Fish On The Boat

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『生物から生命へ』

2017-08-01 00:43:42 | 読書。
読書。
『生物から生命へ』 有田隆也
を読んだ。

生きているモノとしての生物観から、
生きているコトとしての生命観へ…。
そのためには、共進化という見方がカギになります。
そうやって見ていくことで解き明かされる多くのことがあり、
獲得できる多くの視点があることがわかります。
複雑系と呼ばれる科学分野に属する学問・研究のようです。

たとえば、こういうおもしろい実験があります。
囚人のジレンマをベースにしたプログラムを
コンピュータ上で動かしてみる話。
協力個体と裏切り個体、どちらか強くなるか、
つまり協力しあう社会になるか裏切りの蔓延する社会なるか、
その他にネットワークの多さを見たりなど
共進化の観点から実験してみる。
裏切り個体の多い中で、
偶然、少ない協力個体のネットワークが生まれるとそこが強くなり、
そのうち協力をする個体が優勢になり、
協力しあう社会になっていくそうです。
しかし、そこで安定せずに、
協力しあう社会の中で裏切り個体が得をするようになり、
ついには殺伐とした裏切り社会に戻るようなのです。
そして、その繰り返しになるというのだけれど、
世の中の移ろいもそのとおりかもしれないなあ、なんて思いませんか。
安定せず、巨視的にみるとたえず揺らいで、
協力と裏切りの間を行き来する。
協力がよい、裏切りがよい、というそれらのための文脈、
というか背景ができあがるためなんだろうなあ。

こういうことを知ると、
永世的に続いていけばいいような思想や論理なんて
実はないんじゃないかと思えてくる。
そういうのを求めても徒労に過ぎないのかもしれない。
生きやすさや生きづらさとはなんぞや、
という問いも、また違って見えてくる。
だから、今、
「これが真理」だとか「これが正しい」とか言われていることも、
瞬間的なものでしかないんだってことになりますね。

また、ひとは、協力、模倣、言語、心の四つでもって、
他の生物と異なる存在であるとしている。
そのなかの、模倣に関してですが、
ひとは模倣していく生きもので、
それはかなりの量に及びます。
一方で、他律性を嫌う。
自律的に模倣をしていき、
模倣される側からの他律性が感じられない状態が、
幸福なのかもしれない。
口出しせず、気前よく、模倣されればいいんです。
模倣するほうも、そこに矜持と敬意があればいい。
なーんて、思ったりもして。

ちょっと難しめの内容ではありますが、
読んでいるとはっとするような実験結果がでてきたりします。
共進化に関した様々なプログラムを
機械(本書では計算機と呼ぶ)上で動かして、
それら人工生命の挙動を解釈していく。
そうやって知見を得るのがこの分野だそうです。

まるで知らない領域の門前から中をひょこっと覗くような感じで、
いつもと違った角度からものごとを考えるきっかけにもなり、
楽しい読書体験でした。

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