Fish On The Boat

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『家族シアター』

2024-06-26 22:06:42 | 読書。
読書。
『家族シアター』 辻村深月
を読んだ。

家族との関係が主軸となっている7つの短編が収録された作品。

作者の辻村さんは、人のいろいろな「だめな部分」をうまく描いています。まるで隠さず、ときにぶちまけられているように感じもするくらいなときがあります。そういった「だめな部分」を起点に人間関係のトラブルなんかがおきるのだけれど、だからといって、その欠点を直してよくなろうよ、と啓発的にはなっていない。「しょうがないもんだよねえ」、とため息をつきつつ、その上でなんとかする、みたいな話の数々でした。

相田みつをさんじゃないですが、「だって、『にんげんだもの』」。そういう前提があってこその作品群だよなあ、と感じました。それはある意味で、人に対して肩の力が抜けていると言えるのです。ただ、「やっぱり優れている!」と思うのは、そうやってゆるく構えたその背後に分析的な思考が隠れているところです。だからこその、ドスッと効いてくる一文やセリフが要所で出てくるんです。

また、「キャラクターが立っている」とはこういう作家のワザのことを言うのだろう、という気がしてきました。キャラクターがしっかり立っていて、読み始めてすぐにとてもそのお話の現場との距離感が近く感じられる。なんていうか、読んでいてわりとすぐに、キャラが溶け込むかのようにこっちになじんできますし、その結果、物語に入り込みやすいのです。

といったところで、三つほど本文から引用して終わります。



『私のディアマンテ』で娘が、主人公の「母」に言うキツイ一言↓
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『自分は親だから、謝らなくてもいいって思ってるよね。そんなふうに血のつながりは絶対って思ってると、いつか、痛い目見るよ』(p120)
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『タイムカプセルの八年』のなかでの、主人公である「父」が開き直るかのように得る気づきの一文↓
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実在しないヒーローの抗力は、放っておいてもいつか切れる。子供がいつの間にかサンタの真実を知るように。一年きりで終わってしまう戦隊物のおもちゃを欲しがらなくなるように。効力は一時的で、しかもまやかしかもしれない。けれど、まやかしでいけない道理がどこにある。大人が作り出したたくさんのまやかしに支えられて、子供はどうせ大人になるのだ。(p206)

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『1992年の秋空』から。主人公である「姉」が、年子の妹の逆上がりの練習を手伝った放課後に感じたこと。これは、この物語全体を表す一文でもありましたし、そもそもこの一文が意味することをテーマとしている小説ってたくさんあるでしょうし、書き手としては扱いやすく、でも作り上げるには深いテーマなのかもしれないです↓
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誰かが何かできるようになる瞬間に立ち会うのが、こんなに楽しいとは思わなかった。(p250)
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辻村深月さんの作品は四つ目ではないかと思いますが、だんだん作風がわかってきました。どこまでも底が知れない感じがしていたのですが、ちょっと輪郭がつかめてきたような気がしています。彼女の作品、また少し空けてからですが、さらに読んでいきたいです。


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