CubとSRと

ただの日記

確かに。東亜三国と欧州とでは歴史が全く違う

2022年12月28日 | 心の持ち様
 
書評 BOOKREVIEW
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 日本や朝鮮や中国が(ヨーロッパのように)境をはずして混じり合ったことはない
 日本と中国との間には、『関係』とよべるようなものはなんら存在しなかった

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西尾幹二全集『第二十一巻 天皇と原爆』(国書刊行会)
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 西尾全集も二十一巻となった。この巻では単行本四冊ほどが凝縮されている。
 とくにアメリカの戦争観や戦後史家たち、たとえば半藤一利、秦郁彦氏らの欺瞞と嘘の歴史観への批判などがあるが、圧巻は中枢を占める『天皇と原爆』である。
 まず議論は「国体」についての考察だが、以前にも小覧で書いたことがあるので割愛し、昭和十二年に出た『国体の本義』についても国柄の特質、日本人の明かき心と清明心が国民精神の根底にある、というのが議論の前提になる。

 西尾氏はこう書かれる。
 「宗教には個人の心や魂の救済と、公的な社会における関与」という二つの問題があるが、国家ということを考えれば「天皇以外に考えられない」
 まず「日本や朝鮮や中国が(ヨーロッパのように)境をはずして混じり合ったことは一度もない。(中略)日本と中国との間には、極言すれば『関係』とよべるようなものはなんら存在しなかった」(441p)

 では何があったか?
 律令制はたしかにシナに学んだが、日本は天皇を中心に国家体制を構築した。冠位制度は儒教的要素に、もうひとつの価値観をふくらませ、聖徳太子は十二階とした。平城京も平安京も長安に都市設計は真似たが、城壁がない平和的な建築思想が基礎になった。
 「方向の異なる二つの力、すなわち牽引力と反撥力とが作用し合った、ある種のバランスをとっていなければならない。(中略)日本は中国文化を吸収し」た部分もあるように見えて、実は独特な文化に置き換え、「二つが融合したわけでもないのに、日本は中国に対してはただ牽引力のみを感じ、反撥力を持たず、それでいて日本文化は個体として生き残った」。
 それは島国だったから、あらゆる文明文化をうけいれ日本流に租借してしまったのである。

 国威発揚の儀式を重んじた律令制国家も遣唐使を廃止した。
「907年には唐が崩壊します。すなわち東アジアの緊張がなくなっちゃったので、国威発揚の必要もなくなる」、それゆえに、「王権自体が消極的になり『天皇を差し置いた摂政関白の時代が始ま』ることになる。外国の脅威が稀釈化し、まさに秩序の安定と天皇家との縁組みによる藤原レジュームが三、四世紀という長い時間つづくのである。
 その基本は十七条憲法のl『和を以て貴しとなす』である。

 評者(宮崎)がよく喩えるのは、日本人の多くが熱中したサッカーと蹴鞠の比較である。
 嘗て岡潔も指摘したことがあるが、蹴鞠は飛鳥時代から日本の優雅な室外競技だがサッカーの源流ともいわれながら、まったくサッカーのルールとは異なる。蹴鞠は、競技参加者が輪になって球を蹴り合うが、お互いに蹴りやすい位置へ球をもっていき、なるべく長く足下で落とさないように保ち、結局全体の和を競う競技である。サッカーのような攻撃性はない。
 欧州やシナとは、まったく異なる和の協調性が蹴鞠の精神であることを忘れてはならない。

 神道と仏教は奈良時代から日本で神仏混交となって絡み合い、江戸時代には仏教が政治と結びついて力をもった。庶民はまず神社仏閣へお参りに行ったが、儒学の湯島聖堂を訪れる人は少数(いまも訪問者は少ない)。
 儒学は江戸時代に知識人に影響を持ったが、政治を動かしたかと言えば、幕府ブレーンの顔ぶれをみても僧侶の天海、崇伝であり、林羅山に政治力はなく、新井白石は儒学の政治を主導したわけでもなく、まして山鹿素行も荻生徂徠も、長屋の講釈で糊口を凌いだ。
 西尾幹二氏はこうも言われる。
「徳川の政治体制は儒学とはあまり関係なしに成立したので、幕府が朱子学者たちを抱えたことを過大に考えない方がいいでしょう(中略)。幕府のお抱え儒者たちは主に博識と文章能力を利用されたのであって、彼らの思想も論争も、支配階級である侍の間にはさほど浸透することはありませんでした」

 というより、江戸の儒学者らは博覧強記にして孔子、孟子、荀子などの本質を捉えたが、日本主義、国体尊重に流れ込み「天壌無窮」「神州不滅」「尊皇攘夷」というナショナルな情緒を加味した独特の思想を生んだ。典型が水戸学で有り、幕末の平田篤胤である。国学が純粋培養されて幕末の志士らの原動力となるのだ。

 本書における水戸学の客観的な分析と解説はおおいに参考となった。
 蛇足ながら月報に小川栄太郎、三浦小太郎、浜崎洋介氏らが寄稿していてそれぞれが面白かった。



 「宮崎正弘の国際情勢解題」 
    令和四年(2022)12月27日(火曜日)
       通巻第7569号より
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