青山繁晴氏の本で『王道の日本、覇道の中国、火道の米国』 というのがある。王道、覇道は分かるが、はて?火道とは何ぞや。
「火道」というのは、本来「マグマの通り道」の意味らしい。それで、そこに溶岩が流れ、固まる。この溶岩は他の岩石と違って、非常に緻密な形成になるんだそうだ。
そこから転じて、緻密な論理を用いて(自国にとっての)「絶対正義」を推し進め、対立するものの存在を許さないやり方。これを「火道」と言われているのかもしれない。
そうではなくて、もっと平易に「砲火(武力)」を用いて(自国にとっての)「絶対正義」を推し進め、対立するものの存在を許さないやり方。これを「火道」と言われているのかもしれない。
どちらにしても【(自国にとっての)「絶対正義」を推し進め、対立するものの存在を許さない】というジャイアン思想であることに変わりはない。
まあ、「理屈なんかはどうでもいい。とにかく口ごたえは許さない。言う通りにしろ」という「覇道」に比べたらマシ、ではあるが、決してほめられたものではない。
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「はじめに」の転載 続き
米国のもう一つの顔はアラモの30年後の南北戦争で見せた。このときは保護貿易を望む北部と自由貿易を主張する南部がぶつかり、1861年に開戦した。一進一退の戦局に苛立ったリンカーンが開戦2年目に出したのが奴隷解放宣言だった。南部は奴隷を使っている。そんなところと貿易するのかという欧州向けのメッセージで、結果、南部は大きな経済制裁を受け、戦局は傾いた。
ただリンカーンは狡い男だった。奴隷解放、人道主義を北軍20州の旗印にしながら、うちケンタッキー、ミズーリなど5州もが奴隷州のままだった。奴隷解放は口先だけ、南部に対するネガティブ・キャンペーンだった。
おまけに人道を言う北軍の戦い方は非人道の極みだった。その代表がウィリアム・シャーマン将軍だ。彼はアトランタを陥落させると南軍の戦意を阻喪させるためと称して邸宅も街も鉄道も橋脚に至るまですべてを破壊し焼き尽くした。
アトランタが消滅すると彼はそこから400キロ東の大西洋岸まで50キロ幅ですべて焼き払っていった。世にいうSherman,s march to the sea (海への進軍)だ。東京大空襲の雛型はこんなところにあった。
この狂気の焦土作戦で南軍の将軍ロバート・リーが降伏し、62万人を殺した南北戦争は終わるが、米国人のもう一つの本性、慈悲なき復讐心が剝き出しになる。敗軍の将リーは足枷をはめられて晒し者にされ、彼の広大な邸宅は北軍戦死者の墓地にして汚された。今に残るアーリントン墓地がそれだ。
いま米国はそのリー将軍の像を廃棄しろとかまびすしい。「彼は南軍の将。奴隷制の擁護者だ」という言い分だ。
それについてのトランプのコメントが問題だと米メディアが騒いでいる。彼はこう言った。「こんなことで歴史と文化が切り裂かれるのを見るのがつらい」と。正解だと思う。時代ごとの評価で過去を壊していったら紅衛兵とどこが違うのか。
しかし米メディアは大統領がリーを称える白人優越主義者を非難しなかったと言って非難する。同じ新聞はまたコロンブスの像も壊そうと言う。彼は新世界を荒らし先住民を殺した侵略者だからだと。
リーとコロンブスの像を倒せば、テキサスの騙し盗りに見るような残忍でずる賢い米国の正体を隠せるとでも思っているのだろうか。
米メディアの短絡がよく分からないが、それに乗っかって米大統領を罵る日本のメディアも分からない。
日本人は戦争を戦う将兵についてはその戦いぶりで評価してきた。武人としてどう戦ったか。それで敦盛に涙し、ロジェストウェンスキーや毒をあおって死んだ北洋艦隊の丁汝昌を称えた。
ロシアのアジア侵略のお先棒を担いだ不埒者だと言ってステッセルを非難したり辱めたりはしなかった。
米国は歴史も浅い、醜いことばかりしてきた国だ。でも今はまともになったとか言って歴史の汚点をあれもこれも拭い去ろうとしている。
それが誤りだと日本のメディアはなぜ教え諭そうとしないのか。よその国の大統領を腐すのもいい。しかしそれならもっと罵るべき大統領とか国家主席とかが山といるではないか。
そういうあれこれを見れば、トランプはまだニューヨーク・タイムズよりはるかにまともだということが分かる。その辺を本書で理解してもらえれば幸せだ。
二〇一七年夏 高山正之
新潮文庫
「変見自在 トランプ、ウソつかない」
高山正之著 より
「変見自在 トランプ、ウソつかない」
高山正之著 より
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ということで、この本からも、また転載するつもりです。