Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』

2020-05-01 22:56:08 | 読書。
読書。
『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』 ショーン・スティーブンソン 花塚恵 訳
を読んだ。

「人はみな、健康な身体のもと、幸せで充実した人生を送る権利がある。
その実現のカギを握るのが良質な睡眠___」

今でもそうだとは思いますが、
僕が学生の時分、20年くらい前になりますけども、
睡眠時間を削ることがある種のステータスでした。
つまり、いつまでも起きていて、
勉強したり遊んだりしているのが勝ちで、
寝てしまうのは負けである、
人生を損することである、
というような理屈がつよかったです。

代表的な言葉に「四当五落」があります。
受験生が5時間以上寝ているようじゃ大学に受かりませんよ、
4時間睡眠で我慢して節約した時間を勉強にあてましょう、
というものですね。

でも、本書にも書いてありますが、
睡眠時間をしっかり取らないと、記憶が定着しませんし、
学習能力も落ちます。
現代では、しっかり寝てこそ受験に合格する、
が進んでいて、より正しい考え方のようです。

というように、睡眠を擁護する主張どころか、
もっと積極的に、そしてより質の高い睡眠をとろう、と著者は提言しています。
そのほうが、よりよい人生を送れると、
自らの経験をベースにして確信しているのです。

また、スポーツの世界では、睡眠をしっかり取るのも練習のうちで、
たとえば陸上のウサイン・ボルト選手はつねに8時間以上眠り、
テニスの大スター選手であるフェデラー選手は、10時間眠るのだそうです。
さきほどの受験の話にあるように、
知性にしてもそうですし、
スポーツの世界の話にあるように、
身体性にしてもそうですし、
睡眠は重要な役割をもっているというわけです。

ただ、読み進めていくにつれて、
ちょっと都合の良いような言説ばかりなのがひっかかりました。
それはたとえば引用されている科学的な証左についての出典が、
○○という専門誌、という類いばかりでてくるのですが、
どれも聞いたことがありません。
欧米ではそれなりに知れている専門誌なのかもしれませんが、
どこまで信頼性のあるものなのか、僕にはよくわからない。

そういった逡巡に拍車をかけるように、
「(その寝方だと)肌呼吸が遮られないので……」という文言がでてきました。
僕も小さい頃から、人は肌呼吸・皮膚呼吸をするものだと信じていましたが、
最近になってようやく、それが間違った俗説であることを知りました。
人間は肌呼吸しません。

また、体内時計がずれた状態が夜型だ、という前提で話が進む章があるのですが、
以前読んだ体内時計に関する本では、朝方も夜型も遺伝的に決まっている、とあって、
だから、人間はもともとすべてが朝型ではないだろうに、
本書では朝型であると決めてかかっているふうに読めました。

たぶん、こういった調子で、僕の気付かなかったところでも、
著者の個人的といっていい考えを押し付けられている言説も含まれているのかもしれない。
なにせ、読者が著者が提言する枠組みにはまることがよしとされるところがあるので
(それは本書に限らず、啓発系の本はおよそ全てがそうなのでしょうが)、
無理やりセールスされている感じがしてしまう。
おまけに言葉や論理が巧みです。

そうはいっても、信頼できそうで役に立ちそうに思うトピックが
ふんだんに見受けられもするのです。

たとえば、これ。
ストレス緩和のために使われる成分がマグネシウム。
そして、現代人はマグネシウムが不足がちなのです、と。
食べものからマグネシウムを摂取するほかに、
マグネシウム入浴剤(エプソムソルトなど)でも補給できる。
皮膚から吸収できます、ということです。
皮膚から吸収といえば、湿布以外にも経皮薬剤があるくらいですから、
きっとできるんだろうな、と僕は思いました。

また、神経を鎮めるのにサプリはおすすめできないという姿勢や、
かわりにカモミールティーを勧めるところは、
ちょっと信頼できるかなあと、
僕はそう受け取りました。

あと、長時間のジョギングやウォーキングでのダイエットは
リバウンドするでしょ? と書かれていて、
僕は身に覚えがあるので、
そういったダイエット方法の代わりに勧められていた
筋トレを取り入れ始めました。
筋トレ自体よりも、それをすることでよりよい睡眠をとることができ、
質の高い睡眠自体がダイエット効果を持つ、というのを
信じることにしたのです。
これも、よく寝た次の日の体重っていつもより落ちている自覚があったので、
やってみようか、っていう気持ちになったんです。

とまあ、いろいろとあって、
読んだ人のなかでも賛否両論が起こりそうな気がしました。

でも、こうやって睡眠に焦点をしぼって本にして、
それまでたぶんに下位にあっただろう睡眠の階級を、
起きている時間と同等以上のところまで引き上げようとする試みは
拍手すべきものなのではないでしょうか。

まるごと鵜呑みにはせず、
でも、要所要所をおさえるように読むと楽しめる本だと思います。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする