神戸堂帽子店が結局閉店となるらしいので、それまでに一度行ってみようと思っていた。
神戸に戻って来てから、また時々行くようになっていたのだけれど、或る時、歩道の端の車道上に大きな木箱が建てられた。
「木箱が建てられた」というのは我ながら変な表現と思うが、そうとしか書きようがない。何しろ一メートル数十センチくらいの高さで、幅も一メートルくらい。長さは二メートル前後。それが通りの数カ所に設置されていた。
不法駐車を防ぐためと交差点付近の安全な通行のためなのだろう。
木箱なら景色を台無しにしないということなのだろうが、ちょっと店に行って買い物を、という時には困る。何も一時間も二時間も停めているわけじゃないのだからそこまでしなくても、と思うのだが。設置されてしまったものは仕方がない。もう車で帽子を買いに行けない。バイクで行ったら?という気には全くならない。バイクに乗るときはバイク用の服を着る。だから帽子の選びようがない。
帽子は着るものに合わせて被るんだから、ライディングジャケットではない普通のジャケットと合わせもしないで買うなんて、そんな博奕みたいなことはできない。それで自然、足が遠のいてしまっていた。
二週間に一度くらいの割合でリュックを背負って近くにパンを買いに行く。
その帰りに神戸堂の前を通る。行きたいけどなかなか行けないな、とその都度思う。
或る日、店のショーウィンドに赤地に白文字の「閉店セール」の張り紙のあるのが見えた。
「車では行けない」から足が遠のいていたのだが、閉店となるともう二度と行けなくなるわけだ。
そうだ!カブで行ったときに寄ればいい。帽子を買ったら前かごに入れたらいいじゃないか。
いつも行くたびに店の人が変わっていた。神戸堂の名前はそのままだけど、買い取った会社は大阪にあるらしいから、そこから社員が交代で来るのだろうか。
店の隣の店舗も、二軒続けて空き店舗になっていた。「売店舗」の看板が掛かっている。
その一軒の前にカブを停めて店に入る。
八枚接ぎのハンチング(キャスケット?)を買う。勿論、カブに合わせた。
一月末に閉めるということなので、できればもう一回来ます、と言って帰る。
今週中にダブルのジャケットで、もう一度行ってみよう。