だからヤルスベ族は、自族の産物である鉄のナイフなどを交換条件にして、毎年カシワナ族から米を買い付けるのだ。
「実にいい米だ。いいにおいだ。炊けばうまい飯になるだろう」ゴリンゴはアシメックに向き直りながら言った。アシメックは「もちろんだ」と答えた。
「では、早速だが」
言いながら、ゴリンゴはわきにいる男に合図した。するとその男は、後ろに隠していた袋をとり、その中から、交換条件の鉄のナイフを取り出し、床に並べた。
おお、という声が、カシワナ族の方から漏れた。美しい鉄色をした、三日月のように細い真新しい鉄のナイフが、いくつも床に並べられた。それに続いて、魚骨ビーズの首飾りが十五ほども並べられた。すごい宝だ。
ヤルスベ族にとっては、米はそれほどいいものなのだ。ダヴィルが言った。
「去年よりいいですよ。技が進んでる。ナイフのとがり方が、去年と違う」
「もちろんそうだ」とゴリンゴは言った。鉄のナイフづくりはヤルスベ族の持つ宝だった。いいナイフづくりの技術者がいた。それがとてもおもしろい、ナイフの作り方を考案したのだ。それで、去年よりいいナイフがたくさん作れたので、今年はそれをたくさん持って来たと、ゴリンゴはしばし自慢げにとうとうと話した。
アシメックはしばし鉄のナイフを見ていた。実に見事だ。すばらしい。その技術者がどんなやつか知らないが、アシメックはそいつを抱きしめたくなった。こんなものを作るやつは、それはいいやつにちがいない。アシメックはゴリンゴに許しを願い、ナイフの一つに触らせてもらった。
軽い。しかも手に持ちやすい。確かに、去年のものよりいい。アシメックは言った。
「いいものだ。稲刈りが楽になるだろう」