報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「JR総武快速線」

2020-10-29 19:55:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月16日11:30.天候:晴 東京都墨田区江東橋 都立墨東病院]

 愛原:「……ええ、そうです。……はい。ありがとうございます。突然のことで申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は栗原蓮華さんの見舞いに行っていたのだが、そこで彼女から驚くべきことを聞いた。
 何でも彼女は退院後、リサに決闘を申し込むという。
 これは善場主任の再三の警告、説得に従わない彼女に対し、主任が折れた形となったわけだ。
 当然リサにもその話が来るだろうが、まずは善場主任に詳しい話を聞きたいと、NPO法人デイライトに電話した。
 すると善場主任は在席していて、私と面会してくれるという。
 早速今日の午後に向かうと伝えて、私は電話を切った。

 高橋:「先生、お帰りなさい」
 愛原:「待たせたな」

 病院の駐車場には高橋が車で待っていた。
 リアシートにはリサが座っている。
 私は助手席に乗った。

 高橋:「事務所に戻りますか?」
 愛原:「いや、これからちょっと行きたい所がある。錦糸町駅まで行ってくれ」
 高橋:「車で行きますよ?」
 愛原:「新橋のど真ん中じゃ、車を止める所も無いだろう?」

 コインパーキングくらいはあるだろうが、都合良く空いているとは限らないし、駐車料金も高い。

 高橋:「ということは、善場の姉ちゃんの所ですか?」
 愛原:「ああ。ちょっと直接確認したいことがある。リサに関することだから、リサも連れて行くよ」
 高橋:「分かりました。じゃあ、この車は……」
 愛原:「事務所に置いて、お前は事務所で待っててくれ」
 高橋:「ええっ!?」
 愛原:「この中で唯一私服のオマエが行くわけにはいかないからな」

 リサが学校の制服を着ているのは、学校に行った帰りだからである。
 謹慎中ではあるが、レポートの提出を毎日義務付けられているので、その帰りだからだ。

 高橋:「急いでスーツに着替えますよ!?」
 愛原:「いいから。高野君1人だけ留守番じゃ、寂しがるだろう?」
 高橋:「何スか、それ……」
 愛原:「その代わり昼飯奢るから。この前連れて行ってくれたラーメン屋。あれ、美味かった。是非もう一度食べてみたいところだ。あそこに連れて行ってくれ」
 リサ:「! 私も行くー!」
 愛原:「よし、決まりだな」
 高橋:「まあ、そういうことでしたら……」

 高橋は車を出して、錦糸町駅近くのラーメン屋に向かった。

[同日12:58.天候:晴 JR錦糸町駅→総武快速線1272F電車1号車内]

〔まもなく3番線に、横須賀線直通、久里浜行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。この電車は、11両です。グリーン車は、4号車と5号車です。……〕

 昼食の後で駅に行く。
 この電車なら横須賀線に直通するので、新橋まで一本で行ける。

 リサ:「お兄ちゃん、残念がってたね」
 愛原:「表向きはNPO法人だが、国家機関の隠れ蓑だからな。ぞろぞろ行ってもアレだ」

 善場主任の方から呼ばれたとか、予め前日までにアポを取っていればいいのだろうが、当日急な話だからね。
 そこはさすがに遠慮するさ。
 尚、錦糸町駅にはまだホームドアが付いていない。

〔きんしちょう~、錦糸町~。ご乗車、ありがとうございます。次は、馬喰町に止まります〕

 E217系という電車がやってくると、ここで多くの乗客が乗り降りする。
 秋葉原、新宿方面に行く中央緩行線との乗り換え駅でもあり、地下鉄半蔵門線との乗り換え駅でもあるからだ。
 電車に乗り込むと、私達は反対側のドアの前に立った。
 ホームから発車メロディ(曲名:Water Crown)が聞こえてくる。

〔3番線の、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 2点チャイムが3回鳴ってドアが閉まる。
 このタイプのドアチャイムを最初に採用した世代の電車でもある(他に京浜東北線などに投入された209系がいる)。
 電車が走り出す。
 今は高架区間だが、ここから先は一気に下降して地下トンネルに入る。
 まるで地下鉄のような区間になる為、総武快速線を走る電車は地下鉄としても通用する規格の物を採用している。

〔この電車は総武快速線、横須賀線直通、久里浜行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、馬喰町(ばくろちょう)です〕
〔This is the Sobu line rapid service train for Kurihama.The next station is Bakurocho.JO21.〕

 リサ:「せっかく地上にいるのに、また地下に潜るのか……うっ!」

 リサにまたフラッシュバックが起きたようだ。
 頭を抱えてフラつく。
 幸い左手でドア横の手すりを掴み、転倒は免れた。

 リサ:「檻付きの電車に乗せられて、地下のトンネルまで行って、それから……あれは……『1番』……」

 私はリサにはそういうフラッシュバックを見たら、その内容が何かを話すように言ってある。
 私はすぐに手帳にリサの言葉を書き記した。

 リサ:「私だけ降ろされて……『1番』は……また発車した電車に乗ったまま……」

 もしかして霧生電鉄のことを言っているのだろうか。
 他に南北線があったようだが、私達が世話になったのは霞台団地駅から東の終点駅である大山寺駅までだ。
 それは東西線と呼ばれる路線らしい。
 東西南北に2本の鉄道路線がある所は仙台市と似ているが、仙台市は4両固定編成の市営地下鉄なのに対し、霧生電鉄は2~4両編成の中小私鉄である。
 その東西線の霞台団地駅から大山寺駅までの間には山岳トンネルがあって、大山寺駅はその山岳トンネルの中にある。
 駅名となった新日蓮宗大本山・大山寺は山寺だからだ。
 そのトンネルの中には秘密の引き込み線があって、その奥には日本アンブレラの秘密研究所の搬入口に通じているのである。
 私達は大山寺からそのトンネルと引き込み線を通って、秘密研究所に侵入したのである。
 研究所そのものは秘密裏にはされておらず、表向きには新薬開発のセンターとして存在だけは公表されていたようだ。

 愛原:「檻付きの電車か……」

 私はかつて旧国鉄に存在した貨車、家畜車を想像した。
 大昔、貨物列車は家畜も運搬しており、それに特化した家畜車も存在した。
 荷物電車が存在していたのだから、霧生電鉄も、もしかしたら日本アンブレラの特注で家畜電車を保有していたのかもしれない。
 何しろこの鉄道会社、株式の50%以上を日本アンブレラが持っていたというのだから可能である。

 愛原:「大丈夫だよ、リサ」

 私はそっとリサの肩に手を置いた。

 愛原:「お前がお前のままでいる間は、もう2度とそんな実験動物扱いの車両に乗せられることはないさ。現に、今お前は人間扱いされてるから、人間専用の電車に乗れるのだよ」
 リサ:「ほんと?」
 猫:「ニャー」(←網棚の上のキャリーから愛原の言葉を否定する三毛猫)
 愛原:「コホン」
 リサ:「私も首輪着けるから、先生と一緒に乗りたい」
 愛原:「いや、いいんだよ。人間の姿でいるうちは、ハハハハ……」

 因みにペットと電車に乗る時、犬は飼い主さんの足元または膝の上、猫は網棚の上がいいらしい(猫は高い所にいる方が落ち着くため)。
 もちろん、手荷物料金が掛かるので念の為(自動券売機ではその切符を売っていないので、有人駅では有人改札で、無人駅では車掌または運転士に別料金を払うことになる。尚、定額であり、距離は関係無い)。

  
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“私立探偵 愛原学” 「決闘申し込み」

2020-10-29 15:26:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月16日10:00.天候:晴 東京都墨田区江東橋 都立墨東病院]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は墨田区の中でも大きな病院にやってきた。
 もちろん用件は、リサ・トレヴァーを始めとするBOWを憎む栗原蓮華さんの見舞いだ。

 愛原:「こんにちは。具合どうですか?」

 私は彼女の病室に向かった。
 本来はコロナ禍で面会は一切謝絶なのだが、特別な例外と認められる場合に限り、1日1人だけ面会を許されることがある。
 本来私はその特例には当たらないのだが、善場主任が国家権力を用いてその扱いにしてくれている。
 如何にリサ・トレヴァーを国家レベルで欲しがっているのかが分かる。
 日本は非核三原則のせいで核兵器を保有できないし、生物兵器もまた非人道的であるという理由から世界各国で禁忌の対象となっている。
 それで目を付けたのが、日本アンブレラが開発した日本版リサ・トレヴァーなのだろう。
 もちろんBOWのままでは使えないので(使ってもいいのだが、それだと国際的な非難の的になる)、人外的な力を残したまま人間に戻すという計画が進行中とのこと(人間の姿であれば、まだ誤魔化せるから)。
 栗原蓮華さんはそれを一個人レベルで妨害する、国家反逆者なのだ。
 まあ、リサの同族に兄弟を殺され、自分も左足を食い千切られたという恨みは分かるのだが。

 栗原:「また来たんですか。何度来ても同じですよ」
 愛原:「すいませんね。でも、お見舞いの品、持って来ましたから」
 栗原:「それはありがとございます。まあ、どうぞ」
 愛原:「どうも。失礼」

 栗原さんは個室に入っている。
 別にそこまで重いケガというわけでもないのだが、東京中央学園に通う生徒は往々にして家が裕福であることが多く、栗原家もそういうことだろう。
 何でも、今は父方の祖父母の家で世話になっているらしいが、そこは特殊な剣術流派の家元というか、宗家というか、そういう所らしい。
 そこで彼女は霧生市の剣道大会で優勝し、県大会でも上位に食い込んでいる。
 それほどの腕前だ。

 愛原:「昨日、NPO法人デイライトの善場優菜主任が来られたと思いますが?」
 栗原:「ああ、来ましたよ。『あなたのリサ』を狙うのは止めろと言われました。従わないなら、私を日本刀を持ち歩いて、中学校でそれを勝手に振るった罪として刑事告訴するそうです」
 愛原:「あの人は本気ですよ。NPO法人デイライトは、とある日本政府機関の出先機関で、あの人も国家公務員ですから」
 栗原:「私はあの化け物を根絶やしにできればいいんです。それが兄弟達への、引いては(母方の)お祖父ちゃん、お祖母ちゃんへの追善供養になると思うので」
 愛原:「その気持ちは立派だけど、政府をナメちゃいけない。日本政府はまだまだ他国から見れば弱腰外交だが、国内に関しては欧米以上に弾圧する時はする。キミが行動に移す前に、善場さん達の組織は警察を使ってキミをさっさと拘束するだろう」
 栗原:「そんなことが……」
 愛原:「あるんだよ。今はナリを潜めたように見えるが、それが目立つ奴らが少なくなっただけで、未だにそれは行われている」

 有名なのが、オウム真理教信者に対する『転び公妨』だったな。
 オウム関係者を何としてもしょっ引く為に、わざと公務執行妨害を起こさせ、別件逮捕に持って行く捜査方法だ。
 作者の警備会社に天下って来た元警察官がそう言っていたのだから間違いない。
 その方法を暴露し、自身もそれでオウム関係者を現行犯逮捕したそうだ(幹部信者ではないようだ)。

 特に宗教関係者で創価学会警察と対立している宗派の方は御用心、御用心。

 愛原:「だから、オススメはしないな。恐らくキミは逮捕されても、すぐに釈放はされるだろう。だけど日本刀は没収、逮捕歴が付いたことでキミも学校は退学だ。もちろん、逮捕前後のキミの態度では拘束時間は長くなり、キミの家も家宅捜索を受けることになるだろう」
 栗原:「……どうして化け物を倒すだけで、そんなことに?」
 愛原:「善場さんは何か言っていたかい?」
 栗原:「『大人の事情』だの、あとは色々難しい法律の話とかされて、よく分からなかったです」
 愛原:「ああ」

 国家公務員たる善場さんらしい。

 愛原:「それで、一切もうリサには近づくなということだね?」
 栗原:「私がどうしても納得できないと言ったら、溜め息を吐いてこれを渡して来ました」

 恐らく栗原さんが裁判に訴えたところで、負けるのは必至だ。
 もし勝てるのなら、とっくにNHKはワンセグやカーナビから受信料を取ることはできなくなっているはずだ(蛇足だが、タクシーや観光バス向けの業務用カーナビならテレビは無いので、それなら受信料を取られることはない)。

 愛原:「見せてもらえますか?」

 私は栗原さんから茶封筒を受け取った。
 中に入っていたのは、1枚の書類。

 愛原:「これは……!」

 これは、どうやら善場主任が栗原さんを納得させる為の最終手段らしい。
 国家権力で無理やり押さえ付ける方法以外のものだ。
 見ると、どうやらそれはリサとの決闘申込書のようなものだ。

 愛原:「リサとの決闘を認める書類のようですね」
 栗原:「色々と条件は厳しいですが、もしも勝ったら私は『あなたのリサ』を殺してもいいそうなので、これを受けるつもりです」

 栗原さん側の条件は『真剣禁止(竹刀または木刀とする)』くらいだ。
 リサ側の条件は、『第1形態での戦闘』『殺しダメ、絶対』ということが分かった。
 少し意外だ。
 栗原さんが真剣が使えないというのは、不利だと思う。
 にも関わらず、リサは人間形態の第0形態ではなく、鬼姿の第1形態で戦えというのは……。
 もちろん、殺しは厳禁とのことだが。
 一体、善場主任は何を考えている?

 愛原:「それで、キミはこの条件を飲む?」
 栗原:「ええ。私の流派なら、木刀でも斬ることができますので」
 愛原:「何だって!?」

 私は改めて決闘書を見た。
 リサが栗原さんを殺すことは厳禁であると明文化されているものの、その逆は明文化されていない。

 愛原:「じゃあ、日本刀なんか持ち出さなくても良かったんじゃないか?」
 栗原:「でも攻撃力が落ちるのは確かです。愛原先生がもし化け物と戦う場合、ナイフとピストル、どちらを使いますか?」
 愛原:「そりゃ、ピストルだが……」
 栗原:「そういうことですよ。もし私の家が剣道ではなく、射撃だったら銃を使っていました。で、拳銃と散弾銃、どちらを使いますか?」
 愛原:「まあ、ショットガン……散弾銃だな」
 栗原:「そういうことですよ。私も使うものは、なるべく強い物の方がいいですから」

 後で善場主任に詳しい話を聞いてみることにしよう。
 
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“私立探偵 愛原学” 「雨の木曜日」

2020-10-27 20:04:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月15日13:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 愛原:「ただいまァ」
 高野:「お帰りなさい、先生」
 高橋:「お帰りなさいっス、先生!昼飯まだっスよね!?俺、今ホットドッグ作ってるところなんで」
 愛原:「ああ、すまないね。リサは?」
 高野:「家に帰りました。善場主任との面談も終了して、主任も帰られてます」
 愛原:「そうか。特に問題無かったのかな?」
 高野:「そのようですね。リサちゃん、『人間の姿が正しいのに、その姿が「第0形態」と呼ぶのはおかしい』って言い出しまして……」
 愛原:「そうなんだ。よほど人間に戻りたいんだな」

 元々は人間の姿が第1形態だったのだが、その後のウィルス活性化によって、今の第1形態(鬼娘のような姿)が自然体でいられる姿になり、人間の姿は意図的にそうしないとなれないようになってしまった為、人間の姿を『第0形態』と呼ぶようになったのではなかったか。
 鬼娘の姿を『第1形態』、人間の姿を『第2形態』と呼んでしまうと、元の姿が『第1形態』よりも恐ろしい『第2形態』という変な話になってしまうからだと善場主任から聞いた気がする。

 高野:「人間の姿を『第1形態』、鬼の姿を『第2形態』と呼んでもいいと思うんですよ。何だか変ですね」
 愛原:「そういうものだろう?」

 善場主任のことだから、ちゃんとリサには説明しただろう。
 何て説明したのか、後でリサに聞いてみよう。

 高橋:「お待たせしました、先生」
 愛原:「おー、サンクス」

 給湯室で作ったらしい。
 わざわざキャベツの千切りとウィンナーを炒め、背割りコッペパンに挟んでオーブンレンジで焼くという、まるで喫茶店のホットドッグのような作り方をする。
 ついでにコーヒーも持って来てくれた。

 愛原:「うん、美味い美味い」
 高橋:「あざっス!」
 高野:「料理の腕はいいのよね、マサは」
 愛原:「家事スキルは高い。ダテに少年院と少年刑務所に入っていなかったわけだ」
 高橋:「そうっスね」
 愛原:「昔、東京駅の警備員をしていた時、日本橋口に護送車がたまに来てな。そこから移送される受刑者達が、手錠と縄で繋がれて東京駅に入って来てたよ」
 高橋:「あー、たまにあるんスよね」
 愛原:「警察の留置場から移送される容疑者を乗せた護送車とかも来てさ……」
 高橋:「あれは別の事件で再タイーホされたもんで、その為に事件現場の所轄(警察署)へ世話になりに行く所だったんでしょうね」
 愛原:「詳しいな?」
 高橋:「俺の周りにも、そういうヤツがいたもんでェ……」
 愛原:「ま、いいや。後で聞くよ」
 高野:「それで先生、病院の方はどうでした?」
 愛原:「普通に静かだったよ。だけど、例のお嬢さんはダメだ。肩の傷が治って退院したら、必ずリサを倒しに行くと宣言している」
 高橋:「なかなか根性のある女みたいっスね。真珠と同じタイプなんスかね?」
 愛原:「霧崎さんはシリアルキラー的な要素を持っているが、彼女は違うよ。……いや、キル対象が人間かBOWかの違いだけで、基本は同じなのかも……」
 高橋:「一度会ってみたいっスね」
 高野:「霧崎さんに見られたら、『浮気はコロス』と言われるよ?」
 高橋:「浮気じゃねーし」
 高野:「霧崎さんの主観でそこは動くんだからね?先生に迷惑掛けるんじゃないよ」
 高橋:「おっと。さすがにそれはダメだな」
 高野:「それで先生、どうされます?今月中には退院なんだそうですね?」
 愛原:「一応、善場主任が介入してくれるらしい。日本刀を持ってるんだ。ややもすれば、銃刀法違反でしょっ引くんじゃないの?」
 高野:「でも一応、許可は取ってるんですよね?」
 愛原:「許可証程度の紙切れ1枚、国家権力でどうにでもなるってことだろ?司法、行政はその辺得意だからな。法律の条文も都合のいいように解釈したりして、白にでも黒にでもどうにでもできるってことさ。俺達のこれと一緒だよ」

 私は机の引き出しの中からハンドガンを取り出した。
 本来ならこれ、違法である。
 だけど善場主任達が国家権力でもって、黒を白にしてくれた。
 もちろん、ゾンビ無双以外で発砲しようものなら、さすがの主任達でも庇い切れないそうだが。

 高橋:「というと、あの姉ちゃんはどう動くつもりっスかね?」
 愛原:「『リサを殺す宣言を撤回しなければ、銃刀法違反でしょっ引く』と脅迫……もとい、警告するんだろうな」
 高野:「せっかく許可を取ってるのに、何だか可愛そうですね」
 愛原:「確か日本刀の所持許可だって、あくまでも所持しているだけならOKというものであって、持ち歩いて良いかどうかはグレーのはずなんだ。包丁と同じだよな。例えば包丁をホームセンターとかで買って、家に持って帰るまでの間、警察の職務質問に遭って所持品検査で見つかったら?」
 高野:「その状態だと梱包されてますし、持ち歩いている理由も明確なので、違反の対象外になるはずですが?」
 愛原:「善場主任はバックにある組織の権力を使って、その対象外を対象内にしてやるんだろうな、きっと」
 高橋:「あの姉ちゃん、怖いんスね?」
 愛原:「今頃気づいたのかよ。栗原さんの話だと、日本刀は、使うまで麻袋に入れて隠して持っているらしい。これだと剣道部員なら、竹刀なのか木刀なのか区別が付かない」
 高橋:「俺が昔、車に木刀積んでたら、サツがやたらうるさかったっスけど?」
 愛原:「そりゃ族車に木刀があったら、その木刀は何に使うのか想像するだけで、警察は逮捕しようとするだろうよ。だけど、剣道部員が持ち歩く分にはいいんだよ」
 高橋:「どうしてですか?」
 愛原:「じゃお前、木刀はどうして積んでたんだよ?」
 高橋:「ちょっと車飾っただけで、すぐ『チョーシこいてる奴』『イキがってる奴』と勝手に認定しやがって、煽り運転してくるヤツとかいるんスよ。そいつらに対する警告の為っス」
 高野:「はい、アウトー」
 愛原:「だけど剣道部員が持ち歩く理由は違う。もちろん、稽古の為だな。だからOKなんだよ」
 高橋:「あっ、ずりィ!差別ニダ!」
 愛原:「剣道は警察官の必須武道だからな。実際、学生時代からずっと剣道をやっていて、段まで持ってて、それで警察官になったという人も大勢いる。そんな人達から見れば、剣道部員が木刀持ち歩く理由は主観的に分かるから、それだけで御咎め無しなんだよ。でも、暴走族が木刀を持つのはアウト」
 高橋:「差別ニダ!謝罪と賠償を求めるニダ!」
 愛原:「話が脱線したが、さすがの栗原さんも、国家の関係者が出て来たら考え直してくれるだろう。早速今日、俺と入れ違う形で話をしてくれるそうだ」
 高野:「それで済んでくれるといいですね」
 愛原:「全くだ」

 うちのリサは善場主任の所属する組織が目を付けているから、たかが一個人に手出しをされたくないのだろう。
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“愛原リサの日常” 「リサと善場の面談」

2020-10-27 15:33:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月15日11:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 学校から帰ったリサはマンションではなく、事務所の方へ行った。
 雨が降っていて傘を差して来たのだが、リサの傘はどこにでもあるビニール傘。
 管理教育時代は傘の色、柄にまで指定があったらしいが、今は撤廃されている。

 高野:「お帰り。どうだった?」
 リサ:「レポート提出して来ただけ」
 高橋:「何だ。退学処分食らったかと思ったのによ~」

 高橋がニヤニヤ笑って言った。

 高野:「中学校に退学なんて無いよ」
 高橋:「学校停学は当たり前、高校クビになって初めてハクが付くもんよ」
 高野:「だけどそんなの暴力団事務所じゃ関係無いからね」

 高橋は偉そうなことを言っているが、実は高卒である。
 その為、高校中退者の多い少年院では羨望の目を向けられ、少年刑務所ではインテリ扱いされたとのことである。

 高野:「むしろ今は大卒者が喜ばれるってよ」
 高橋:「何だそれ……」
 高野:「お金の計算や、いかに警察に捕まらないようにするか、頭の回転のいい人材を求めてるのよ」
 リサ:「校長先生の言う事聞かないと、退学だって言われた」
 高野:「校長先生の言う事?」
 高橋:「校長と面談か。こりゃ、いよいよ退学の予感がするぞ」
 高野:「マサ!」
 リサ:「それより、先生はまだ帰ってない?」
 高野:「まだね。午後になったら帰って来るんじゃない」
 リサ:「そう……」

 愛原は栗原蓮華の見舞いに行っている。
 その病院、警察署のバイオハザード事件における警戒区域の中に入っていたらしいので、様子を見に行ったというわけだ。

 高橋:「おっ、来客だぞ?」

 エレベーターが5階に到着する音が聞こえた。
 高橋はサングラスを掛け、タバコを一本片手に持った。

 高橋:「『どなた?』って感じで出ればいいか?あ?」
 高野:「だから、ヤクザの事務所で1人留守番している若い組員みたいな感じになるなっての」

 そして、事務所の入口のドアが開く。

 高橋:「お客さん、先生ならお留守ですぜ?」

 とまあ、やっぱりヤクザ事務所で1人留守番している若い者の役をやりたがる高橋だった。
 が!

 黒服A:「何が?」

 高橋より背が高く、ガタイの良い黒スーツの男が高橋の威圧を全面的に受け止めた。

 高橋:「ピエッ?!」
 黒服B:「愛原所長への用件ではない」
 善場:「こんにちは」

 やってきたのは主任職にある善場であり、黒服の男2人は善場の部下だった。
 リサがこの組織に就職する頃には、課長くらいにはなっているのだろうか。
 役所関係だと、主任の上に係長とか課長代理とか、そういう役職があるので(古い組織だと、主事とか参事とかある)。

 高橋:「な、何だ。善場の姉ちゃんか。相変わらず、強面の奴ら連れてんなぁ……」
 善場:「場合によっては命懸けの仕事もありますのでね。今日はリサの面談に来ました」
 高野:「どうぞ。先生から聞いています。応接室を空けておりますので」

 高野が善場達を応接室に招き入れる。
 だが、黒服Aは応接室に入らず、応接室の外で立哨を始めた。
 黒服Bはスマホ片手に事務所を出て行く。
 恐らくAが護衛役、Bが連絡役であろう。
 この他にもCが運転役として、車の中で待機していると思われる。

 善場:「制服のままということは、学校から帰ってきたばかり?」
 リサ:「そんなところ」

 リサと善場は応接室で2人きりになり、テーブルを挟んでソファに向かい合わせに座った。
 すぐに高野が紅茶を持ってくる。

 高野:「リサちゃんにはジュースね」
 リサ:「ありがとう」
 善場:「お構いなく。それと、ついでに高野事務係にお尋ねしたいのですが、愛原所長は今、墨東病院に行っていますね?」
 高野:「それが、どうかしましたか?」
 善場:「愛原所長の見舞い相手は栗原蓮華、16歳。○×県霧生市出身で今は都内在住、現在、東京中央学園上野高校の1年生ですね?」
 高野:「そう言ってましたね」
 善場:「その栗原蓮華さん、リサのことは何て言っていましたか?」
 高野:「先生の話では、殺したいほど難い相手とのことです」
 善場:「そうですか」
 高野:「退院したら、リサちゃんを殺しに行くと宣言しているそうです」
 善場:「分かりました」
 高野:「もういいですか?」
 善場:「ええ」
 高野:「失礼します」

 高野は応接室を出た。

 リサ:「私、嫌われてるね」
 善場:「しょうがないわ。化け物が好きだって人間、そうそういないもの。ましてやあなたは、ついに人間を襲ってしまった。嫌われるのは当然だわ」
 リサ:「私、殺される?」
 善場:「私達の組織としては、そこまではしないから安心して。襲ったといっても、学校ではイジメに認定される程度のもので、実際あなたは相手を殺したわけでも、ケガさせたわけでもないからね。もしそうなら、さすがにちょっと私と一緒に来てもらうことになるけど」
 リサ:「先生がお見舞いに行ってる人、私に日本刀を振るって来た人だね」
 善場:「話の内容の通りだとすると、例え警察に逮捕されてでも、あなたに刃を振るおうとするでしょうね」
 リサ:「どうする?私、襲われても抵抗しちゃいけない?」
 善場:「そうねぇ……。そこは考えておくわ。私があなたに言っておきたいことは、今後は一切捕食は禁止。分かった?」
 リサ:「はい。因みにサイトーとコジマ、私の人間の友達なんだけど、自ら進んで私に『捕食』されたいみたいなんだけど、これは?」
 善場:「それもダメ。……いや」

 善場は少し考えた。

 善場:「あなたには人間に戻ってもらいたいの。そうすれば心置きなく私達の組織で働けるし、大好きな愛原所長とそれからもずっと一緒に暮らしていけるよ。その為には、常日頃から人間らしく生活することが必要だと思うのね。だけど、第一形態に変化したり、捕食行為をしたり、人間とかけ離れた行動をしたら、それだけ人間に戻りにくくなるかもしれない。だから、本当は私の言う事を絶対に守ってもらいたいところなんだけど……。もしガマンできないってなったら、その時はいいわ。あなたに捕食されたい人間に限定して、『老廃物のみ捕食』だけ黙認してあげる。ガマンできなくなって暴走されるよりはマシだと思うからね」
 リサ:「おー!」
 善場:「だから、新規に人間を『捕食』するのは禁止ってことね。あくまでも今言ったお友達に限定するなら……目は瞑っててもいいと思う」
 リサ:「分かった!」
 善場:「あと、学校の方はどう?」
 リサ:「えーと……」

 リサは今日、学校であったことを話した。
 校長から事件のことについて口止めされたことも。

 善場:「警察の捜査が手詰まりになって、BOWリサ・トレヴァーに殺されたことも分かってきた。学園にそんな化け物が出入りしたなんて、評判が更に落ちるから、隠しておきたいのね」
 リサ:「私もリサ・トレヴァーだけど……」
 善場:「あなたは人間として、正体を隠しているからいいの。正体が露見しないようにね」
 リサ:「はい」

 そこでリサは善場に1つの疑問を投げた。

 リサ:「あの、1つ質問いい?」
 善場:「なに?」
 リサ:「私のこの姿、第0形態って言うみたいだけど、どうして『第0形態』って言うの?」

 リサがこの質問を善場にしたのは、『第0形態』だの『第1形態』だのという呼称は、確か善場が先に使ってきたのを思い出したからだ。

 善場:「それはね……」
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“愛原リサの日常” 「学校臨時休校の最中、リサだけ登校の刑」

2020-10-25 20:52:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月15日09:00.天候:雨 東京都墨田区某所 東京中央学園墨田中学校・西校舎1F職員室→校長室]

 西校舎3階の女子トイレの壁から、15年前に行方不明になった女子生徒の白骨死体が見つかったこと並びに同じトイレ内でこの学校の教師の惨殺死体が見つかったことで、学校は臨時休校となっている。
 まだ警察の捜査が終わっておらず、また、生徒達の動揺が落ち着くまで当分の間という形だ。
 コロナ禍の長期休校に加え、これは恐らく、冬休みが無くなるレベルなのではなかろうかと思う。
 ま、さすがに年末年始は休みだろうが……。
 そんな学校だが、リサだけが登校した。
 リサは下級生の女子を例のトイレに連れ込み、脅迫と暴行をした廉で停学処分を食らっている。
 義務教育の中学校では、その教育を受ける義務を妨害するとして、「停学」は無いことになっている。
 だが私立の中学校では、停学処分に当たる「謹慎」とか「特別教育」の処分を設けている所もある。
 この学校法人もそうだというわけだ。
 処分内容は学校によって様々。
 本当に登校そのものを禁止する所もあるし、開き教室などに登校させて課題をやらせる所もあるという。
 東京中央学園では「謹慎」とし、その期間中はレポートを提出させることになっている。
 その為、今回にあっては学校は休校なのに、謹慎処分のリサだけがレポート提出の為に登校しているというおかしな事になっている。

 担任教師:「……そう。昨日は保護者の方の仕事の手伝いをしたのね。保護者の方って、探偵さんでしょう?危ない事に首を突っ込んだらダメよ」
 リサ:「分かっています」

 むしろリサの方が、人間の首を危ない事に突っ込ませる側なのだが。

 リサ:「家が自営業の人は、謹慎中に家の手伝いをすることもあると聞きました」
 担任:「まあ、そうなんだけど、愛原さんの所は、お店を経営なさっているというわけではないし……」
 リサ:「別に報酬をもらっているわけではないので、ボランティアですよ」
 担任:「まあ、分かったわ」

 リサの処分が不自然に軽い理由を担任は知っているのか、これ以上、面倒な事はしたくないようだ。

 担任:「もう帰っていいわよ。また明日もレポートよろしく」
 リサ:「はい」

 多くはネタが無いので反省文になるのがオチだ。
 因みに昔、20世紀以前は、もっと厳しい罰があったらしい。
 千葉県や愛知県で有名な管理教育が横行していた頃だ。
 レポートや反省文を書かせるだけでは飽き足らず、何度も書き直しを命じたり、校庭の草むしりを命じたり、毎朝校門に立たせて登校する他の生徒達に大声で挨拶させたりと、まるでJR西日本の日勤教育のような見せしめ処分が行われていたという。
 全国的な管理教育が廃れて行ったことで、この学園の処分内容も緩やかなものになったと言われているが、その陰には流血の惨を見た事案が発生していたのである。

 リサ:「失礼します」

 その内容をリサは知らない。
 だが、誰かが血を流してくれたおかげで、この学園の管理教育は早めに終了したとも言われている。
 どうも、学園のイメージに関わるような事件だったらしく、今の制服がブレザーになったのも、イメージ一新の一環だということだ。
 白骨死体の女子生徒がブレザーを着ていたので(デザインは今と若干違うらしい)、その血の事件はもっと昔の話ということになる。
 昔の制服はオーソドックスな、男子は詰襟、女子はセーラー服だった。
 リサはその話を思い出しながら……。

 リサ:(この学校の制服がセーラー服だったら、私は絶対に入らなかった。制服を一新させてくれた先輩には、感謝しないと……)

 生徒側にとっては英雄的な存在だが、学校側には恥部のようで、慰霊碑すら建っていない。
 リサが挨拶をして職員室を出ようとすると、担任の机の上の電話が鳴った。

 担任:「はい。……校長!?……は、はい。何でしょうか?……えっ?愛原さんを?……わ、分かりました。すぐお連れします゜」
 リサ:「……?」

 担任は電話を切った。

 担任:「校長先生がお呼びだわ。すぐ校長室に行くわよ」
 リサ:「校長先生が!?」

 想定外の呼び出しに、リサも目を丸くした。
 思わず、両目を赤く光らせてしまうところだった。
 今のリサは第0形態、つまり完全に人間に化けている状態である。
 さすがにここで正体がバレるわけにいかない。

 リサ:(あれ?そういえば、どうしてこの状態を『第0形態』って言うんだっけ?)

 リサ・トレヴァー日本版完全体の『0番』と言い、ここ最近は0という数字をやたら聞く。

 担任:「何してるの?早く来なさい」
 リサ:「は、はい」

 リサは担任に付いて、職員室を出た。
 校長室はすぐ隣にある。
 職員室と繋がっているのだが、何かルールでもあるのか、担任はその直接繋がっているドアから行こうとはせず、一旦廊下に出て、廊下側のドアに向かった。
 校長室の入口ということもあってか、そのドアだけは木目調の重厚なドアになっている。

 担任:「校長先生が直々にお話があるんだからね?失礼の無いようにね?」
 リサ:「は、はい」

 担任はドアをノックした。

 担任:「失礼します」
 リサ:「失礼します」

 校長室、それも私立学校の校長室とあっては、その造りは豪勢なものになっている。
 中学校の校長室でこれなのだから、高等部の校長室や理事長室はもっと豪華なものだろうとリサは思った。

 校長:「お呼び立てして、申し訳ないね」

 校長は50代半ばの男性で、黒い髪をオールバックにしている。
 神妙な顔で、リサ達を迎えた。
 やはり大甘な処分を取り消し、もっと重い処分を下すつもりなのだろうか。
 リサは重厚な机の前に立つと、さすがに直立不動になった。

 校長:「先生は退室して結構」
 担任:「は、はい。失礼します」

 担任は踵を返して校長室から出て行った。
 校長は黒いダブルのスーツを着ている。
 そんなにでっぷりした体型ではないのだが、着ぶくれしやすいのか、そういったスーツを着るとガッチリした体型に見えてしまう。
 校長はその上着を脱いだ。
 白いワイシャツに黒いネクタイだけの姿になると、意外とスマートな体型であることが分かる。
 着ぶくれしやすいというのは、そういったことからだ。

 校長:「3年3組の愛原リサさん、だね?」
 リサ:「は、はい。3年3組の愛原リサです」

 リサはオウム返しに答えた。

 校長:「西校舎3Fの女子トイレであった事件は知ってるね?壁の中から15年前に行方不明になったここの女子生徒が発見され、その近くで三上先生が亡くなっていたという事件だ」
 リサ:「はい、知っています」

 正にリサが当事者だからだ。
 そのことは……校長の耳にも入っているのだろう。
 それでリサを呼び立てたのだ。
 リサはそう思った。
 一体、何を聞かれるのだろう?
 三上を殺したのは『9番』であるが、同じBOWリサ・トレヴァーとして責任を取れとでも言うのだろうか。

 校長:「……キミを入れて2名の生徒が、その場にいたね?」
 リサ:「……いました」
 校長:「……他の2人には、私から改めて言っておく。今この場で、私からキミに言いたいことは1つだ。キミ達はあのトイレにはいなかった。キミ達は下校時刻に合わせて下校したのだ。いいね?」

 リサは目を丸くした。

 リサ:「どうしてそんなことを!?」
 校長:「理由は聞くな。これは校長として生徒であるキミへの命令だ。聞けぬというのなら、キミはイジメの加害者として1番重い処分を受けてもらうことになる」

 それは即ち、退学処分を意味する。
 義務教育で退学処分というのも変な話だが、要は強制的に転校させられるということである。
 リサとしてはただ単に学校に通いたかっただけだ。
 別にそれなら、東京中央学園でなくても良いのである。
 こんなバカげた命令に従うくらいなら、いっそのこと転校でもいいかと思った。
 が……。

 リサ:「分かりました。そういうことにしておきます」

 リサがそう答えると、ようやく校長はホッとした顔になった。

 校長:「そうか。すまんね。分かってくれて、ありがとう」
 リサ:「いえ。私が転校すると、誰かが舌を噛み切って死ぬことになるので。私もそれは嫌なので」
 校長:「な、なに!?キミは他にも何かやってるのかね!?」
 リサ:「さあ、どうでしょう」
 校長:「頼むから、卒業までおとなしくしててくれ」
 リサ:「頑張ります。失礼します」

 リサは出て行く時には少し笑いを堪え気味になっていた。

 リサ:(さすがに私のせいで、サイトーが舌噛み切って死ぬというのはちょっと……ね)
コメント (1)
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