新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

「未だ紙を使っているのか」などと言わせるな

2022-02-20 11:24:36 | コラム
「ふざけるな」と言ってやりたいテレビCM:

先ず言いたい事は「貴方たちは今日これまで紙にどれほどお世話になり、重宝してきたかを忘れたのか」なのだ。「紙の消費が伸びることが一国の文化・文明のバロメーターなどと言ったのは誰だったか」なのだ。

「テレビコマーシャルが腹立たしいと言うのならば、テレビを見なければ良いだろう」と笑われそうなことだが、近頃テレビを見ていると「未だ紙なのか」だとか「紙の請求書が多くて」などと叫ばせているコマーシャルメッセージを出している企業が何社かある。それを聞く度に「宣伝広告会社どもよ、ふざけるな」と叫んでいる。彼らは「事務をデイジタル化して合理化しましょう」と売り込んでいるのだが、その手段としての事務の合理化とは「紙を使った書類と帳票を止める事である」と言いたいようなのだ。「何を言うのか」なのだ。

確かに、紙を使うことを廃止した事務が増えてきた。電力会社は既に「検針票を紙とPCかスマートフォンの何れを選ぶか」と訊いてきた。そこには、確か「こうすることで環境保護にも」とあった。当方はICT化に時代に遅れている家内の為に迷わず紙を選んだ。それと、当方は未だその目に遭っていないが、銀行は紙の預金通帳を止めると言いだしたとか。私には何れも合理化という美名の下に「自分たちの都合が良い方向」に進めていこうという手前勝手なことだとしか思えないのだ。

私にはこの手の「紙の使用を廃止」という裏にある考え方が、今を去ること40年ほど前だったかに一世を風靡した「紙類は貴重な天然資源である森林(材木でも良いだろう)を勝手に伐採して自然環境を破壊しているだけではなく、浪費している怪しからん産業である」との論調がまかり通って、環境保護論者たちが我々紙パルプ産業界を悪魔のように罵ったのだった。

中には素っ頓狂な評論家がおられて、東南アジア諸国で広く用いられていた「焼き畑農法」で焼き払われたマングローブの跡地を見て「こうして乱伐された樹木が我が国に来て百貨店の包装紙や無数の印刷物になって浪費されていくのだと慨嘆した」と仰せになったのだ。こういう出鱈目な言い分でも、罪なき一般の方々は信じてしまい「そうだ、そうだ。製紙産業は怪しからん」となってしまったのだった。

今更「貴方たちは大間違いをしています」と言うのも腹立たしいが「これはとんでもない誤認識と誤解であり、我が国は言うに及ばず、世界の製紙産業で森林を乱伐や盗伐して原料を確保していることなどあり得ない」のだ。先ほど取り上げたマングローブ等の熱帯雨林の樹木は、全く製紙用には不向きであるし、そんな原木を使っている企業などないのだ。我が国は製紙には最適とは言えない落葉樹の資源が豊富だが、最適な針葉樹の繊維はチップかパルプの形で北アメリカ大陸からの輸入に依存していて、嘗てはその最大手の供給会社がウエアーハウザーだったのだ。

我が国の大手製紙会社は北海道等の北部に自社林で育てた広葉樹の繊維の原木を原材料にする一方で、針葉樹の繊維は輸入に依存してきていた。北アメリカのカナダとアメリカ合衆国には針葉樹の資源が豊富であり、建築用の製材品を切り出した後の木材チップを活用して製紙原料のパルプを製造して世界に供給していた。北アメリカの各社は自社の山林を計画的に管理して、自社で育てた苗を伐採した跡の自社林に植えるという計画植林をしているのであり、自然林(natural growthと言うが)を勝手に伐採しているのではない。

計画植林された自社林では間伐や下枝を払う等々の方法で地面にまで太陽の光が当たり、酸素が十分に巡回するように厳密に管理されているので、地盤は強化されているので大雨の後で土砂が流れていくようなことなどあり得ないのだ。こうして管理されていれば、樹木は二酸化炭素を吸収して行くので、地球温暖化の防止にも貢献しているのだ。それを知らずして、未だに「紙を節約すれば環境保護に貢献する」と思っている者たちがいるとは、心の底から情けないのだ。

言いたい事はそれだけではないのだ。我が国の大手製紙会社は自社林を北アメリカや大洋州の各地に確保して、そこから専用船で木材チップやパルプの形で輸入して自社の原料を賄っている時代になったのだ。もしも、製紙産業が森林を伐採して自然環境を破壊していると言いたいのならば、伐採されている森林の多くは国内ではなくて海外にあるのだ。しかも、海外ではちゃんと計画植林され、計画的に伐採されているので、乱伐や盗伐など起こり得ないし環境破壊などするはずがないのだ。

私は嘗て世界最大の木材資源供給会社だったウエアーハウザーで(林産物の担当ではなかったとは言え)20年近くの間、管理され計画植林から伐採される行程を見てきたから言えるのだ「紙パルプ産業界は環境保護に貢献こそするが、破壊などする訳がない」と。もしも、我が国の業界に反省すべき点があると仮定すれば「紙パルプ産業は環境保護に貢献している点を、現在よりも具体的な広報宣伝活動に励むべきだったかも知れない」辺りかも知れない。