Fish On The Boat

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『連帯の哲学Ⅰ フランス社会連帯主義』

2020-03-29 00:55:29 | 読書。
読書。
『連帯の哲学Ⅰ フランス社会連帯主義』 重田園江
を読んだ。

いっぽうに自由主義があり、他方に社会主義がある。
この構図はとてもわかりやすいですよね。
日本でいえば、自由民主党があって社会党があるという、
かつての55年体制の構図に重なります。

最近はもはや、社会主義や共産主義に夢を託すような勢いは、
日本人にはほとんどないように僕は見ているんですけれども、
かといって盤石な自由主義でもないことが、
格差社会の拡大や、
生きにくさを吐露する人たちがどうやら増えていること
(ネットで可視化されたがためにそう見えるようになったのかもしれませんが)
などによって明るみになってきているのではないでしょうか。
そういったところに、それらに替わるものとしての「連帯」する理由があるとも
考えることができます。

本書で考察される「連帯」。
その「連帯」を中心に据えた主義として、かつて連帯主義という思想がありました。
その連帯主義が主義思想というカテゴリーのなかでどこに位置づけられるのかとなると、
自由主義と社会主義のあいだになるのです。
中道左派なんて言われ方もする、
ちょっと地味に見られるポジンションに連帯主義はあります。

19世紀の終わりから20世紀の初頭にかけて、
自由主義や社会主義のように、フランスでは連帯主義も標榜されていた。
しかし、二度の世界大戦や時代の趨勢、時代からの要求に合わなかったために、
ほとんど消失してしまいました。早すぎたのかもしれません。

本書では、デュルケムら4人のフランス連帯主義者(連帯思想家)と
マルセル・モースの贈与論、
そしていくつかの補章でもって、連帯を多角的にとらえていきます。
読んでいると、まるで遺跡を発掘し考察する考古学的な慎重さでもって
当時の連帯主義の標本を現代に復活させるかのような、
著者の、その時代の空気へのフラットな視線と熱意を感じることになります。

さて、連帯主義は福祉国家へと続く道筋をつくった主義でもあるとのことです。
もともとフランスでは、持てる者から持たない者への「慈善」があり、
知り合い同士の絆でできあがっている「友愛」がでてきて、
それらが発展するように、
「慈善」を内包しながら、
かつ、知らない誰かまで含めたような「友愛」以上の絆として、
「連帯」の考え方ができてくるのです。
そういった性質のものですから、のちに福祉へと繋がっていくんです。

しかし、なんでもやるというような福祉国家となると、国家自体が大きくなる。
まかりまちがえば、権力が集中していき、官僚主義が強まり、
専制国家になってしまう可能性が高まります。

もともとの連帯主義は、自由主義と社会主義の中間なので、
たとえば社会保障についても、国でやろうというのではなくて、
そこは自由主義的に、国に頼らず組合的な組織でやろうとする。
つまりは、社会主義の福祉国家のように、国家自体を大きくしない方針をとる。

当時のフランスでは、社会保障を任意にしようか義務にしようか、
と議論していたようですが、
連帯主義の立場では、義務でやろうということになるのだそうです。
現代のような分業制度下で、
まるで違ったことをしている人たち、
つまり、なかなか結びつかないような人たちすら結びつける紐帯としての機能を、
社会保障の義務化でもってやろうとしたんです。
しかし、そううまく事は運ばなかったようですが。

分業の話で言えば、本書の最初の方にでてくるんですが、こういうのがあります。
産業革命後の世界では、ひとつの製品に対して、
いろいろな人が分業して関わっていくようになりました。
たとえばセーターひとつとってみても、
羊毛を生産する羊飼いのひとがいて、
セーターを編む人がいて、お店に運ぶ人がいて、
お店で売る人がいるといった具合に、
多数の分業する人たちを経て、製品が消費者に届いている。
世の中にはこれよりももっと複雑で多人数が関わっている過程の業種があるでしょうけども、
基本はこのような図式です。
これは、本書ではデュルケムの書いたこととして載っていますが、
同時にアダム・スミスも言っているといいますし、
数年前に流行った吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』でのテーマでもありました。
それでもって、こういった分業の過程を意識することで、
連帯のベースになるような気持ちが生まれるんですよね。
というか、社会は連帯でできあがっている、
という気付きが得られるといってもいいでしょう。

本書は、なかなか散見的な書かれ方をしています。
言いかたを変えれば、まとまりを欠いている。
いや、まとまらない種類のものごとにチャレンジしているがため、
といったほうがいいかもしれません。
協同組合、リスクを考えて成り立つ保険業、
そういったものも、連帯の思想の範囲として本書のなかで解説されています。

なんていいますか、
「ごつごつした路面を駆け足で走り抜けるような読書体験」になりました。
読みごたえはありますが、読み下すのに力が要りますね。
それでも、「連帯」について知見を深めることができましたから、
好い読書でした。
本書は「そのⅠ」で、続巻があると書かれていますがどうも発刊されていません。
立ち消えになったのかなあ、と残念に思いました。


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