世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

山へ⑥

2017-11-12 04:13:21 | 風紋


アシメックは子供にやさしく声をかけながら、身をかがめ、子供の足の傷を見てやった。右足の裏に、かなり大きな傷があり、血が流れていた。アシメックは、自分の汗拭き用の茅布を取り出し、それで傷をしばりながら、言った。

「大丈夫だ、痛くない。男は我慢しろ。しかしこれでは歩けないな。だれか背負って、村に帰してやってくれないか。ミコルのところに行って、薬を塗ってもらわねばならない」

アシメックがそう言うと、周りを取り囲む村人の中から、「おれが行くよ」という声がした。見ると、それはサリクだった。

アシメックはサリクを見ると、「じゃあ頼む」と言った。するとサリクはさっと表情を明るくして、子供の所に来た。アシメックの役に立てるのが、うれしくてたまらないのだ。

「どら、おれが背負ってやるよ。山で栗はひろいたいだろうけど、今は我慢しろ」

サリクが背中を向けてやると、子供はおずおずと身をかぶせてきた。なりは大きめだが意外と軽い子供だ。母親が寄って来て、子供をなでながら「頼むよ」とサリクに声をかけた。サリクは笑って答えた。

「こんなこと、なんでもないさ」

それはアシメックの真似だった。アシメックは人に御礼のようなことを言われると、いつもこういうのだ。

サリクは子供を背負って、山を下りて行った。軽い子供だが、やはりずっと負っているのは疲れる。だがサリクの胸は明るかった。ずいぶんと自分がいい奴のような気がしていたからだ。子供を背負ってやるなんて、なんておれはいいことをしているんだろう。

ふとサリクは、傍らの木の根元に、紫色のキノコが生えているのに気付き、「お」と言った。




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