![]() | ちるとしふと (新鋭短歌シリーズ39) |
クリエーター情報なし | |
書肆侃侃房 |
☆☆☆☆
娘が家を出て一人暮らしを・・・・私の生まれ育った梅田から近い天満に。
女房と一緒に電化製品やベットにふとんを買い、運べるものは運び入れて、
ようやく終わったのが3時、あと、ガス屋が来るだけと・・・・晩めしまで
時間があるので、「行きたい本屋があるねん」と、中崎町の“葉ね文庫”へ。
そこで、「去年の秋から短歌をはじめて、まだ素人なんですが・・・」
「桜前線」や「タイムカプセル」みたいな、多くの人が載っている
カタログみたいな本、何かありませんか」
「佐藤真由美さんに、加藤千恵さん、岡崎裕美子さん、佐藤りえさんが好き、なんですが」
そこで奨められて買ったのが三冊で、
その中の一冊がこの「ちるとしふと」千原こはぎ,さん。
本を開けて、二番目の歌が
背伸びしてすべての窓にカーテンを掛けて始まるひとりの春は
偶然とは凄い、すぐさま、同じ部屋にいる娘にLINEで送る。
素敵な本を、オーナーの池上さん、ありがとうございます。
では、恒例の気に入った歌を、今回は多いですよ。
最初にあったのが
玄関のドアをひらけば吹いてくる風のことです春というのは
全力で曖昧なことがしたくなりジーンズひとつざぶざぶ洗う
存在をときどき確かめたくなって深夜ひとりで立つ自動ドア
なにひとつ揺れないキスをするような大人になると思わなかった
春いまだ遠くひとりのリビングで私の旬はわたしが決める
結婚はできない派でなくしない派でそれはさておき買う抱き枕
選ばれる準備はいつでもできている玉子焼きなら焦がさず焼ける
八時間置きっぱなしのコーヒーをまた口にして気づく夕暮れ
真夜中の自販機だけはやさしくてお釣りも少し多めにくれる
絶対にわたしが触れることのないドアをくぐって会いにくるひと
家族席で君と牛丼食べている家族になろうと言いそうになる
しあわせの数は決まっていてあとはさみしさだけを消化する日々
息白く見知らぬ駅で待っている わたし、 だいじにされてなかった
五杯目となるカプチーノ ファミレスでさよならなんてやめてください
叶わないことの重なる週末は牛乳パックをただ切りひらく
〈三番線発車します〉の声にすらすこし泣きたい〈ドア閉まります〉
待たないでもう眠ります この夜はかすかに雨の匂いがするの
「寒くない?」「ちょうどいいかな」色づいた木々と背中を撫でてゆく秋
おしまいのさいごのさいごに離すゆび 次はいつふれるかわからないゆび
ひとり飲むホットココアはやさしくて忘れることを許してくれる
また今日もサンドイッチの具を落とすきみの油断を愛してしまう
牛乳がしずかに膜を張るようにあなたを少し拒んでいたい
そうこれは癖です近づき過ぎたあとそのぶん離れようとする癖
わたしから言えないことがあなたから溢れ出す日を待つ晩夏です
きみに会うときはスカートと決めていてスカートばかりはきたい日々だ
罫線も方眼もないあなたとのこれからを自由帳なんて呼ぶ
あいたいとせつないを足して2で割ればつまりあなたはたいせつだった
あたりまえみたいなことが特別でゆっくり弱火で焼く目玉焼き
これ以上誰にも出逢いませんようにたったひとりを待つ冬の窓
困らせてしまいたくなる訳もなく未読のままで過ごす一日
存在をときどき確かめたくなって深夜ひとりで立つ自動ドア
なにひとつ揺れないキスをするような大人になると思わなかった
春いまだ遠くひとりのリビングで私の旬はわたしが決める
結婚はできない派でなくしない派でそれはさておき買う抱き枕
選ばれる準備はいつでもできている玉子焼きなら焦がさず焼ける
八時間置きっぱなしのコーヒーをまた口にして気づく夕暮れ
真夜中の自販機だけはやさしくてお釣りも少し多めにくれる
絶対にわたしが触れることのないドアをくぐって会いにくるひと
家族席で君と牛丼食べている家族になろうと言いそうになる
しあわせの数は決まっていてあとはさみしさだけを消化する日々
息白く見知らぬ駅で待っている わたし、 だいじにされてなかった
五杯目となるカプチーノ ファミレスでさよならなんてやめてください
叶わないことの重なる週末は牛乳パックをただ切りひらく
〈三番線発車します〉の声にすらすこし泣きたい〈ドア閉まります〉
待たないでもう眠ります この夜はかすかに雨の匂いがするの
「寒くない?」「ちょうどいいかな」色づいた木々と背中を撫でてゆく秋
おしまいのさいごのさいごに離すゆび 次はいつふれるかわからないゆび
ひとり飲むホットココアはやさしくて忘れることを許してくれる
また今日もサンドイッチの具を落とすきみの油断を愛してしまう
牛乳がしずかに膜を張るようにあなたを少し拒んでいたい
そうこれは癖です近づき過ぎたあとそのぶん離れようとする癖
わたしから言えないことがあなたから溢れ出す日を待つ晩夏です
きみに会うときはスカートと決めていてスカートばかりはきたい日々だ
罫線も方眼もないあなたとのこれからを自由帳なんて呼ぶ
あいたいとせつないを足して2で割ればつまりあなたはたいせつだった
あたりまえみたいなことが特別でゆっくり弱火で焼く目玉焼き
これ以上誰にも出逢いませんようにたったひとりを待つ冬の窓
困らせてしまいたくなる訳もなく未読のままで過ごす一日
素敵な本を、“葉ね文庫”さん、ありがとさ~ん、でおます。