続き
鎖を頼りに登り切った先は広い砂地にケルンとハイ松だけという台地で
風だけが躍動する不思議な世界だった
人影の見られない稜線を贅沢にも独占し、ゆっくり歩を進める
(略)
無人小屋の右下には小野川湖や檜原湖など裏磐梯の湖沼が霞み
磐梯山の雄姿も素晴らしい
ふと足元に目をやると夏の名残のフーロが風に揺れていた
周囲の景色が表情を変え草木の繁茂を拒絶した荒涼とした火山地帯へと変わった
突然の様に現れた爆裂の跡 (深さ150m 直径1km余り)
火山が内包するエネルギーの凄さに足が竦む想いだった
時々足を止め「凄いね」を連発しながら登った鉄山山頂からは
彼方に安達太良山の乳首部分が一際 印象的な高みを覗かせ
左下には今日 宿泊する「くろがね小屋」が山懐に抱かれる様に建っていた
鉄山から くろがね小屋までは火山岩の間を縫いながら
時に砂礫に足を取られ火山礫に躓きながらの急下降だ
小屋が近づくにつれ辺りに硫黄の臭気が漂い始めた
雄さんは卵が腐った様な臭いだと顔をしかめるが私はこの匂いが結構、好き
傾斜が緩くなった所で私達は一息入れた。 空には入道雲が真っ青な空に高く巻き上がり
逆光を浴びたススキの穂をなびかせ岩間から流れ落ちる水は小川を作り
水面を銀色に輝かせている
3時40分、小屋到着
上では殆ど人に会う事も無かったのに小屋には沢山の人が憩っていた
温泉は千年も前に既に存在していた 江戸時代の中期には此処が岳温泉と呼ばれ
宿が10軒建ち栄えたが鉄山の大崩落により人諸共 全滅した。その後
岳温泉は幾たびか場所を変え登山口である現在の場所に落ち着いたのだと言う
小屋は隅々まで整理整頓が行き届き気持ちが良い
畳まれた布団も4隅がきちんと揃えて有り、山靴を脱ぎっぱなしにしておこうものなら
「何方の靴ですか?靴箱に入れて下さい」と注意される だが、怒鳴り散らす群馬の
有名な或る小屋番とは違い決まりを守っていさえすれば登山者への心遣いは優しい
私達が遅くになって明日の昼食を頼んだ時「お米を研いでしまったので約束は出来ない」
と言いながらも翌朝には作って置いてくれたのだ
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(後方、鉄山)
4時に目覚めた、開け放しにしておいた窓は誰が閉めてくれたのか閉まっていた
カーテンの向こうの大部屋は何人もの登山客が枕を並べていたが6畳の部屋は私達だけ
スペシャルルームだねと気を良くし身支度を済ませ小屋の外に出て見た
既に陽は昇り「抜ける様な」と言った言葉が実感される青空だった
それこそ智恵子が言った「本当の空」である
小屋の主に挨拶をし6時出発
岩と砂礫のとにかく漫然とした広い斜面を、ひたすら峰の辻に向った
峰の辻は篭山から矢筈ヶ森へ伸びている稜線上にあり此処まで来ると乳首山は
指呼の間であり、そこから延びる稜線の終わりには岳温泉からの
ロープウエイの駅も望む事が出来た
大分、長くなってしまいましたので本日はここまでとします
コメント欄は閉じさせて頂きました
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