プラチナデータ | |
東野 圭吾 | |
幻冬舎 |
内容(「BOOK」データベースより)
犯罪防止を目的としたDNA法案が国会で可決し、検挙率が飛躍的に上がるなか、科学捜査を嘲笑うかのような連続殺人事件が発生した。警察の捜査は難航を極め、警察庁特殊解析研究所の神楽龍平が操るDNA捜査システムの検索結果は「NOT FOUND」。犯人はこの世に存在しないのか?時を同じくして、システムの開発者までが殺害される。現場に残された毛髪から解析された結果は…「RYUHEI KAGURA 適合率99.99%」。犯人は、神楽自身であることを示していた―。確信は疑念に、追う者は追われる者に。すべての謎は、DNAが解決する。数々の名作を生み出してきた著者が、究極の謎「人間の心」に迫る。
この本は、しばらく前に家内に買ってあげたのだが、何時まで経っても読み終わらないようなので痺れをきらしてこっそり読み出したものだ。東野圭吾といえば、当世きっての売れっ子作家である。新刊だったので、大いに期待して読み始めた。
内容は、近未来の日本をSFチックに書かれたミステリー小説といっていい。DNAを国民から採取し、犯罪捜査のデータとして公然と使っていくという話である。ちょっと、実際はそこまでいってしまう事は考えられないが、本当に国民全てからDNAを採取されたら恐ろしい監視国家になってしまいそうである。読み始めたら、面白くなってどんどんページが進んだ。僅かな血液や毛髪のDNAから、その持ち主の性格やら体の特徴、人相等が全て判ってしまうという展開に戦慄を覚えた。しかも、そのDNA判定プログラムを作ったのは世間から隔離された天才兄妹で、警察庁が極秘に保護しているという。だんだんスケールが大きくなってきた展開にかなり面白くなりそうだとさらに期待が高まった。
中盤から、さらに新しいキーワードが入ってくる。二重人格者、アメリカの捜査員、謎の少女と更なる展開が期待された。だが、中盤から後半にかけては広げた風呂敷があっさり畳まれてしまった感じだ。特に魅力的なキャラクターとして現れた白鳥里沙があっけなく殺されてしまったり、「謎の少女・スズラン」が幻影であったとは、どうもすっきりとしない。キャラクターに感情移入しそうになってきた矢先にこんなふうに片付けられては実もふたもない。400ページにもわたる小説であったが、各キャラクターをもっと掘り下げて書いてくれたらよかったと思った。上下2巻にわたる大長編のほうがもっと楽しめた気がする。
この小説の題名である「プラチナデータ」とは、DNA判定システムによっても人物を特定できないようにしたデータのことである。いわゆる国家権力の側にいる人たちが犯罪を犯しても、特定されないよう加工されたデータのことなのだ。権力者が偉大な発見や発明を手にしたときは、自己の利益を抜きにして使うなんてあり得ないことを警鐘する意図があって東野圭吾氏がこのテーマを扱ったのかもしれない。
あんまり書くと、かなりのネタばれとなってしまうので止めておくが、SFと言うほどでもなく、ミステリーにしても物足らない。東野氏の作品だけあって期待度が高い分、残念だった。大きなテーマを扱っただけに、まとめるのも難しかったのかもしれない。DNAという専門的なキーワードながら、意外と読みやすい内容だったこともあるし、映画化されたら結構あたるかもしれない。