[10月10日15:30.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
愛原:「『0番』って何なんですか?」
善場:「分かりませんが、恐らく番号的に、試作タイプとか、そういう意味なのかもしれません」
善場主任が考えながら答えた。
善場:「或いは、もっと別の意味なのかもしれません。リサ・トレヴァー以外のBOWがいて、それのことかもしれませんし。もちろん、それが何なのかは現時点では何とも言えませんが……」
リサ:「それより善場さん、『退魔士』って知ってる?」
善場:「文字通り、魔を退ける力を持つ人のことね。それがどうしたの?」
リサ:「カトーがそう言ってたの。栗原蓮華さんのこと」
善場:「カトーというのは、あなたが屋上で戦った男のBOWのことね。今のところ分からないけど、調べておくわ」
愛原:「リサが襲われる心配は無いんでしょうか?」
善場:「彼女のことについては、もちろんこちらから話しておきます。今は入院中ですので、退院してからということになるでしょうね」
愛原:「それにしても、霧生市のバイオハザードで片足を失うなんてなぁ……」
善場:「恐らく彼女も、Tウィルスに対しての抗体を持っているのでしょうね。しかし、他の感染症の恐れがあったので、切断せざるを得なかったのでしょう。この辺も話を聞く必要がありそうです」
私達みたいに五体満足で、ケガらしいケガもしないで町を脱出できたのは奇跡に近かったわけか。
善場:「それと……」
善場主任はリサを見た。
善場:「あなた、本当に人間を『食べて』いないのよね?」
リサ:「食べてません」
善場:「本当に?」
リサ:「あの栗原さんにも聞かれましたけど、私は食べてません」
愛原:「急にどうしたんですか?」
善場:「『退魔士』は人間を捕食した者の所に現れると言います。実際、それまで倒されたリサ・トレヴァーはそうでした。『10番』についても解剖して調べているところですが、恐らく何人かは食べているでしょう」
リサ:「うん。確かにカトーから、腐臭がした。人間を食べた者は、そういう変な臭いがするものだから」
人間だって、肉を多く食べる者は体臭が強くなるというからな。
善場:「あなたからも、少しそういう臭いがしますよ?」
リサ:「……!」
リサはピクッと反応した。
高橋:「おい、マジで食ってたのかよ?」
高橋はリサのコメカミにマグナム44を突き付けた。
高橋:「言わなきゃ撃つぞ?」
リサ:「肉は食べてない。本当です。少し……血をもらったことはあるけど……。でも、襲って取ったんじゃなく、ちゃんと頼んでもらったものです!」
善場:「それを証明してくれる人はいる?」
リサ:「コジマ!……あの、私に血をくれたクラスメートです。ちゃんと私が頼んで、ちゃんとOKをもらってから、血をもらったことを証明してくれます」
善場:「分かったわ」
高橋:「姉ちゃん、いいのかよ?リサが嘘ついてるかもしれねーぜ?」
リサ:「ウソじゃない!」
善場:「多分、ウソは言ってないと思います。すぐに証人の名前を言いましたからね。もしもウソだったら、言う前にブランクがあるか、或いはしどろもどろに言うでしょう。それを堂々とすぐに言ったということは、その人物は実在していて、しかもちゃんとリサに証言してくれる自信があるということでしょう」
リサの顔が明るくなる。
善場:「でもね、リサちゃん」
リサ:「はい」
善場:「いくらちゃんと頼んでからもらったからといって、人間の血を啜るのは良くないわ」
リサ:「……ガマンできなくて……」
善場:「あなたはこれから人間に戻る為に頑張らないといけないの。私があなたを見込んでいるのは、あなたは確かに今はBOWという化け物だけど、心はまだ人間のままだと思ったからなの。だけど、血を欲しがって、その通りに行動したら、いつか人間の心も失われてしまう。そうなったら、あなたはもう2度と人間に戻れなくなるわ」
リサ:「……はい」
愛原:「かといって、ガマンを強いて、それが爆発して暴走してしまっても困るような気がします。少量の血でいいなら、それでもいいような気がします」
高橋:「先生、何言ってんスか!?」
愛原:「まあまあ。考えようによっては、だよ。リサが襲ったり、脅して血を取ったというのなら、量の多少に関わらずアウトだろうがね」
リサ:「実は……」
リサは小島さんというクラスメートのことを白状した。
潰瘍性大腸炎で下血のヒドい彼女の為に、大腸の中身を触手で吸い取ったこと。
自分でも理由は分からないが、何故かそれで小島の症状が改善されたことだ。
高橋:「気持ち悪ィ!こいつ、クソ食ったのかよ!?」
リサ:「私の触手は別。相手の養分しか吸い取らないの。直接口に入れるわけじゃない。コジマは喜んでて、御礼もくれたくらいです。ダメですか?」
善場:「うーん……」
善場は考え込んだ。
善場:「まあ、簡単に結論を出すならダメね。どうして症状が改善したのか不明だし、それはあくまで一時的なものであって、後で却って症状を悪化させるのかもしれないし。で、やっぱりBOWの体の一部を普通の人間の体内に入れること自体もアウトだと思う。今は人助けになってるのかもしれないけど、でもやっていることは化け物そのものだし、やっぱり今後はやめなさい」
リサ:「…………」
高橋:「おい、返事はどうしたよ?先生、こいつ反抗期ですよ?ボコして言う事聞かせた方がいいんじゃないスか?」
愛原:「私は……人助けになっている時点でOKだと思います」
高橋:「先生!?」
善場:「どういうことでしょうか?」
愛原:「何度も言う通り、今のリサはBOWです。人の生き血に涎を垂らし、凄惨な死体を見て、それを美味そうに舌なめずりをする化け物です。禁止させるのは簡単ですが、しかしその代わりを与えないと。犬にだって人に噛み付くことを禁止させる代わりに、噛んでも良い玩具を与えたりするでしょう?」
善場:「人の生き血の代わりを与えろと?」
愛原:「でも、そんなのムリでしょう?まさか、赤十字社から輸血パックをリサの為だけに回してもらうこともムリでしょうし。だとしたら、逆にリサが血を吸うことで喜んでくれる人の血を吸わせればいいんですよ。それでリサの気が済んで、暴走が抑えられるというのであれば」
リサは私の言葉に何度も首を縦に振った。
自分の味方になってくれる人がいて嬉しそうだ。
善場:「うーん……」
リサ:「私、絶対に人を襲いません。私がBOWの間に助けられる人がいるなら、そうしたいです」
善場:「……私は聞かなかったことにします」
愛原:「善場主任!?」
善場:「よくよく考えれば、ここのリサのことについては、愛原所長に一任していますので、一定の責任は愛原所長ということになりますので」
高橋:「出た!お役人根性の責任逃れ!」
愛原:「高橋、やめなさい」
これは一種の黙認であろう。
リサが暴走しても、今の『捕食』行動が後で問題になっても、善場主任の関知するところであれば、彼女に責任が及ぶ。
しかし、関知していないことであるとするならば、責任は全て保護者たる私の責任ということになる。
それは上等だ。
リサの行動に理解を示したのは私だけなんだから。
愛原:「リサ。これからは誰彼構わず『捕食』するのはやめなさい。いくら理由があるとはいえ、本当はダメなことなんだからね」
リサ:「分かりました」
愛原:「特に、あの『退魔士』のコには見つからないように」
リサ:「はい」
リサが暴走しないようにする為に、ある程度の『捕食』は認める。
犬の噛み付き行為を防ぐ為、そのように躾をするのは大事だが、しかし犬のストレスにならないよう、代わりにいくら噛んでも良い物を与える。
少し前、テレビで観た動物番組のことを思い出せて良かったな。
愛原:「『0番』って何なんですか?」
善場:「分かりませんが、恐らく番号的に、試作タイプとか、そういう意味なのかもしれません」
善場主任が考えながら答えた。
善場:「或いは、もっと別の意味なのかもしれません。リサ・トレヴァー以外のBOWがいて、それのことかもしれませんし。もちろん、それが何なのかは現時点では何とも言えませんが……」
リサ:「それより善場さん、『退魔士』って知ってる?」
善場:「文字通り、魔を退ける力を持つ人のことね。それがどうしたの?」
リサ:「カトーがそう言ってたの。栗原蓮華さんのこと」
善場:「カトーというのは、あなたが屋上で戦った男のBOWのことね。今のところ分からないけど、調べておくわ」
愛原:「リサが襲われる心配は無いんでしょうか?」
善場:「彼女のことについては、もちろんこちらから話しておきます。今は入院中ですので、退院してからということになるでしょうね」
愛原:「それにしても、霧生市のバイオハザードで片足を失うなんてなぁ……」
善場:「恐らく彼女も、Tウィルスに対しての抗体を持っているのでしょうね。しかし、他の感染症の恐れがあったので、切断せざるを得なかったのでしょう。この辺も話を聞く必要がありそうです」
私達みたいに五体満足で、ケガらしいケガもしないで町を脱出できたのは奇跡に近かったわけか。
善場:「それと……」
善場主任はリサを見た。
善場:「あなた、本当に人間を『食べて』いないのよね?」
リサ:「食べてません」
善場:「本当に?」
リサ:「あの栗原さんにも聞かれましたけど、私は食べてません」
愛原:「急にどうしたんですか?」
善場:「『退魔士』は人間を捕食した者の所に現れると言います。実際、それまで倒されたリサ・トレヴァーはそうでした。『10番』についても解剖して調べているところですが、恐らく何人かは食べているでしょう」
リサ:「うん。確かにカトーから、腐臭がした。人間を食べた者は、そういう変な臭いがするものだから」
人間だって、肉を多く食べる者は体臭が強くなるというからな。
善場:「あなたからも、少しそういう臭いがしますよ?」
リサ:「……!」
リサはピクッと反応した。
高橋:「おい、マジで食ってたのかよ?」
高橋はリサのコメカミにマグナム44を突き付けた。
高橋:「言わなきゃ撃つぞ?」
リサ:「肉は食べてない。本当です。少し……血をもらったことはあるけど……。でも、襲って取ったんじゃなく、ちゃんと頼んでもらったものです!」
善場:「それを証明してくれる人はいる?」
リサ:「コジマ!……あの、私に血をくれたクラスメートです。ちゃんと私が頼んで、ちゃんとOKをもらってから、血をもらったことを証明してくれます」
善場:「分かったわ」
高橋:「姉ちゃん、いいのかよ?リサが嘘ついてるかもしれねーぜ?」
リサ:「ウソじゃない!」
善場:「多分、ウソは言ってないと思います。すぐに証人の名前を言いましたからね。もしもウソだったら、言う前にブランクがあるか、或いはしどろもどろに言うでしょう。それを堂々とすぐに言ったということは、その人物は実在していて、しかもちゃんとリサに証言してくれる自信があるということでしょう」
リサの顔が明るくなる。
善場:「でもね、リサちゃん」
リサ:「はい」
善場:「いくらちゃんと頼んでからもらったからといって、人間の血を啜るのは良くないわ」
リサ:「……ガマンできなくて……」
善場:「あなたはこれから人間に戻る為に頑張らないといけないの。私があなたを見込んでいるのは、あなたは確かに今はBOWという化け物だけど、心はまだ人間のままだと思ったからなの。だけど、血を欲しがって、その通りに行動したら、いつか人間の心も失われてしまう。そうなったら、あなたはもう2度と人間に戻れなくなるわ」
リサ:「……はい」
愛原:「かといって、ガマンを強いて、それが爆発して暴走してしまっても困るような気がします。少量の血でいいなら、それでもいいような気がします」
高橋:「先生、何言ってんスか!?」
愛原:「まあまあ。考えようによっては、だよ。リサが襲ったり、脅して血を取ったというのなら、量の多少に関わらずアウトだろうがね」
リサ:「実は……」
リサは小島さんというクラスメートのことを白状した。
潰瘍性大腸炎で下血のヒドい彼女の為に、大腸の中身を触手で吸い取ったこと。
自分でも理由は分からないが、何故かそれで小島の症状が改善されたことだ。
高橋:「気持ち悪ィ!こいつ、クソ食ったのかよ!?」
リサ:「私の触手は別。相手の養分しか吸い取らないの。直接口に入れるわけじゃない。コジマは喜んでて、御礼もくれたくらいです。ダメですか?」
善場:「うーん……」
善場は考え込んだ。
善場:「まあ、簡単に結論を出すならダメね。どうして症状が改善したのか不明だし、それはあくまで一時的なものであって、後で却って症状を悪化させるのかもしれないし。で、やっぱりBOWの体の一部を普通の人間の体内に入れること自体もアウトだと思う。今は人助けになってるのかもしれないけど、でもやっていることは化け物そのものだし、やっぱり今後はやめなさい」
リサ:「…………」
高橋:「おい、返事はどうしたよ?先生、こいつ反抗期ですよ?ボコして言う事聞かせた方がいいんじゃないスか?」
愛原:「私は……人助けになっている時点でOKだと思います」
高橋:「先生!?」
善場:「どういうことでしょうか?」
愛原:「何度も言う通り、今のリサはBOWです。人の生き血に涎を垂らし、凄惨な死体を見て、それを美味そうに舌なめずりをする化け物です。禁止させるのは簡単ですが、しかしその代わりを与えないと。犬にだって人に噛み付くことを禁止させる代わりに、噛んでも良い玩具を与えたりするでしょう?」
善場:「人の生き血の代わりを与えろと?」
愛原:「でも、そんなのムリでしょう?まさか、赤十字社から輸血パックをリサの為だけに回してもらうこともムリでしょうし。だとしたら、逆にリサが血を吸うことで喜んでくれる人の血を吸わせればいいんですよ。それでリサの気が済んで、暴走が抑えられるというのであれば」
リサは私の言葉に何度も首を縦に振った。
自分の味方になってくれる人がいて嬉しそうだ。
善場:「うーん……」
リサ:「私、絶対に人を襲いません。私がBOWの間に助けられる人がいるなら、そうしたいです」
善場:「……私は聞かなかったことにします」
愛原:「善場主任!?」
善場:「よくよく考えれば、ここのリサのことについては、愛原所長に一任していますので、一定の責任は愛原所長ということになりますので」
高橋:「出た!お役人根性の責任逃れ!」
愛原:「高橋、やめなさい」
これは一種の黙認であろう。
リサが暴走しても、今の『捕食』行動が後で問題になっても、善場主任の関知するところであれば、彼女に責任が及ぶ。
しかし、関知していないことであるとするならば、責任は全て保護者たる私の責任ということになる。
それは上等だ。
リサの行動に理解を示したのは私だけなんだから。
愛原:「リサ。これからは誰彼構わず『捕食』するのはやめなさい。いくら理由があるとはいえ、本当はダメなことなんだからね」
リサ:「分かりました」
愛原:「特に、あの『退魔士』のコには見つからないように」
リサ:「はい」
リサが暴走しないようにする為に、ある程度の『捕食』は認める。
犬の噛み付き行為を防ぐ為、そのように躾をするのは大事だが、しかし犬のストレスにならないよう、代わりにいくら噛んでも良い物を与える。
少し前、テレビで観た動物番組のことを思い出せて良かったな。