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ただの日記

経緯を見れば・・・。

2021年03月21日 | 日々の暮らし
 サッチャーとメルケル。女性政治家として世界での知名度の高さは抜群の二人だけど、国家観は全く違うんでしょうね。国家観というより、メルケルの方は国家を飛ばしていきなり「世界観」なのかも。
 何となく二人は同類と思っていた自分に赤面する。新聞やテレビでメルケルについての冷静な批評を見聞きすることは全くないから、と言っても。

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 書評)
 世界もドイツも女傑メルケルを自由主義の政治家と誤認してきた
  彼女はトンデモナイ伝統破壊の全体主義者だった

   ♪
川口マーン惠美『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)
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 副題に「ドイツは日本の反面教師である」とあって、ナルホド、日本も間もなくドイツの轍に嵌りこんで全体主義国家に転落する危険性を、本書を読むとひしひしと感じる。
 最初は「肝っ玉母さん」のたのもしい映像がメルケルだった。その虚像が大きく流れたので、日本でも期待した人が多かった。ところがメルケルの実像は「はてしなき陰謀家」であり、「陰湿な策士」だったというのが本書の描き出す、本当は危険な女性宰相の真相である。
 プロテスタント牧師の娘として育ったメルケルは、寡黙な目立たない女性だった。両親の社会主義的性向の影響を受けて、東ドイツの極く小さな政党(DA)で活動を開始した。その党があまりにも小さな規模だったゆえに、メルケルはスポークスウーマンとして瞬く間に頭角を表した。
東西ドイツ統一を絶好のチャンスと利用して西ドイツ与党(CDU)と組んで、いきなり全ドイツ的政治家としてのデビューを飾った。
 小さな東ドイツの社会主義政党が、西ドイツの最大与党の庇を借りて母屋を乗っ取った。そんじょそこらの凡人がなしえる芸当ではない。
 たまたまベルリンの壁が壊れ、東西ベルリンの行き来が自由になって、通貨統合までの激動の時期に、評者(宮崎)も何回か、ドイツに取材に通った。当時、東ベルリンへの直行便があって、ソ連製のボロ飛行機だったが、乗客は少なく、通関もラクだった。通貨統合の前夜はお祭り騒ぎで、明け方まで町中は騒然としていたことを思い出す(拙著『新生ドイツの大乱』、学研)。
メルケルは東西ドイツ統合があったがゆえに、その機会に功利的に便乗して、政治の中枢に躍りでたのだ。
以後、何時の間にか身につけた策謀、陰謀、多数派工作、偽情報などを駆使してコール側近となり、やがては与党の顔になってゆく。その間に友人も同僚も上司も利用し尽くすとバッサバッサと切り捨ててきた。だからメルケルを恨むドイツ人政治家は多い。
 そして「CDUと連立を組む党が、あたかもメルケルに精力を吸い取られるかのように、次々と落ちぶれていく」(173p)。
 「メルケルにとっての脱原発は、一時の保身であると同時に、本来の信条であった」(183p)
 かくしてメルケルは選挙でつねに苦戦しつつも、「第三次メルケル政権が成立した時、ドイツの国会からは保守リベラルというべき経済政策を推す政党が、事実上、消滅していた」(194p)
 なぜなら保守政党であるCDUは左翼政党の政策をちゃっかり吸い上げてきたからだ。
 メルケルはいまや「民主主義の擁護者」でもなく「人権の擁護者」でもなく「環境の保護者」でもない、と著者は「日本人の誤ったイメージ」を根底的に転覆させる。
 その実態を、在独作家の川口マーン惠美さんは、繊細な観察とダイナミックは筆圧で活写している。
 メルケルの実像をしったら驚く読者が多いだろう。しかしながら、これはドイツだけの問題ではなく、EU、ユーロを牽引する欧州経済のエンジンはドイツであり、なおかつ中国との蜜月を続けており(表面的に「人権」とか言っているが)、トランプ路線とは鮮烈に距離を置いた。なぜならメルケルは心底から「社会主義」の信奉者なのである。
 人道主義を装っての難民受け入れも、本年は安い労働力確保を狙うドイツ財界の意向に沿ってのことで、大量の難民は多文化共生というグローバリズムに直結するが、同時に民族的アイデンティティは喪失する。こういう左翼の理想とする地球はひとつ、という「左翼思想を資本家の利益と絡ませたこと」がメルケルの凄いところなのである。
 まして政敵を潰すにあたっての陰謀たるや、マキャベリもびっくりの狡猾さを発揮する。つまり引退を表明しているとはいえ「メルケルのあとも、メルケル」の可能性が高いのである。
 「首相となったメルケルは、2011年の福島の原発事故の直後に、突然、22年までにドイツのすべての原発を止めると決めた。それを知った国民は狂喜し、世界のお手本になるのだと胸を張った。15年、メルケルが中東難民の無制限の受け入れに踏み出したときも同様だった。国民はそこに自分たちの高邁なモラルを投影して高揚した(中略)。いずれの時も、国民の熱狂はあっというまに冷めた」。そして昨師走、EUは、背後にメルケルの工作があって、欧州と中国の投資協定を拙速に締結してしまった。
ウィグル問題も香港の人権抑圧も、わすれたかのように。
 しかしさすがのドイツのメディアも人道主義と人権を忘れてはいなかった。声高に投資協定の停止を主張し始めた。なぜなら協定には「人道に対する犯罪や奴隷労働の中止を保証するために有効な義務をもとめていない」からだ。
 中国が約束を守るという幻想は錯覚でしかないことに、ようやくドイツ社会が気づき始めた。
 九月、ドイツ総選挙。メルケル時代は本当に終わるのか?

 (宮崎正弘)



「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)3月20日(土曜日)
   通巻第6835号 より 

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