新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領の貿易政策に思う

2018-09-05 14:39:42 | コラム
トランプ発!貿易戦争に振り回される日本企業:

これは去る3日(月)のNHKのクローズアップ現代のタイトルである。かなり興味深い番組だったが、台風21号の襲来を前にして気温と湿度の変動に弱い体質の私は戦闘意欲が湧かず放置したままにしていた。NHKはトランプ大統領が打ち出した鉄鋼には25%、アルミには10%の関税が功を奏して長らく沈滞していたUSステイールに国内産の鉄鋼に需要が巡ってきて失業中かレイオフされていた組合員たちが「jobが増えたので大統領に感謝する」という声を流して見せていた。

一方では同じ州内で中国向けの大豆の輸出に依存してきた農家の夫妻が、中国が課した報復関税の為に輸出が激減したのみならず価格が限界まで下がってしまい「お先真っ暗だ」と嘆く様も見せてくれた。何れも何ら目新しい結果でも反応でもなく、関税を賦課するとはそういう事態を生み出すものだと見せていたに過ぎないのだ。要するに、トランプ大統領はそういうプラスとマイナスの事態をどこまで読み切って「何処までならやっても安全か」をご承知だったか、ということのような気がするのだが。

NHKは更に「アメリカ向けの自動車の輸出に現在は2.5%である関税を、大統領が既にその意向を表明しておられるように20%にまで引き上げられれば、我が国の自動車産業には大きな負の影響が生じる」と予測して見せた。これは私は決して「だろう話」として受け止めていられる問題ではないと思っている。それはトランプ大統領は一旦言い出したことはほとんど実行しているし、彼がこれまでに示した国際収支観からすれば、上記のようなプラス面が彼の支持層を喜ばせるから「実行あるのみ」と判断されたのだろう。

その点について宮崎哲弥が週刊文春の時々砲弾で以下のように指摘しているのも面白いので、敢えて引用してみよう。“貿易戦争の原因の一つはトランプ大統領の出鱈目な国際収支観にある。彼は貿易収支(<経常収支)における黒字をアメリカの得分と看做し、赤字を損失と看做している。お馴染みの「重商主義の誤謬」というヤツだ」”とかな手厳しいのだ。

彼は更に“だが、「経常収支の黒字赤字は、各国の経済主体が最も有利と判断して選択した行動(=貯蓄投資バランス)の結果としてある」ので、その数字をを政策目標として掲げること自体が不適切なのだ。”とも言っている。ラストベルトでは関税のお陰で国産の鉄鋼に需要が戻ってきたが、自動車の場合は宮崎は「アメリカ国内生産に切り替えようとしても生産体制は直ぐには整わない。他の国からの輸入に頼らざるを得ず、赤字全体は減らない。“と指摘して見せている。私も同感である。

しかしながら、私は我が国中で自動車の輸出が減ってしまうことは単にトヨタやホンダ等の問題ではなく、関連する産業に与える影響はかなり深刻であろうと思っている。それはもう30年近くも唱えてきたことで「米国の経済の消長のバロメーターは住宅着工と自動車の生産量にある」のと同じことだからだ。即ち、家が沢山建てばそれに見合う家具、住宅用の機器、製材品から合板等の建築用資材等に需要が喚起され、その関連の労務者のjobが増えてくるのである。

自動車産業でも同様で、自動車を造る為にどれほどの部品や資材が必要になるかを考えて見れば解ることだ。言い方を変えれば「我が国では外注先に対してかなり深刻な受注の減少」という好ましからぬ影響が出てくるのである。これ即ち、「現在のアメリカの自動車産業界が日本車に相当する質の高い車をそれ相応の価格で『はい、そうですか』と直ちに量産できる体制にあるのか」という問題でもあると言えないか。

私は既に述べたようにここでもトランプ大統領の政策を真っ向から批判する気はない。だから、他人の説を引用して見せたのだ。私はトランプ大統領が敢えて起こされた中国とのかなり深刻な貿易戦争の是非は現時点では問わない。そういうことを論じるよりも、あの貿易観や関税賦課政策に打って出られた結果がどう出るかを見極めるしかないと思っている。それは、現時点で大統領の周囲にいる閣僚や側近が「殿、その国際収支観や貿易戦争はどうも・・・」と諫めても無駄だろうと見ているからだ。彼は Going my way を貫かれるだろうから。

飽くまでも「結果待ち」だと思っている。更に言えば「習近平が何処まで対アメリカの貿易戦争に耐えていくか」であるか「トランプ大統領がこの先にどこまで突っ込んでいく気でおられるか」にもかかっていると思う。しかし、現状のまま続行されれば、アメリカと中国との2ヵ国間の問題に止まらず、私は世界全体の経済にも深刻な影響を与えてしまうと危惧している。即ち、トランプ大統領は何処まで行く気なのかの問題のようにも思えるのだ。