かつて共産体制化では人々は指定された所の集合住宅の一室(アパルタメント)に住むように、と割り当てられ、そこを購入したそうです。集合住宅とはいえそこは自分の家、所有財産なのです。(最近はそこを賃貸に出す人、そして借家住まいもずいぶん増えているようですが・・・)
そして、「我が道を行く」ブルガリア人は、この家をいかに快適にするかに人生の大半を割いているようにさえ見えます。それほど「凝っている」というか、それが「趣味」というか・・・
まずベランダ!! オリジナルのままだとバルコニーがついているだけなのですが、多くの家ではそこをブロックで埋めて屋根や窓をつけ一部屋にしてしまいます。結構見かけるのがこの元ベランダをキッチンに改造してしまって(以前にAsahi.comでこんな風に紹介されてました)元のキッチンを寝室や客間にしている家です。(ウチのアパートのようにベランダがない場合は玄関入ってすぐにキッチンを移す人もいます。) どのように改造するかは家の人のセンス。もちろんお金のない家や部屋にする必要を感じない人の家はバルコニーのまま。だから外から見ると外観がまったくそろっていない!! さらに、バルコニーももともとガラスをのせるように作られてはいないのでその重さのせいでヒビが入っている所も。地震国日本からきた私としては「マグニチュード3くらいで崩れるかも」と危惧していますが・・・
さらに夏の乾燥したこの時期、寒い冬に備えての改装工事が大はやり。外壁に発泡スチロールの薄い板(ステレオポル)を貼り付けてその上からモルタルを塗り、自分の好きな色で塗装するもんだから同じ建物でもまったく統一感のない外観・・・ でもこの改装工事、自分じゃできないよね・・・ そこで登場するのが「アルピニスト」=登山家?えっ、どういうこと? 町の中で登山? 実はこの職業、建物の上からケーブルでぶら下がり、外壁工事をする人たちなのです。そして工事が終わると、自分の宣伝のために電話番号を壁に書いていく・・・ あちこちの建物の壁に電話番号が書かれているのはそういう理由なんですね。ウチの近所の工事現場で上を見上げてポカーンとしていた私に通りがかりのおじいさんが「キタイ(中国)でも、こんな事するか? しないだろ?」と尋ねてきましたが・・・ わたし日本人なんですけど。
でも、ブルガリアの建物のテンでバラバラな外観からは想像もつかないほど家の中はきれいなんですよ! じゅうたんをひいたり、内壁に無垢材を張って木の温か味を感じるようにしていたり、間接照明やスポットライトを天井や壁に埋め込んだり・・・ 思わず、「え?さっきまでお金がない、仕事がないって愚痴ってたよね?じゃあ、このゴージャスさは何?」とツッコミを入れたくなります。その差って、どうして?
友人のサショー曰く、「昔トルコから占領されていた時、家の外観をなるべくみすぼらしくしておかないと、財産みんな持ってかれてしまったからね。」
まあ、その言葉の真偽は定かではありませんがこの説明が「なるほどね」と思えてしまうほど人々の家は「外はボロボロ、中は豪華」。少ない収入で家の中をこつこつ自分の思い通りにしていくことが「趣味」というか「生きがい」のブルガリア人。玄関のドアに鍵は4~5個あるのにドアノブがなかったり、玄関の前の通路にもう一つ鉄格子(まるで動物園の檻!!)があったり、と、その「自分の城、宝物」である家に他の人を寄せ付けたくない、と言う気持ちは、見るだけでこちらに伝わってくる気がしました。
この記事、ブル人の大工仕事能力(社会主義時代は、自力でヴィラ(別荘)を建てていた)を紹介していて、すごくいいと思います。ユーゴ人もそうだったけど、バルカンの人って元々家を自分で造るんです。大工さんなどの専門職人は、屋根葺きなど、特定の難しい部分だけ、注文するけど、大部分は、自分で建ててしまいます。煉瓦を積んで、材木で内装して、その程度は自分でできる、というのが彼らの発想。自分のためなら勤勉そのもの、他人のためには仕事はのろい!
「ブルガリア人は家を作れる」!ホントにそうですね。そのことで思い出すのがトム・ハンクス主演の映画「ターミナル」。クーデターでJFKに閉じ込められた主人公が自由になるまでの話でしたが、空港での時間彼がDIY能力を遺憾なく発揮し、みんなに愛される存在になるのが印象的でしたが、彼の話していた言語はブルガリア語!!! クーデターのニュースを見て、涙目で「ズナエテ リ?」・・・ トム・ハンクスの奥さんがブルガリア系アメリカ人でそこからインスパイアされたらしいのですが・・・ 彼のせりふが「「そりゃ納得いかんのう」と山口弁に聞こえる」というトリビアもありましたが、あれ、ブルガリア語で何て言ってるんだろう・・・