報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「北関東トンボ返り」 3

2024-06-21 16:02:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日17時00分 天候:曇 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園・大浴場]

 高橋「破~っ!この不肖の弟子~あ!高橋正義がぁ~あ!無二の師匠~お~おっ!?愛原先生のォ~……あ!?お背中ぅをををををっ!お流し奉り~候~也~っ!!」
 愛原「う、うん……。よろしく頼む」
 天長会信者「あ、あの……これも何かの儀式で?」
 愛原「え、ええ。ちょっと……日蓮正宗の儀式なんです(ウソ!)」
 天長会信者「ほお……。日蓮正宗さんでは、お風呂の時、そのような儀式を……」

 何故私達が呑気に温泉に浸かっているのかというと、帰りのバスまでの時間があるのと、せめて日帰り入浴代でも払っておこうと思ったからである。
 上野利恵のヤツ、お土産用の仮面などタダでやるなんて言ってきたものだから、本当にタダで帰るのも申し訳ないと思ったからだ。

 愛原「それにしても、マジでどうしよう……?」

 高橋に背中を流してもらい、それ以外の体は自分で洗った後、露天風呂に移動した。

 高橋「何がですか?」
 愛原「リサのことだよ。俺達がここに来たこと、かなり怒ってるんだろう?ラムちゃんなら、電撃モノだぞ?」
 高橋「あいつも、電撃使えるようになったんですよね?」

 手持ちの金属製品や電子機器が壊れるので、電撃はなるべく使わず、静電気攻撃や火炎の息を飛び道具にしている。

 愛原「……俺、ステーキにされる?」
 高橋「そ、そういや最近、あいつ、『肉は生より、レアに焼いた方が美味しいよね』とか言ってましたから、ウェルダンにされる心配は無いと思いますが……」
 愛原「やっぱ泊まって行くか、ここ?」
 高橋「火に油を注ぐ結果になると思うので、やめといた方がいいと思います」
 愛原「そ、そうか?」
 高橋「泊まるなら、どっか別のビジホとかにするしか無いですよ」
 愛原「そ、それもそうだな……」
 高橋「善場のねーちゃんからは何て?」
 愛原「いや、まだ連絡は来ていない」

 帰りは路線バスにするが、少し時間があるので、その間は天長園で情報取集を続けるという報告はしている。

[同日17時30分 天候:曇 同ホテル1階ロビー]

 風呂から上がると、私達はロビーに移動した。
 ラウンジはランチ営業しかしていないので閉まっているが、ロビーの延長でフリースペースとしては利用できる。
 また、自販機もあるので、そこで飲み物でも買い、あとは帰りのバスの時間まで待機していることにした。

 愛原「鬼の出没の方は心配無いのか?」

 私は何故かそこにいる上野利恵に聞いた。
 私に向ける視線が、リサが私に向ける視線にそっくりなんだよな……。
 うん、そりゃリサとしては気が気でないだろう。
 私は改めて、自分の迂闊さにウンザリした。

 利恵「はい。BSAAの皆様も出動して下さいましたし、栗原一派の鬼達は私共の方で掃討させて頂きましたわ」

 どちらも“半鬼”のはずなんだが……。

 利恵「愛原先生、今度の慰安旅行先には、是非ともまた当ホテルを宜しくお願い致します」
 愛原「あ、ああ……そうだな……」
 利恵「関連企業としてコンパニオン業も始めました。“半鬼”のかわいい女の子達が、先生方のお越しをお待ち申し上げております」
 愛原「……帰る頃には、血液が半分くらい無くなってそうだから遠慮しておくわ」

 他に得た情報といえば……。

 愛原「他に鬼の気配は無いのか?」
 利恵「私共、元は人間の、新興の鬼の勢力でございます。しかしながら、中には生粋の鬼の皆様もおられまして……」
 愛原「なにっ?」
 利恵「秋田のナマハゲの皆様ですとか……」
 愛原「はあ?」
 利恵「京都の大江山の皆様が視察に来られたこともございます」
 愛原「……もう、エイプリルフールから10日以上過ぎてるんだが?それとも何だ?鬼族は毎日がエイプリルフールなのか?」
 利恵「いえいえ、本当の事でございますよ。証拠がございます」
 愛原「証拠あんの?」

 すると利恵、パンパンと手を叩いた。

 ベルボーイ「お呼びでしょうか?」
 利恵「秋田の『なまはげ御一行様』の集合写真と、京都の『大江山御一行様』の集合写真を持ってきて」
 ベルボーイ「かしこまりました」

 あのベルボーイは半鬼なのだろうか?
 それとも、普通の人間か。
 ベルボーイらしく、ケピ帽を被っている為、角があるかどうかは分からない。
 半鬼は、長く角が伸びない為、伸ばした髪や帽子の中に隠すことが可能である。
 しばらくして、ベルボーイが額縁に入った写真を2枚持って来た。

 愛原「あっ!?」
 高橋「これがガチの鬼達っスか?」
 愛原「上手い事、人間に化けているようだな」
 利恵「ええ。私共、新興の半端者でございまして、こちらの皆様には到底かないません」

 写真だけ見ると、ナマハゲや大江山の鬼関係を観光にしている業者の慰安旅行って感じだ。

 愛原「この鬼達、人を食ったりはしていないんだろうな?」
 利恵「……申し訳ございませんが、そういった個人情報について守秘義務がございまして……」
 高橋「てことは、食ってるってことじゃねーかよ!先生、BSAAに通報を!」
 愛原「いやいや、何かのウィルスとかで鬼になったわけじゃないから、BSAAの出番じゃないよ」
 利恵「さようでございますね」
 愛原「強いて言うなら、栗原家のような、ガチモンの鬼狩り家の出番だろう」
 高橋「なるほど」

 その鬼狩りの家から鬼を出してしまったのだから、面子丸潰れだろう。
 しばらくは、鬼狩りの活動ができないものと思われる。

 愛原「鉢合わせにならなくて良かった」
 利恵「ホテル内では、当館の規則に従い、他のお客様の御迷惑になるような行為は慎んで頂くことになっておりますので、そうなったとしてもご安心ください」

 一応、私は彼らの集合写真をデジカメに収めた。
 バイオハサードに関する情報ではないから、あまり善場係長も興味は無いかな?

[同日18時05分 天候:曇 同市内 ホテル天長園前→関東自動車N3系統車内]

 ホテルをあとにした私達は、ホテル前の県道に出てバスを待った。
 この辺りはフリー乗降区間である為、バス停でなくても乗り降りできる。

 愛原「あのバスだな」

 もう日が傾いている上、曇っている為、だいぶ外は薄暗い。
 運転手から視認してもらえるよう、なるべく街灯の下など、明るい所でバスを待つ。
 行先表示も今はLED式が多いので、外からでも見やすい。
 私が大きく手を上げると、バスはハザードランプを点灯させて停車した。
 左ウィンカーではないのは、バス停に停まるわけではないからか。
 中扉から乗り込むと、車内には数えるほどの乗客しか乗っていない。
 今は、市街地から郊外に向かう便の方が賑わっていて、逆方向は空いているのだろう。
 バスに乗り込んで、後ろの席に座った。
 バスは私達を乗せると、引き戸を閉めて再び走り出した。
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“私立探偵 愛原学” 「北関東トンボ返り」 2

2024-06-19 20:40:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日15時20分 天候:晴 栃木県那須塩原市 JR東北新幹線211B列車1号車内→那須塩原駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、那須塩原です。宇都宮線、黒磯方面はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。那須塩原の次は、新白河に止まります〕

 愛原「うーむ……」

 私達を乗せた新幹線は、ダイヤ通りに運転を続けていた。
 それはいいのだが、何だかリサの様子がおかしい。
 いや、様子すら窺えないというべきか。
 リサからLINEの返信が全く来ないのだ。
 スマホを全く覗いていないというわけではない。
 ちゃんと既読は付く。
 しかし、スルーされてしまうのだ。
 先ほどもデッキに出て音声通話を試みたが、出なかった。
 仕方が無いので、『魔王軍のグループLINE』への進入を試みようと思っている。
 もちろん、善場係長には報告した。

 高橋「リサのヤツ、先生からの御連絡をスルーするとは、いい度胸ですね?そろそろ射殺を考えた方がいいかもしれませんぜ?」

 高橋は不敵に笑うと、デザートイーグルを覗かせた。

 愛原「大騒ぎになるから、ここでそんな物騒な物を披露するのはやめなさい」
 高橋「サーセン」

〔「まもなく那須塩原、那須塩原です。2番線に到着致します。お出口は、左側です。那須塩原で、3分停車致します。発車は15時23分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 それにしても、リサのヤツ、どうしたんだろう?
 既読は付くから、確認はしているはずなのだが……。
 列車は下り副線ホームに移ると、ホームに入線した。

 高橋「先生、また一服していいっスか?」
 愛原「いいよ」
 高橋「サーセン」
 愛原「俺は下の待合室で待ってるよ」
 高橋「分かりました」

 

〔「ご乗車ありがとうございました。那須塩原、那須塩原です。お忘れ物、落とし物の無いよう、お降りください。2番線に到着の電車は、15時23分発、“やまびこ”211号、仙台行きです。終点、仙台まで、各駅に止まります」〕

 私達は列車を降りた。

 高橋「それじゃ、また後で」
 愛原「ああ」

 高橋はホーム上の喫煙所に行き、私はエスカレーターに乗ってコンコースに向かった。
 エスカレーターを降りて、2階コンコースに着くと、着信音が鳴った。
 しかし、LINEの音声通話の着信ではなく、普通の音声通話だった。
 スマホを見ると、善場係長からだった。

 愛原「もしもし?愛原です」
 善場「愛原所長、お疲れさまです。今、那須塩原駅ですか?」
 愛原「はい。たった今、新幹線を降りました。一息吐いたら、ホテル天長園に向かいます」
 善場「かしこまりました」

 どうやら善場係長、GPSで私達を追跡しているようだ。
 もっとも、そんな事は今に始まったことではない。

 善場「リサの件ですが……」
 愛原「は、はい!」
 善場「やはり、今回の出張の事は教えない方が良かったと思います」
 愛原「も、申し訳ありません!」
 善場「まあ、もう過ぎたことですから。私からリサに連絡を取ったところ、とても怒っていました。『わたしを差し置いて、他の鬼の女の所に行くのか』と」
 愛原「で、でも、今回はただの出張……」
 善場「分かっています。もちろん、愛原所長の応対をするであろう上野利恵副支配人も、よく理解しているはずです。ですが、彼女は前科1犯、愛原所長への未遂行為も含めますと2犯とも言えます。リサとしては、気が気で無いのでしょう」
 愛原「もしも利恵が変な気を起こしたら、デイライトさんはもちろん、BSAAも厳しい態度で臨むはずです」
 善場「その通りです。しかし、それはあくまで、頭で理解できている場合の話。リサも今は鬼型のBOWですから、そんな自制心が外れた鬼の行動については自分でも分かっているのでしょう。そんな所へのこのこ向かう愛原所長が理解できないようです」
 愛原「で、ですが……」
 善場「どうしてもまた上野利恵と会う場合は、リサも連れて行った方がいいかもしれませんね。とにかく、今回の件につきましては、所長にこの出張を依頼した私共にも責任があります。所長が帰京されるまでの間、こちらで何とか説得しますから、所長は業務に専念してください。何度も申し上げますが、費用については気になさらなくて結構ですので」
 愛原「分かりました……」

 私は電話を切った。

 愛原「はー……」

 何て私は迂闊なことをしたのだろう……。

[同日16時00分 天候:晴 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園]

 那須塩原駅西口からホテルに向かおうとしたが、ホテルの前を通るバスは本数が少ない。
 案の定、まだバスは走っている時間帯ではあるものの、ちょうど良い便が無かった。
 そこでここは、善場係長のお言葉に甘えて、タクシーで向かうことにした。
 都内でもまだ利用できる、黒塗りのクラウンセダンのリアシートに乗り込む。
 そのタクシーでおよそ30分ほど揺られると、ホテルに到着した。
 平日ながら、今日はそこそこ宿泊客がいるらしく、来客用の駐車場にはそれなりの車の台数が止まっている。
 タクシーはホテルの敷地内に入り、ロータリーを回って、正面エントランスの前に着いた。

 愛原「領収証、お願いします」
 運転手「かしこまりました」

 ここでの費用は立替払いである。
 私は財布から現金を取り出すと、それで料金を払った。
 もちろん、領収証を貰うのは忘れない。

 上野利恵「愛原先生、お待ちしておりました!」

 女将専任だった頃は着物姿がメインだった上野利恵だが、副支配人になってからは、黒いスーツを着るようになった。
 それでも、臨時に女将を兼任する時などは、たまに着物を着ることがある。

 愛原「あ、ああ。突然、申し訳無いね」

 タクシーを降りると、上野利恵が満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。

 愛原「例の物、金はいくら掛かってもいい。あれを1つ貰いたい」
 利恵「かしこまりました!ご案内させて頂きます!どうぞ、こちらへ!」

 利恵は私と高橋をホテル館内へと招き入れた。
 この間、高橋はパーカーのポケットに手を入れて、いつでもマグナムを発砲できるように準備していた。
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“私立探偵 愛原学” 「北関東トンボ返り」

2024-06-17 20:23:35 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日13時44分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR(東日本)東京駅]

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうごさいます。次は、神田に、停車します〕

 私達を乗せた山手線電車が東京駅に到着する。
 賑やかな発車メロディを背に、コンコースに下りる。
 さすが巨大ターミナルの1つということもあり、コンコースは多くの乗客で賑わっている。

 愛原「リサなら、『駅弁買うー』とか言って、駅弁屋に寄ろうとするんだろうな」
 高橋「今日はうるさくなくて良かったっスね。酒とつまみも、買い放題っスよ」
 愛原「おいおい。今回は仕事の出張なんだから、それはダメだよ」
 高橋「まだ、腹空かないっスか?」
 愛原「お前が食べる分には、別にいいよ?」
 高橋「冗談っスよぉ……」

 新橋駅で買った新幹線のキップを片手に、新幹線乗換改札口を通過する。

 愛原「21番線だな。自由席だから、少し早めに行って並んでいよう」
 高橋「先生、俺、一服してきていいっスか?」
 愛原「いいよ」

 喫煙所はホーム上にある。
 トイレはコンコース内。
 エスカレーターでホームに上がり、喫煙所のある1号車付近へ。
 途中の自販機で、私はお茶を買った。
 腹は空いていないので食べ物は必要無いだろうが、飲み物は持っておいた方がいいだろうと思い、ペットボトルを購入しておいた。

 

〔「今度の21番線の電車は、14時12分発、“やまびこ”211号、仙台行きです。終点仙台まで、新幹線各駅に止まります。……」〕

 高橋「じゃ、行ってきます」
 愛原「ああ」

 高橋は喫煙所に行き、私は乗車口の列に並んだ。
 中途半端な時間で、各駅停車ということもあり、そんなに待ち客はいなかった。
 発車の時間まで、まだ少しあるというのも理由だろう。
 リサが心配するといけないので、列車が来るまでの間、私は彼女にLINEを送っておいた。
 まだ、授業中のせいか、すぐには返信は返って来なかった。
 まあ、当然だろう。
 あくまでも、ただのお知らせである。

[同日14時12分 天候:晴 JR東北新幹線211B列車1号車内]

 しばらく待っていると、上野方向から回送列車が入線してきた。
 どうやら折り返し運転ではないらしい。
 10両編成のE5系電車だった。
 “はやぶさ”用の車両であるが、今では“やまびこ”はもちろん、“なすの”にも使用される。
 先に列車に乗り込み、2人席を確保していると、高橋が戻って来た。

 高橋「お待たせしました」

 そう言って、私の隣の通路側に座る。

 愛原「お前はいつもギリギリだなー」
 高橋「サーセン。新幹線ん中は、もうタバコ吸えないんで、なるべく吸い溜めしときたくて……」
 愛原「そうかい」

 恐らく、那須塩原駅に着いても吸いたがるんだろうな。

〔「お待たせ致しました。14時12分発、“やまびこ”211号、仙台行きが発車致します。ご乗車のお客様は、車内でお待ちください」〕

 ホームから発車ベルの音が聞こえて来る。

〔21番線から、“やまびこ”211号、仙台行きが、発車致します。次は、上野に、止まります。黄色い線まで、お下がりください〕
〔「21番線、お待たせ致しました。“やまびこ”211号、仙台行きが発車致します。ベルが鳴り終わりますと、ドアが閉まります。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください」〕

 甲高い客扱い終了合図のブザーが鳴ると、車両のドアが閉まる。
 この客扱い終了合図、かつてはジリジリベルだった。
 東海道新幹線ホームと違い、可動式安全柵は無い為、車両のドアが閉まると、列車がスーッと動き出す。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、仙台行きです。次は、上野に止まります。……〕

 私は善場係長にメールを送った。
 “やまびこ”211号で、まずは那須塩原に向かうと。
 そこまでは良かったが、係長からは、『かしこまりました。今の出張の件、リサには伝えましたか?』と、聞かれた。
 そこで私は、LINEで通知したと返信すると、『リサを刺激しない為にも、そこは黙ってておくべきでしたね』とのこと。
 私は急いでリサへのLINEを送信取消にしようと思ったが、既に既読が付いてしまっていた。

 善場「ホテル天長園へ向かうということは、上野利恵と会うということはリサも想像が付くでしょう。いくら高橋助手が一緒とはいえ、リサとしては気が気でないはずです」
 愛原「そうでした。しかし、LINEは既に既読が付いてしまいました」
 善場「リサからの返信は何と?」
 愛原「いえ、まだです。恐らく、授業中か何かで返信できないのだと思います」
 善場「承知しました。恐らく、今から愛原所長が詳しい説明をしたところで、リサにとっては言い訳されているとしか思わないでしょう。私からもリサには言っておきますし、これは私共からの正式な仕事の依頼によるものだと証明する為、依頼書を所長の事務所に送っておきます。取り急ぎ、まずはファックスで。それをリサに見せて、何とか説得してください」
 愛原「分かりました。お手数をお掛けして、申し訳ございません」
 善場「依頼書については、後ほど原本を作成してお持ちするつもりでしたので、お気になさらないでください。愛原所長は、出張に専念してください」
 愛原「承知致しました」

 というメールのやり取りをした。
 それを高橋に伝えると……。

 高橋「元はと言えば、リサが先生の命令を拒否したのが悪いんスから、あいつが先生にとやかく言えることじゃないっスよ」

 と、言ってくれた。

 高橋「俺も一緒ですから、もし向こうで女将のオバハンが先生に何かしようとしても、護衛は任せてください」

 高橋はそう言って、パーカーのポケットにしまってあるデザートイーグルをチラ見させて言った。

 愛原「それが使用されないことを祈るよ」

 私は肩を竦めた。
 全く、私も迂闊だな……。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤絵恋について」 2

2024-06-17 15:07:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日13時00分 天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 

 善場「御足労頂き、ありがとうございます。昼食後の眠い時間帯ではありますが、宜しくお付き合い願います」
 愛原「いえ、こちらこそ」

 私と高橋は、デイライトの事務所に呼ばれていた。

 善場「報告書は拝見しました。早速近日中に、調査員を現地に派遣して確認したいと思います」
 愛原「お役に立てれば、何よりです。リサが幽霊と付き合ってたことが、功を奏しましたね」
 善場「幽霊といっても、特異菌の胞子が見せていた幻覚ですね」

 東京中央学園に長らく蔓延っていた怪奇現象の数々は、登場人物が人間のみの話を除いて、全てが特異菌による幻覚のせいだと分かった。
 その菌床は旧校舎(現・教育資料館)にあると分かり、現在は滅菌がされている。
 リサがTウィルスから特異菌に、Gウィルスのエサを変えることとなったのもそのせいだ。

 善場「できれば、リサの白い仮面をお借りしたいのですが、宜しいでしょうか?」
 愛原「私は構いませんが、あれはリサの物なので、リサに聞いてみませんと」

 恐らく、実際にその白い仮面を斉藤早苗に被せてみて、本人かどうかを確認するのだろう。
 現時点では、まだ『同姓同名のそっくりさん』程度のレベルでしかないからだ。
 私はスマホを取り出すと、リサにLINEを送ってみた。
 幸いまだ昼休み中のせいか、すぐに返信が返って来た。
 私の頼みだから2つ返事でOKしてくれる物だと思っていたが、意外にも、『何に使うの?』という質問が返って来た。
 そこで私が正直に、デイライトが使いたいと返信したところ、『他の女に着けさせるんだったら貸さない。あれはわたしの物』と、拒否してきた!

 高橋「ほお……!先生の御命令を拒否するとは、いい度胸だなぁ!」

 高橋は、対BOW用に所持を許可されているデザートイーグルを取り出した。
 もっとも、リサはこれを頭に被弾しても死ぬことはない。
 体内に宿したGウィルスが、即座に回復させるからだ。
 Gウィルスのワクチンはあるのだが、あくまでも胚を植え付けられ、完全に体を乗っ取られる状態になるまでの措置だ。
 今、Gウィルスを完全に除去できる技術は無い。
 日本アンブレラは、アメリカの本社が危険過ぎるとして放棄した研究を独自に引き継いで、Gウィルスの研究を続けている。
 その責任者に白井伝三郎が就いたのが運の尽きだった。

 愛原「リサには効かないよ」

 リサに対する最大の脅しは、『研究所送りにする』『私に嫌われる』である。

 善場「それでは天長会の本部に買い付けに行きましょう」
 高橋「ありゃっ!?」

 あっさりとした善場係長の反応に、高橋がズッコケた。

 高橋「いいのかよ!?リサのヤツ、命令拒否したんだぜ!?」
 善場「別に命令ではなく、ただの『協力依頼』ですから。たまたま今回は、強力を得られなかったまでです」
 愛原「確か、ホテル天長園の売店に、お土産用の仮面が売られていたみたいです」
 高橋「信者以外の誰が買うんだよって感じのヤツですね」
 愛原「そう。まあ、元々ホテル天長園は、天長会の信者の研修道場として建てられたのが始まりだったからな。それが一般にも開放されただけで……。係長、何でしたら、私達が買い付けに行ってきましょうか?」
 善場「今からですか?それは助かりますが……」
 愛原「リサが命令拒否したお詫びでもあります」
 善場「ありがとうございます。費用に関しては、全てこちらで持ちますので、領収証を取っておいてください」
 愛原「分かりました。こうしちゃいられない。まずは、電話してみよう」

 私は自分のスマホを取り出すと、ホテル天長園に電話した。

 上野利恵「お電話ありがとうございます。ホテル天長園でございます」
 愛原「あっ、利恵か!俺だ!愛原だ!」
 利恵「愛原先生……運命のお電話ありがとうございます……
 愛原「誰が運命だw リサに殺されるぞ!」
 利恵「失礼致しました。先生のお電話が、あまりにも嬉しくて……」

 電話の向こうから、妖艶な息遣いが聞こえて来る。
 まるで、これから『致す』かのようだ。

 愛原「ちょっと聞きたいことがあるんだが、そっちに天長会信者向けの物販コーナーがあるだろ?」
 利恵「はい、ございますが……」
 愛原「そこに『最も危険な12人の巫女達』が着ける儀式用の仮面があるだろ?」
 利恵「あくまでも、お土産用のレプリカですよ?もしもリサお姉さま用にあつらえるのでしたら、会の方へ正式に……」
 愛原「いや、ただの確認用だから、レプリカで十分だ」

 そう言いつつ、本当にそれで良いのか、私は善場係長の方を見た。
 係長は首を縦に振った。

 愛原「それを1つ、これから買いに行く!用意しててくれ!」
 利恵「今からですか?ご宿泊は……」
 愛原「いや、買ったらすぐに帰るから宿泊の予約はいい!バレたらリサに殺される!」
 高橋「電撃か火あぶりか、もしくは引っ掻きや噛み付きもあるんで……フルコンボっスね」
 利恵「なるほど。リサお姉さまを怒らせたら怖いですものね。かしこまりました。それでは、仮面をご用意してお待ちしております」
 愛原「悪いな!それじゃ、今から行くから宜しく!」

 私は電話を切った。

 愛原「よし、行こう!」
 高橋「はい!」
 愛原「係長、早速行って参ります!」
 善場「宜しくお願いします。その間、こちらは調査員を選定しておきますので」

[同日13時39分 天候:晴 同地区内 JR新橋駅→山手線1364G電車・最後尾車内]

 私達は準備を整えると、新橋駅に向かった。
 新橋駅には“みどりの窓口”もあるが、指定席券売機もある。
 そこで、東京駅から那須塩原駅までの新幹線のキップを買った。
 このキップで、新橋駅から在来線電車に乗ることも可能。
 乗車券は『東京』ではなく、『東京山手線内』になっているからだ。
 これは書いて字の如く、東京の山手線の駅とその内側のJR駅ならどこでも乗り降りして良いという意味だ。
 当然、山手線が通っている新橋駅も含まれる。
 それならばと、東京駅までは山手線で向かうことにした。

〔まもなく6番線を、電車が通過致します。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。京浜東北線の快速電車は、当駅には停車致しません。山手線の電車を、ご利用ください〕

 土休日問わず、昼間は京浜東北線は全電車快速となり、新橋駅には止まらないからである。
 但し、東海道線や横須賀線は快速であっても停車する。

〔まもなく5番線に、東京、上野方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 山手線は各駅に止まる為、こちらに乗車する。

〔しんばし~、新橋~。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に、停車します〕

 新幹線への乗り換えを考慮して、ここでは後ろの車両に乗り込む。
 平日とはいえラッシュ時間以外の昼間ということもあり、電車は空いていた。
 グリーンとグレーの柔らかい座席に腰かける。
 すぐに発車メロディがホームに鳴り響く。

〔5番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 ホームドアと車両のドアが閉まり、電車が動き出す。
 尚、車掌は若い女性である。
 私がそちらの方を気にしていることに高橋は気づいたか、ツッコミを入れてきた。

 高橋「ヤンデレリサにバレたら、東京に帰れなくなりますよ?」
 愛原「おっと……」

〔次は有楽町、有楽町。お出口は、左側です。地下鉄有楽町線と、地下鉄日比谷線はお乗り換えです〕

 高橋「先生、夕食はどうします?」
 愛原「あー、そうか……。夜までに帰るつもりだが、夕食には間に合いそうにないな」
 高橋「そうですね。パールに、『夕食は要らん』とLINEしておきますか」
 愛原「か、もしくは『遅くなる』という風にしておくか」
 高橋「腹減りません?」
 愛原「新幹線の中で、何か摘まんでもいいだろう」
 高橋「買った仮面はどうするんスか?」
 愛原「明日の朝一、事務所に取りに来るそうだから、それまで預かってて欲しいそうだ。今回の費用、領収書なんかもその時に受け取るそうだ」
 高橋「そういうことっスか。じゃあ、パールには『夕飯は遅めで』ってLINEしときますね」
 愛原「頼むよ」
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤早苗について」

2024-06-16 20:51:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月11日19時00分 天候:曇 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階]

 いつもより1時間遅い夕食が始まる頃、1時間ほど降り続いた雷雨が止み始めた。

 

 リサ「あー、お腹空いた」

 後から3階に下りて来たリサは、ブルマ姿になっていた。
 私の気を引く為らしい。
 そういえば中等部代替修学旅行の時も、『魔王軍』の部屋だけその恰好をしていた。

 リサ「あっ、先生。エレンからLINEが来たよ。今度は大丈夫みたい」
 愛原「どれどれ……」

 私がリサからスマホを受け取ると……。

 
(イラスト拝借。https://x.com/777_shintaより、『しんた』様)

 愛原「何で体育の時の写真しか無いんだ?」
 リサ「何でだろうね?自分はブルマが恥ずかしいとか言ってた癖に、わたしや他の女子のブルマを見るのは喜んでたんだよ」
 高橋「さすがは変態レズビアンガキだ」
 パール「まあ、LGBTのBな私らもヒトのことは言えないけどね」
 愛原「えーと……、写真左のショートカットのコが斉藤早苗さんだね?」
 リサ「そうだね」
 愛原「髪型はリサに似てるな。それで絵恋さん、少し気にしてるのかな?」
 リサ「どうだろうね」
 愛原「しかも、斉藤早苗さんの体操服、色が違うな……」
 リサ「沖縄中央学園では、そっちがむしろ本当の色だよ。あそこ、スクールカラーが『青』だから」
 愛原「なるほど、沖縄らしい」

 ブレザーもネイビーブルーであるという。

 愛原「で、『魔王軍沖縄支部』は空気を読まずに東京中央学園のスクールカラーである緑を持ち込んだと?」
 リサ「まあ、そういうことだね」
 愛原「『魔王軍沖縄支部』はともかく、どうしてそうじゃない斉藤早苗は当時のブルマを穿いてるんだ?沖縄中央学園も、表向きブルマは廃止になってるだろう?」
 リサ「『魔王軍』に興味があるからってことで、同じ格好をしようとしたみたいだね。で、今は緑色のブルマと体操服を買って、それを着てるんだって」
 愛原「学校的にはOKなのか?」
 リサ「沖縄中央学園はブルマ廃止と同時に、規定の体操服自体も廃止したんだって。だから、体育の時は皆して好きなジャージを着るらしいよ。でもそれだと問題があったみたいで、一応、学園の標準的な体操服は売ってるみたい。それでもさすがにもう、ブルマは無いと思うけど。ブルマ着用が禁止されたわけじゃないから、別に穿いててもいいみたい」
 愛原「なるほどな」

 因みに言っておくと、東京中央学園と沖縄中央学園は姉妹校の提携は結んでいるが、同じ学校法人というわけではない。
 他にも仙台中央学園の『青緑』、東海中央学園の『オレンジ』もある。

 リサ「青もいいよね。『沖縄中央学園は青でいいんじゃない?』って言っとこうかな」
 愛原「また買い直すの大変だろうが」
 リサ「うん。青いブルマはまだ持ってないな。もし沖縄中央学園で売ってるんなら、お土産に買って行ってみよう」
 愛原「沖縄旅行のお土産w ってか、沖縄中央学園の中、入れるのか?」
 リサ「姉妹校交流イベントがあるのが、他の学校の修学旅行とは違う点」
 愛原「そうなんだ」
 リサ「北海道に行く年は、北海道中央学園に行くんだよ」
 愛原「北海道中央学園もあるのか」
 リサ「姉妹校でね。でもあそこ、ブルマが無い」
 愛原「そりゃこの御時世、廃止が当たり前なんだし、向こうには『魔王軍』も無いんだから、復活なんかせんだろう」
 リサ「そうじゃなくて、元々ブルマが無いんだって」
 愛原「元々?それって、昔からってこと?」
 リサ「そう。最初から。ジャージしか無いんだってさ」
 愛原「なるほど。北海道は寒いから、ブルマじゃ寒いのか」

 短い夏の間だけとか、或いはスカートの下に穿く用としての需要くらいは有りそうなものだが……。

 リサ「そういうことか。わたしは暑いんだけどね」
 愛原「そりゃBOWは体温高いからな。分かった。じゃあ、この顔写真を善場係長に送っておこう。このコに関して、何か詳しいことは分からんのかね?どこに住んでるのかとか、東京にいたことあるのかとか……」
 リサ「違うクラスのコだから、あんまりそこまで分からないみたいだよ。まあ、私から詳しく聞いておくように、後でLINE送っとくよ」
 愛原「宜しく頼む」

 差し当たりまずは、この画像を私のスマホに送ってもらうことにした。

 リサ「この画像で変なことしちゃダメだよ?w」
 愛原「あ、あくまでも報告用の画像だ!」
 リサ「ブルマ穿いた女子高生なら、ここにいるからね?」
 愛原「分かった分かった!」
 高橋「先生、早く食べないとホッケが冷めちゃいますよ?」
 愛原「おっと、そうだった!」

[同日20時00分 天候:晴 同地区内 愛原家4階・愛原の部屋]

 食事が終わると私は部屋に戻り、そこのノートPCで善場係長にメールを送っていた。
 リサから転送してもらった画像を添付し、斉藤早苗の顔写真を送る為だ。
 今はもう夜だが、恐らく明日、出勤してきた善場係長がメールを開いて確認してくれるだろう。

 リサ「おー、もうすっかりいい天気」

 リサは私の部屋にいた。
 窓を開けて、夜空を眺めている。
 いつもはカラッとした空気だが、今夜はゲリラ豪雨があったせいか、少しジメッとしている。
 しかし、空は嘘みたいに雲が殆ど無くなり、月が出ていた。
 ジメッとはしているが、やはりまだ4月も中旬に入ったばかりだからだろう。
 少しヒンヤリしていた。
 リサにとっては、涼しい風なのだろう。

 愛原「満月をあまり眺めるなよ?オマエは暗示に掛かりやすいんだから、満月を見て暴走する恐れがある」
 リサ「大丈夫。今は三日月だよ」
 愛原「よし、こんな所でいいか。送信っと」
 リサ「ねぇ、後でそのパソコン貸して?」
 愛原「何でだよ?オマエ、自分用のが部屋にあるだろ?」
 リサ「ううん。先生の『秘蔵エロ動画』観たい」
 愛原「ダメだ、こら!!」
 リサ「ケチー。エレンと斉藤早苗のエロ画像は保存したくせに」
 愛原「あのなぁ。元々ブルマは正式な女子の体操服であって、別にエロアイテムでも何でも無かったんだぞ?」
 リサ「知ってるよ。……ん?」

 その時、リサは私のPCの画面に映る2人の少女の画像を見た。

 リサ「この斉藤早苗って……もしかして……」
 愛原「知ってるのか?」
 リサ「ねぇ。このコだけ、もう少し拡大できる?」
 愛原「ああ。やってみよう」
 リサ「お願い」

 私が画像を拡大している間、リサは自分の部屋に戻って行き、そしてすぐに戻って来た。
 手には、白い仮面を持っている。
 宗教法人天長会の『巫女』が着ける白い仮面だ。
 目の部分に2つの横長の切れ目があるだけで、あとは白い面だけとなっている。
 リサが持ってきたのは、小さい方の仮面だった。
 リサは小学生の頃からその仮面を着けさせられている。
 あれから割と体が成長したリサには、今はその仮面はサイズが合わない。
 そこで天長会が、今のリサのサイズに合う仮面を用意してくれた。
 前の仮面は日本アンブレラに関する証拠品として、今もリサが預かっている。
 その仮面を拡大した斉藤早苗の顔に当ててみた。

 リサ「やっぱり!“トイレの花子さん”そっくり!」
 愛原「なにぃっ!?すると、やっぱりこのコは……!?」
 リサ「白井が乗っ取っているかもしれないって言う、斉藤早苗で間違いないかも……!」
 愛原「でかした、リサ!これも併せて係長に報告だ!」
 リサ「エヘヘ……役に立った?」
 愛原「立った立った」
 リサ「じゃあ、キスして?」

 リサは自分の唇を指さした。

 愛原「とりゃっ!」

 私は急いでリサの唇にキスしてやった。

 リサ「きゃあー!し、し、しあわせぇぇぇぇぇぇっ!!」

 リサは鬼形態に戻ると、私のベッドに背面ダイブし、バタバタと悶絶したのだった。
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