私がなつかしのマイケルチョコレートの当たりくじを集めていたのは、二十代前半の厳しい挫折の時期でした。
大学を卒業して間もなく経験した、最も信頼していた人からの裏切り、そして職場でのいじめ……。世間の冷たさをイヤというほど味わっていた頃だったのです。どっちを向いても真っ暗で、一筋の光も見えなかった。そんなある日、好きだったマンガのキャラクターの入ったチョコレートを何げなく買った私の手に、ふと小さな当たりくじが舞い込んできたのです。
パッケージには、この当たりくじを十枚集めると、マイケルスタンドが当たると書いてありました。そして、それから毎日、私はそのチョコレートを買い続けたのです。
不思議なことに、毎日チョコレートを二個ずつ買っていると、そのうちの一個には必ず当たりくじがついていて、十枚の当たりくじはあっという間に集まってしまいました。二個に一個は当たりがついてるのかなとも思いましたが、近所の小学生の子は、いくつ買ってもちっとも集まらなかったそうです。
その頃の私は、ボロボロに傷ついた心を奥に隠し、現実に愛想笑いをしながら、よたよたと生きていました。そして、そうしながら、誰も知らない心の奥で一つのカケをしていました。これから、もし、私の本当の望みが叶うのなら、この当たりくじを十枚、必ず集めることができる。必ず、必ず、集めることができる……。
そして、あまりにも簡単に、それは集まってしまったのです。
あれは、私の祈りの力だったのでしょうか。それとも、どんなに傷ついても、どんなに悲観的な状況でも、決して自分を諦めてはいなかった私の心を、誰かが見ていてくれたのでしょうか……。
あれからもう十年以上が経ち、私の夢は今、少しずつ叶おうとしています。道は、思っていたほど順調ではなくて、壁や落とし穴がそこらじゅうにあったり、自分で自分をわなにかけてしまったり、いろんな失敗もありました。でもその分だけ、大きな心で人や世界を見ることができるようになった気がしています。
たとえ、どんなに苦しいことが続いても、大丈夫です。皆さん、悲しまないで、笑ってください。チョコの当たりくじや、小さなガラスの箸置き、何げなく手に取った本。何にでも、希望は隠れているのです。宝探しのように、探してみてください。見つかるコツは、「必ず見つかる」と、明るく信じること。そして壁にぶつかった時は、素直に反省点を認める、柔らかな心と、知恵をもつことです。
(1999年3月ちこり15号、編集後記)