たかたかのトレッキング

駆け足登山は卒業、これからは一日で登れる山を二日かけ自然と語らいながら自由気ままに登りたい。

思い出に残る山 ブロッケン現象を見た以東岳

2019年08月09日 | 心に残る思い出の山

続き

「オオーッ 」と言う声に窓に目を向けると西の空が淡い橙色に染まっている

私は外に飛び出て暮れゆく朝日連峰を眺めた

三角錐を誇らしげに突き上げている大朝日岳  

反対側には月山が薄墨色のシルエットで中空に浮かんでいる

夕食は絡みモチとラーメン  絡みに使った新潟の大根はヒーッと言うほど辛かった

カーテンを閉め今夜も9時まで花札  階下の団体は未だ盛り上がっている

2回では既に寝息をたてている者も居たが私達はそっと外に出てみた

今夜も満天の星、天の川は昨晩よりも鮮明である

北西にちらちら見える灯りは鶴岡市だろうか  そして東南にも朝日村の灯りが薄ぼんやりと闇に沈んでいた

まるで宇宙空間に浮いている様な錯覚の中で寒さを忘れ見入った

昨夜は途中から2階に上がって来た男性の鼾が強烈でなかなか寝付けなかった

ウトウトしただけで3時頃には目が覚めてしまった  

悩まされ続けた鼾の主の顔が見たくなってカーテンの隅から

そっと覗いたが両手で顔を覆ったまま相変わらず豪快に鼾をかいている

その内、周りがゴソゴソしたのをきっかけに、その人は下へ降りてしまったので終に顔を見る事は出来なかった

御来光を拝んで帰って来た新潟のご夫婦とガランとした小屋に中で私達はゆっくり朝食を取り

お互いの県の山の情報交換をし合ったが尽きない話にピリオドを打って7時、小屋をでた

   

以東岳山頂には大朝日岳にカメラを向けシャッターチャンスを伺っている二人のカメラマンが居るだけだった

霧間には時折り大鳥池が姿を現す

実は今回の山行で私が一番楽しみにしていたのは熊の形をしているという大鳥池を山頂から眺める事だった

「ブロッケンじゃないか?」 雄さんが興奮気味で言った

それは今にも消えてしまいそうな頼りないものだったが紛れも無くブロッケンだった

私達の影がその中央にいる  体を揺するとその影も揺れる

反対方向に板カメラマンが忙しい忙しいと言いながらブロッケンを撮りに来た

嬉しい事に段々色が濃くなってきた   果たして写っているかどうか解らなかったが

惜しげも無くフイルムを浪費しつつこの自然の不思議に目を奪われていた

 

振り向くと滝雲が稜線を舐める向こうに寒江山、その後ろには大朝日岳

そしてその遥か右方には飯豊連峰はゆったりと伸びている

一番奥にちょこんと顔を出しているのは磐梯山、蔵王連峰も広い雲海の中に在った 

熊の形をしている大鳥池

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稜線上からは昨日歩いて来たコースが半周しているのが手に取る様に見える

私達は常に月山を目の前に置いてゆっくり景色を楽しみながら下った

朝陽を受けて紅葉は昨日とはまた異なった上場を見せていた

(慶長3年、上杉景勝の臣、直江兼経が米沢、庄内間の交通路の必要に迫られ切り拓いた朝陽軍道は

葉山から大朝日岳、以東岳を経て朝日村大鳥への主脈縦走道で有ったと言う)

   

犬を連れた土地の人がキノコをビニール袋にたくさん詰めてやって来た  ナラモタシと言うそうだ

「食べてみる?」と言うので少し分けて頂きさっそく残りの野菜と共に味噌汁を作った

「それじゃぁ葱の匂いが強すぎる、まぁこれを一杯飲んでみな!」

具材はナラモタセしか入っていなかったが文句なしに美味しい

「奥さんの作ったのも美味しいですよ!」と女性が慰めてくれたが味の差は歴然

ナラモタシだけでこの味が出せるとは・・・脱帽するしかなかった

その人たちの話によると昨日、私達が通った七ッ滝沢の吊り橋の付近でキノコ採りをしていた男性が

熊に襲われたとの事である幸い帽子を撮られただけで怪我は無かったそうであるが  

泡滝ダムで声を掛けた土地の人だろうか?

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食後は七ッ滝にしようか往時を下るか思案した

“荷物を持っては絶対に入らない事”とガイドブックに記されていた事が心を乱しているのである

 小屋の管理人さんも、キノコを分けて下さった村の人も「一ヶ所 鎖場が在るが大丈夫」

その一言が私達の迷いを取り払った  「熊に気を付けて!時々声を出して歩くんだよ」

と言う言葉に送られてタキタロウ山荘を出発したのが11時45分

         

谷いっぱいに響く瀬音を聞きながら50mも歩くと先ず右手に凄まじい音を立てて豪快に落ちる大滝が見えた

垂直の岩壁を水しぶきを上げて落ちるダイナミックな滝だった

      

                                             

初めは垂直に、そして岩を噛みながら第岩壁を廻り込み次に急斜面を矢の様に走り抜けると

最後は渦を巻きながら雪崩落ちる滝が現れた

全体を見るには這いつくばるしかない パノラマに切り替えても入りきらない長さだ

対岸にはかなりの落差を持つ滝も見られたが、この滝を前にその存在を失くしている

やがて、つんざく様な水音も遠ざかると「熊に気を付けるんだよ」と言った土地の人の声が蘇った

私はその恐怖から逃れる様に昨日、今日を振り返った

大鳥小屋までの渓谷とブナ林の味わい  タキタロウ伝説がある大鳥池  

急登に耐えながら眺めた大らかな山並みを包む紅葉  アルペン的な稜線  清潔な小屋

朝日連峰の山並み  ブロッケン現象  ナラモタシの味噌汁  大瀑布が繋ぐ峡谷

熊の事は気持ちの中から遠ざかり朝日連峰の北の端をちょっとツマミ食いしただけの山の中に

これ程も全てが凝縮されていた味の良さを噛みしめていた

私達は疲れ切ってはいたが何か暖かいものを心に残し出発点に向かい歩を速めたのだった

 

   

私達が山靴を脱いだのは由良温泉

昔はここも海水浴客で賑わったそうだがプールを利用する様になった今、民宿も一つ二つと減り

特に季節外れの今は客など無い・・・と女将さんはキツイ山形弁で そんな事を言っていた

1)由良海岸でカモメと戯れる

2)笹川流れ (ここも閑散としていて人の姿は見当たらない

“笹川流れを命名した頼三陽の息子、三樹三郎は

松島にこの美観は有っても荒々しさは無い 男鹿は荒々しさだけでこの美観は無い”と語った

要するに、その二つを併せ持ったのがここ笹川流れと言う事なのだろう

3)新潟の豪農の館「笹川家」  生憎 休館日だった