報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「はやぶさ307号」

2022-05-22 15:43:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月3日11:07.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅・新幹線ホーム→東北新幹線307B列車17号車内]

〔♪♪♪♪。17番線に、11時9分発、“はやぶさ”307号、仙台行きが7両編成で参ります。……〕

 新幹線下りホームに行くと、GWたけなわということもあり、多くの行楽客が行き交っていた。
 何しろ、久しぶりの何のコロナ規制も無い(マスク着用などの自主規制はあるが)GWなので、必然的にそうなるであろう。
 マリアのような外国人旅行客もいないわけではないが、さすがにまだ少ない(そもそもマリアは稲生家に連れられているだけで、自身は永住者である)。

〔「17番線、ご注意ください。11時9分発、“はやぶさ”307号、仙台行きの到着です。黄色い線まで、お下がりください。次は終点、仙台に止まります。停車駅にご注意ください。また、全車両指定席で自由席はございませんので、ご注意ください」〕

 

 東京方面から赤い塗装が目立つE6系車両がやってきた。
 編成はそれだけ。
 “はやぶさ”なのに、肝心の“はやぶさ”車両E5系は連結されていない。
 これでは、“スーパーこまち”である。

 稲生勇太:「父さん、鉄ヲタの僕が驚くって……」
 稲生宗一郎:「どうだ?こういう列車も珍しいだろう?」
 勇太:「た、確かにそうだけど、よく見つけたね?こんなマニアック運用……」

 附属編成たるE6系“こまち”車両が単独で運用されるのは、1往復のみ。
 それも、地震復旧中の暫定ダイヤだからではない。
 今年の3月にダイヤ改正した際に現れた運用だ。
 通常ダイヤでは、“こまち”6号が秋田~東京間を単独で運行する。
 その折り返しで仙台の車両基地に回送される際の間合い運用が、これだ。
 列車番号こそ暫定ダイヤの為に異なっているが、運用は同じである。

〔「大宮ぁ、大宮です。17番線の電車は、“はやぶさ”307号、仙台行きです。次は、終点の仙台に止まります。停車駅にご注意ください」〕

 こういう列車では、下車客はまずいない。
 稲生家の面々は先頭車に乗り込んだ。
 グリーン車ではないのは、あくまでも今はプライベートの家族旅行なので、宗一郎も倹約したか、或いは息子が鉄ヲタなので先頭車を狙ったのかのいずれかだろう。
 少なくとも、鉄道趣味を持つのはここでは勇太だけだ。

 

 シートピッチこそ普通車であるが、シート形状はまるでグリーン車のよう。
 3人席が無いのは、E6系は在来線特急の規格で製造されているからである。
 指定されている席に、前後して座った。
 進行方向左側だが、別に座席は向かい合わせにはしない。
 まだコロナ禍による自粛呼びかけがある為。
 勇太はもちろんマリアと一緒に座った。
 マリアが荷棚に人形の入ったバッグを置くと、そこから自主的に出てくる人形。
 ホームからは、発車ベルが聞こえてくる。

〔17番線から、“はやぶさ”307号、仙台行きが発車致します。次は、終点仙台に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 車内は、ほぼ満席状態。
 空いている席は本当に売れなかった席か、あるいはキャンセルされた席か、はたまた調整席か……。
 発車時刻通りに、列車はインバータの音を響かせて発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も東北新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“はやぶさ”号、仙台行きです。全車両指定席で、自由席はございません。次は終点、仙台に止まります〕

 マリア:「この列車、写真に撮ってルーシーに送ってあげると喜ぶかな?」
 勇太:「あー、そうだね。仙台に着いたら、外観の写真を撮って送ってあげよう」
 マリア:「さっき撮ってたのは?」
 勇太:「発車標と駅名看板と、この車両の行き先表示板?」
 マリア:「これも送ってあげなよ」
 勇太:「こういうの、喜ぶかなぁ……」
 マリア:「喜ぶだろう、きっと。地下鉄の写真は嫌がらせだと思うだろうが、新幹線はそれに関係する写真なら何でも喜ぶと思うよ」
 勇太:「そうか。じゃあ、そうしよう」

 ルーシーが地下鉄の写真を嫌がるのは、人間だった頃、地下鉄職員だった父親をテロで亡くし、自身もそれに巻き込まれて生死の境をさまよったからである。
 表向きにはそこで死亡したことになり、師匠に拾われて魔道士となっている。
 その為、心に傷は負ってはいるものの、テロの巻き添えが原因であり、マリアや他の魔女みたいな性犯罪の被害歴は無い。
 尚、逆に暗闇が大好きなリリアンヌは地下鉄の移動を好む(が、別に鉄ヲタってわけではないので、地下鉄の写真を送っても心霊写真と疑うだけである)。

 勇太:「僕は乗り鉄だから、車両だけじゃなく、駅の写真とかもよく撮るんだよね」

 撮り鉄が車両の写真しか撮らないのとは、少し違う。
 車両も確かに被写体の対象だが、鉄旅を楽しむ乗り鉄はそれに付随する写真も撮りたがる。
 但し、移動の邪魔になるので、撮り鉄が持っているような一眼レフなどの大型カメラは基本持ち歩かない。
 せいぜいがスマホかデジカメ。

 マリア:「それでいいと思う。他の魔女が日本に興味を持つのは、勇太の写真がきっかけであることも多い」
 勇太:「そうなの!?」
 マリア:「勇太、Twitterやインスタグラムに写真をUPするだろう?」
 勇太:「うん、するね」
 マリア:「あれ、他の魔女も観てるよ」
 勇太:「そうなの!?」
 マリア:「前に、大宮のスイーツバイキングに行った時の写真があったでしょ?」
 勇太:「うん。確かにあれもUPした」
 マリア:「パスポート偽造してまで、日本に行こうとした輩がいたらしい」
 勇太:「あの程度のスイーツ、他の国にもあるでしょ!?」
 マリア:「で、たまに私に嫉妬のコメントが来る」
 勇太:「えっ?」
 マリア:「『マリアンナ、てめぇ男嫌いの魔女だったくせにフザケんな!』『ビッチに転向した魔女さんはいいですねwww』とか色々……」
 勇太:「そんなコメントあったの!?」
 マリア:「即座に削除して、後で呪術を……」
 勇太:「確かマリア、呪術は禁止って先生に言われてなかった?」
 マリア:「聞こえませーん」

 もちろん、殆どの魔道士達は勇太とマリアの仲を好意的に見ている。
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“大魔道師の弟子” 「稲生家の家族旅行 ~Welcome to the family,daughter.~」

2022-05-19 20:20:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月3日08:00.天候:晴 埼玉県川口市 稲生家]

 勇太:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 少し遅めの朝勤行を終えた勇太。
 数珠と経本をしまう。
 どうでも良い事だが、御本尊下付の条件が、『毎朝晩必ず御給仕のできる事』とあるが、独り暮らしで24時間勤務のある作者はそれだけで下付対象外となるが?

 勇太:「さーてと、朝御飯食べるかぁ……」

 勇太は自分の部屋を出た。
 試しにマリアが寝泊まりしている部屋を覗いてみたが、開け放たれたドアの向こうにマリアはいなかった。

〔下に参ります〕
〔ドアが閉まります〕

 勇太はそれを確認すると、1階で止まっているエレベーターを呼び寄せ、それに乗って1階に向かった。

〔ドアが開きます〕

 ピンポーン♪

〔1階です〕

 エレベーターを降りて、ダイニングに向かった。

 佳子:「どうぞ、おかまいなく。私も料理は好きですから」

 ダイニングに行くと、人間形態に変化したミク人形とハク人形が食事の用意をしようとしていた。

 マリア:「申し訳ありません。出過ぎたマネでした」

 マリアはメイド人形達に、人形形態に戻るよう命じた。
 見る見るうちに、元のフランス人形に戻って行く人形達。

 佳子:「マリアちゃんはお客さんなんだから、ゆっくりしてて」
 マリア:「ありがとうございます」
 宗一郎:「しかし、凄い魔法だねぇ。これなら、空も飛べそうだけどね」
 マリア:「ホウキには乗れませんが、瞬間移動魔法(テレポーテーション。魔法名:ル・ゥラ)なら少し使えます」
 宗一郎:「それは凄い。どこでもドア要らずだね」
 勇太:「確かに……」
 佳子:「それより旅行、今日出発だけど、ちゃんと準備できた?10時半くらいの電車に乗るから、忘れないでね」
 勇太:「ああ、分かった」

[同日10:32.天候:晴 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線820B電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、10時32分発、各駅停車、大宮行きです〕
〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 自宅を出て蕨駅に移動する。
 ゴールデンウィーク期間中ということもあってか、客層は勇太達のような家族連れが多かった。

 宗一郎:「通勤電車に乗るのは久しぶりだ」
 勇太:「最近は会社の車ばっかりだもんね」
 宗一郎:「まあな」

 電車がやってくる。
 混み具合は、南浦和止まりよりは多いといった感じだ。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕

 軽快でアップテンポな発車メロディが流れる。
 4人は空いている座席に、適当に座った。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 車両のドアとホームドアが閉まる。
 蕨駅のホームドアはドアというよりは、横開きの柵といった感じ。
 酔っ払いや視覚障碍者が誤って転落するのは防止できるだろうが、自殺志願者が飛び込む際は簡単によじ登れそうだ。
 電車は駆け込み乗車が無かったのか、再開閉することなく、スムーズに発車した。
 駆け込み乗車はどちらかというと、東京方面で多い。

〔次は、南浦和です〕
〔The next station is Minami-Urawa.JK42.〕

 ここから南浦和駅まではさいたま車両センター(旧称、浦和電車区)がある関係で、駅間距離が長い。
 京浜東北線も、最高速度の時速90キロで駆け抜ける区間だ。
 隣を走る宇都宮線や高崎線が時速100キロで走行する所だと思うと、けして速い速度ではない。
 尚、京浜東北線のラインカラーはスカイブルーということもあり、シンボルカラーが緑のベルフェゴールと紫のアスモデウスは見かけなかった。

 勇太:「! 先生からメールだ」

 勇太のスマホに、イリーナからメール着信があった。
 それは写真付きで、『今はモスクワ市内を散策中だから心配しないように。勇太君とマリアも、日本からは出ないように』という文言であった。
 因みに写真は、モスクワ市内を走る通勤電車の車内で撮られたものだった。
 エレクトリーチカと呼ばれる、日本ではJRのE電や関西地区のゲタ電に相当する電車である。
 車体の塗装は色々あるようだが、奇しくも写真の電車は、勇太達の乗っている京浜東北線と同じ、青を基調としたものだった。

 勇太:「どうやら、本当に今、モスクワ市内にいらっしゃるらしい」
 マリア:「一体、何をしてるんだ、この師匠は?」

 あくまでも散策と書かれているだけで、具体的に何をしているか、何をするのかまでは書かれていなかった。
 ただ、確信的な内容とすれば、勇太達が日本国外に出ない事のようである。

 勇太:「“魔の者”が?」
 マリア:「かもしれないな……」

[同日10:48.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔まもなく終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注下さい。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔The next station is Omiya,terminal.JK47.The doors on the left side will open.Please change here for the Shinkansen,the Takasaki line,the Utsunomiya line,the Saikyo line,the Kawagoe line,the Tobu Urban park line and the New Shuttle.Please watch your step...〕

 電車はダイヤ通りに大宮駅に接近した。
 ポイント通過の為、電車が大きく揺れる。

 ミク人形:「!」

 荷棚の上に載っていたミク人形がその揺れで、バランスを崩し、荷棚から転落した。
 ハク人形が咄嗟に手を掴もうとしたが、スルリと抜けてしまう。

 勇太:「おっと!」

 だが、それを真下に座っていた勇太が受け止めた。

 マリア:「おー、ナイスキャッチ!」

 マリアは大喜びで手を叩いた。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮です。1番線に到着致します。お出口は、左側です。お降りの際、お忘れ物、落とし物にご注意ください。また、足元にご注意ください。今日も京浜東北線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 電車がホームに入線する。
 既に2番線には、先発の電車が停車していた。
 その隣のホームに滑り込む。
 大宮駅にはまだホームドアが無い為、電車がホームに停車すると、すぐにドアが開いた。

 勇太:「あそこに見える新幹線ホームまで行くのが、少し遠いんだよ」
 マリア:「なるほど。魔界でも、塔は見えるのに、そこまで行くのが大変だというステージと同じだな」
 勇太:「あー、そういうのあるねぇ……」

 まずは多くの乗客でごった返す階段を昇ってコンコースに上がり、そこから中距離電車のホームの上を突っ切って、新幹線ホームまで行かないといけない。
 それでもただでさえ旅客が多いのに、そこに中距離電車が到着したりすると、もうカオスである。
 必然的に地下ホームにありながら、新幹線ホームの真下にある埼京線・川越線からの乗り換えが1番便利という皮肉だ。

 宗一郎:「人が多いから、新幹線のキップは改札口の前で渡すよ」

 キップ購入の条件のせいなのか、紙の乗車券は大宮~仙台のみ。
 蕨~大宮間にあっては、自分のSuicaなどで乗っている。

 マリア:「行き先は?」
 勇太:「仙台だよ」
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“大魔道師の弟子” 「川口での一夜」

2022-05-19 16:11:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月2日18:00.天候:曇 埼玉県川口市前川 イオンモール川口前川1F・バケット]

 18時になり、待ち合わせしていたレストランに稲生宗一郎がやってきた。

 宗一郎:「いやあ、皆揃ってたね」
 勇太:「父さん、マリアさんも一緒だよ」
 マリア:「こんばんは。今日からよろしくお願いします」
 宗一郎:「ようこそ、はるばる長野から……。さ、それより早いとこ中に入ろう」

 店内に入ると、テーブル席に案内された。

 宗一郎:「何でも好きな物頼むといいよ」
 勇太:「ありがとう」
 佳子:「お昼は何を食べたの?」
 勇太:「トンカツ定食」
 宗一郎:「昼から重たいの食べたねぇ。まあいい」
 勇太:「やっぱりこういう所に来たら、パン食べ放題だな」
 マリア:「Hum Hum...」

 勇太はそれでもビーフステーキを注文したが、マリアはチキンステーキを注文した。
 恐らく先日はビーフ100%のハンバーグを食べ、今日の昼はポークを食べたので、次はチキンといったところか。

 勇太:「ここでは、ドリンクやパンは全部セルフサービスです」
 マリア:「ファミリーレストランみたいだな」

 実際、バケットはサンマルクレストランの人的サービスを省力化することで人件費を抑制し、また、メニューの内容も簡素化することで廉価版を維持しているのだろう。

 勇太:「アルコールは別ですけどね」
 マリア:「子供が勝手にアルコールを入れたんじや、さすがにヤバいか」

 因みにドリンクは、勇太はビールだが、それ以外の面々はワインを注文した。
 見た目からして、マリアは店員から未成年を疑われたが、パスポートを見せることでクリアした。

 宗一郎:「勇太の為とはいえ、そんな女子高生みたいな恰好、ムリしなくていいんだよ?」
 マリア:「それもあるんですけど、これの方が着替えとか持って来なくていいので」
 佳子:「それはまあ、確かに……」
 宗一郎:「イリーナ先生は、ロシアに帰ってしまったのかい?心配だねぇ……」
 マリア:「ええ。ようやく安否が取れまして、今はモスクワにいるようです」
 宗一郎:「モスクワ!そんな所にいて大丈夫なのかね?」
 勇太:「父さん、日本人が日本にいていいのと同様、ロシア人がロシアにいて何が悪いの?」
 宗一郎:「そうか。それもそうだな」

 宗一郎はクイッとワインを飲んだ。

 宗一郎:「そうそう。昼間は会えなくて悪かったな」
 勇太:「忙しかったの?」
 宗一郎:「私の後釜に就いた新しい関東エリア統括本部長なんだが、初めての上級幹部職ということもあってか、まだちょっとマネジメント能力がおぼつかない所がまま見受けられてね。まだ私が面倒看ないといけないようなんだ」
 勇太:「そうだったの」
 宗一郎:「私は地方支社長から上がったクチで、上級幹部の何たるかはそこで勉強したんだが、後輩は本社の部長職から上がったクチなもので、あまり外の世界を知らない。その辺りかな」
 マリア:「ダンテ一門の魔道士の中には、CEOの秘書を務めている者もいます」
 宗一郎:「そうなのか。経営者はいるのかな?」
 マリア:「少なくとも、私の周りにはいないです。魔道士というのは、影で活躍するのが好きなものですから」
 宗一郎:「なるほど。イリーナ先生を見ていると、そんな気がするね。まさか、プーチン大統領の秘書の仕事をしに行ったのではあるまいね?」

 アナスタシア組のアナスタシア・スロネフは経営者肌ではあるが、具体的に何かの企業を経営しているわけではない。
 ロシアン・マフィアの女ボスというのが実情だ。

 マリア:「それは無いと思います。ただ、側近に何かの入れ知恵をして、そこから多額の報酬を受け取るということは考えられますが」
 宗一郎:「フム……興味深い」

[同日20:00.天候:曇 同モール→タクシー車内]

 食事が終わるとすぐに帰るのではなく、イオンのスーパーでちょっと買い物。
 購入した物がワインとか、酒関係だけのような気がしたのは勇太の気のせいだろうか。

 宗一郎:「勇太、帰りのタクシーを呼んどいてくれ」
 勇太:「はいはい」

 先ほどベルフェゴールに使わせた公衆電話。
 その横に、タクシー会社に無料で繋がるホットラインがあったが、勇太はそれを使用せず、自分のスマホのアプリで予約した。
 贔屓にしているタクシー会社があり、そこのチケットを使うだろうと踏んだからだ。
 ここのモールはタクシー乗り場はあるが、待機スペースが無い為、利用者はその都度、タクシーを呼ぶシステムになっている。

 勇太:「あのタクシーだよ」

 ここに来る時に降りたバス停の並びに、タクシー乗り場はある。
 黄色いワゴンタイプのタクシーが待っていた。

 勇太:「予約していた稲生です」
 運転手:「稲生様ですね。どうぞ」

 助手席後ろのスライドドアが開く。
 と、同時にステップも床下から出て来た。

 宗一郎:「私が前に乗るから、皆は後ろへ」
 勇太:「分かった」

 宗一郎がチケットで払うからだろう。

 宗一郎:「行き先は……」
 勇太:「僕がアプリに入れといた」

 運転席のカーナビには、既にここから稲生家までのルートが表示されている。

 勇太:「この行き先でお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーは4人を乗せると出発した。
 バス停に停車しているバスを避ける。
 タクシー配車アプリで予約できるタクシー会社の特徴として、助手席後ろにモニターがある。
 そこでは通常、CMなどが流れている。
 で、今はその配車アプリのCMが流れていた。

〔高橋:「先生、何やってるんスか?」
 愛原:「いや、この前、東北に出張に行っただろ?その時、タクシーに何回も乗って、領収証をもらったんだが……。どの領収証が、どこからどこまで乗ったヤツだか思い出せなくてねぇ……」
 高橋:「ええっ?そんなことあるんスか?!」
 愛原:「例えばさ、これはリサが暴走しかかった際にタクシーで特攻した時の領収証だよな?」
 高橋:「そうっスね」
 愛原:「いや、そういうのは覚えてるんだよ。だけど、この領収証……なぁ……」
 高橋:「この時は俺、一緒に乗ってないっスね。リサに聞けば分かるんじゃないスか?」
 愛原:「あいつ学校だで?帰ってくるまで待てってか?」
 高橋:「だって、しょうがないじゃないっスか」
 愛原:「オマエ、代わりに思い出しくれよ?」
 高橋:「うーん……。いや、ムリですって!」 どうする?Goする!〕

 勇太:「ん?この探偵さん、どこかで見たことあるような……?」
 マリア:「そうなのか?」
 勇太:「どこで会ったのかなぁ……?マリア、代わりに思い出してよ」
 マリア:「何でだよ!」

 埼京線を走行する幽霊電車で……。
 
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“大魔道師の弟子” 「イオンモール川口前川」

2022-05-17 20:17:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月2日16:30.天候:曇 埼玉県川口市前川 イオンモール川口前川2F・JTB]

 路線バスでイオンモールに向かった稲生親子とマリアは、そこの2階にあるJTBに向かった。
 カウンターで親子がスタッフと対面している間、マリアは店内にあるパンフレットを見ていた。

 マリア:(リゾートウェディングかぁ……)

 稲生勇太とのリゾート挙式に、胸がドキドキするマリアだったが……。

 ベルフェゴール:「主、申し訳ないが、あなたは日本国内避難命令がまだ解除されていないので、海外挙式は無理だと思われるが……」
 マリア:「くっ……!」

 隣に立つ契約悪魔が、そっと耳打ちしてくる。
 シルクハットに片眼鏡、タキシードにステッキといった、ベタな英国紳士の法則のコスプレをしているが、この姿は周囲の普通の人間には見えない。

 マリア:「ならば、せめてハネムーンを……」
 アスモデウス:「だから海外はダメだって言ってんじゃん」

 今度は勇太の契約悪魔(に今年度決定はしたものの、まだ肝心の勇太が正式昇格していない為に、まだ契約を結べていない宙ぶらりん)のアスモデウスも突っ込んで来た。

 アスモデウス:「てか、いつになったら契約してくれんの?」
 マリア:「私に言うな。師匠に言え。師匠の契約相手、レヴィアタンに連絡は取れないのか?……ん?」
 アスモデウス:「取れるよ」
 ベルフェゴール:「同じ“7つの大罪グループ”だからね」
 マリア:「そうだよ!師匠の悪魔に居場所聞けば良かったんじゃん!!」

 マリアが大声を出したものだから……。

 スタッフ:「あ、あの、お連れ様、大丈夫でしょうか?」
 勇太:「マリアさん!他の人には(悪魔の姿は)見えないんだから気を付けて!」
 マリア:「あっ……!」

 マリア、恥ずかしさのあまり、白い肌が見る見るうちに赤くなっていく。

 マリア:「S-Sorry...ゴメンナサイ……」
 勇太:「彼女、イギリスから来てまだ日が浅いので、日本の旅行会社のパンフレットの素晴らしさに感動しているんですよ」

 勇太は咄嗟に誤魔化した。

 スタッフ:「そ、そうでしたか。ありがとうございます。まもなく、宿泊券の方が御用意できますので、もう少々お待ちください」
 稲生佳子:「勇太。ここはいいから、あなたはマリアちゃんの所に行ってあげて」
 勇太:「う、うん」

 勇太は席を立つと、マリアの所に向かった。

 勇太:「どうしたの、マリア?」
 マリア:「師匠の居場所は、契約悪魔のレヴィアタンに聞けば良かったことに今さら気づいた」
 勇太:「そ、そうか。でも、僕やマリアさんが聞いて教えてくれるかな?」
 マリア:「そ、それもそうか……」
 ベルフェゴール:「それならボクが聞いてきてあげよう」
 勇太:「それは助かる!」
 マリア:「簡単に聴けるのか?」
 ベルフェゴール:「こう見えてもボクは、魔界ではメフィストも電話一本で呼び出せるんだよ?平気平気」
 勇太:「それは凄い!」
 マリア:(電話一本で呼び出される悪魔界のスーパースター、メフィストって一体……)
 ベルフェゴール:「ところが、悪魔は人間界ではケータイが持てないのだよ」
 勇太:「じゃあ、僕のを貸すよ」

 勇太は自分のスマホを取り出した。

 ベルフェゴール:「ダメだ。僕の指、爪が長くてスマホでは上手く押せない。それは悪魔全般に言えることだがね」
 マリア:「ちょっと待った。それじゃあ一部の悪魔が、獲物となる人間や敵対相手によくやる『呪いの電話』はどうやって掛けてるんだ?」
 ベルフェゴール:「あれは公衆電話から掛けてるんだよ」
 勇太:「はあ!?」
 マリア:「Huh!?」
 ベルフェゴール:「というわけで、このモールの公衆電話がどこか教えてくれたまえ。そこからレヴィアタンに問い合わせてあげよう」
 勇太:「た、確か1階のエントランスにあったはずだ。バスを降りて、このモールに入った所」
 マリア:「あそこか……」
 ベルフェゴール:「そこまで案内してくれれば、あとはボクが何とかしよう」
 勇太:「分かった」

 ちょうどそのタイミングで……。

 スタッフ:「ありがとうございました」
 佳子:「どうもお世話さま」

 どうやら、引換券を宿泊券に換えることができたようだ。

 佳子:「それじゃ、行きましょうか」
 勇太:「母さん、まだ夕食の時間じゃないよね?ちょっと行きたい所あるんだけど、いいかな?」
 佳子:「あら。それじゃ、18時に例のレストランで待ち合わせましょうか」
 勇太:「多分、そこまで時間掛からないと思うけど……」

 とにかく勇太とマリアは、佳子と別れて公衆電話に向かった。

 勇太:「あった!あそこ!」

 そして、バス停に一番近い出入口で公衆電話を見つけた。

 ベルフェゴール:「うむ!あとはボクに任せてくれ!」

 だが、ベルフェゴールが電話の受話器を取ると……。

 子供:「ママー、電話の受話器が勝手に浮いてるよ?」
 母親:「見ちゃダメよ」
 勇太:「や、ヤバイ!悪魔は他の人には見えないんだった!」
 マリア:「しょうがない。勇太が代わりに持って!」
 勇太:「は、はい!」
 ベルフェゴール:「あと、100円玉も入れてくれんかね?」
 勇太:「はいはい」
 ベルフェゴール:「ウム。あとはボクに任せなさい」

 カチカチカチと金属のボタンを押す音が聞こえるが、さすがにそこまでは怪しむ他の客はいなかったもようである。

 ベルフェゴール:「はーろー」
 勇太:「気軽なノリだな!」

 そしてしばらく、悪魔同士の通話は続いた。
 100円玉1枚で足りるのだろうかと思ったが、何故か追加投入の合図は鳴らなかった。

 ベルフェゴール:「ウム。場所は分かった」
 勇太:「ホントか!?」

 電話を切ると、先ほどの100円玉が戻って来た。
 結局は無料だったのだ。

 ベルフェゴール:「北緯と東経で言うからヨロシク」
 勇太:「はあ?!」
 マリア:「何故に?」

 それでも北緯と東経をメモする。
 それで勇太はグーグルマップで検索した。
 そこから導き出された場所は……。

 勇太:「キエフスキー駅?」
 マリア:「知らない。勇太、知ってる?」
 勇太:「名前からして、ウクライナのキーウに行く鉄道線の駅って感じだね」

 東京にはいくつかターミナル駅があるのと同様、モスクワ市内には9つのターミナル駅がある。
 キエフスキー駅は、そのうちの1つである。

 勇太:「ウクライナに行こうとしてるのかな?でも、今は戦争中で鉄道が全く動いていないっていうイメージだけど……」
 マリア:「とにかく、いずれにせよ、師匠がモスクワにいるのは間違いないってことだな」
 勇太:「そのようです」

 何をしているのかは分からないが、イリーナの安否が確認できただけで、この2人の弟子は満足だったようである。
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“大魔道師の弟子” 「稲生家へ」

2022-05-16 20:14:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月2日14:56.天候:晴 埼玉県蕨市 JR蕨駅→同県川口市 稲生家]

〔まもなく蕨、蕨。お出口は、右側です〕
〔The next station is Warabi.JK41.The doors on the right side will open.〕
〔「浦和、大宮方面ご利用のお客様は、お乗り換えです」〕

 隣の汽車線を轟音を立てて中距離電車が通過して行く中、電車が電車線ホームに滑り込む。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕

 稲生勇太とマリアは電車を降りた。

 勇太:「この蕨市にも、ウクライナからの避難者が住んでいるらしいよ」
 マリア:「そうなのか」
 勇太:「蕨駅で募金活動があったらしいね」
 マリア:「その中にエレーナもいたんじゃないだろうな?」
 勇太:「いや、ネットで見た限り、募金活動をしたのは日本人だけらしいけど……」
 マリア:「そうなのか。まあ、日本人が日本で何をしようが別に問題無い」

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 2人は階段を昇って改札口を出た。
 さいたま市よりも外国人を多く見るのは、蕨市と川口市は移民の割合が多いからだろう。
 だが、少なくとも作者は凡そ3年ほど住んでいて、英語を話す外国人を見たことがない(つまり、英語圏の外国人は殆どいない)。
 その為か、英語圏の、それも白人のマリアは目立つようである。

 マリア:「素顔を晒していては目立つか?」
 勇太:「多分」
 マリア:「分かった」

 マリアはローブのフードを被った。
 蕨駅東口から外に出て、更に東へ100メートルほど歩くと川口市である。
 そこから北に向かって歩くと住宅街があり、そこに新築された稲生家があった。
 門扉はもちろんのこと、玄関ドアもカードキーで開けるシステム。
 もっとも、魔道士の解錠魔法で開けることは可能である。

 勇太:「ただいまァ」
 マリア:「こんにちは。今日もお世話になります」

 マリアはフードを取ると、ローブの裾を両手で少し広げて、ちょこんと御辞儀した。
 御辞儀というより、片足を下げる感じ。

 佳子:「お帰り。マリアちゃん、いらっしゃい。どうぞ、上がって」
 マリア:「失礼します」

 マリアは家に上がって、ふと気づいた。

 マリア:「……?」

 気づいたといえば気づいたのだが、勇太は気づいていないのだろうか。

 マリア:(勇太のお母さん、少し白髪が増えたな。無理もない。この人達は、普通の人間だ。しかし、息子は……)
 アスモデウス:「ちょっと、ステッキは傘立てにでも入れておきなさいよ」
 ベルフェゴール:「しかし、ボクのウェポンだし……」
 アスモデウス:「ただの変装の小道具でしょ!」

 玄関で騒ぐ悪魔二柱。
 アスモデウスは、まるでポルノ女優のような風体をしていたが、彼女が勇太と契約を結ぶ悪魔だと正式に決定した為(まだ契約は結んでいない)、既に悪魔からその力の片鱗の影響は受けている。
 そのうちの1つが、加齢の停止。
 悪魔としては、契約者が使える間は長く使いたいと思っているので、その間の寿命は保証する。
 但し、使えなくなったと判断したら【お察しください】。
 特に魔道士との契約は、悪魔側にとっても大きなメリットがある為、殆どの悪魔は標準的に加齢や老化を止めることを行う。
 マリアは18歳でベルフェゴールと正式再契約した為(人間だった頃に一度契約しているが、その時、ベルフェゴールは加齢を止めることはしなかった。その後のマリアの運命を見る限り、その辺りを予想して、あえてそのオプションを外したのだろう)、肉体年齢はほぼその状態で止まっている。

 マリア:「あまり騒ぐと、家の人に怪しまれるぞ」

 マリアは振り向いて、悪魔達を窘めた。

 佳子:「ん?どうしたの?マリアちゃん」
 マリア:「いえ、何でもありません」

 悪魔の姿は、魔道士などの一部の者にしか見えない。
 ましてや、一般人には見えるはずがない。

 勇太:「母さん、マリアさんの部屋は大丈夫?」
 佳子:「もう用意してあるわよ」
 勇太:「じゃあ、3階に行って来る。マリア、こっちへ」
 マリア:「うん」

 勇太はホームエレベーターに、マリアと一緒に乗った。
 エレベーターは3人乗りで、広さは一般的な家庭のトイレくらい。
 トイレから便器を外した広さくらいである。
 それで3階まで行くと、部屋は2つ。
 1つは勇太の部屋。
 もう1つは、イリーナとマリアが泊まりに来る時用の部屋(親族等が泊まる際の部屋は別にある)。
 今回はイリーナがいないので、マリアが1人で泊まることになる。
 その為か、今回は折り畳みベッドが1つだけ置いてあった。
 折り畳みベッドの上に、布団が敷いてある。
 明らかに来客用の予備ベッドだった。

 佳子:「2人とも、16時くらいになったら出掛けるわよ」
 勇太:「分かった」
 佳子:「モールのJTBに行くから、お父さんから封筒は預かった?」
 勇太:「実際は秘書の人が来たけどね」

 その秘書もまた、代理の者だった。

 勇太:「父さんはそんなに忙しいのかな?」
 佳子:「どうなのかしらねぇ……」

 佳子は首を傾げた。

[同日16:10.天候:曇 同県川口市芝新町 蕨駅東口バス停→国際興業バスSC01系統車内]

 出発の時間になり、3人で家を出る。
 その足でバス停に向かった。
 歩道が狭いので、並ぶ時は気を使う。
 バスの本数は多く、昼間は12分に1本の割合。
 やってきたバスは、都営バスと同様のノンステップバスだった。
 都営バスの路線車はもうノンステップバスしか存在しないが、国際興業だとワンステップも存在する。
 ここでは後ろから乗って、前から降りる。
 まあ、埼玉県まで来ると間違える者はいないのだが、同じ都内の23区内と多摩地域の境付近はよく間違う。
 多摩地域では、後ろ乗り前降りなので。

 佳子:「私は前の方に座るから、あなた達は好きな席に座りなさい」

 と、佳子は車椅子スペースの折り畳み椅子に座った。
 稲生とマリアは、中扉から後ろの2人席に座る。
 平日の夕方前なので、そんなに混んでいなかった。
 が、発車直前の時点では完全に空いている座席は無くなっていた。
 尚、首都圏では1番前の席はコロナ対策と称して使用禁止になっている。

〔発車致します。ご注意ください〕

 発車時間になり、引き戸式の中扉が閉まる。
 昔はブザーだったが、今では電車みたいなドアチャイムが主流になっている。
 ブザー式は、地方に行けばまだあるだろうか。

〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、イオンモール川口前川行きです。次は猫橋、猫橋でございます。……〕

 バスは五差路の交差点を左折した。
 そこから県道に向かう途中、ビルに入居したキリスト教の教会の前を通過する。
 但し、あまり霊的なものを感じ取らなかったのか、或いはバスの中だからと安心しているのか、マリアが特に気にする様子は無かった。
 もっとも、キリスト教全ての宗派が魔女狩りを行っているわけではないし、肯定しているわけではない(むしろ、今では否定派が多いだろう。何しろ、ローマ法王自身が否定している)。
 怖いのは、むしろイスラム教。
 あそこは宗派を挙げての魔女狩り肯定派だ。

 マリア:「ショッピングモールで、何か買うのだろうか?」
 勇太:「多分ね。まずはJTBに行って、引換券を宿泊券に引き換えてこないと。買い物はそれからだろうね」
 マリア:「そうか……」

 バスは県道111号線(蕨桜町線)を東に向かって進んだ。
コメント (1)
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