Fish On The Boat

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『海の底の考古学』

2015-02-26 22:08:24 | 読書。
読書。
『海の底の考古学』 井上たかひこ
を読んだ。

水中考古学という日本ではちょっと遅れているらしい分野で
活躍されている著者による、雑誌コラムをまとめた本。

難破船や地震などで海に沈んだ遺跡。
そういったものを発掘調査するのがこの水中考古学というものです。
それは、トレジャーハントとは一線を画すもので、
水中考古学のほうは、学術的に丁寧に扱うのに対して、
トレジャーハントは金もうけの財宝目当てです。
ですが、本書では、トレジャーハンターもとりあげて、
広義での水中の遺跡調査について語ってくれています。

タイタニック号のことについてや、
クレオパトラの神殿についてのことなど、
遺跡や難破船として有名なものも扱いますが、
よく知られていない、文献に登場すらしない
沈没船なんかにも言及していて、
しかし、驚いたことにそんな名も知れぬ船に積まれた
陶磁器や金の延べ棒や銀貨などの量の
けたたましさといったらありません。
かなりの財宝になります。
そんなにまでのお宝を海上で輸送していたんだなあと、
暗い歴史観に現実性の光がさしたくらいです。
だからこそ、中世には海賊稼業が跋扈したんでしょうね。
海賊で豪華な生活ができるくらい、
海上にはお宝がすーっと通りすぎていったんでしょう。
武装商船というものがあっても、きっと負けたんだろうな。

各章は4ページくらいで、
やっぱり雑誌のコラムだなという感じ。
しかし、好きでやっている人の旺盛な好奇心と知識欲と、
そして僕が知らない分野のトピックということもあって、
筆者による読みやすい文章から受けるそのワクワク感が、
読み下していくときの満足感を与えてくれるようで、
全体的に好ましく感じられました。

こういうところはちょっとわき道にそれるところではあるのだけれど、
麻酔の無かった時代、負傷者にヘルメットをかぶせて、
その上から棍棒で頭を殴りつけてショックで失神させ、
その間に手術をしていたっていうのはびっくりしました。
14世紀のイギリスの沈没船から出てきた棍棒の説明がそうだった。

また、20億円を借金してまでトレジャーハントに精を出してあきらめず、
探索中に長男や妻を溺死させてもなおあきらめず、
ついに400億円相当の財宝を発見したメル・フィッシャーという人が出てきた。
これは宝くじを買って夢を見るのとはわけが違うなと思いました。
でも、金を求めることが、本当にその人にとっての生きがいなのか、
考えてしまうところです。
アメリカじゃ、金持ちこそヒーローだっていう風潮があって、
日本のように富豪を嫉妬したり、悪玉に見立てたりはしないようですが、
それでも、なんのための金もうけなのかっていう問いを、
僕は持ってしまうタチで、
「生きがい」や「やりがい」とともに金を稼げたら最高だと思うんですね、理想は。
考えのヤヤコシイところではあるのですが。
動機は遊びめいたものだとしても、
やっていくうちに身につくスキルなり知識なりはあるはずで、
そういったものには苦労が伴いますから、享楽的な職業とは言い切れないです。
その反面、遺跡や沈没船を荒してしまう、不当にサルベージ(引き上げ)してしまって、
それらの価値を少なくしてしまうというのもあるようで、
どうなんだろうって思いますね。
ちょっと真面目すぎる考えを、今日は持ってしまっているかなとは思います。

閑話休題。
あとがきに書かれていましたが、
近年、日本でも東京海洋大学や東海大学などで
水中考古学の講座がスタートしているそうです。
著者は脱サラして、40歳前後にアメリカに渡って
勉強をされたそうです。
パイオニアとして伝えてくれる、面白い読み物でした。


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