新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

対米TPP交渉の考察と回顧

2014-10-07 16:59:34 | コラム
対米のTPPの交渉は難航するか:

この項の最後に13年10月4日にTPPを論じた一文を引用するので、ご一読賜りたい。現在では甘利担当大臣が交渉を再開したところだが、1年前とどれほど事態が変わっているだろうか。私はここに来て初めて現USTR代表のマイケル・フロマン(Michael Froman)とはそも如何なる人物かとWikipediaで検索してみて、少し驚いた。Princetonで学士号を取得した後にOxfordで博士号、Harvardの法科大学院でも学位を取得という華々しい学歴だった。これでは一筋縄ではいくまいと思わせてくれて、甘利大臣の苦戦のほども解る気もする。

私は1993年末までの在職中から現在に至るまでアメリカの労働力の質に問題ありと常に指摘してきた。また、1994年7月以降は当時のUSTR代表のカーラ・ヒルズ大使がアメリカの労働力の質に問題ありと認めて「故に対日輸出が増えない」と認めたことを述べてきた。彼等には自覚症状があったのだ。話しは飛ぶが、それだから、彼等が圧力をかけても果たせなかった牛肉の輸出では「全頭検査」すらまともに出来ない労働力の質だったではないか。

私はヒルズ大使が認めた「初等教育の充実」と「識字率の向上」が、ヒスパニックを始めとする流入人口が増加の一途の現状では、容易に果たせないと言ってきた。だからこそ、アメリカはTPPの交渉で労働力がさして問題にならない「混合診療」だの「保険」だのを持ち出しただけで飽き足らず、自動車の非関税障壁だのと方向転換してきたと読んでいる。

それだけではない問題があると思う。それはマスコミ報道を見ていれば、甘利大臣以下の一行がアメリカとの交渉の場に立てば「何時かは妥結するだろう」であるとか「落としどころを模索する」といった類いの戯言を言っているの気になるのだ。経験上も、私が知る限りのアメリカ人の文化と思考体系からすれば、それは先ずあり得ないと思っている。フロマン代表の学歴がどうあれ、彼が「落としどころの模索」だの「妥結をして良い]等という指令を受けているはずがないと言える。彼の使命は「日本側を落とす」以外に何ものもないだろうと思ってみている。

その状況下でアメリカの景気はやや回復し、ドル高にも転じたのである以上、彼等は「加盟国はアメリカの条件を呑んで対米輸入を増やすべしと、押せ押せの姿勢で出る以外の作戦はないだろうし、彼等の辞書には「妥結」だの「妥協」等いう熟語が載っていても、その頁は封印されているだろうと推察する。であれば、我が国というか甘利代表は何らかの交換条件なり刺し違える覚悟の提案などでも持ち出しても一歩でも譲らないことだ。思うに、彼等は「押せば落ちる」と読んでいるかも知れないのだ。

交渉の中で彼等に代替案というか”contingency plan”の用意の有無、ないしは押し切る覚悟があるのかくらいは言わせて貰いたいもの。彼等は「これを言うことで失う物がない」と思えば押して出てくるし、論争と対立くらいは覚悟で交渉に臨んでいると知って弱気になったり、落としどころを用意しているなどと思わせないことだ。甘利大臣以下の一層のご奮闘を祈って終わる。

>引用開始
アメリカは大胆だ:13年10月4日掲載分より


これは別途に何度か採り上げたことである。アメリカでは数年前に商務省が業界の申し出でを受けて中国、インドネシア、韓国等から輸入される印刷用紙に(国によって料率が異なるが)総計100%以上の関税をかけて締めだしている。また、ドイツと中国からの感熱紙(キャッシュレジスターから出てくるレシートの薄い紙)にも高率の関税で締め出しにかかっている。事態を現在形で書いているのは「かかる関税を全面的に撤廃した」とは寡聞にして未だ知らないからである。

私には、そういう保護主義の姿勢を明確に打ち出している国が、太平洋沿岸の国がTPPを組んで関税撤廃を大きな柱とした条約を結んだと知って、後から加盟して盟主然として我が国にも加盟を促すかの如き姿勢を示していたのが、何となく違和感を覚えさせてくれた。そこには余り同調者が出てこない私の長年の主張である「アメリカは基本的に輸出国ではなく、内需に依存して来た経済で、輸出は国内の価格よりも有利な場合に打って出ること」という考え方が基本であり、尚且つ「あの労働力の質では世界市場での競争能力には期待できない」という問題点があるのだ。

この辺りが私には「何故TPPなのか」と「何で関税撤廃を主張するのか」という矛盾を感じさせ、アメリカがTPPを推進する理由が理解できなかった根拠である。しかし、参加するの交渉がどうのと報じられている間に安倍政権に変わって以後は、事態が順調に進展し、報道では今や話し合いが煮詰まりつつあるかのような事態にまで至っている。

此処まで来て漸く鈍感な私にも見えてきたことは、アメリカが紙類で関税を賦課していた諸国はTPPの域外にあったという点である。中国などは彼らを閉め出すための策がTPPであるかの如き報道もあれば、韓国とはすでにFTAを結んだ間柄である。そして、交渉は「混合医療」だの「非関税障壁」と言ったような関税を離れた事柄に至っているようだ。「なるほど、これではアメリカは中国や韓国やドイツを締めだしていても何ら気にする事案と思っていないのだ」と理解できるようになった。

私の経験上は嘗て「我が国の市場で受け入れられ、信頼されるような品質を達成すれば、世界中何処の国に行っても通用する」と最大の得意先・某製紙の常務さんに言われたことが、今でも当てはまると思っている。私は輸出入の取引では「関税があるとかないとか、非関税障壁があるとかということも重要だろうが、労働力の質が高く製品の質が安定していて、製品が現場と需要家に受け入れられ、価格が安定し、得意先との信頼関係が確立されていれば、TPPとかFTAの問題ではない」と信じているのだ。
>引用終わる