晩秋の陽は短い。「誰そ彼時」はすぐにやって来る。
家に帰った時は2時前だったが、色々やってみるうちに時間は無情にも過ぎてゆく。
取り敢えずシールドごと別のヘルメットと取り換えようか、と思いつく。
黒のヘルメットと赤のヘルメットのシールドをトレードしてみようかとやってみたが、上手く留められない。製造時期に10年くらいずれがあるから、型式が違っているかもしれない。
日本の兵器は高性能だけれど、ねじ一本に至るまで特殊で、戦地で故障すると修理が大変だったとか。ヘルメットづくりにもそんな求道者意識が根底に在ったりして。いや、araiだってshoeiだってそんなところがありそうな気はする。
気が付けば3時。
そういうわけで、このヘルメットをバーゲンの時に3割引きで買った2りん館まで行くことにした。
しかし2りん館は遠い。片道1時間かかる。往復するだけで2時間。
3時半には薄暗くなり始める。今、3時。作業時間も含めたら帰って来る頃には5時半を過ぎる。
「明日にする?」
明日にしたって部品があるかどうか分からない。何しろ3割引きだった。型が古い。
「車で行く?」
慣れない道で、それに加えてあの辺りは交通量が多い。車で行く方が危険だ。
「さあ、どうする?」
何だかタクシーのCMみたいだが、とにかく行くしかない。
いっそ明日の案件に、とも思ったが、それではまた一日潰すことになる。
行こう。思った以上に日暮れが早ければ、途中で引き返すこともあり、としてやっぱり行ってみることにした。
黄昏時から夜の帳が降りるまでに。(SPY×FAMILY?)
幸いなことに部品の在庫があって、少し時間はかかったけれど修理ができた。費用も思ったより安く部品代の800円余りで済んだ。何より取り寄せとなっていたら大変だった。
そして帰り着いたのと日が暮れるのが同時だったろうか。
通勤時は、仕方なしに夜も乗っていた。日付が変わるまで、というようなことはなかったけれど、8時、9時はまあよくあることだった。
歳をとると目が怪しくなる。ヘッドライト一つを頼りに走るようなことはないけれど、街灯があったって夜の道は情報量が激減する。
勘だけに頼って走る、なんてのは乗っててあまり楽しくない。
夜景というのも良いものだけれど、刺激的な照明(満月の月明りだったり、プロジェクションマッピングだったり。サーチ・ライトなんてのもある)があると、それぞれの印象の落差につい心を奪われ、重大事故を起こす可能性が高くなる。
無職になってからは夜に走る用事もないから、これ幸いと乗らなくなっている(当然、乗る用事を作らないのだが)。
十数年ぶりにこんな時間にバイクに乗って、シールド軸の修理も成ったし何とか無事に帰れたし、で、ほっとしたのか夕食後は酒も飲んでないのに転寝をしてしまった。
ツーリングで宿に入って、風呂夕食と済ませ、日記を書こうとノートを出して、そこから先を覚えてないといった経験と何だかよく似ている。