Fish On The Boat

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『人類と気候の10万年史』

2024-11-22 00:34:42 | 読書。
読書。
『人類と気候の10万年史』 中川毅
を読んだ。

古気候学者である著者によって、地球気候の最新10万年ほどの様子を福井県・水月湖に堆積した年縞などの解読を用いて解説しながら、そのメカニズムを解析するための挑戦的考察が語られます。

地球の気候変動というのはとてもダイナミックで、人類が登場してからでも海面の高さが100m以上変動するような事件が繰り返し起こってきたそうです。大きく、氷期と間氷期というように、寒冷期や温暖期が区別されますが、そこで働いている力が何かについて大きな示唆を与えたのが、およそ100年前に唱えられたミランコビッチによるミランコビッチ理論なのでした。

ミランコビッチ理論は、地球の公転軌道の変化によって、地球と太陽の平均的な距離が変化することで気候変動が起こる、とするもの。公転軌道が円に近い時期は太陽との平均的な距離が大きくなり、扁平な公転軌道のときには太陽との平均的距離が小さくなります。前者は氷期で、後者は間氷期にあたり、約10万年周期で繰り返しているそうです。この変化にくわえて、地軸の傾きの変化を考慮すると、過去の気候変動にさらに理由がつけやすくなるのでした。

ミランコビッチ理論は、天文学と気候学を結び付けたことでとても大きな功績がある、とあります。当時までの考えの範疇であったその壁には外があるんだということにはじめて気付かせたようなものだったのかもしれません。

本書前半部分では、ミランコビッチ理論を大きく扱いながら、カオス理論(ここで用いられたのは、ランダムなプログラム上でも、それぞれがバラバラな乱雑期と、歩調が同期する安定期があって、それらはトータルでカオス遍歴と呼ばれること)とも照らし合わせて気候変動のメカニズムを探っています。

そして後半部分からは本書の主役である福井県・水月湖の湖底に溜まる堆積物をボーリングして得られた詳細な年縞データに焦点をあてて、年縞研究の歴史からはじまり水月湖が世界のスタンダードの資料となるまで、そして、そこから見えてくる鮮やかな古気候の様子が語られます。前半部もエキサイティングなのですが、後半部からもぐいぐい読ませてくれる読み物になっています。

さて、ここからは雑学的部分をひろっていきます。

全球凍結という過去に地球がすべて凍結した時期がありますが、それを打破したのは火山活動だったらしいことが述べられていました。凍結状態によって白い地表面は太陽熱を跳ね返して地面が熱を保持することもありませんでした。そうして寒冷化がさらに進んていった中、火山活動で出る二酸化炭素が地球を暖めたようです。排出された二酸化炭素を吸収する植物はなかったしおなじく二酸化炭素を吸収する海洋は閉ざされていました。それで次第に濃度が増していき、温室効果が得られていった、と。

全球凍結状態での人類の生存は厳しいですが、逆に長い地球の歴史上で何度もある温暖期は、温暖化と言われる現在よりもさらに平均気温が10度も高かったらしいです。どでかいトンボなんかが滑空していた時代で、その気持ち悪さや恐怖のせいではないけれど、これだって人類の生存は厳しそうではないでしょうか。

現在の地球の気候はこれでもまだ寒冷期の範囲に入るみたいで、すなわち寒冷期に特化して繁栄した生き物が人類だから、そのうち地球のダイナミックな気候変動に適応できず淘汰されないかな、と悲観的な想像が浮かんできました。戦争で、とか、小惑星で、とかを待たず、地球の気候のリズムが理由で滅ぶ、あるいは大打撃、というシナリオです。

以下は箇条書き的に。

◇水って4℃のときが一番重いとのことでした。それよりも温かいとき、冷たいときは、4℃のときに比べて軽いのでした。4℃の名を冠したブランドはこの特徴に意味づけしてるでしょうね。

◇現在の温暖化は、人間活動によるものだと言われますが、その起源は産業革命にある、という主張を聞いたことってありませんか? これが実は、人間が農耕を開始し森林を伐採しだした時期からだそうなんです。かなり古くから温暖化を促進させているんです。そのせいか、数千年で終わることの多い間氷期が終わらず、1万年以上も温暖な気候がいまも続いています。これには、2万年以上続いた間氷期があることが最近わかってきていて、単純に数千年のパターンに当てはまらないことがわかってきたそうです。

◇IPCCによると、今後100年間で5度の平均気温上昇などと言われています。これが、過去の気候変動の様子だと、変わるときはわずか数年で5度や10度上昇したようなんです。自然な気候変動ってまさに激変してみせるようで、なかなか容赦がないなあと思いました。


最後に、これは、と思った箇所の引用を。
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歴史的に見ると、ほとんどの古代文明は1年の不作であればなんとか対応できるだけの備蓄を持っていた。だが、不作が2年続いても耐えられる文明は少ない。3年以上連続する不作は、現代の日本ですら想定していない。だが、現実問題として、歴史に残るような大飢饉の多くは、天候不順が数年にわたって容赦なく続くことによって発生しているのである。(p177)
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→江戸時代の、天明や天保の大飢饉は上記のような天候不順によっておこったそうです。冷夏が5年以上継続したとのこと。


とここまで書いても、まだ本書には盛りだくさんなトピックと、それぞれのトピックを深掘りした考察にあふれていて書ききれません。講談社科学出版賞受賞作でもあり、読み応え十分だったので、気候のメカニズムの最新知見についてちょっと興味を持たれた方はぜひにと思います。




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