「米国人特派員と聞いたら、まず疑ってかかれ」
米国人は白を黒と言うのに躊躇(ためら)いがない。「白い支那人」と言ってもいい。
彼らは原爆を落として子供たちまで地獄絵図に放り込みながら「実は我々はとてもいい人たちで、むしろ日本人の方が残忍なのだ」と言い出した。
それを信じ込ませる詐話師役にGHQは朝日新聞を選んだ。「天声人語」で名文をものしながら満員電車の車内で女学生のスカートに執着する荒垣秀雄に彼らは自分たちと同じ臭いを嗅ぎ取ったのだろう。
選ばれた朝日は命ぜられるままハーバード大教授のラングドン・ウォーナーが「京都を爆撃から救った」というGHQ製の話を載せた。
教授は日本の文化財のリストを米政府に提出した。それを見てヘンリー・スチムソン陸軍長官が京都を空襲の対象から外した。おかげで古都は戦禍から守られた。
スチームソンといいウォーナーといい、米国人は戦時でも日本の貴重な文化財に心を配るとてもいい人たちなのだと。
しかしウォーナーのリストには名古屋城も熱田神宮も入っている。でも米軍は原爆を落とし、あるいは執拗に焼夷弾を降らせて、みな焼いた。よくも恥ずかしげもなくつけた嘘に感心する。
京都に空襲がなかったのも原爆投下候補都市だったからだ。その威力を測るため通常爆弾による空襲が禁止されていた。
たまたま広島が先になったが、予定通りなら梅小路操車場上空にできた火球が東寺も本願寺も清水の舞台もみな飲み込んでいた。
そんな取ってつけた嘘でも日本人はころり騙される。細川護熙の祖父、護立(もりたつ)は感激し、日本の古都を守ってくれたウォーナーの顕彰碑を法隆寺脇に建てた。
馬鹿は鎌倉にもいた。円覚寺が焼かれなかったのもウォーナー様のおかげに違いないと鎌倉駅西口に顕彰碑を建てた。米国から教授の孫娘が呼ばれ、そんな話は嘘ですと挨拶した。米国人には珍しく正直な人がいた。
GHQは朝日と同様にNHKも日本人騙しの道具にした。田村町(内幸町)のNHKビルにはGHQのスタッフが大勢入り込んで指図したが、手狭だし、人目もある。
で、今は新国立美術館になっている麻布三連隊跡に移転させ、星条旗新聞社が同居してGHQ直営日本語放送局にするはずだった。
ところが朝鮮動乱が起きて計画は中止され、NHKは渋谷に移った。ただ同居するはずの星条旗新聞社の地代は「当初はNHKが払っていた」と、これは老舗フランス料理店「龍土軒」4代目の話だ。
(前半転載 了)
新潮文庫
「変見自在 トランプ、ウソつかない」
高山正之著 より
「変見自在 トランプ、ウソつかない」
高山正之著 より
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確かに、京都は何とかいうアメリカの学者が「大事な街だから空襲で焼いてしまってはいけない。それでは日本が復興できない」と必死になって止めた、と聞いた。
それを聞いた時、「へぇ~~。じゃ、東京や神戸、大阪なんてのは関係ないのか。広島や長崎なんか日本じゃない、ってか?」みたいなことを思ったものだ。
まさか真実は学者の孫娘の「そんな話は嘘です」の一言だったなんて・・・。