが来るってどういうことなんでしょうね?」
 愛原:「そのまんまの意味だろう。とにかく、現地に着くまでは依頼人の言う通りにした方がいい」
 高橋:「分かりました」

 依頼人がポツリと言っていたのが気になる。

『皆、昔は夜型じゃなかったのになぁ……』

 と。
コメント (1)
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