Fish On The Boat

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『カレーライスと日本人』

2020-03-03 12:56:15 | 読書。
読書。
『カレーライスと日本人』 森枝卓士
を読んだ。

「もはや日本食」といって誰もが納得するであろう、
インド発祥、イギリス経由で入ってきて、
それから日本化したカレーライスについての、
インドでのその様を探っていく段階から、
歴史や変遷をたどっていく、
非常に面白い本。
食いしん坊でカレー好き、さらに読書も好きな人ならば、
小躍りしてしまうこと請け合いの良書でした。
もともとは1989年に講談社現代新書から出た本で、
数年前に講談社学術文庫としてリイシューされました。

さまざまな興味深いトピックに溢れてます。
たとえば、明治五年のことですが、
天皇が肉を食べた、と宮内省(当時)が発表したそうなんですが、
それまでは日本人って、肉食が禁忌だったとのこと。
それでも山村部などでは今でいうジビエ肉が食べられていただろうと思われ、
さらにいえば、表ざたになってないまでも、
庶民の間でたまに食べられていたりもしただろうし、
どこかの藩で将軍に献上している記録もあるようでした。
タブーであって、全面禁止ではなかった。
また、鳥肉は食べていたようです。
さらに、ウサギを一羽二羽…と数えるのは、
獣としてカウントするとタブーにひかっかるからだそう。
そうやって心理面で操作して食べていたんですね。

で、明治の文明開化による洋食誕生、
つまり、西洋の調理法が日本に入ってきて、
日本化されていく過程で同時に日本の食文化も変わってくるんですけども、
肉食の解禁によって牛鍋が流行った。
ステーキくらいの牛肉を味噌だとか醤油だとか砂糖だとかと鍋で煮たみたいです。
夏目漱石の小説を読んでいても「牛鍋」なんてものが出てきますから、
牛丼の具のようなものかなあと想像していたのですがちょっと違っていますね。
で、それが文明開化の象徴だったのかもしれない。

そんななか、カレーがイギリス経由で伝来する。
イギリスでカレー粉が発明されていたので輸入して、
手軽に作れたんでしょう。
現存している最初の頃のレシピでは、カエルカレーがあります。
ほか、玉子カレーだの牡蠣カレーだの、
さまざまな食材でチャレンジしているところに、
明治の人たちの楽しんでいるさまが感じられる。
明治の後期になると、もうその段階で、
乾燥カレーなるものも商品化されている。
お湯を注いで混ぜればカレーになったそうで、
今でいうフリーズドライ製品的なものだったのかもしれませんね。

とまあ、そんな感じで、著者の視野は広く、
昭和にいたって、いわゆる原風景としての
じゃがいもと人参と玉ねぎと豚肉のカレー、
それも、肉はちょっぴりだけど…というものに辿り着いていく。

軍隊や寮の影響が大きかっただとか、
いわゆるルーカレー、つまりシチューカレーになる前の、
伝来初期の頃のソースカレー、つまり肉がメインでそのソースとしてのカレーも、
家庭的なカレーとは別の道を行き、
高級カレーとして生き残りましたし、
中村屋で生まれたインドカレーも、
現在まで広がりを見せて、さまざまな店が繁盛している。

最近では、札幌でスープカレーが定着しましたし、
大阪ではスパイスカレーが生まれて東京にも進出しているというし、
そういった種類のカレーだって受け入れられていることも、
日本人のカレー好きを再確認する事象だといえそうですよね。

本書ではカレーだけを扱っていても、実に奥深い。
思っていた以上に「食」という分野は相当の深さです。
本書は、エンタテイメントでもありながら、
歴史とそれぞれの時代の空気まで学べまでしておもしろいです。

小学生のころ『美味しんぼ』を読んでいて、
「食」の世界の広さと深さは感じていたんですが、
今回、それを再確認しました。

カレーライスは好物です。
ただ、僕は北海道在住ですからスープーカレーも比較的早い段階で食べてはいるんですが、
どうも合わなかった。
レトルトのマジックスパイスのスープカレーは、
人に教えてもらって食べて、これは美味しいと感じはしたんですが、
どちらかといえば、ルーカレーのほうが好き。
また、ほぼ日刊イトイ新聞で販売しているスパイス・『カレーの恩返し』という発明品は、
家のカレーが本格インドカレー化するのが楽しいし香りが良いしで
何度かまとめて注文したことがあります。
職場で数人に配ったこともあります。

そんな僕の住む街の名物がカレー蕎麦なのでした。
もともと炭鉱町で、
大量に汗をかいて坑内から出てきた炭鉱夫たちが、
おいしくて味が濃いものを食べたい、と
カレー蕎麦をよく食べていたみたい。
名店もありましたしね。
今ではもっと町に広まり、
内外にアピールして観光に一役かっていたりもします。
豚バラと玉ねぎのカレーがたっぷり蕎麦にかかっていますが、
美味しいんですよね。

というように、食欲のほうもそそられてしまい、
ダイエット期にはちょっぴり辛い読書でしたが、
脳内は満足の満腹状態。
おいしゅうございました。
本書のようなよい仕事を読書というかたちで享受できてうれしいです。


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