報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰仙の旅の終わり」

2023-04-08 20:02:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日17時00時 天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 仙台駅前バス停→仙台市地下鉄仙台駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、仙台駅前、仙台駅前です。車内にお忘れ物、落とし物などなさいませんよう、ご注意ください」〕

 私達を乗せたバスが終点の仙台駅前に到着しようとしていた。
 特に高速道路では渋滞にハマることはなかったのだが、車内にトイレが無いタイプなので、もしかしたらトイレが近い人には不向きかもしれない。
 始発の中尊寺から終点の仙台駅前まで乗り通すと、1時間50分掛かるのだ。
 片道1時間程度でもトイレ付きが当たり前の首都圏の高速バスでは、ちょっと考えにくいかもしれない。
 もっとも、その場合は運転手に申し出れば、高速道路上においては、パーキングエリアに立ち寄ってくれることもあるようだ。
 岩手県内では曇り空だったが、仙台市内は晴れていた。
 バスは仙台駅西口のバス停に停車する。
 バスプール内ではなく、青葉通り上。
 かつては、さくらの百貨店があった建物の前だ。
 そこでは乗車券の販売機もあったのだが、百貨店廃業と共に、券売機も撤去されている。

 運転手「はい、ありがとうございました」

 ICカードは使えない為、多くの乗客が現金で支払う。
 バスは結局、9割方の座席が埋まるほどであった。
 東北では鉄道は衰退しつつあるが、それは高速バスが優勢であることも一因なのだろう。
 私達はバスを降り、すぐ近くの地下鉄乗り場に向かった。

 リサ「トイレに行きたい」

 バスの中でトイレに行けなかった為、リサがトイレを申し出た。

 愛原「ああ、ちょっと行ってこよう」

 都営地下鉄もそうだが、仙台市地下鉄においても、トイレは改札外にある。
 こういう公営地下鉄の場合、駅のトイレは単なる駅の設備ではなく、市民に開放する公衆トイレのような意味を持っているのだろう。
 因みにJR仙台駅も例外的に、改札外にトイレがあったりする(作者が知っている限りでは2ヶ所)。
 階段を下りて、東西線乗り場に向かう。

 リサ「ねぇ、まだ?」

 東改札口に向かうまでの間、リサの膀胱が限界に近くなったようだ。

 リサ「このままだと、先生にマーキングしちゃうことになるよ?『1番』にマーキングされて、まだわたし、上書きしてやってないんだからね」
 愛原「分かった分かった。もうすぐだから」

 定期券売り場や自販機コーナーの先に、トイレがある。

 愛原「あそこだよ」
 リサ「行って来る!」

 リサは急いでトイレの中に入った。
 私と高橋も男子トイレに入る。

 高橋「先生。もっと近い所にトイレあったんじゃないスか?リサに『おしがま』プレイですか?」
 愛原「ンなわけないだろ。こっちのトイレの方が空いてるんだよ」
 高橋「そういうことでしたか。確かに多目的トイレも空いてましたね」
 愛原「だろ?」
 高橋「じゃあ先生、そちらに御一緒に……」
 愛原「行くわけねーだろ、バカ」
 高橋「ええーっ!」
 愛原「当たり前だろが!」

 こいつにも、油断も隙も無い。
 地下鉄のトイレながら、東西線乗り場は比較的新しいからか、トイレも比較的きれいである。
 和式トイレもあるにはあるのだが、洋式トイレの割合が多い。
 男子トイレでそうなのだから、女子トイレもそうなんだろう。

 愛原「トイレ、空いてた?」
 リサ「洋式使えた」
 愛原「それは良かった。それじゃ、行くか」

[同日17時23分 天候:晴 同駅→東西線電車(列番不明)先頭車内]

〔4番線に、荒井行き電車が、到着します〕

 地下深いホームで電車を待っていると、4両編成の電車がやってきた。

〔せんだい、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 土曜日なので平日ほどのラッシュは無かったが、空席は無く、私達は反対側のドアの前に立った。

〔4番線から、荒井行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 短い発車サイン音がホームに鳴り響く。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ドアチャイムが鳴って、電車のドアが閉まる。
 仙台市地下鉄では自動列車運転装置による半自動運転が行われているが、毎日各1回ずつ習熟訓練の為に、その装置を解除し、手動運転を行うこともあるという。
 そのタイミングは決まっているのか、それともあえて抜き打ちで行われるのかは不明である。
 乗客としては、運転室からハンドルをガチャガチャ操作する音がしたら、手動運転が行われていると見て良いだろう。
 尚、手動運転をすることに対する乗客への告知は行われないことが多いようだ。

〔次は宮城野通、宮城野通。ユアテック本社前です〕

 愛原「おや?LINEが……」

 私のスマホにLINEの通知があり、それを取ってみると、母親からだった。

 愛原「『帰りに食パンとマーガリンと卵とベーコンと生野菜とドレッシング買ってきて』?」
 高橋「お使いっスね!お任せください!」
 愛原「何でオマエがやる気出すんだよ」
 リサ「家の近くにスーパーあったっけ?」
 愛原「無いな。徒歩圏内にあるのはコンビニだけだ。ぶっちゃけこの内容、コンビニで買える物ばっかりだ。そこで買おう」
 高橋「はあ……。じゃあ、先生の御両親はどうやって買い物してるんスか?」
 愛原「そりゃあ、車で生協に行ったり、イオンに行ったりしてるらしいぞ。あとはネットスーパーとかも使ってるみたいだな」
 高橋「なるほど。そういうパターンですか」
 愛原「高齢夫婦だからな」

[同日17時45分 天候:晴 仙台市若林区某所 愛原家]

 地下鉄は薬師堂駅で下車し、実家に向かう途中にあるコンビニに立ち寄る。
 そこで言われた通り、生卵などを購入した。

 高橋「自分も作る側なんで、明日の朝飯の内容が分かりました」
 愛原「だろうな。ただ、卵は夕食にも使うらしいぞ」
 高橋「えっ?まだ作ってる最中なんスか?」
 愛原「いや、今夜はすき焼きだそうで、それで生卵を使うんだろう」
 リサ「すき焼き……!」

 リサはごくっと生唾を飲み込んだ。
 尚、リサはリサでジュースやらお菓子やらを購入していた。
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“私立探偵 愛原学” 「帰仙のバス旅」

2023-04-08 14:48:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日15時00分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 さいき食堂→中尊寺バス停→東日本急行バス車内]

 善場主任に連絡して報告したところ、その調査報告に対する労いがあったものの、海に行く必要は今は無いと言われた。
 確かに最寄りの海は、店主が言った通りのルートなのかもしれないが、上野医師と斉藤玲子が本当にそこに行ったのかは分からない。
 また、仮に行ったところで、今はもう痕跡すら残っていないだろうから、行っても無意味だと言われた。

 善場「東日本大震災さえ無ければ、何がしかの名残があったかもしれません。愛原所長が調査されたように、もしかしたら、2人を知る人がいたかもしれません。ですが、平泉町と違って、沿岸部はあまりにも震災の被害が大き過ぎました。大津波などで痕跡はもう無いでしょうし、2人を知る住民が過去にいたとしても、現在も健在かどうかは不明です。そこまで、民間の探偵業者には求めておりませんので」

 ということだった。

 善場「仙台でも、何らかの情報が得られる見込みがあるのですよね?でしたら、そちらをお願いします」
 愛原「分かりました」

 善場主任の言う通りだった。
 私がそういう電話のやり取りをしている間、リサは食堂のトイレを借りていたのだが、外観も内装も昭和ノスタルジー漂う店であるから、当然トイレも……。

 リサ「トイレが和式ーっ!!」

 と、叫んでいたような気がするが、気のせいだということにしておく。

 
(東日本急行バス停。画像はやや古く、今は別のポールが立っている。また、12時40分発は無い)

 さいき食堂から中尊寺バス停までは、路線バスではほんの一区間の距離である。
 しかし、田舎のバスの一区間は長く、実際に歩いてみると15分くらいは掛かった。
 帰りは高速バスに乗ることにした。
 これなら、乗り換え無し且つ低料金で仙台まで戻ることができる。
 まだ少し時間があったので、私達は平泉レストハウスのトイレや自販機、高橋なら喫煙所を利用した。

 愛原「ここのトイレは、洋式があったよ」
 リサ「くそ……」

 そうしてバス停でバスを待っていると、1台のバスが下り方向からやってきた。

 

 愛原「乗車券は持っていませんが……」
 運転手「現金で大丈夫です」

 とのこと。
 バスに乗り込み、1番後ろの席に並んで座った。
 因みに、車内にトイレは無い。
 さすがに高速道路を走行するからか、車種は観光バスタイプであったが。

 高橋「上野医師も、このバスに乗ったんスかね?」
 愛原「いや、乗っていないだろう。中尊寺は確かに50年前も観光地だったとは思うが、こんな便利な高速バスが当時から運行されていたとは思えない。せいぜい、俺達が来る時に乗った一般路線バスがセオリーといったところか」

 しかしながら、どうして上野医師はあの民宿に泊まったかだ。
 あのバスは、終点がイオン前沢である。
 今は奥州市になったのだったか。
 しかし、当時は前沢町という名前だった。
 上野医師が暴力団員に追われ、なるべく東京から離れようとしていたことは分かる。
 それなら、バスもなるべく終点まで乗ろうとするのが人情のはずだ。
 それとも、中尊寺の観光をするくらいには余裕があったのだろうか。
 その答えらしき物は、反対側のバス停にやってきた路線バスにあったような気がした。
 少し離れた反対側のバス停に、一般の路線バスが停車した。
 私達が乗って来た路線バスと同じバス会社であったが、行先表示が中尊寺止まりとなっていた。
 仮に50年前も今も同じ運行形態だったとするならば、中尊寺止まりのバスと、イオン前沢行きのバスが運転されていたのだろう。
 上野医師は中尊寺止まりのバスに乗った為、せっかくだからと観光したのかもしれない。
 そして、今宵の宿を探した時、あのさいき食堂(当時は『民宿さいき』という名前だったらしい)だったのだろう。
 誰かの紹介だった可能性は高い。
 あの民宿は中尊寺から徒歩15分ほど離れており、あまり観光客が宿泊するような感じではなかったからだ。
 少し寂れた感じの民宿の方が、ヤクザに見つかりにくいとでも思ったか。

〔「お待たせ致しました。15時10分発、仙台行き、発車致します」〕

 私が考え事をしていると、いつの間にか発車の時刻になり、バスは前扉を閉めて発車した。
 イオンだが、一関市内にも当然ある。
 そこのバス停までは一般道を経由し、乗車しか取り扱わない。
 そしてその近くにある一関インターから東北自動車道に乗り、仙台宮城インターで降りる。
 仙台市内では電力ビル前バス停に停車し、降車しか取り扱わない。
 そして、終点の仙台駅前に到着するルートである。
 バス車内は半分くらいの乗客が乗っていた。
 途中のバス停からの乗車客数を考えると、満席になるかもしれない。
 なので、空いている座席には荷物を置かないようにという放送があった。

 高橋「先生。このバス、仙台に着くのは夕方になりそうですよ?」
 愛原「そうか。一旦、帰ることになるかな」

 母親が斉藤玲子のことについて、クラスメートだった吹奏楽部の後輩に聞いてみるということだったが、あれはどうなったのだろうか?
 私は母親にLINEを送ってみた。
 一応、今は平泉にいること、これからバスで仙台に戻ること、仙台には夕方に到着することを話した。
 すると母親から返信があり、後輩から話が聞けたという。
 ただ、元々学校を休みがちだった斉藤玲子のことに関しては、『確かにそういうコがいたような気がする』程度の記憶しか無く、あれこれ言えるほどの情報は持ち合わせていないという。

 母親:母「せっかくだから、卒業アルバムを返しに行って」

 ということだった。
 まだ返してなかったのかと思ったが、要は私からも直接会って話を聞けということらしい。
 私が、仙台に戻ったらすぐに行くと返信すると、

 母親「明日にしたらどうだい?後輩も家族持ちだし、夕食の時間帯にお邪魔したら、迷惑になる」

 とのことだった。
 まあ、確かに言われてみればその通りである。
 取りあえず今日のところは、実家に戻るしか無さそうだ。
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“私立探偵 愛原学” 「聞き込み調査」 2

2023-04-06 20:14:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日13時15分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 さいき食堂]

 お昼時も過ぎて、常連客も帰って行く。

 女将「お茶、どうぞ」
 愛原「ありがとう」

 私達のような余所者でも、特に邪険にしてくる様子はなく、食べ終わった私達に食後のお茶を入れてくれる女将。
 内装も昭和のノスタルジーだが、席でタバコが吸えるというのも今や珍しい。

 愛原「女将さん」
 女将「はい、なんです?」
 愛原「ちょっと聞きたいことがあって……」
 女将「何ですかね?」
 愛原「斉藤玲子さんという名前に聞き覚えはありますか?」

 私は単刀直入に聞いた。

 女将「サイトウレイコ?どちらさんです?」
 愛原「50年前、恐らくここに住んでいたと思われる娘さんです。もしも生きていたら、今は60代半ばになっているはずです」
 女将「斉藤……ねぇ……」
 愛原「失礼ですが、こちらの御主人のお名前は何て言うんですか?……あ、因みに私達、東京から着た探偵の者です」

 私は自分の名刺を差し出した。

 女将「探偵さんでしたの!?」
 愛原「はい。とある所から、人捜しを頼まれまして。それが斉藤玲子さんというんです」
 女将「確かに、うちの苗字、斉藤ですけど……」
 愛原「やはりそうか!」
 女将「ちょっとあんた、斉藤玲子さんって人、知らないかい?」

 女将は厨房にいる主人に聞いた。

 店主「いや、知らんねぇ……」
 愛原「ええっ!?」
 店主「いや、私は養子なもので、詳しくは知らんのですよ」
 愛原「どなたか、知っている方はいないですかね?」
 女将「お義母さんに聞くのがいいでしょ?」
 店主「ンだって母ちゃん、ボケ始まっとるど?」
 女将「ンでも、ボケてても、昔の記憶はハッキリしてるって言うっちゃ」
 愛原「何とか、お話し聞けないですかね?」
 女将「はあ……。ちょっと聞いてきます」
 愛原「すいません」

 女将は奥の、住居スペースと思われる方に向かって行った。

 愛原「この上は民宿だったそうですね?」
 店主「そうなんですよ。さすがに赤字が続いたもんで、民宿は廃業したんですけどね」
 愛原「50年前はしっかり営業していたわけですよね?」
 店主「そりゃもう。50年前といったら、両親が切り盛りしていましたから」
 愛原「その頃から、御主人はここへ?」
 店主「だいたい、その辺りくらいです。……あー、そういえば……」
 愛原「何か!?」
 店主「確かに、両親には娘がいたそうです。それが行方不明になったもんで、それで遠い親戚の私が、養子としてここに来たんですよ。ただ、『死んだも同然だから』ってんで、名前も何も教えてはくれませんでしたがね。……お客さん、それが斉藤玲子さんだって言うんですか?」
 愛原「恐らくは……」

 すると、奥から女将と老婆が来た。
 老婆は80歳くらいであった。
 ということは、今から50年前というと、バリバリのアラサーだっただろう。

 大女将「何じゃい?玲子を探しに来た人じゃと?」
 女将「東京から来た探偵さんでね……」
 愛原「すいません。わざわざ出て来て頂いて……」

 すると大女将、リサを見て細めていた目をカッと見開いた。

 大女将「ヒェッ!れ、玲子!?何で生きておるんじゃ!?ば、化けて出たのか!?」
 女将「違うよ、お義母さん。この人は、ただのお客さん。玲子さんにそっくりの」
 店主「50年以上も行方不明になっている人が、今更生きてるわけないだろう!」
 大女将「ば、化けて出たんじゃ!ナンマンダブ!ナンマンダブ!」
 高橋「まるでこの婆さんが、殺して埋めたかのような言い方ですね?」
 愛原「おい、高橋」

[同日14時00分 天候:曇 同町内 さいき食堂]

 ようやく落ち着いた大女将から、何とか話を聞くことができた。
 確かに店主が養子として貰われる前、斉藤玲子はここに住んでいたという。
 かといって、この大女将の実の娘というわけではない。
 大女将とて、親族の養親であった。
 斉藤玲子は、元々は福島県郡山市の生まれ。
 小学生の頃まで住んでいたが、実の母親が病気で他界。
 程なくして継母が実父と結婚したが、継母は所謂ビッチであり、狭い家で継娘がいようが、構わず実父とセックスするような女であったという。
 そして、ついに実父と継母との間に子供が生まれると、余計に家に居場所が無くなった玲子は家出を繰り返し、中学校に入る頃には仙台の親戚の家に預けられるようになった。
 しかしそこでも、虐待というほどの物ではないにせよ、歓迎されたというわけでもなかったようだ。
 そして、中学3年生になった頃の夏休みに、平泉のこの家に滞在するようになる。
 喘息の症状に悩まされていた時、東京から来た医者が1人で泊まった。
 そして夜中、酷い喘息に悩まされていた玲子の症状を収めたのである。
 翌日から、医者と共に玲子の姿もいなくなっていた。

 愛原「その医者というのが、上野医師だな」
 高橋「間違いないっスね」
 愛原「仙台の家と郡山の家は御存知ですか?」
 大女将「あー、ダメじゃダメじゃ!太郎も、あんな女なんかと結婚したりすっから、あんな目に遭うんだべちゃ!」
 高橋「ちょっと、ボケてます?」
 愛原「そのようだな」
 女将「その玲子さん、今はどうしてるのでしょう?」
 店主「それを捜しに、探偵さんが来たんだべや」
 愛原「いえ。恐らくさっき、御主人が仰ったように、もう亡くなってると思いますよ」
 店主「やっぱしなぁ……」
 愛原「福島県の山奥の村で、白骨死体が見つかりましてね。恐らくそれが、斉藤玲子さんでないかと思われます」
 店主「白骨死体!?」
 愛原「私は彼女と上野医師の足取りを辿るように、依頼されたのです。とにかく、ここに斉藤玲子さんと上野医師の接点があって、それから2人が行動したという所までは分かりました」
 大女将「『神様みたいな人だ』って、言ってたっちゃね……」

 大女将がボソッとつぶやいた。

 リサ「分かる。わたしも、愛原先生は、神様みたいな人だと思う」
 高橋「だったら、電撃とか食らわすのやめろや」
 リサ「だーってぇ!」

 この平泉町から、どうやって福島の桧枝岐村まで行ったのかは分からない。

 愛原「上野医師と玲子さんがここを出る時、どこへ行くとかは行ってましたか?『福島に戻る』とか……」
 大女将「『海の方』……海……」
 愛原「海!?どこの!?」
 大女将「
 高橋「寝るな、婆さん!」
 愛原「まあまあ、高橋。お年寄りなんだから、しょうがない!ここから海に行こうとすると……」
 店主「まあ、汽車で行こうとするなら、一ノ関から大船渡線ですね。それで気仙沼とか、盛とか……。あ、今は途中でバスになってますけど……」

 JR大船渡線は一ノ関~気仙沼間は鉄道線だが、気仙沼から先は東日本大震災の影響で、BRTとなっている。
 私達は取りあえず、店を出ることにした。
 そして、ここで得た情報を、すぐに善場主任に報告したのだった。
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“私立探偵 愛原学” 「聞き込み調査」

2023-04-04 20:42:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日12時30分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 旧々国道4号線北側→さいき食堂]

 高橋「あっ、行き止まりだ!」

 私達は食堂の前を通り過ぎ、県道に格下げされた旧国道4号線の更に旧道を進んだ。
 道路脇の反射板付きのポールに『平泉町』と書かれていることから、県道ですらなくなり、更に町道に格下げされたのだろう。
 そんな旧々国道だが、途中でプッツリと切れていた。
 具体的には簡易的なバリケードが置かれており、その先は土手になっていた。
 階段があったので昇ってみると、その先は衣川の河川敷だった。

 愛原「こりゃ、道路の痕跡は無いな……」

 だが、よく見ると土手が少し新しいような気がした。

 愛原「グーグルマップの航空写真だが、今ここにいる。で、確かに川を挟んだ向こう側にも旧道らしき道が見える。高橋が言っていたのは、この道だろう」
 高橋「きっとそうですよ!」
 愛原「と、いうことは……」
 高橋「ものの見事に干されましたね、この食堂……」

 老朽化によるものなのか、それとも東日本大震災で壊れたりしたのかは不明だが、それにしても、これは……。
 同じ場所に橋を架け替えることはせず、別の場所に移転という形を取った為にこのようになってしまったのだろう。
 現橋はもっと高い所に架かっているので、老朽化によるものと、震災によるダメージと、嵩上げが目的だったのか。
 それにしても、これとは別に、現国道4号線のバイパスには、もっと立派な橋が架かっているはずだが……。
 だからまあ、もうこんな所に橋は要らないと判断されたのか……。

 リサ「先生、お腹空いた」
 愛原「ああ、お昼にしよう」

 もっとも、今回は橋や道路の調査に来たのではない。
 聞き込みに来たのである。

 高橋「先生。この建物に見覚えはありますか?」
 愛原「いや、無いなぁ……」

 尚、食堂は、車通りが少なくなった現在でも、営業を続けているようだ。
 一応、周りにも建物などは建っている為、観光客ではなく、地元民が食べに来るのだろう。
 食堂は2階建てで、1階が食堂になっていた。
 仮にここが民宿だったとすると、2階が民宿になっていたのだろうか。

 女将「いらっしゃい」

 店の中に入ると、建物の外観もそうだが、内装も一気に昭和に戻ったかのような雰囲気だった。
 昭和生まれの私は、その雰囲気に、思わず言葉を失った。

 高橋「3名っス」

 喋れなくなった私に代わり、高橋が人数を言う。

 女将「こちらへどうぞ」

 三角巾を着けた50代後半くらいの女将が、テーブル席を勧める。
 メニューはオーソドックスなものだった。
 店内には昼時ということもあり、他にも客はいたのだが、全員が地元民らしく、地元あるある話で盛り上がっており、アウェイ感が凄い。
 もっとも、この旧々道が現役の国道だった頃は、観光客などの余所者も普通に客として来ていたはずである。
 いや、むしろドライブイン的な雰囲気があることから、長距離トラックの運転手が食べに来るといった感じだろうか。
 店の前の駐車場は横に長く、大型トラックが入ってきて、そのまま店に横付けできるような感じになっている。

 高橋「どうしますか、先生?」
 愛原「先に注文しよう」
 リサ「そうしよう!」
 愛原「リサ、フードを取っていいぞ。但し、人間の姿のままでな?」
 リサ「分かった」
 愛原「俺は焼肉定食にしよう。皆は?」
 高橋「じゃあ、俺も同じので」
 リサ「わたしは肉鍋定食」
 愛原「マジかよ」

 まあ、いいだろう。
 少し時間が掛かる食事の方がいいかもしれない。

 愛原「すいませーん!」
 女将「はーい!」

 常連と思しき客と談笑していた女将を呼ぶと、私達は料理を注文した。
 リサは斉藤玲子とそっくりだという。
 この女将がもしも知り合いだったり、血族だったりしたら、リサを見て、何かに気づかないだろうか。
 だが、この時、私はうっかりしていた。
 もうすっかり習慣づいてしまった為、マスクをしっ放しだったのだ。
 これではリサのことに気づき難いだろう。

 愛原「リサ、マスクを取れ」
 リサ「う、うん」

 リサは黒いマスクを取った。
 即ち、黒い短いスカートの下に穿いているのも黒いショーツだということか。

 愛原「あー、皆。何か、喉乾かないか?」
 高橋「あっ、あー、そうっスね。じゃあ、ビールも行きますか」
 愛原「アホ。仕事中だ。ソフトドリンクだよ」

 ついでに、リサの顔を見てもらうことにする。

 愛原「すいませーん」
 女将「はいはい」
 愛原「飲み物もお願いします。ウーロン茶2つと、オレンジジュース1つ」
 女将「ウーロン茶2本とオレンジジュース1本ね。すぐお持ちします」

 どうやら、厨房には別に誰かがいるようだ。
 この店の主人か誰かだろうか。

 女将「はい、ウーロン茶とオレンジジュース」
 愛原「ありがとう。ところで女将さん」
 女将「何です?」
 愛原「このコの顔に、見覚えは無いですか?」
 リサ「こんにちは」

 リサはニッと笑おうとしたが、そうすると牙が見えてしまうので、それはやめた。
 代わりに口は閉じたままで、口角を上げることにする。

 女将「さーて……?どっがで会ったっけねぇ……?」

 女将は首を傾げた。

 愛原「恐らく、だいぶ昔……。何十年も前になるかと思います。……具体的には、50年前……」
 女将「はあ???」
 常連客「おーい、ハナちゃん!ビール追加だよ!ビール!」
 女将「あー、ハイハイ!今持っでぐがら!すんませんね」
 愛原「ああ……」

 女将が立ち去ると……。

 高橋「人違いっスかね?」
 愛原「いやあ、何しろ50年も前の話だ。いきなり思い出せと言われても、そりゃ困るだろうよ」

 ましてや女将は50代後半といったところ。
 もし仮にその頃からこの店に関係していたとしても、かなり小さい頃だろう。
 そんな時、例え斉藤玲子と会っていたとしても、覚えているかどうか怪しいものだ。
 しょうがない。
 今度はピンポイントに斉藤玲子のことを聞くか。

 女将「はい、焼肉定食、お待ちどうさん」
 愛原「どうもどうも」
 高橋「あざっす!」

 豚肉の生姜焼きみたいなものを想像していたのだが、牛肉のカルビを何枚かタレで焼いたものだった。
 それに御飯と味噌汁、漬物やキャベツが付いている。
 肉鍋定食は、1人用の鍋に野菜や牛肉を味噌で煮込んだものだった。
 但し、ホテルや旅館のそれと違って、固形燃料で煮るというようなことはしない。

 女将「はい、こちら肉鍋定食ね」
 リサ「いただきまーす!」
 愛原「女将さん、この店、結構古いみたいですけど、いつから営業しているんですか?」
 女将「あー、かなり古いですよ。私が嫁いで来る前から、既に営業してましたから」
 愛原「その頃って、民宿とかもやっていたって本当ですか?」
 女将「よく御存知ですねぇ。まあ、何年か前には民宿は畳みましたけどね。もうこの道も寂れちゃって、泊まりに来るお客さんもいなくなったもんですから」

 それでも、何年か前までは民宿が営業されていたのだ!

 愛原「そうですか。実は……」
 常連客「おーい、ハナちゃん!つまみ持って来てけね!?」
 女将「何だい、こっちは接客中だよ!すんませんねぇ」
 愛原「いえ……」
 高橋「あの酔っ払いオヤジ、邪魔してきやがりますね。俺が裏に連れて行って、ボコしてきますか?」
 愛原「いや、そんなことはしなくていい!」

 だいいち、他にも客がいるというのに……。
 お昼時が過ぎて、店が空くまで待った方が良さそうだ。
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“私立探偵 愛原学” 「岩手バス紀行」

2023-04-03 20:14:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月5日11時41分 天候:晴 岩手県一関市駅前 JR東北本線545M列車先頭車内→一ノ関駅]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、一ノ関です。一ノ関では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 田園地帯の牧歌的な景色が広がる中を走行していた電車だったが、さすがに一関市の市街地に近づくと、建物が増えてきた。
 取りあえず、鉄道の旅はここで終了である。

 

 愛原「何とか着いたな」
 高橋「ここから、バスに乗り換えっスね」
 愛原「そういうことだ」
 高橋「一服して……」
 愛原「いや、待て。バスの発車まで、10分も無い」
 高橋「えっ?」
 愛原「だから一服は、現地に着いてからにしてくれ」
 高橋「マジっスか……」
 リサ「禁煙ターイム!」
 高橋「うるせっ!オメーもおしがまタイムだ!」

 おしがまとは、おしっこがまんの略である。

 リサ「今の電車の中ではジュース飲んでないし、さっき電車のトイレに行ってきたから」
 高橋「和便は嫌だって言ってたろ?」
 愛原「いや、高橋。701系のトイレは洋式だよ」
 リサ(^_^)v
 愛原「というわけで、行くぞ」

 私達は西口の改札口に向かった。
 幸いこの電車が到着した1番線ホームに、最も近い改札口であり、バスも西口のロータリーから出る。

[同日11時50分 天候:晴 JR一ノ関駅→岩手県交通21系統車内]

 バス会社の岩手県交通は、国際興業バスのグループに入っているせいか、バスの塗装も、それにそっくりである。
 中にはオリジナル塗装のバスもあったりするのだが、私達が乗車したバスは国際興業バスとそっくりな塗装であった。
 いや、もしかしたら本当に国際興業の中古車なのかもしれない。
 バスに乗り込んだ私達は、1番後ろの座席に座った。
 バスは大体1時間に1本くらいの割合で運転されているようである。
 観光地である中尊寺に行くバスではあるが、あまり地元の路線バスで行く需要は無いのか、観光客らしき姿は見られなかった。

〔「11時50分発、平泉駅前、中尊寺経由、イオン前沢行き、発車致します」〕

 バスはダイヤ通りに出発した。
 尚、岩手県交通では盛岡市内などではICカードが使えるようだが、この一関管内では導入されていないようだ。
 その為、私達は現金で乗ることになる。

〔お待たせ致しました。毎度ご乗車くださいまして、ありがとうございます。このバスは平泉駅前、中尊寺を経由し、イオン前沢まで参ります。途中、お降りの際はお近くのボタンを押して、お知らせください。次は大町通り、大町通りでございます〕

 愛原「住所によると、降りるバス停は中尊寺の先にあるらしい」
 高橋「そうですか」
 愛原「まあ、観光するわけじゃないけどな」
 高橋「そりゃそうですよ」
 リサ「でも、先生が子供の頃、家族旅行で泊まった旅館ってのは気になるかも」
 高橋「そうだな!まだ思い出しませんか!?」
 愛原「無理だろー。大体、顕正号の時の記憶すら戻ってないんだぞ」
 高橋「今度行く食堂が、先生が泊まった民宿であったことを祈りますよ」
 愛原「俺は外れてほしいけどな」

[同日12時20分 天候:曇 岩手県西磐井郡平泉町 衣川橋バス停]

 バスはどうやら、国道4号線のバイパスではなく、旧国道を走行しているようだ。
 いくらバイパスが開通したとて、バス路線も自動的にそちらに移行されるわけではない。
 峠のバイパス開通時においては、旧道は廃道化される傾向が多く、その場合はどうなるのかは分からない。
 だが、一ノ関バイパスや平泉バイパスの場合はそれが開通しても旧国道が廃道になるわけではなく、地元民の生活道路として残されているようだった。
 路線バスは、そんな道を走行する。
 それでも週末の観光地は混雑するのか、毛越寺や中尊寺付近で渋滞に巻き込まれた。
 平泉バイパスが建設されたのは、この渋滞を回避する為である。
 そして、平泉駅から観光客が乗って来た。
 で、中尊寺バス停で降りて行く。

〔このバスは、イオン前沢まで参ります。次は衣川橋、衣川橋でございます〕

 愛原「次のバス停だったのか」

 観光客がぞろぞろ降りて、ガラガラになった車内。
 下車バス停の名前が出てきたので、私は降車ボタンを押した。

 高橋「あっ!」
 愛原「どうした?」
 高橋「いや……。まだ、旧道があったんスかね」
 愛原「え?」
 高橋「いや、何かそんな痕跡があったんスよ」
 愛原「ふーん……そうなのか」

 私達が走っている道は岩手県道300号線。
 これは国道4号線の旧道である。
 もしも高橋が言っていることが本当だとしたら、旧道の旧道が存在するというわけか。
 そして、バスは衣川の橋を渡る。
 恐らくこれが、バス停の名前にもなっている衣川橋だろう。
 それを渡り、しばらく走ったところで、バスは停車帯のあるバス停の前に停車した。

 愛原「大人3人です」
 運転手「はい、ありがとうございました」

 バスを降りると、何となく倉庫が並んでいる場所だと分かった。
 現役の国道4号線だった頃は、バンバン車が走っていたのだろう。
 また、中尊寺から南は観光客の車で混雑していたが、それを過ぎたこの辺りは、さほど車も多くなかった。
 通過する車も、岩手ナンバーの車ばかりである。
 この旧道を抜け、再び国道4号線と合流すると、東北自動車道の平泉前沢インターがある。
 しかし、今は旧道の南側付近に平泉スマートインターができた為、観光客の車はそちらを利用するようだ。
 もっとも、スマートインターだから、観光バスなどの大型車両は通行できないだろう。

 高橋「先生、あれを!」

 高橋が何かを指さした。
 それは、何か絵が描かれている建物だった。

 高橋「あれが例の食堂じゃないスか!?」
 愛原「そうかもしれないな」
 リサ「お腹空いた」
 愛原「よし。とにかく向かおう」

 私達はバス停から移動した。

 高橋「これは……」

 現地に向かう途中、分岐があった。

 高橋「先生、こいつは旧道の分岐ですよ。きっと昔は、右に入った所が国道だったんスよ」
 愛原「なるほど。オマエ、さっき、似たような分岐を見つけたと言ってたな?」
 高橋「そうっス!きっと、この道を行けば、さっきの場所にぶつかるはずです!」

 と、高橋は意気込んでいたが、そうなると1つ疑問が残る。
 だったら、どうして私達のバスは、そっちの道を通らなかったのかだ。
 例えバイパスが開通したとしても、バス会社は新たにそちらの道で申請しない限り、路線バスは旧道を走らなければならないというのに。
 その疑問は、現地に着いてから分かったのである。
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