新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

9月11日 その2 アメリカの会社の地位と肩書の補完

2016-09-11 19:20:25 | コラム
我が国の取締役を”Director”と訳さない方が良いのでは:

我が国の取締役・事業部長さんがアメリカの取引先との会談の際に、”Director & General manager”と記載された名刺を出されると、意外にもアメリカ側には混乱が生じるのだ。"director”の肩書は日本との文化の相違を学習されていないか、経験されていない外国人は理解不能に陥るのだ。しかも、会社によってその地位の高さか重みは異なるが、”director”とは"general manager”よりも低く、”manager”に1~2本毛が生えたかのような微妙な地位を表す肩書の場合が多いのだから。

その日本側の偉い方がアメリカの会社の常識ではあり得ないことに”general manager”を兼務する肩書を示すのだから、アメリカ側に混乱するのも当然なのだ。既に指摘したように各事業部には本部長である”general manager”が何人も存在することなどあり得ないのだから。しかも、アメリカ側が我が国には「取締役が日常の業務乃至は実務を担当しているのが一般的である」などと知れ渡っていないことが多いのだと思っていて良いだろう。

私はこの混乱か誤解を避ける為には、我が国の方で取締役事業部長さんの場合の英語表記は”Director of the board & General manager”とするか、名刺交換の際に日米間の”director”の違いを詳細に説明すると良いのではないかと思っている。「そんなことを言っていないで、ちゃんと日米両国の企業に提案すれば良いじゃないか」と言われそうだ。だが、取引先の役員の方に向かって名刺の肩書の件を持ち出してご提案申し上げる機会には恵まれなかったのだ。

当方が現役を引退してから最早22年が過ぎた。現場ではこのような文化のすれ違いの案件は解消されているだろうと希望的に考えている。更に言えば、日本側にはアメリカの企業社会の文化に対する認識も不足していたと考えている。また、英語力にも疑問がないとは言えない気もする。

アメリカの会社の地位と肩書

2016-09-11 10:19:40 | コラム
Rank & title:

これは「日米間の企業社会における文化の違い」の典型的なものというか、著しい違いであると思うので、ここに採り上げる次第。

先日「事業部本部長の下に全部員は横一線であり、偉さの違いはない」と述べていた。この点は少し解りにくいとは思うが、部員の地位(”rank”)は同じでも、与えられている肩書(”title”)には違いがあるという意味である。肩書とは我が国での「係長」や「課長」や「部長」の意味である。こういう肩書を事業本部長から与えられていても、そこには役職手当も何も付かない単なる称号に過ぎないのだ。偉さの順番を表してはいない。

仮に契約期間中に肩書を与えられても給与は年俸制で予め決まっているし、日本的な諸手当はなく所謂「本給」一本である。私は本給のことを”flat pay”と呼ぶと思ってきた。実例を挙げて説明してみよう。本社の事業部に”customer services”(受注・生産・発送・在庫管理等)を担当する経験十分な女性がいた。彼女と日本式のというか本当の部長である”manager”と3人で打ち合わせ中のことだった。部長が彼女に「ところで貴女の肩書は?」と尋ねた。

彼女は「そんなものはない」と答えた。部長は「それは失礼した。貴女に”manager”の”title”を上げる」と言った。彼女は「何時からそう名乗れるのか(From when?)」と尋ねると「たった今から(Just right now.)」と指摘した。そこで未だ事情に疎かった私は会議の後で、「その手当を貰えるのか」と尋ねてしまった。答えは「そういうものはない。年俸は契約通りで変わらない」だった。勉強させて貰えた。これがアメリカ式である。即ち、彼女の地位は不変で横一線も今まで通りなのだ。

誤解を避ける為に言っておけば、一つの事業部の中に複数の部門、例えば製造部と営業部があった場合には、そこにも管轄する”manager”がいて、事業部の”general manager”の指揮下に入っているのだ。これではここまでに述べてきた「事業部長の下に全員が横一線」に矛盾するが、それはその各部門の部長の下で、部員が横一線と解釈して良いと思う。このような仕組みは事業部毎に違うし、勿論会社によっても変わってくる。

次に我が国とアメリカの法律の違いだと思っているが、我が国の偉い方の名詞に屡々登場する取締役を”director”とするのはアメリカのビジネスパーソンには誤解を招くと思っている。それはアメリカでは取締役会は実務者とは別個の存在であり、我が国のように社員が昇格して社員から取締役となる例は極めて希だということ。取締役とは社外の会社や金融機関のCEO等が就任する、会社を高くて広い視野から見る別な機関であるからだ。

取締役会には会社側から経営上の重大かつ重要案件や新規の大プロジェクト案などを提出し、その可否の審議を願い出るのである。例えば、嘗てはW社のCEOのジョージはボーイングの取締役(社外役員)であり、ボーイングのCEOもW社の取締役であった。そういう他の事業を営む会社のCEOが取締役会を構成しているのが一般的である。なお、ジョージはW社の取締役でもある。取締役は英語では”director of the board”となっている。念のために採り上げておくと"CEO & Chairman of the board"のような例もある。

であるが故に、我が国の取締役事業部長さんが”Director & general manager”と記載された名刺を出されると、日本との文化の相違を経験されていない外国人は理解不能に陥るのだ。しかも、会社によってその重みは異なるが”director”とは「本当の部長」並か乃至はそれよりも1~2本毛が抜けたような地位を表す肩書の場合が多いのだ。そのような人物が”general manager”を兼務する肩書を示すのだから、混乱するのも当然だ。

私は取締役・事業部長さんの場合の英語表記は”Director of the board & general manager”とするか、名刺交換の際の彼我の商法の違いを説明すると良いのではないかと思っている。そんなことを言っていないで、ちゃんと提案すれば良いじゃないかと言われそうだが、なかなか取引先の役員の方に向かって名刺の肩書の件を持ち出す機会には恵まれなかったのだ。当方が現役を引退してから最早22年が過ぎた。現場ではこういう文化のすれ違いの案件は解消されているだろうと希望的に考えている。