報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道師達のクリスマス」 イブの部終了編

2016-12-25 19:36:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月24日19:00.天候:曇 長野県北部 マリアの屋敷]

 リリィ:「理不尽な太陽じゃなく月の下で〜♪ヒャッハーッ!私の魔法が炸裂ぅ♪」

 パーティの最中、余興を行う魔道師もいるが、リリィのヘヴィメタルはとても目立つ。
 魔女の姿をしている時とは大違いだ。

 稲生:「リリィ、わざわざエレキギターまで持ってきて……」
 マリア:「次に立ち直れるのはあのコだよ」
 稲生:「ですねぇ……」

 イリーナはダンテの相手をしている。
 というか、ダンテの周りには直属の大魔道師達が集まっていた。

 サンモンド:「まるでハーレムだねぇ……」
 稲生:「船長」
 サンモンド:「ま、あの老翁にそんな気持ちは微塵も無いだろうけどね」
 マリア:「そりゃそうだろう。うちの師匠だって、もう齢1000年のBBAだ」
 サンモンド:「ははは……。1000歳はまだ若いよ。稲生君なら知ってるだろう?妖狐の世界では、数千年経ってようやく大妖怪の仲間入りを果たせることを」
 稲生:「ええ、まあ……。だから威吹は、妖狐の里ではヒヨっこ扱いだということです。もう400年以上行きてるのに……」
 サンモンド:「なるほどね」

[同日22:00.天候:曇 同場所]

 因みにパーティは2日に渡って行われるという設定であるが、一度切るわけではない。
 即ち、パーティ会場たる大食堂から誰もいなくなって自然終了という流れなのである。
 用事のある魔道師は帰るし、2日に渡って参加するつもりの魔道師は館内のゲストルームに宿泊する。
 普段は稲生しか寝泊まりしない東側も、この時ばかりは他の男性参加者が寝泊まりする。
 稲生が寝泊まりしていることで、東側はいつしか男性用になっていた。

 サンモンド:「それじゃ、一泊だけお世話になるよ」
 稲生:「どうぞ。僕は自分の部屋にいますから」
 サンモンド:「この時ばかりは、寝ずの番をしていた方がいいんじゃないかな?」
 稲生:「え?どうしてですか?」
 サンモンド:「酔っぱらった魔女達が、何をしでかすか分かったもんじゃないからねぇ……」
 稲生:「イリーナ先生もマリアさんもすぐに寝ちゃいますよ?」
 サンモンド:「だから、中には酒癖の悪い魔女もいるってことさ」
 稲生:「確かにさっき、エレーナに絡まれましたけどねぇ……」

 稲生は苦笑いをした。

 稲生:「ま、とにかく、僕も疲れましたんで寝ますよ」
 サンモンド:「そうかい?まあ、いつでも助けを呼べる体制にしておいた方がいいよ」
 稲生:「はあ……」

 稲生はサンモンドと別れて、自分の部屋に入った。
 大食堂はマリアの人形達が大急ぎで片付けているので、稲生は何もせずとも良い。
 尚、男性陣は屋敷の東側となっているが、ダンテだけはVIPルームのある西側に宿泊する。
 稲生の部屋にはシャワーとトイレが付いている。
 バスタブに入りたければ共用のものを使用することになるが、今日はシャワーだけで良いと稲生は思った。
 半分くらいの魔道師達は帰ったと思うが、アナスタシア組も含めて意外と多くの魔道師達が泊まり込むようだ。
 因みに東側に宿泊する男性陣というのは、サンモンドを除けば全員がアナスタシア組の弟子達である。

 稲生:「明日は海外の遠くで活動している人達が来るんだっけ。ま、今日みたいなノリだろう」

[12月25日02:00.天候:曇 マリアの屋敷東側・稲生の部屋]

 ……ふと寝苦しくて稲生は目が覚めた。
 胸が重い。
 胸をグッと押されているような感じがする。
 何か、いる。
 稲生の部屋に、誰かがいる。
 しかし、稲生は怖くて目が開けられなかった。
 と、稲生の顔に生暖かい息が吹き掛けられる。
 何だか酒の臭いがする。
 誰だ?
 誰が、稲生の胸に乗っかっている?
 体が動かない。
 金縛りである!
 まるで蛇の舌が稲生の顔をなめるように、生暖かい息が万遍なく稲生の顔に吹きかけられる。
 その息は、稲生の耳元で動きが止まった。
 何か、呟いている。
 ぼそぼそとよく聞き取れない声が、稲生の耳に忍び込んでくる。
 その声は、次第に大きくなっていった。

 ???:「殺してやる……殺してやる……!」

 生暖かく、酒の臭いの混じった息が吐かれるたびに、呪いの言葉が稲生の耳をなでまわす。

 稲生:「うわあっ!」

 稲生は、あまりの怖さに目を見開いた。
 そこに、彼女はいた。
 ナイフを手にしたリリィが、稲生の胸の上に乗っていた。
 その姿は覚醒している時のものだ。
 稲生を見据える目の瞳孔は収縮し、瞳全体が灰色で中央に黒い点が入っている。

 リリィ:「フヒヒヒヒヒヒ……ヒック!わらひ(私)の中に、悪魔が入ったの……。だから戦った。おかげで、悪魔から解放された……。次の番……つ、次は……お、お前の番だ!」
 稲生:「リリィ、やめてよ!キミは酔っぱらってるだけだ!」

 リリィはナイフを振り上げた。
 と、そこへ、机の上に置かれている水晶玉が机の上から飛び跳ね、リリィの顔面に直撃した。

 リリィ:「ぎゃっ……!」
 稲生:「リリィ、ゴメン!」

 稲生は怯んだリリィを突き上げて、ベッドから振り落とすと、部屋を飛び出した。

 マリア:「ユウタ、無事か!?」
 稲生:「ええ、何とか……!」
 エレーナ:「リリィ、何やってんの!!」

 エレーナが部屋に飛び込んで、リリィを連れ出した。

 エレーナ:「この大馬鹿野郎!だからあれほど酒飲むなって言ったのに!朝まで説教してやる!!」

 エレーナはリリィの腕を掴んで、ズルズルと部屋から引き出した。
 リリィは何とも言えぬ顔をしていた。
 ヤンデレがその犯行に失敗した時の顔……?という表現は分かりにく過ぎるか。
 稲生が部屋の中を覗くと、ナイフが床のカーペットに突き刺さっていた。

 アンナ:「ちっ、先を超されたか……」

 何故か舌打ちするアンナがいたのだが、イリーナ組もポーリン組も誰も気がつかなかった。
 ていうかこんな夜這い、モテ方は絶対に嫌だ。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のクリスマス」 パーティ始まり編

2016-12-25 17:37:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月24日18:00.天候:曇 長野県北部某所 マリアの屋敷]

 稲生:「そろそろ開始だな……」

 稲生が受付を閉めようとした時だった。

 サンモンド:「いやあ、ギリギリ間に合った!」
 稲生:「サンモンド船長!?」
 サンモンド:「長野県には海が無いからねぇ、船をどこに着けるかで迷ってしまったよ。はっはっはっ!」
 稲生:「で、どこに着けたんですか?」
 サンモンド:「素直に糸魚川の岸壁に。そこから列車で来たよ。ANPさんがそこのキハ120系とやらがおススメだということなんだが、キミは乗ったことがあるかね?」
 稲生:「いえ、無いです。てか、糸魚川って……大火の直後ですよ?」
 サンモンド:「うむ。海から随分と明るい漁火が見えるなぁと思っていたんだが、火が消えるまで待ってたよ」
 稲生:「別のアクセス路は考えなかったんですね」
 サンモンド:「もしかしたら、私の船の乗客が出るかもしれないと思っていたのだが、そんなことは無かったよ」
 稲生:「そうでしょうねぇ……」

 サンモンド・ゲートウェイズは他門の魔道師であると同時に、冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)に所属する船長でもある。
 冥鉄の鉄道事業本部が幽霊列車を運行させるのに対し、冥鉄汽船は幽霊船を運航させている。

 稲生:「外部の方は招待状を確認しています。招待状はお持ちですか?」
 サンモンド:「もちろんだとも」

 サンモンドは被っていた船長の白い帽子を取ると、中から招待状の入った封筒を出した。

 稲生:「どうして帽子の中から?」
 サンモンド:「はっはっはー!白い鳩も出せるよ?」
 稲生:「はあ……」
 サンモンド:「ところで、もう始まっているのかね?」
 稲生:「あ、そうですね。……?誰が司会やってるんだろう?」

 ケンショーブラック:「只今より、第383回、ダンテ門流クリスマス大会を開催致します。活動報告!ケンショーグリーン!」
 横田:「先般の総幹部会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。先般で恐縮ではありますが、私は作品の垣根を越え、“私立探偵 愛原学”への出演を果たすことができました。役割は大山寺ステージにおけるゾンビの役という、非常に重大なものであり、私は無二の師匠、浅井先生の……」
 ケンショーブラック:「続きまして、体験発表!ケンショーブルー!」
 サトー:「新潟から来たサトーだぜぇ!あ?」
 アナスタシア:「……ねえ?司会と挨拶ってこんなんだったっけ?」
 アンナ:「絶対に違いますよね?」

 そこへ急いで大食堂に入って来た稲生。

 稲生:「うわっ、やっぱり!?何やってんだ、お前ら!!」
 マリア:「ブッ殺す!!」
 ケンショーブラック:「それでは、以上を持ちまして飛び入りを終了致します。ご苦労様でした!」
 マリア:「逃げるなぁぁぁぁっ!!」
 稲生:「待てーっ!」

 だが、稲生だけ後ろから掴まれる。

 エレーナ:「本当の司会のあんたまで出て行ってどうするの?あとはマリアンナと……」
 魔女A:「あいつら、性犯罪者の臭いがする!」
 魔女B:「性犯罪者は殺せ!!」
 魔女C:「逃がすな!!」
 エレーナ:「ダンテ門内『性犯罪被害者の会』が始末してくれるから」
 稲生:「エレーナなどの一部を除いて、全員が被害経験あるんだよね?」

 エレーナはウクライナでストリートチルドレンをしており、薬物中毒者ではあったが、性犯罪の被害にまでは遭っていない。
 自称だが処女である。
 稲生はマイクスタンドの前に立った。

 稲生:「えー、大変失礼致しました。それでは改めまして、クリスマスパーティを開催致します。えー、では最初の挨拶と致しまして、ケンショーグリーン……もとい、当作品の作者の雲羽百三より挨拶を賜りたいと思います」
 エレーナ:「何故、作者?」
 リリィ:「フフ……」

 登壇する雲羽。
 コホンと咳払いをし……。

 雲羽:「みんなぁーっ!ニューヨークへ行きたいかぁーっ!!」

 直後、一発の銃声が響いて雲羽の頭が撃ち抜かれる。

 稲生:「えー、尚、フザけた挨拶をした場合は、ダンテ門内規則により、僕の専属メイド人形でありますダニエラより、狙撃銃の洗礼がありますので、ご注意ください」
 アンナ:「先生、そんな規則ありましたか?」
 アナスタシア:「規則自体はあるわよ。でも、実際はただ単に『何らかの制裁を課すものとす』としか無いので、人形の狙撃はイリーナ組の勝手な規則だね」
 アンナ:「なるほど……」
 稲生:「それでは最後に我らが大師匠、ダンテ・アリギエーリ先生に御挨拶を賜りたいと思います。先生、お願いします!」

 ケンショーブラックを追い出した稲生だが、自分のノリがそれに似ていることに気づいていない。
 さすがは元顕正会員である。

 ダンテ:「アメリカ横断ウルトラクイズ、実に懐かしいものですね。実は私がそのネタを使おうとしたのに、作者に取られてしまいました」

 会場内から笑いが起きる。
 ここでもダンテはローブを着用し、フードは深く被ったままだった。
 しかしやはり、一部に見える素肌は浅黒いものだ。
 ダンテは黒人であるという噂は本当のようである。

 ダンテ:「難しい話は抜きにして、今日と明日2日間に渡って楽しみましょう」
 稲生:(2日?……あれ?)

 稲生は手元にある資料を見た。
 すると、今日は『クリスマス・イブの部』と明日の『クリスマスの部』と書かれていた。
 今日参加していない魔道師も存在する為、2日に分けて行われているのである。

 稲生:(マジですか……)
 ダンテ:「おう。どうやら、孫弟子達が不浄なる者を追い払ってくれたようです」
 稲生:「マリアさん」
 マリア:「雪に埋めておいた。春になれば見つかるだろう」
 稲生:「いっそのこと、沖浦ジムの前に放置しておくという方が良かったのでは?」
 ダンテ:「さあさあ。せっかくのワインと料理だ。ケーキもあるようだ。早速、頂くとしましょうか」
 稲生:「あ、はい。えー、ダンテ先生の御挨拶でした。それでは皆様、グラスを手にしてください」

 こうして、ようやくクリスマスパーティが始まった。

 稲生:「マリアさん、本当に雪の中に?」
 マリア:「私はな。だけど、他の魔女達は気が収まらなかったようなので、その後は知らん」
 稲生:「知らんって……w」
 エレーナ:「ま、深くまで付き合い切れないってことだよね」
 稲生:「……だね。ところでエレーナ、ワイン飲まないの?」
 エレーナ:「未成年なの、アタシw」
 マリア:「ウソつけぇっ!」
 リリィ:「フフ……」(←ガチで未成年なのに、ワインを口に運んでいることに誰も気づいていない)
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のクリスマス」 受付開始編

2016-12-24 20:47:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月24日17:00.天候:曇 長野県北部某所 マリアの屋敷]

 稲生:「こんばんは。ご来館ご苦労様です。こちらにご記入をお願いします」

 クリスマスパーティ開始1時間前。
 早目に来る魔道師もいるので、この時から準備を始める。
 因みに稲生はエントランスで受付係。
 下っ端の見習なので、そんなことをやらされる。

 稲生:(顕正会の衛護隊や、正証寺の任務を思い出すなぁ……)

 稲生は受付台の前に立って、来館する魔道師達の記入を見ていた。
 尚、稲生は案内して受付票を書かせているだけ。
 その内容が正しいかどうかまでは精査しない。
 精査できるとしたら、英語だけ。
 辛うじて外国語は英語なら何とかなる稲生だが、それ以外の言語についてはお手上げだからだ。
 特にダンテ一門の魔道師達はロシア系が多い。
 その為、キリル文字なんかで書かれた日にはさっぱり読めない。
 ダンテ門流内の公用語は英語ということにはなっているのだが、文字となると統一されていないらしい。
 尚、位の高い魔道師が来ると、ラテン語で書いて来たりする。
 本当に自由な門流である。

 稲生:(結構、みんな早目に来るなぁ……)

 稲生は偏見ながら、ロシア人とかは時間にルーズなイメージがあるので、遅刻上等だと思っていたのだ。

 エレーナ:「よっ、稲生氏。めりーくるしみます」
 稲生:「あっ、エレーナ。……何だよ、それ?」
 エレーナ:「あれ?日本語では、そう言うんじゃないの?」
 稲生:「言わないよ。……てか、絶対わざとだろ?」
 エレーナ:「ちっ、マリアンナに影響されてクソ真面目になっちゃったね」
 稲生:「いやいやいや、んなワケない。……あっ、こんばんは。ご苦労様です。では、こちらにご記入を……あ、はい。恐れ入ります」
 エレーナ:「忙しそうだね。手伝おうか?」
 稲生:「いや、いいよ。僕の仕事だし」
 エレーナ:「私だって普段ホテルでフロントの仕事をしてるんだから、こんなのお手の者よ」
 稲生:「そりゃ頼もしい。だけど、大丈夫だよ。それより、ポーリン先生とリリアンヌは?」
 エレーナ:「ポーリン先生は後から来るし、リリィはもうすぐ来るよ」

 と、その時、また玄関のドアが開いた。

 リリィ:「ヒィヤァッハーッ!ブラック・クリスマース!!」
 稲生:「り、リリィ!?」

 リリィは覚醒した状態でやってきた。
 普段は野暮ったい魔女のローブにとんがり帽子を被って来るのだが、今は魔法の薬を作る時にするパンクファッションに身を包んでいた。

 リリィ:「悪魔の宴だ、ゴルァァァッ!」
 稲生:「わ、分かったから、これに記入してくれる?」
 リリィ:「ヒャッハーッ!!」
 エレーナ:「……おい、リリィ。同じ見習とはいえ、稲生氏の方が先輩で年上だぞ。言う事聞けや」

 はしゃぐリリィに、エレーナが姉弟子としてキツく注意した。
 すると、ビクッと体を震わせるリリィ。

 リリィ:「あ……ハイ」

 リリィは急にしおらしくなって、受付票にボールペンを走らせた。
 リリアンヌとはフランス人の名前。
 その為、リリィの書く文字はアルファベットながら、内容はフランス語だった。
 ポーリンはイギリス人、エレーナはウクライナ人、リリィはフランス人と多国籍組なのである。

 エレーナ:「稲生氏、私はリリィを連れて行く」
 稲生:「あ、ああ……って、エレーナ!キミがまだ受付をしていない!」
 エレーナ:「おおっと!」
 リリィ:「フフ……フフフフフフフ……」

 と、そこへ、玄関前に黒塗りの高級車が止まった。
 そこから降りて来たのは、黒いドレスコートに身を包み、その上から白い毛皮のコートを羽織ったアナスタシアだった。
 護衛をするかのようにその周りを歩く弟子達は、黒いスーツやブレザーに身を包んでいる。

 アナスタシア:「こんばんは。受付はこちらでよろしいかしら?」
 稲生:「あ、はい。ご苦労様です。こちらにお願いします」
 アンナ:「私が代わりに……」
 稲生:「アンナ……さん」

 アナスタシア組の弟子の1人、アンナがボールペンを走らせた。
 他人に起こった話を又聞きさせ、その話の中に引きずり込むという魔法を使う。
 また、呪いなどの魔法にも長けており、稲生を試したこともある。
 もし稲生が悪い男だと判断したら、それを守る魔女として稲生を暗闇の底に沈めていたと言い放っていた。
 実際はそんなアンナの逆鱗に触れることも無く、こうして無事にいられている。

 アンナ:「これでいい?」
 稲生:「あ、はい。ありがとうございます」

 アンナもロシア人。
 だがしかし、書いた文字は……英語だった!
 しかも、ちゃんと内容は合っている。

 稲生:「それでは控室が2階にありますので、そちらの階段からどうぞ」
 アンナ:「ありがとう。先生、そちらだそうです」

 他の弟子達がアナスタシアをエスコートしていく。
 ダンテ一門の中で最多数を誇る弟子を抱えるアナスタシア組。
 但し、弟子の数が最多であり、それらが連携する魔法は他の組とは引けを取らないまでも、個人個人の魔法力は弱めらしい。

 アンナ:「マリアンナが笑っているから許してるけど、泣かしたりしたら、無限ループの地獄に落とす。私は魔女で結構。悪い男から女の子を守る為にね」
 稲生:「了解しました」
 エレーナ:「まあ、その前に当のマリアンナ自身にブッ殺されそうな気がするけどね」
 稲生:「はい、そんな気がします……」
 リリィ:「フフフ……」

 と、今度はポーリンが入ってきた。
 玄関の向こうでは老婆の姿をしていたが、受付台に近づくに連れて、どんどん若返って行く。
 ついにはイリーナと同様、30代前半くらいの女性の年齢にまで戻った。

 稲生:「こんばんは。ご来館ご苦労様です。こちらにご記入願います」
 ポーリン:「うむ……」

 エレーナが代わりにポーリンの名前などを記入した。
 ウクライナ人が書く文字もキリル文字だと思われるが、エレーナは英語で記入した。
 魔法を使わずともマルチリンガルな彼女は、東京のホテルでは外国人相手に英語を使う機会が多いからだろう。
 それと、ポーリン自身が英語圏の国の者だからか。
 師匠に心酔しているエレーナとリリィ。
 それまでの稲生に対する軽口は潜め、またリリィもはしゃぐのをやめた。

 ポーリン:「まだ時間があるのだろう?控え室で少し休みたいのだが?」
 エレーナ:「先生、私がご案内致します」
 リリィ:「フヒッ、私も行きます……」

 こうしてポーリン組の面々も、控え室に向かって行った。

 稲生:(ところで、大師匠様はどのタイミングで来られるんだろう?……大師匠様だから、魔法でもう到着されていたりして……?)
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達のクリスマス」 下準備編

2016-12-23 21:17:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月10日14:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷]

 稲生は与えられた個室にこもり、見習魔道師らしからぬことをしていた。
 即ち、ノートPCでエクセルを立ち上げ、何か書類を作成していたのである。

 稲生:「……よし。こんなものだろう」

 完成したらしい。
 稲生がプリンターで印刷すると、印刷されて来たのは何かの案内状。
 1枚だけ印刷すると、それを手に屋敷の西側へ向かった。
 とても広い洋館であるが、常駐しているのはマリアと稲生だけという寂しいものだった。
 それでもこの洋館が年に1度だけ、来客で賑わう日がある。

 昼間はそれなりに窓から差し込む日の光が柔らかく感じるものだが、夜になれば、それはもうホラー映画に出てくる洋館そのものである。
 その廊下の角を曲がると、待ち構えていたゾンビに組み付かれて……なんてことも有り得るかも。
 もっとも、住めば都というもので、さすがの稲生も慣れてしまったが。
 屋敷は左右対称になっていて、東側に稲生、西側にマリアが居住している。
 その東西を行き来するには、エントランスホールに出なければならない。
 2階まで吹き抜けのエントランスホールは、1階から行こうとするとダイニングルームがあり、そこも吹き抜けになっている。
 2階から行こうとするならば、そのダイニングの上を通過することになる。

 稲生:「マリアさん、ちょっといいですか?」
 マリア:「ん、なに?」

 1階西側のリビングルームに、マリアはよくいる。
 そこで趣味の人形作りをしていたり、ソファでうたた寝をしたりしている。
 今は魔道書を読んでいた。

 稲生:「クリスマスパーティーのお知らせが出来上がりました。こんな感じで如何でしょう?」

 稲生はマリアに案内状を見せた。

 マリア:「さすがは勇太。パソコンができるだけあるな〜」
 稲生:「ありがとうございます。英語版しかできていないんですけど……」
 マリア:「いいよ。あとは送られた魔道師が自分で翻訳するから」
 稲生:「そうですか?じゃあ、あとはこれを郵送するだけですね」
 マリア:「ああ。急いで郵便局に行ってきて」
 稲生:「はい。ちょっと行って来ます」

 稲生は魔道師のローブを着込むと、既に名前と住所を印刷した封筒の束を持って外に出た。
 宛先は基本的に、各組の組長である大魔道師宛て。
 雪の降り積もっている屋敷の外に出ると、既に玄関前には車が停車していた。
 クラウンセダンだから、タクシーでも使われているものだ。
 稲生が開いている助手席後ろのドアから乗り込むと、その隣に稲生専属メイド人形と化したダニエラが護衛の為に乗り込む。
 運転手が手でドアを閉めると、すぐに運転席に座った。

 稲生:「郵便局までお願いします」
 運転手:「かしこまりました。稲生さま」

 車はすぐに出発した。

 部屋の中からそれを見送るマリア。

 マリア:(ダニエラのヤツ、すっかり勇太を気に入ったみたいだなぁ……。まあ、いいか。護衛にも監視にもなる)

 と、今度は稲生と入れ替わるようにして来客があった。
 ホウキに跨った魔女、エレーナ……ではなく、その妹弟子に当たるリリィであった。

 リリィ:「フヒッ!お……お届け物……です」
 マリア:「ご苦労様。あなたもホウキで飛べるようになったんだな」
 リリィ:「フフ……!お、おかげ、おかげ様で……!」

 普段はコミュ障と呼んでもおかしくないほど言葉が噛み噛みになるリリィ。
 彼女もまた人間時代、性的虐待を受けていた精神的後遺症による。

 リリィ:「サイン……ここにサインお願いします……」
 マリア:「ああ、分かった。師匠宛の荷物だな。……ほいっと」
 リリィ:「フフ……ありがとうございます」

 リリィはエレーナの中折れ帽とは違い、魔女らしく、とんがり帽子を被っている。

 マリア:「あなたの所にも行くよ。今年のクリスマスパーティの案内」
 リリィ:「フヒッ!?そ、そうですか……。わ……私も参加……参加していいんですか?」
 マリア:「基本的に全員参加だからな。多分、エレーナが連れて来てくれるよ」
 リリィ:「そ、そうですか……。は、初めてのクリスマス……!レッツ・パーリィ!……フフ、フフフヒフフフ……」

 不気味な笑いをしながらホウキで飛び去るリリィだったが、きっと楽しみにしていることは想像できた。

[同日16:00.天候:曇 マリアの屋敷]

 ついでに買い物してきた稲生が車で戻って来た。

 稲生:「ただいま帰りましたー」
 マリア:「お帰り」
 稲生:「いやぁ、ここは大宮より寒いですねー」
 マリア:「そりゃそうだろう。で、手紙は全部送れた?」
 稲生:「オッケーです。それにしても、国際郵便も含まれているのに、お知らせが2週間前ってのは少し余裕が無いような……?」
 マリア:「いや、大丈夫さ。クリスマスなんて毎年同じ日だし、その年はどこでパーティをやるのかだけだから。で、大抵ここだから。どうせ受け取った師匠達も、想定内だと思うだけだろう」
 稲生:「そうですか。それにしても、驚きますね。魔道師達もクリスマス・パーティをやるなんて……」
 マリア:「本当にただのパーティだ。別に、イエス・キリストの生誕を祝うわけじゃない。日本風に言えば、忘年会みたいなものさ」
 稲生:「なるほど……」
 マリア:「その日はどこの宗派であれ、クリスチャン達はキリストの生誕を祝うことに忙しいだろうけど、その日だからこそ魔女狩りを一斉に行う教団も存在する。そいつらから避難する為でもあるんだ」
 稲生:「藤谷さんにお願いして、日蓮正宗の人達に応戦してもらいましょうか?それ」
 マリア:「……考えておこう。でもまあ、そこまでしてもらうほどのものじゃないと思うけど」
 稲生:「そうですかね。因みにアナスタシア先生にも送りましたけど、大丈夫ですかね?」
 マリア:「パーティには大師匠様も来られるから心配無い」
 稲生:「それなら大丈夫ですね。僕は……大丈夫かな?」
 マリア:「何が?」
 稲生:「まだ他の魔女さん達からは警戒されてるみたいですし……」
 マリア:「それも心配無い。勇太は既に、大師匠様から表彰を受けたことがあるから」
 稲生:「なるほど、そうかぁ……」

 稲生はベタなクリスマス・パーティを予想していた。
 そして、ふと思った。

 稲生:(マリアさんには前にカチューシャをプレゼントしたし、今度もそれにしようと思うけど、イリーナ先生にも何か差し上げようかなぁ……?)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「アンドロイドマスター候補者」

2016-12-22 21:01:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月17日18:00.天候:晴 JR大宮駅・ルミネ大宮]

 敷島達はルミネ大宮の中にある寿司店に入って夕食を取っていた。

 敷島:「平賀先生、うちのミクについてですが、どうも兵器としての機能もあるようですな」
 平賀:「初音ミクがですか?」
 敷島:「アリスから、ウィリーがどうしてボーカロイドを狙っていたのかの真相が分かりましたよ」
 平賀:「ああ……。それについては、自分も何となく想像は付いていたんです」
 敷島:「えっ!?」
 平賀:「今の敷島さんはボーカロイドをちゃんとした用途で活用して、しかもその性能を最大限に引き出しておられます。完璧です。だからこそ、余計なことは言わない方がいいのかなと思ったんです」
 敷島:「そうだったんですか。知らなかったのは私だけだったとはっ!」

 敷島は不快そうな顔をして、玉子焼きを口の中に放り込んだ。

 平賀:「いや、もちろん、自分も単なる想像です。だが、当たらずも遠からずだったようです」
 敷島:「どうしてそう思ったんですか?」
 平賀:「敷島さんも御存知の通り、初音ミクが日本で1番最初のボーカロイドではありません。その前に試作機であるMEIKOやKAITOもいました。もちろん、敷島さんが南里研究所に来られた時点で、既にウィリーの手に渡っていたわけですが……。でも、時期を同じくして鏡音リンやレンも稼働していたんですよ。その管理をナツにやらせて、どうして敷島さんは初音ミクだったんだろうと疑問に思いました。南里先生に聞いたら、『初音ミクの管理ができるのは敷島君だけだからじゃ』という答えしか返ってきませんでしたね。『フィールドテストを行うから、それでキミも分かるよ』ということでした。実際それで敷島さんが上手く立ち回ってくれたので、自分もそこで納得していたわけですが……」
 敷島:「他にもあるんでしょう?」
 平賀:「ええ。ただ、自分も確証は持てなかったので……」
 アリス:「確かに初音ミクにだけリミッターが付いていて、それを外すと、じー様のテロ願望を満たす結果になるんでしょうね。人間の脳幹を停止させる歌声を出すほどの」
 平賀:「そうなのかっ!?」 
 アリス:「じー様がそう言ってたよ。でも結局、初音ミクは手に入らなかったから、断念したって感じかな」
 平賀:「初音ミクを管理できるのは敷島さんしかいない。南里先生の仰る通りでしたね。さすが先生だ」
 敷島:「……そのリミッターを外す方法、エミリーは知ってるんですよ」
 平賀:「ほお……?」
 敷島:「もちろん、無闇やたらに教えるつもりは無いようです」
 平賀:「そりゃそうだ。ちゃんと南里先生は考えてらしてるんですね」
 敷島:「アンドロイドマスターって何ですか?」
 平賀:「敷島さんみたいな人のことを言うんですよ。敷島さんはエミリーとシンディを手なずけています。ボーカロイドからの信頼も厚い。並みの人間ではできないことです。特に、マルチタイプは人を見ますからね。シンディがいい例でしょう?」
 敷島:「そうですね」

 敷島はクイッとビールのグラスを空けると、

 敷島:(それ以上にエミリーがだよ!)

 という言葉も一緒に飲み込んだ。

 アリス:「あのシンディを使いこなしてるんだから、大したものだわ」
 平賀:「ホントにねぇ……。自分なんかエミリーだけで手一杯なのに……」
 敷島:「はあ……。(2人とも、そのエミリーからナメられてますよ)」

 敷島はシンディが狡猾かと思っていたのだが、それ以上に周囲の者全員を騙していたエミリーが凄いと思っている。
 持ち主の平賀を騙し切っているくらいだ。

[同日20:00.天候:晴 ルミネ大宮→JR大宮駅]

 食事が終わった後で、敷島達は平賀達を送るべく、乗り場の方へ向かった。

 平賀:「今日はどうも御馳走様でした。エミリーはシンディの代わりになれましたか?」
 敷島:「十分です。いや、十二分といった方がいいかもしれません」
 平賀:「そうですか。それは良かったです。もし、またエミリーが必要になったら言ってください。いつでもお貸しします」
 敷島:「ありがとうございます」

 敷島はエミリーをチラッと見た。
 エミリーはニッと笑った。
 飲食店を出た時、エミリーは丁寧に敷島に対して無礼なことを言ってしまい、申し訳無かったと謝罪した。
 それに対し、驚いたのは平賀だった。
 シンディと同様、まさかエミリーが敷島に無礼なことを言うとは思わなかったらしい。
 敷島は慌てて、それを打ち消した。
 自分があまりにも無知であったことに対する憤りであって、別にエミリーの言に腹を立てたのではないと。
 もちろん実際は、半分以上はエミリーの言動に腹が立ったのだが。
 ニッと笑うくらいはいつものエミリーでもあることなのだが、既に本性を知ってしまった敷島には、エミリーが別のロイドに見えてしまった。

 改札口で平賀とエミリーを見送った後、敷島達は西口のタクシー乗り場に向かった。

 シンディ:「あの、社長……」
 敷島:「何だ?」
 シンディ:「姉さんのこと、許してあげてください。姉さん、時々、物凄くストレートな言い方をすることがあるんで、もしかしたら、それで社長を怒らせてしまったかなって……」
 アリス:「いいのよ。タカオなんか、たまにストレートで言ってやんないと分かんないんだから」
 敷島:「悪かったな!……俺達が飯を食ってる間、エミリーと何か話したか?」
 シンディ:「そりゃあもう……」
 アリス:「そりゃ姉妹なんだから会話くらいあるよ。ね?シンディ」
 シンディ:「はい。あの……」

 シンディは物凄く言い難そうな顔をした。

 敷島:「いいよ。言ってくれ。ただ、俺も想像はつく」
 アリス:「なに?なに?」
 シンディ:「はあ……実は……」
 敷島:「エミリーが俺の所で働きたいって言ってるんだろう?」
 シンディ:「姉さんが社長に仕えたいと……あっ!」
 アリス:「なに?エミリーがタカオの所で働きたいって?」
 シンディ:「ええ。でも今は、姉さんは平賀博士がオーナーです。オーナー登録の二重登録は禁止されています」
 敷島:「まあ、そうだな」
 アリス:「確かにタカオとエミリーは長い付き合いだけど、どうして急に?」
 シンディ:「それは……」
 敷島:「記念館暮らしが退屈になったんだろう。科学館と違って、訪れる人も少ないしな」

 敷島はそう言って、タクシーにさっさと乗り込んだ。
 敷島の隣にアリス、助手席にシンディが乗り込んだ。
 シンディが運転手に行き先を告げて、タクシーが走り出した。

 シンディ:(きっと姉さん、社長にはっきりと言ったんだわ。社長に仕えたいって。平賀博士のことなんかどうでもいいからみたいなことも言ったんだ。それなら社長、怒るわ)

 シンディはそう思った。
 だいたい合っている予想だ。
 そこはさすが姉妹というべきか。

 敷島:(取りあえずは保留に持ち込んだが、エミリーのことだ。また今度会った時には、今度こそ迫ってくるだろう。もちろん拒否する権利はあるだろうが、エミリーの性格からしてそれすら拒絶するだろう。シンディが止めてはくれるだろうが、マルチタイプ同士が戦ったりしたら……怖すぎる。マズイな……。エミリーのヤツ、今までロボットのフリしていただけだったとは……想定外だった)

 多くのロイド達から慕われるようになった敷島。
 だが、そんな人格者が直面した問題。
 これにどう敷島は対応するのか。
 悩みはしばらく尽きないようだ。
コメント (2)
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