Fish On The Boat

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『木材・石炭・シェールガス』

2020-03-20 22:00:16 | 読書。
読書。
『木材・石炭・シェールガス』 石井彰
を読んだ。

2014年刊行のエネルギー問題に関する本。
その頃の世の中といえば、脱原発が声高に叫ばれていたころでしたね。
著者は「自分は環境派である」とその立場を明示しながらも、
エネルギーについての膨大な知識があるがゆえに、
環境派的に安易な感じで「脱原発を!」ともいわないですし、
太陽光や風力などの「再生可能エネルギーにしていこう!」とも言いません。
かといって、それらを全否定することでもなく、
「こうこう、こういう理由があるから」と現実に着地した視点から
エネルギー事情を論述してくれます。

まず、産業革命前の段階ではどこの国でも薪炭をつかって、
製鉄したり、製塩したり、暖をとったりなどなどのエネルギー源にしていました。
そんな事情ですから、欧州にしても日本にしても、
木材の伐採が盛んで、どこもかしこもはげ山だらけだったそう。
そんな状態が産業革命と石炭によって助かっていく。
森林が戻ってきます。
薪炭は再生可能エネルギーですが、
再生エネルギー利用は自然をそこなう、ということの元祖なのでした。

そして、同じく再生エネルギーである太陽エネルギーも風力も、
その得られる電力はコストにくらべてわずかだったり、
平均的に得られなかったりするのですが、
再生可能エネルギー推進派は、
「CO2を抑えられるので地球にやさしい」と主張する。
しかしながら、太陽光パネルの設置ではそのパネル下の地面を荒れ地にしてしまうし、
そうすると緑地の持つ冷却作用を奪うので、
局地的にヒートアイランド現象を発生させるといいますし、
もっといえば、パネルにこもった熱が上昇気流を生み、
ゲリラ豪雨や竜巻をうみかねないそうなんです。
風力のほうは、低周波の騒音がありますし、
土地を奪いもするし、
だいたい、日本は急峻な土地の国なので平地のオランダなどとくらべ適さない。

じゃあ、石炭や石油、天然ガスなど
化石燃料の火力発電だったらといえば、ご存知のようにたくさんCO2が出ます。
でも、再生可能エネルギーのように、自然を破壊しない。

つまり、
再生可能エネルギーは、CO2を出さないが生態系を破壊し、
化石燃料エネルギーは、CO2をたくさん出すが生態系を直接的に破壊しない。

ここで、じゃあ原子力は、という問いと、
化石燃料は地球温暖化を進めるからそのほうが問題として大きいのではないか、
という問いがすぐに出てくるでしょう。

前者は、CO2を出さず生態系を破壊しませんが、
完璧な技術ではないので、3.11のようなことが起こる。
その際には、生態系は派手に破壊されるポテンシャルがあります。
また、核廃棄物の処理についてもみんなが納得できる策はないです。

後者については、
温暖化の原因が二酸化炭素かどうかという根本が揺らいでいると著者は言います。
2000年代に入ってから、本書が出る2014年までのあいだ、
気温は横ばいだそうで、でも二酸化炭素は増えているので相関しているかあやしい、と。
また、各地の気温の上昇は、その検温している場所がヒートアイランドで
年々気温が上昇しているに過ぎず、
全地球観測でみるとそれは違う、という話もありました。
そして、極めつけが、太陽の磁気活動が影響しているというもの。
「スベンスマルク効果」というその効果は、太陽の磁気の強弱の影響で、
地球に降り注ぐ宇宙線の量が変わり、その多寡で地球の雲量が変化して、
全地球的な温暖化や寒冷化になっている、というものです。
僕はこのあいだ『チェンジング・ブルー』という気候学者の方が著した
気候変動に関する本を読みましたが、
そこにはない、あらたな説であり、
これはこれである種の説得力を感じもしましたので、
またまた温暖化に対する考えが揺らいできました。
著者は、自分は気候学に関しては素人だからとエクスキューズをつけていますけれども、
なかなか興味深かったですね。
さらっと試し読みしたときには印象論的に読めたのですが、
じっくり読むと、信憑性がないとも言えませんでした。
しかし、二酸化炭素に温暖化効果があるという説はかなり信頼できるもので、
そこは著者もそう書いていますし、
温暖化に向かっていないのが真実だとしても、
人工的に二酸化炭素を増やすのはやめたほうがいい、と僕は考えますね、
著者もそういう結論を持っていますし、同意だな、と思いました。

とちょっと逸れたふうになりましたが、
エネルギーについて、ではどうすると良いのか。
たとえば、アメリカでは最近、シェールガスという天然ガスが発掘され、
新しいエネルギーになっている。
これは、昨今のコンピューターと情報技術を使ったハイテク技術によって
採掘可能となったガスです。
同様に、シェールオイルというものもあり、
どちらも地中の頁岩(シェール)に閉じ込められた化石燃料ですが、
世界的な埋蔵量はかなりのものだそうです。
250年以上持つ、と言われている。

著者は天然ガスの発電技術もあがっているし、
目下、いちばん有望なエネルギー源としています。
それに、石炭火力や水力をふくめた再生エネルギー、
できれば少しの原子力をまじえたバランスでやっていくことが、
日本では適しているのではないか、と
難しくてこんがらかったエネルギー世界での、
一つの優良な選択肢を提示します。

北欧を見習おう、だとか、原発の無いドイツを見習おうだとか、
いろいろ、僕も本書を読む前から知っている論調にたいしても、
本書では、人口規模や国土の地形の違いから否定したり、
逆に火力に頼ってしまってCO2を増やしていたり
近隣諸国のお世話になっていたりすることから、
ナンセンスさをわからせてくれています。
つまり、日本は日本で、かなり頭を使っているので、
どこかの国が日本より抜けていてうまいことをやっているってことはないんです。
日本は日本の状況で考えうる限りの最善策をやっているようです。

ただ、やっぱり料金は高くなっていく運命にあるようです。
そこらの解説は本書を読んでいただくことにします(疲れました)。

というわけで、
本書は新書なんですが、中身がなかなかに骨太でした。
僕はエネルギー業界にうとかったのですが、
それなりに基本的な知識を得られた気がします。
こうやって、読んでよかった!と思えるような読書はうれしいものです。


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