Fish On The Boat

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『傷ついた日本人へ』

2013-02-12 20:35:35 | 読書。
読書。
『傷ついた日本人へ』 ダライ・ラマ14世
を読んだ。

チベット仏教の法王、ダライ・ラマ14世が
日本の高野山を訪れて講演された記録を書籍化したもの。
昨年の4月に発刊されています。

東日本大震災を受けて、傷ついた日本人の心のために、
仏教の解説を交えながら、その苦しみを解くような
法話がされています。

現代の科学に明るいダライ・ラマさんがとく話は興味深く、
だからこそ、現代の科学の知識と照らし合わせて読んだりもできます。
たとえば、バタフライ効果ってのがありますけれど、
個人個人の利己主義のバタフライ効果みたいなのが国家間の戦争なのかもしれない、
といったような。

利己主義に関しては、
物質的なものだとか快楽的なものだとかを、
外部に求める20世紀型の幸福というかたちではなくて、
他者への愛だとか自分の内側にある幸福を育てたり感じたりしようとするような、
21世紀の目標であるような自律的な幸福が大事というのがあったり。

現代に生きると、利己的に生きようか、利他的に生きようか、
散々迷って、そのグレーゾーンに身を置いたりする人も
いると思いますが、そのような迷いをやさしく断ち切ってくれるような
話です。

また、「色即是空」でおなじみの、「空」の概念に関しても、
苦しみから逃れるための知識として、説明してくれています。
僕はけっこう、「空」については考えたり探ったりしたことがあって、
20代の前半に曲作りをしながら、自分の中身はがらんどうだと悟ったりしました。
きっとそれは「空」なのだと思います。
なんとなく仏教徒をやっている日本人の一人ですから、そういう仏教的な
考えが空気のようにまとわりついているようなところが誰しもあると思うのです。
それが、僕の顕著な例ではこの「空」だった。

それと、悟りについても説明がされていますが、
いわゆる仏陀(悟った者の意。今まで悟った人間はお釈迦様ただ一人)になると、
この世界の見え方が違うと言います。
これも、現代の科学の、超ひも理論などで展開される10次元、11次元というものがあるとすれば、
そういった、普通の人間が近くできない高次の次元まで知覚できるようになることなんじゃ
ないだろうかと思いもしました。

本当に仏教に造詣の深い人で、頭が良くて慈愛に満ちた方なので、
その話もわかりやすく丁寧です。
僕もチベット仏教にならば帰依してもいいかなと思ったくらいです。
現代の脳科学において答えが全く見つからない、「意識」の問題にしても、
この本にはそういう言葉はでてきませんでしたが、「魂」といったものが
あってもおかしくないなあと思えるくらいの仏教の論理性の見事さがあり、
今までそんなものはないだろうと考えてきた、「魂」にしても、
今一度考えたくらいです。

そして、「カルマ(業)」というものについても、
はじめてはっきりとした専門的かつやさしい解説を得られて、
「そういうことだったか!」と膝を打ったのでした。

ユーモアのセンスもあり、80年代後半にノーベル平和賞を受賞された人でもあります。
以前、テレビで彼をみたときは、ヤギみたいな白いひげをはやしたチベット僧と再会したときに、
「元気だったか?」とでもいうように、笑顔でそのひげをがっしりと握った姿が印象的でした。
そういう茶目っ気もあるんですよねぇ。

一部の科学者には、「仏教は心の科学」と呼ばれもするそうです。
観念的なものではない、論理的なものだから、仏教はオカルティックなものと
ちょっと違うのでしょうね。

先日、みうらじゅんさんの『マイ仏教』を読んだばかりですが、
こちらは本当に正統派の仏教新書です。とはいえ、みうらさんのほうも受け止めてしまうのが
仏教の奥深さだと思うんです。
自分なりの仏教を見つけるために読んでも良いでしょう。
本当は、傷ついた人、疲れた人が読むと救われる部分がありますよ。
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