Fish On The Boat

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『エレンディラ』

2016-06-25 16:01:21 | 読書。
読書。
『エレンディラ』 G.ガルシア=マルケス 鼓直・木村榮一 訳
を読んだ。

魔術的リアリズムのノーベル賞作家、
ガルシア=マルケスの短編集。

ノーベル賞を獲っている作家ですから、
ぼくのイメージとして、ちょっと難しい文体で、
インテリにしかわからないような小説なんじゃないか、
なんていう斜め読みな先入観を持って読み始めたのですが、
まったくそんなこともなく、
読みやすくておもしろい小説群でした。

ところどころ、よく読解できない文章もあり、
少々難解な詩みたいに感じられる短編もありました。
それでも、総じて、わかりやすく、
物語に惹きこむ力の強い(しかしどちらかといえばソフトにです)
優れた小説だと思いました。

マジックリアリズムなんていうと、
ぼくは村上春樹さんのものしか知りませんでした。
そのため、遠くから眺めるように、
マジックリアリズムという手法を見れず、わかっていなかった。
しかし、今回、ガルシア=マルケスのこの作品を読んで、
なるほど、そういうことなのかな、というように、
また村上作品を読んだ時とは違う角度から、
マジックリアリズムに触れることができ、
それはおもしろい経験でした。

しかし、まあ、
この作品を読むと、
物語の持つ力そのものについて、
感じさせられたり、考えさせられたりします。
技法がどうとか、言葉遣い、文体がどうとか、
そういうのがハナについて見えてこないで、
内容とともにそれら技術的な事柄が調和している。
これはきっと、日本の作家しか読まないでいると
わからないところなのかもしれないです。

最初の短編、「大きな翼のある、ひどく年取った男」では、
人間というものを美化していないどころか、
とくにその精神性の愚かさだとか汚さを見つめているのが
読んでいてはっきりとわかる作品だった。
というか、普通にしていて浮かびあがる
人間の愚かさみたいな感じだったかな。

そこにはもう諦めを通り越した、
「そういうもんだよね人間」ってという
もはや一般化してとらえた愚かで汚いという人間観があるように読めた。
たとえば「民度」という尺度から見てみるとしても、
あの作品に出てくる人々には
どこにも民度の高さのかけらすら感じることができない。

モラルとか品性とか、
そういうものを持ち合わせていない人々が念頭にあるというか。
人間の知性に期待していないというか。
まあ、品性と知性はイコールではなく、それぞれという意味です。

ゆえに、なのか、老人の天使が、
その容貌が醜くくても、いろいろな辛苦をやりすごして、
そのうち翼の羽毛がそれなりにはえてきて
飛ぶ練習をして飛び立っていく様は、
爽やかだったり清やかだったりはしないのだけれど、
別の種類の美しさがあると思った。

いや、ある意味、
老人の天使のふるまいは清らかだったのかもしれない…。

最後の、中編くらいの作品
「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」
も面白かった。
力のある物語で、血縁の呪縛をそのままのかたちで
(批判的だとか、批評的だとかじゃなくて)
表現している。

ここまで夢中になって物語の中に入れたのは、
久しぶりだといえるくらい、
他の作品とはちょっと違う深度をもつ短篇集でした。
おもしろかったので、
マジックリアリズムに抵抗感のないひとはぜひ。
抵抗感のある人でも、気にならないで読めちゃうかもしれません。


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