報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「深夜の逃走劇」

2024-12-15 20:52:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月14日22時00分 天候:雨 埼玉県さいたま市中央区本町西 イオンモール与野]

 パールの先導でイオンモール与野に着く頃、雨が降り出して来た。
 逃走には不利な天候だが、それは追跡者にとっても同じこと。

 リサ「もう閉店じゃない!?」
 愛原「そのようだ」
 パール「1番夜遅くまで営業しているレストランフロアでも、22時までらしいので」

 その為、出てくる客の方が多いのだろう。
 もっとも平日ということもあり、出てくる客自体もそんな多くない。

 パール「どうします?これでは身を隠せる場所なんて……」
 愛原「と、なると、駅に向かった方がいいか……」
 パール「駅ですか?」
 愛原「大宮駅まで、直に行くんだよ」

 私はタクシーを指さした。
 このモールには駐車場内にバス停は無いが、タクシー乗り場はある。
 閉店時間に出てくる客を捕まえようとしているのか、3台ほどのタクシーが客待ちしていた。

 愛原「大宮駅なら人も多いから、BSAAも迂闊なことはできない。住宅街で大騒ぎしたから、顰蹙を買っただろうしな」

 いくらBSAAに日本地区本部隊があるとはいえ、そこは国連軍の一派であるBSAAだ。
 今の国際連合は、第二次世界大戦の戦勝国ばかりが常任理事国の席を独占し、未だに日本を敗戦国扱いしている。
 戦勝国の常識として、『敗戦国には何をしても良い』というのが頭の片隅にある為、BSAAも日本国内では自由に活動して良いと思っている節がある。
 でも、日本地区本部隊だろ?と思うところだが、所属は極東支部とはいえ、実際には北米支部が主導で動くことが多い。
 訓練生のレイチェルが軍用ヘリに乗っていたのが好例だ。
 もちろん直接ヘリを操縦はできないだろうが、リサを追う為と称して駆り出されたものと思われる。

 愛原「ただでさえ、沖縄じゃ、サヨクがうるさいんだ。埼玉もどちらかというとサヨク地域だから、あれ以上、米軍肝煎り軍隊が好き勝手やったら黙っちゃいないだろうさ」
 パール「なるほど……」
 愛原「というわけで移動だ」

 その前に善場係長にもう1度掛けてみたが、やはりコールが鳴り続けるだけで、やはり出ない。
 これは何かおかしいと私は思った。
 それでも、まずは移動しなければ。
 私達はタクシー乗り場のタクシーに乗り込んだ。
 幸い、トヨタのジャパンタクシーだったので、後ろに3人乗ってもそんなに狭くない。
 また、スライドドアの窓とリアガラスの窓にもスモークが貼ってあるので、夜間は外からも目立たないだろう。

 愛原「大宮駅まで、お願いします」
 運転手「大宮駅までですね。西口で宜しいですか?」
 愛原「はい、西口でお願いします」
 運転手「分かりました」

 車が走り出す。
 22時を過ぎていたので、種別表示は『割増』となっている。
 雨が降り出している為か、タクシーはワイパーを使用していた。
 真ん中に座っているのはリサだが、リサはマスクを着けて、パーカーのフードを被っている。
 それにしても……と思う。
 リサの事はGPSで追えるはずである。
 こうしてタクシーでイオンモールの外に出て公道に出た途端、車を止められるのではと思ったが、そんなことは無かった。
 多分、斉藤家にいる私達をピンポイントで押さえることができたのは、GPSのおかげだろう。
 しかし、リサをGPSで追えていないというのはどういうことだろう?

 愛原「リサ。リサのスマホって、電源入ってる?」
 リサ「もちろん」

 リサはスマホを見せてくれた。
 確かに、ちゃんと電源が入っている。
 それでなくても、リサにはアクセサリー型のGPSを渡されており、これを必ず着けるように言われている。
 それもちゃんと着けていた。
 故障したわけではないだろう。
 故障したりバッテリーが上がったりしたら、それはそれでアラームが鳴ることにはなっている。
 一体、何が起きているのだろう?

 パール「先生。このまま帰京しますか?」
 愛原「そうだな……。いや、やめておこう。俺が容疑者なんだとしたら、この分だと、事務所もやられてるな。一旦は市内に泊まって様子を見よう。ちょっと、今から宿泊できる場所を探してみよう」
 パール「はい」

 私はスマホを取り出した。
 ネットは普通に使える。
 メールもできるし、LINEも使える。
 だから、このスマホのせいではないのだ。
 BSAAは何の偽情報に踊らされているのだろう?
 それとも、私達が偽情報に踊らされているのか?
 何だかよく分からない。

[同日22時20分 天候:雨 さいたま市大宮区錦町 JR大宮駅]

 平日の深夜帯ではあるが、雨が降っているということもあり、駅前周辺はやや道路混雑していた。
 それでもタクシーは、何とか西口のタクシー乗り場に到着することができた。
 乗り場と降り場が一緒になっている。
 一応、降りる場所周辺を確認したが、私達を待ち構えていそうな人物は見受けられなかった。

 愛原「フム……」
 運転手「ここで宜しいですか?」
 愛原「あ、はい。ここで」

 乗降場には屋根があるので、雨が降っていても傘は要らない。
 料金を払って領収証をもらい、それからタクシーを降りた。
 後ろに積んだ荷物も降ろす。

 愛原「取りあえず、駅の中に入ろうか」
 パール「はい」

 東西自由通路は2階にある。
 そこまではエスカレーターがあるので、それで2階に上がった。

 リサ「どこに泊まるの?」
 愛原「普通のホテルが空いてないもんで、カプセルホテルになっちゃったよ」
 パール「それでは、あまりゆっくりできませんね」
 愛原「取りあえず、今夜、夜明かしできる場所の確保という意味だな」
 パール「女性も泊まれるのですか?カプセルホテルだと、男性専用という所が多いようですが……」
 愛原「大丈夫。ちゃんと予約できたぞ」
 パール「それなら安心ですね」
 愛原「ああ」

 深夜帯でもまだ多くの人が行き交うターミナル駅。
 東口に出る。
 東口には、階段で1階に下りた。
 タクシープールが併設されたバスロータリーに出る。
 そこで電話ボックスを見つけた。

 愛原「……ちょっといいかな?試してみたいことがある」
 リサ「ん?」

 私は雨が降る中、電話ボックスに飛び込んだ。
 そこで私は受話器を上げ、百円玉を入れて、善場係長のケータイに掛けてみた。

 ???「はい、もしもし。どちら様でしょうか?」
 愛原「えっ!?」

 善場係長のケータイの番号に掛けたのに、何故か出たのは男性だった。
 それも、部下の白峰主席の声でもない。

 愛原「えっ、えっと……NPO法人デイライト東京事務所の善場優菜係長の携帯電話ではないのですか?」
 ???「そうですが、あなたの名前は?」
 愛原「私は愛原学と申します。デイライト東京事務所から、探偵業務を委託されている探偵業の者です。そのデイライトさん側の担当が、善場係長です」
 ???「そうですか。私は静岡県警富士宮警察署の秦と申します」
 愛原「警察ぅ?警察の方がどうして!?」
 秦「富士宮市郊外で起きたバイオハザード事件に際し、デイライトの関与が疑われているので、関係者を任意で聴取しているところです。あなたも聴取を……」

 すると電話の向こうから……。

 善場「ですから、さっきから何をワケの分からないこと言ってるんです!?こちらの捜査を妨害した廉で、県警本部に抗議しますよ!?」
 白峰「公安調査庁に確認してくださいとさっきから!」

 と、善場係長達の怒号が聞こえて来た。
 ええっ!?
 す、すると善場係長達、警察に拘束さるてるぅーっ!?
 こ、これは一体、どういうことなんだ!?
 一体、何が起きてるんだ!?

 秦「まずは最寄りの交番に……」
 善場「愛原所長!警察に協力する必要はありませんから!!」
 白峰「公安調査庁の捜査を妨害する気か!?」

 私は思わずガチャンと電話を切った。
 こ、これはもしかして、何日も逃走しなきゃいけないパターン???
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“私立探偵 愛原学” 「夜の逃走劇」

2024-12-15 16:10:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月14日21時30分 天候:曇 埼玉県さいたま市中央区上落合某所 斉藤家]

 私は何度か善場係長のスマホに掛けてみたが繋がらなかった。
 コールはしているが、出ない状態である。
 よほど何か忙しいのだろうか?
 静岡で、新たな何かが見つかったのかもしれない。

 愛原「電話に出ない。しょうがないから、また後で掛ける。取りあえず一旦、ここを出よう」
 パール「はい」

 ところがだ。
 家の前を車が止まる音がした。
 それも普通乗用車の類ではなく、大型車の類。
 それも、何台もだ。

 愛原「ん?」

 私がカーテンの隙間から外を覗くと、家の前の細い道を何台もの装甲車が占拠している。
 その車体には、BSAAの表記が見て取れた。

 愛原「BSAAだ!……そうか!彼らも、斉藤社長の足跡を嗅ぎ付けて来たんだ!」

 と、この時はそう思っていた。
 なので私は、ここで手に入れた情報をBSAAに提供してあげようと思った。
 ……のだが!

 BSAA隊長「開けろ!BSAAだ!ここにいることは分かっている!無駄な抵抗はやめて出て来い!従わない場合は、安全の保障はできかねる!」
 愛原「んん!?」

 まるでここに、BSAA手配犯がいるかのような言動だ。
 まさか、この家の中に誰か隠れているのか!?
 だが、どうやら違うようだ。

 BSAA隊長「探偵の愛原学!オマエにはバイオテロ加担の容疑が掛かっている!!ここに潜伏していることは分かっている!無駄な抵抗はやめて……」
 愛原「はいーっ!?」

 な、何の事だ!?

 リサ「せ、先生!?これってどういうこと!?」
 愛原「わ、分からん!」

 私はもう1度、善場係長に電話を掛けた。
 だが、やはり繋がらない。

 パール「もしかしたら、ハメられたのかもしれませんね」
 愛原「ハメられた!?誰に!?」
 パール「それは分かりませんが、このままだと、何の言い分も聞かれずに逮捕されてしまいます。デイライトの人達と連絡が取れるまでは、何とか逃げた方がいいかもしれません」
 愛原「ま、マジか……。でも、どうする?1階は包囲されてるぞ?」
 パール「大丈夫です。秘密の地下通路を知っています。そこからなら脱出可能かと」
 愛原「そ、そんなものがあったのか!」
 パール「御主人様は、いずれ逮捕されることを覚悟されておられたのかもしれません。急ぎましょう。こっちです」

 私達が書斎を出た時だった。
 上空からサーチライトを照らしたヘリコプターまで現れた。

 レイチェル「リサの裏切り者ーっ!!」

 ズコーッ!!

 リサ「わ、わたしまで!?」

 ヘリにはレイチェルも乗っているのか、そこのスピーカーからレイチェルの叫び声がした。

 パール「すると、私も指名手配ということですね?上等です!」
 愛原「ぱ、パール!『切り裂きパール』の目付きに戻ってるぞ!?」

 幸いなのは、廊下は真っ暗なこと。
 おかげで、外側から私達がどこにいるか分からないということだ。
 それにしても不思議だ。
 いきなりBSAAが捕まえに来るなんて、一体どういう情報が飛んでいるのだろう?
 リサが暴走したというわけではない。
 もしそうなら、とっくにアプリがアラームを鳴らしている。
 大体、善場係長が電話に出ないなんて……。

 パール「このエレベーターで地下まで下ります」
 愛原「分かった」

 私達は先ほどのホームエレベーターに乗り込んだ。
 廊下が真っ暗なだけに、エレベーターの籠内の照明がとても眩しい。
 パールはポケットの中から小さな鍵を取り出すと、それでエレベーターのスイッチボックスの蓋を開けた。
 それで何かボタンを操作すると、地下1階のボタンの横に、地下2階のボタンが現れる。
 パールはそのボタンを押した。
 エレベーターのドアが閉まり、ゆっくりと下に下りて行く。

 愛原「地下2階なんてあるのか!?」
 パール「表向きは倉庫ということになっていますが」

 因みに地下1階はガレージと使用人控室(メイドが泊まり込む部屋と、お抱え運転手が泊まり込む部屋)、そして小さなジムやプールがある。
 真っ暗な2階を通過すると、たまたまヘリから照射されたライトが窓を通して直撃した。
 そして、上昇して行った。
 この家にも屋上があり、そこにヘリ隊員がロープか何かで降下するのかもしれない。
 そして、1階を通過した時、ついに玄関が破られて、地上部隊が突入してきた。

 BSAA隊長「いたぞーっ!!エレベーターだ!!」
 愛原「うわ、バレた!!」

 隊員達がエレベーターに駆け寄って来てエレベーターのボタンを押すが、既にエレベーターは1階を通過した後だった。
 上からドアをドンドン叩いたり蹴ったりする音が聞こえる。
 そして地下1階を通過するが、頑丈なシャッターを何とか破ろうと、向こう側で努力している音が聞こえるだけだった。

〔地下2階です〕

 そして、エレベーターは地下2階に到着する。
 そこも真っ暗だった。
 人の出入りが無いのか、黴臭い。
 エレベーターを降りると、パールは籠内にあるエレベーターの操作盤を何やら触っていた。

 パール「これで、上でボタンを押していても、しばらくエレベーターは動きません」
 愛原「そ、そうか!」
 リサ「で、でも階段で追って来たりしたら……」
 パール「大丈夫です。こちら側に階段はありません」
 愛原「そういうことか……。で、秘密の通路はどこだ?」
 パール「こちらです」

 倉庫の照明を着けて奥へ進むと、壁の下に通気口のような物があった。
 屈めばようやく通れる大きさだ。
 パールはそのグレーチングを外した。

 パール「こちらです」
 愛原「通気口に擬態しているとはね……」
 リサ「BOWになった気分……」
 愛原「いや、BOWだろ」
 リサ「おっと!」

 私達は通気口の中に入った。
 狭いのは入口だけで、あとは私の身長なら、何とか立って進める程度の高さになる。
 幅も大人1人分の幅といった感じだった。
 照明も所々に工事現場で使われる『チューリップ』が点灯している。

 愛原「どこまで続いてるんだ?」
 パール「上落合公園の公衆トイレです」
 愛原「おいおい!公園は公共設備だぞ?よくそんな勝手なことできたな!?」
 パール「御主人様は地域の名士でしたから、公園整備の費用も自治体に寄付していたそうです。公衆トイレの整備費用も私費で御寄附されていたとのことで、それである程度『お好き』にできたのではないでしょうか?」
 愛原「はー……さすがだな」

 そんなことを話しているうちに、上に上がる梯子を見つける。

 パール「私が様子を見て来ます」
 愛原「ああ」

 パールが先に梯子を上がり、マンホールに模した蓋を開けた。

 パール「……大丈夫です。公園にまでは、彼らは展開していないようです」
 愛原「よし!」

 私とリサは急いで地上に出た。
 公園越しに、住宅街側の道路を見ると、大騒ぎになっているのが見えた。

 パール「これから、どうされますか?」
 愛原「この様子では、北与野駅に向かうのは危険だろう。この近くに、イオンモールがあったな。取りあえず、そこに逃げ込もう」
 パール「かしこまりました」

 イオンモールなら、斉藤家とは反対方向だ。
 私達はそこに向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の発見」

2024-12-12 20:19:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月14日20時00分 天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 北与野駅の改札口の外に出ると、確かに鍵式のコインロッカーがそこにあった。

 愛原「あった!コインロッカー!」

 埼京線の中でも小さい駅のコインロッカーだから、あまり利用者はいないようだ。
 使用中のロッカーは少なく、これまたどのロッカーなのかがすぐに分かった。

 愛原「2日分延滞か。危ねぇ、危ねぇ。危うく、明日には回収されるところだった」

 私は100円玉を投入して、ようやく鍵を開けることができた。
 中にあったのは……。

 愛原「また鍵かぁ!?」

 入っていたのは、また鍵であった。
 だが、よく見ると、鍵以外にもメモ用紙のような物が入っている。
 しかも鍵をよく見ると、今度はコインロッカーの鍵ではなかった。
 ちゃんとしたドアの鍵。

 パール「この鍵は……!」

 どうやらパールには、この鍵に見覚えがあるようだった。

 愛原「何だこの鍵は?」
 パール「私の前の職場の鍵です。そこの玄関の……鍵」
 愛原「何いっ!?すると斉藤家か!?」
 パール「はい……」
 リサ「メモ用紙、『#3110』ってあるよ?どこかの電話番号かな?」
 愛原「かもしれんな……」

 私はスマホを取り出した。
 しかし、全く繋がらなかった。

 愛原「電話番号じゃないみたいだぞ」
 パール「もしかすると、テンキーの番号かもしれません」
 愛原「そうなのか!?」
 パール「斉藤家には、テンキー式の鍵が付いている部屋がありまして、もしかしたらそれは、御主人様の部屋かもしれません」
 愛原「つまり、斉藤元社長のか」
 パール「はい」
 愛原「よし、行ってみよう」

 その前に私は、善場係長に電話を掛けることにした。

 善場「もしもし、善場です」
 愛原「善場係長、お疲れ様です」

 私は北与野駅での発見を報告した。
 さすがに、鬼の男の話はしなかったが。
 今回の業務には関係無いと判断したからである。

 善場「かしこまりました。引き続き、調査をお願いします。それと……夜遅くなるようでしたら、無理をしないで、翌日に調査を回して頂いて構いません。埼玉県内でしたら、そのまま近隣のホテルに宿泊して頂いて構いませんので」
 愛原「ありがとうございます」

 話を聞いていると、善場係長も静岡県内に一泊するとのこと。
 向こうの方が事態が深刻だからだろう。
 係長との電話が終わると、すぐに私達は斉藤家に向かった。

[同日20時30分 天候:曇 さいたま市中央区上落合地区 斉藤家]

 斉藤家は昔と変わらぬ佇まいであった。
 所有者が放棄したわけではないので、ある程度の管理は行き届いているのだろうか。
 門扉には鍵が掛かっていたが、コインロッカーの中に入っていた鍵のうち、小さな鍵で開いた。
 そして、玄関の鍵。
 玄関にも鍵は掛かっているが、これも例の鍵の大きな方で開いた。

 愛原「電気は点くのか?」

 私は玄関のスイッチを押したが、うんともすんとも言わない。
 さすがに電気は止められているようだ。
 しょうがないので、持って来た懐中電灯を照らして進む。

 愛原「斉藤元社長の部屋って、どこだ?」
 パール「3階です」
 リサ「エレンの部屋は4階だった……」

 階段を上がろうとしたが、奥にあるエレベーターの電源が勝手に入った。
 デジタル表示のインジゲーターが点灯し、籠内の照明が点灯する。

 愛原「うっ……!」
 リサ「誰か……いるの?」
 パール「とても、人の気配などしているようには……」
 愛原「とにかく、あのエレベーターに乗れってことだな。油断するなよ」
 パール「はい!」

 私はエレベーターのボタンを押した。

〔上に参ります〕

 エレベーターのドアは、普通に開いた。
 斉藤家は金持ちの家の割には、土地の面積はそんなに広くなく、その代わりに地下1階、地上4階・屋上付きという構造になっている。
 その為、ホームエレベーターが備え付けられていた。
 それに乗って3階へ向かう。
 3階に着いても廊下は真っ暗のままだったが、人の気配は無かった。

 パール「ここが御主人様の部屋です。……部屋というか、書斎ですね」
 愛原「なるほど」

 ドアの鍵は電子キーになっていた。
 それにしても、さっきのエレベーターといい、この電子キーだって電気が必要だろうに、それが使えるということは、厳密には停電していないのだろうか?
 さっき、スイッチを入れても点灯しなかったのは、停電ではなく、断線なのであろうか。
 メモに書いてある通りの番号を打ち込むと、『OK』の表示と共に、鍵が開いた。
 早速中に入る。
 窓にはカーテンが閉められており、外からの明かりは入って来ない。
 大きな机の上には、何故か金庫が置かれていた。
 本来なら床置きタイプの金庫だ。
 それが何故か机の上に置かれ、しかも金庫の後ろからは電源コードが伸びている。
 この金庫もまた、電子ロックらしい。

 愛原「これは……!」

 どうやらこの金庫は、カードキーを差し込んで開けるタイプのようだ。
 差込口には、赤いアンブレラのロゴマークが描かれている。
 つまり、ここにリサのゴールドカードを入れろということなのだ。

 愛原「リサ、ゴールドカードを!」
 リサ「はい」

 リサがコールドカードを挿入すると、金庫はそれをそのまま吞み込んでしまう。

 リサ「ちょ、ちょっと!返してよ!」

 だが、金庫の鍵はちゃんと開いた。
 開けると中にあったのは、1台のカメラ付きモニターと1枚のカード。
 それは先ほどのゴールドカードと違い、白金であった。
 つまり、プラチナカードだ。
 カードの装飾は、ゴールドカードと変わらない。
 要はゴールドカードを吞み込まれた代わりに、プラチナカードを手に入れたというわけだ。
 クレジットカードなら、ゴールドカードよりもプラチナカードの方が格上ではあるが……。

 愛原「アップグレードされたってことじゃないか?代わりにこれを持っとけよ」
 リサ「むー……」

 リサは渋々プラチナカードを受け取った。

 リサ「プラチナカードがあるってことは、ブラックカードもあるのかな?」
 愛原「アメリカンエクスプレスじゃあるまいし……」

 私は苦笑した。

 リサ「研究員、普通のカードキーは緑色をしてたよ?」
 愛原「マジか。それはアメリカンエクスプレスの一般カードだな……」
 斉藤秀樹「ここにあるよ。まあ、まだ渡す気は無いがね」
 愛原「わあっ!?」

 突然モニターの電源が入り、そこに映し出されたのは……。

 愛原「斉藤社長!?」
 パール「御主人様!?」
 リサ「エレンのお父さん!?」
 斉藤「久しぶりですね、愛原さん?」
 愛原「は、はあ……」
 斉藤「……オマエも、随分と丸くなったようだな、パール?」
 パール「お、おかげさまで……」
 斉藤「絵恋の事は残念だった。最後まで一緒に遊んでくれて、ありがとう」
 リサ「エレンを殺したのは……わたし……」
 斉藤「気に病むことはない。あの場合は仕方なかった。キミは、よくやってくれたと思うよ」
 愛原「斉藤……元社長。随分と直近の状況に詳しいようですね?」
 斉藤「色々と情報が入るものでね」

 モニタの画質はあまり良くなかったが、こうやって会話できるということは、録画ではないということだ。
 どこかの外国にいるのだろう。
 今、日本は夜なのに、斉藤元社長がいる部屋には窓があるのだが、その窓からは日光が差し込んでいるからだ。

 斉藤「そのカードは、リサ君がさっきまで持っていたゴールドカードよりも、更に上位のカードだ。これから、ゴールドカードでは開けられない施設を探索することになるだろう。その時、そのカードを使いなさい」
 愛原「斉藤さんは今、どこにいるんですか!?」
 斉藤「具体的な場所は言えないが、近日中に日本に戻るつもりだよ」
 愛原「日本に戻ってきたら逮捕されると思いますが?」
 斉藤「心配御無用。今後の身の振り方は考えている」
 愛原「プラチナカードでないと開けられない施設とは、どこですか?」
 斉藤「その情報は、近日中に愛原さんの所に入って来るでしょう。それでは、今度は日本でお会いましょう」

 ブツッと画面が消えた。

 パール「……先生?」
 愛原「取りあえず……善場係長に報告だ」

 私は自分のスマホを取り出した。
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“私立探偵 愛原学” 「埼玉に到着」

2024-12-12 14:51:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月14日19時24分 天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR東北新幹線267B列車・1号車内→大宮駅・新幹線乗り場]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、小山に止まります〕

 私達を乗せた列車は、無事に大宮駅に接近した。
 この時点では、まだ何も起こらない。

 愛原「ホームに喫煙所がある。パールは吸い溜めしてくれて構わない。俺達は待ってる」
 パール「先生?」
 リサ「先生……?」

 2人とも、意外そうに目を丸くした。

 パール「宜しいのですか?」
 愛原「大宮駅を出たら、もう吸える所が無くなるからな」
 パール「そう、ですか……」
 愛原「但し、20分以内に吸い終わってくれ」
 パール「いえ、そんなに吸いませんよ!?」
 愛原「そうか」

 列車がホームに進入する。

 リサ「先生、本当に大丈夫なの?」
 愛原「俺の予想が正しかったら、恐らくは鬼の男達はリサに追い付けない。もし追い付けたり、先回りされていたなら、やはり彼らは血鬼術でも使えるんだろうと思う」
 リサ「んん?」

 そして、列車は停車し、ドアが開いた。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。14番線の電車は、東北新幹線“なすの”267号、那須塩原行きです。“やまびこ”“つばさ”号では、ございません。“やまびこ”“つばさ”号は、次の列車をお待ちください」〕

 私達はホームに降りた。
 そして、ホーム上を歩く。
 喫煙所に向かっている間に発車のベルが鳴り、“なすの”号は発車していった。

 愛原「そこが喫煙所だ。まあ、ゆっくり吸っててくれ」
 パール「ありがとうございます……。すぐに戻ってきますよ。……マサも禁煙中ですし、私もそうした方がいいかもしれませんね」

 パールはそう言うと、喫煙所に向かって行った。
 高橋は拘置所の中だ。
 タバコなど自由に吸えない。
 ヘビースモーカーの高橋にとっては、拷問にも等しいことだろう。

[同日19時43分 天候:曇 同地区内 JR大宮駅・埼京線ホーム→埼京線1988K電車・10号車内]

 パールは5分ほどで戻って来た。
 未だに鬼の男が現れることはない。
 新幹線の改札口を出ると、特急券が回収され、ついに手元には乗車券1枚だけが残った。
 そして今度は地下のホームに移動し、埼京線に乗り換える。
 停車していたのは、東京臨海高速鉄道の車両。

〔この電車は、埼京線、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです〕
〔「お待たせ致しました。19時43分発、埼京線、りんかい線直通の各駅停車、新木場行き、まもなく発車致します」〕

 先頭車に乗り込むと、ホームから発車メロディが流れて来た。

 愛原「何だか十津川警部になった気分だな……」

 座席は虫食い状態で空いているが、隣り合って座れるほど空いているわけではなく、また、北与野駅は次の駅なので、そのままドアの近くに立っていることにした。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 そして、ドアが閉まる。
 別の鉄道会社の車両ながら、殆ど規格はJRに合わせている為か、ドアチャイムも同じ物である。
 都営新宿線の東京都交通局の車両みたい。
 ホームドアが無い為、ドアが閉まり切ると、電車はすぐに走り出した。
 副線ホームに止まっていた為、本線に出るのにポイントを通過する。
 その際、電車が左右に揺れた。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、埼京線、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 車内に自動放送が流れる。
 最近まで自動放送が無かった為、車掌が肉声放送をしていたが、今はそんなことも無くなった。

 リサ「何が十津川警部なの?」
 愛原「俺の推理が正しければ、リサは少なくとも今は、鬼の男に襲われることはない。その推理が正しいかどうか、次の北与野駅で証明できると思う。
 リサ「んん??」

[同日19時45分 天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 地下ホームから出発した電車は、ポイントを渡って上り本線に入り、速度を上げた。
 そして急坂を登り、地上に出たかと思うと、そのまま高架線まで上がる。
 ここから先、赤羽駅まで、新幹線との並行区間に入るのだ。
 その途中の北与野駅もまた高架駅である。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 北与野駅に到着し、私達は電車を降りる。
 停車時間が僅かな為、発車メロディも1コーラスも鳴らず、すぐに切られてしまう。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車はドアを閉めて、すぐに発車した。
 大宮駅同様、北与野駅にもホームドアは無い。
 りんかい線の車両が規格に合わないからだとされている。

 愛原「来たっ!」
 リサ「ん!?」

 私は新幹線の線路を見ていた。
 東京方面から、列車が接近してくる。
 それは“こまち”のE6系を前方に、“はやぶさ”のE5系を後方に連結した東北新幹線だった。
 東北新幹線に限らず、上野~大宮間を走行する列車は、全て最高速度が130kmに制限されている。
 これは在来線の最高速度と同様の速度ではあるが、新幹線でこの速度は徐行レベルだろう。
 もともと最高速度がそれに抑えられている上、停車駅の大宮駅が近いということもあり、更に速度は落としているだろう。
 だから、一介の人間の私でも確認できた。

 リサ「ああーっ!」

 11号車、つまり秋田新幹線の車両に乗っている鬼の男達の姿が。
 リサからは一応、そいつの特徴については聞いている。
 その特徴に合致する男達が乗っていた。
 向こうも気づいたらしく、窓に張り付いてこっちを見ている。

 愛原「やっぱりな……」

 窓側にはリサが気にした若い男が乗っていて、通路側には、確かに帽子を被った老人のような者が乗っていた。

 リサ「やっぱりって何!?」
 愛原「あれは多分、秋田の鬼だ。もしかしたら、太平山美樹の仲間かもしれないぞ?ちょっと聞いてみろ」
 リサ「わ、分かった!」
 愛原「多分、何らかの事情で三島辺りまで旅行に行って、その帰りだろう。あの列車で秋田に帰ったら、向こうに着くのは深夜だが、鬼ならむしろ夜の方が元気だろう」
 パール「そういうことだったんですね。でも、よく彼らが秋田新幹線に乗るって分かりましたね?」
 愛原「分かった理由は2つある。1つは、東京駅23番線。どうして彼らがピンポイントで23番線に来たか、だよ」

 

 愛原「俺達が乗った“なすの”267号の後、23番線から発車する列車は、彼らが乗っていた“はやぶさ”“こまち”43号だったからだよ。だから別に、リサを襲うつもりで追ってきたわけではないと思う」
 リサ「でもわたしを見て、物凄く反応してた。あれ絶対、わたしとヤりたい顔。鬼の男っていつもそう!」
 愛原「どちらにせよ、同行者がいるってことは、勝手な行動はできないってことだ。大宮駅で飛び降りて、ここまで追い掛けてくるなんてことはしないだろうさ」
 リサ「むー……」
 パール「もう1つの理由は何だったんですか?」
 愛原「秋田の鬼達って、上野利恵達とも交流があるらしいな。俺達がたまたま乗った“なすの”号って、那須塩原行きだっただろう?そこに行くと思っていたらしい」

 私はスマホを取り出した。
 上野利恵からメールが来ている。

 愛原「『秋田の太平山一族の鬼から、問い合わせがありました。かわいい鬼の女の子がそちらに向かったようですが、そちらの一族ですかって』ってね」
 リサ「う……利恵のヤツ、勝手に先生にメールしやがって……!」
 愛原「まあまあ。これはさすがに必要な業務連絡だよ。おかげで、推理が更に進んだんだからな。リサが太平山美樹と知り合いのおかげで、その鬼の男も勝手なことはできんだろうさ。奴らもメンツを気にするだろう?」
 リサ「むー……。後でミキに聞いてみる。どうせ、新しい金棒をもらわなきゃだし」
 愛原「もらうったって、いくらするんだ?」
 リサ「タダでいいって。その代わり、送料着払いでシクヨロって話だけど」
 愛原「タダでいいのか!?」
 リサ「なーんかね、今時金棒使う鬼なんていないから、余ってるんだってよ」
 愛原「そ、そういうもんなのか!」
 パール「鬼の世界でも、流行りとかあるんですね」
 愛原「ま、まあ、とにかくこれで解決だ。1度秋田に帰ったら、しばらくは上京できんだろう。つまり、しばらくは安全だってことさ。その間にリサは美樹に連絡して、更なる防衛線を張るんだ」
 リサ「分かった」
 パール「先生、解決したのでしたら、次はコインロッカーを」
 愛原「おっ、そうだったな。どこにある?」
 パール「確か、改札の外です」
 愛原「よし、行くぞ!」

 私達は地上にある改札口に向かって、足早に階段を下りた。
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“私立探偵 愛原学” 「鬼の男からの追跡」

2024-12-12 11:55:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月14日19時00分 天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR(東日本)東京駅→東北新幹線267B列車・1号車内]

 

 東海道新幹線から東北・上越・北陸新幹線への乗換改札口を通過する。
 ここでは3枚のキップを投入し、うち東海道新幹線の特急券だけ回収され、出口側に2枚のキップが出てくる。
 即ち、北与野駅までの乗車券と東京~大宮間の新幹線特急券である。
 これでJR東日本側へ抜けることができた。

 愛原「19時ちょうど発の“なすの”に乗ろう」

 私達はエスカレーターに乗って、23番線へと向かった。
 実はこのホーム、先ほど私達が乗って来た“こだま”号が停車したホームとは隣である。
 今はJRが違うせいか、乗り換えに少々遠回りをさせられるが、国鉄時代はもっとすんなり乗り換えができたのだろう。
 ホームに上がると、東北新幹線と山形新幹線の2つを連結した長大編成の列車が停車していた。
 どうやら、それの折り返し間合い運用のようである。
 通勤列車として運用する為か、平日の普通車は全て自由席という列車である。

〔23番線の、列車は、19時ちょうど発、“なすの”267号、那須塩原行きです。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は、9号車、11号車。自由席は、1号車から、10号車と、12号車から、16号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 私達は1番後ろの1号車に乗り込んだ。
 そして、まるっと空いている3人席に並んで座った。

〔「ご案内致します。この電車は、19時ちょうど発、東北新幹線“なすの”267号、那須塩原行きです。終点、那須塩原までの各駅に止まります。福島、仙台、山形方面には参りませんので、ご注意ください。まもなくの発車となります。ご利用のお客様は、車内でお待ちください。19時ちょうど発、東北新幹線“なすの”267号、那須塩原行きです」〕

 愛原「那須塩原行きか。最近、天長園に行ってないなぁ」
 リサ「行かなくていいからねっ!」
 パール「ホテルとしては、天然温泉があって、露天風呂もあって、温泉好きの先生向けだとマサが言ってました」
 愛原「だろォ?」
 リサ「鬼が経営しているホテルだよ!」

 ホームから発車ベルが聞こえてくる。
 東海道新幹線では発車メロディだが、それ以外の新幹線ホームではベル。

〔23番線から、“なすの”267号、那須塩原行きが、発車致します。次は、上野に、停まります。黄色い線まで、お下がりください〕
〔「23番線から、“なすの”267号、那須塩原行き、まもなく発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 そして、甲高い客終合図のブザーがホームに流れる。
 東海道新幹線だと重低音が響くブザーだが、こちらは本当に甲高い。
 ドアが閉まると、比較的すぐに列車が発車した。
 東海道新幹線と違い、こちら側には可動式安全柵が無いからだろう。
 そちらと違って、様々な編成の列車が発着するJR東日本側としては、そこまでフレキシブルに対応できるホームドアが発明されない限り、設置はできないのだろう。

 リサ「うっ!?」

 リサがホームの方を見て、びっくりする声を上げた。

 愛原「どうした!?」
 リサ「いた!鬼の男!」
 愛原「マジか!?」

 ここまで追って来たのだろうか?
 因みに『鬼の男』と言っているが、かつてリサに付き纏った鬼の男とは別人である。

 リサ「わたしを追って来たんだ……」
 愛原「本当かなぁ……?」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線、“なすの”号、那須塩原行きです。次は、上野に、停まります。……〕

 パール「どうやって、追って来たのでしょう?」
 愛原「血鬼術みたいなものを使われるとちょっとマズいな……」
 リサ「そういえば……」
 愛原「ん?」
 リサ「いたのは、鬼の男だけじゃなくて、お爺ちゃんみたいなのもいたかな……」
 愛原「お爺ちゃん?人間の?」
 リサ「分かんない。帽子被ってたから、それで角隠してるだけかもしれないし……」
 愛原「それじゃ、偶然か?」
 パール「それにしても、どうやって追い掛けて来たのでしょう?妖術か何か?」
 愛原「まさか。もしそんなものが使えるなら、とっくにリサの前に立ちはだかっているさ」
 リサ「う……ヤだ」

 私は自分のスマホを取り出した。
 それでJR東海のアプリを起動させる。
 そこから東海道新幹線の時刻表を出してみると、面白いことが分かった。
 西村京太郎ミステリーのそれとは全く足元にも及ばない簡素なトリックではあるが。

 愛原「何故その『鬼の男』達が三島駅のホームにいたのか分かったよ」

 

 愛原「俺達はずっと“こだま”に乗り続けていたが、実はあの“こだま”が発車した4分後には“ひかり”514号が発車する。その鬼の男達は、それに乗ったんじゃないかな?実際、小田原駅で通過列車があっただろ?」
 リサ「それじゃ、東京駅に先回りされてたってこと?」
 愛原「そういうことになるな」

 小田原駅では互いにその存在には気づかなかった。
 リサも、さすがに高速で通過する列車の中まで気配を察知することはできないし,それは向こうも同じだったのだろう。
 そして、東京駅では到着するホームが違ったのも幸いだった。
 私達の“こだま”は15番線に到着したが、件の“ひかり”は16番線に到着する。
 数字にすると隣同士のように見えるが、実は2本の線路を挟んで向かいのホームなのである。

 愛原「東京駅で鉢合わせにならなかったのは、俺達が急いで乗り換えたからだな。これに乗り換えて正解だった」
 リサ「でも、ホームまでは追ってきたよ?」
 愛原「そうだな。リサの気配を察知して追い掛けてきたのか、それとも……」

 鬼の男達もまた、東北新幹線などに乗り換えるつもりだったのかもしれない。
 とにかく、線路に下りて、妖術を使ってまで追い掛けて来るという無茶ぶりまではしないようだ。
 これは速やかに、現地に移動してやり過ごすしかなさそうだな。
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