「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)3月19日(金曜日)弐
通巻第6834号
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米中戦略的対話というよりは、罵り合戦。アラスカの寒気より冷たい雰囲気
客をもてなすには失礼、外交礼儀にかなっていないと中国が先に大声で喝
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中国共産党百周年を間近に控えて、中国外交トップは京劇の役者を演じなければならない。アラスカ州アンカレッジのホテルで開催された米中高級レベル対話は、冒頭から大荒れとなり、中国が「客をもてなすには失礼、外交礼儀にかなっていない」と先制攻撃の口火を切った。
ブリンケン米国務長官は「新疆、香港、台湾問題に加え、米国へのサイバー攻撃、同盟国への経済的な強要行為を含む中国の行動に対する米国の深い懸念」を表明するや、楊潔チ・前外相(政治局員)はひとり二分の発言という規則を最初から大幅に無視して15分の演説、「内政干渉するな。米国でもマイノリティー(少数派)の扱いがあるではないか。米国は軍事力と金融における覇権を用いて影響力を広げ、他国を抑圧している」とし、「国家安全保障概念を悪用し、貿易取引を妨害し、ほかの国々が中国を攻撃するよう仕向けている」と続けた。
冒頭から喧嘩腰の乱雑な言葉が中国側から発せられ、対話と言うより罵り合戦、ま、予測されたこととはいえ、中国側の楊潔チと王毅外相にとっては京劇の見せ場なのである。楊は嘗て国連演説で日本を激しく罵って習の歓心を買い、政治局員に出世した。
そのやり方をじっと見てきた王毅・外相(元駐日大使)も、俄然張り切って演ずる。夏の共産党創立百周年大会と秋の第六回中央委員会総会で、さらに出世階段を登ろうとしているからである。
なお米中戦略対話という位置づけは米国が拒否し、中国側が国防トップを参加させず外交のトップを二人出席させたため、オースチン国防長官は欠席、かわりにサリバン大統領補佐官とインド太平洋担当のカート・キャンベルが同席した。
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なるほど、こうやって解題されてみると、大変な内容なのにNHKニュースでは淡々と報道され、(報道に割かれた時間も)短かった理由が納得できました。
考えてみればアメリカ側の挨拶に対して、「外交儀礼上、無礼な発言だ」と倍以上の時間をかけて自国の主張を述べる。
いくらアメリカでも挨拶の段階でいきなり本題には入らないのが普通だが、敢えてこうやった。トランプ外交よりハードな、いつものジャイアン外交だと言っても良いのかもしれない。
だったら面子を重んじる国としては、ここでは「外交儀礼も守れない国となど話はできない」と席を蹴り「我が国、堂々退場す」、をやれば良かったようなものだが。
そこらへんは強かだから、「外交儀礼上、~」と形式だけ難詰する。
両国の挨拶までは報道が入るが、会議自体には報道は入れない。つまり報道は実際には何も報道できない。報道にできることは「アラスカで両国の会議が行われた。『会議の前に』激しい舌戦が繰り広げられた」と伝えることだけ。肝腎の会議の中身は重要機密なんだから、いい加減な憶測記事は書けない。
でも、それを聞いた人々は「会議の前でさえあの激しさなんだから、会議の中身はさぞや物凄いことに・・・」と勝手に想像する。
ということで会議の初め(でも何でもないけど)に、「我が国は最大の強国相手に一歩も引かず、論戦を展開した」と自国のみならず世界中の国々に示すことができた、となる。
《予測されたこととはいえ、中国側の楊潔チと王毅外相にとっては京劇の見せ場なのである。》