アシメックは子供にやさしく声をかけながら、身をかがめ、子供の足の傷を見てやった。右足の裏に、かなり大きな傷があり、血が流れていた。アシメックは、自分の汗拭き用の茅布を取り出し、それで傷をしばりながら、言った。
「大丈夫だ、痛くない。男は我慢しろ。しかしこれでは歩けないな。だれか背負って、村に帰してやってくれないか。ミコルのところに行って、薬を塗ってもらわねばならない」
アシメックがそう言うと、周りを取り囲む村人の中から、「おれが行くよ」という声がした。見ると、それはサリクだった。
アシメックはサリクを見ると、「じゃあ頼む」と言った。するとサリクはさっと表情を明るくして、子供の所に来た。アシメックの役に立てるのが、うれしくてたまらないのだ。
「どら、おれが背負ってやるよ。山で栗はひろいたいだろうけど、今は我慢しろ」
サリクが背中を向けてやると、子供はおずおずと身をかぶせてきた。なりは大きめだが意外と軽い子供だ。母親が寄って来て、子供をなでながら「頼むよ」とサリクに声をかけた。サリクは笑って答えた。
「こんなこと、なんでもないさ」
それはアシメックの真似だった。アシメックは人に御礼のようなことを言われると、いつもこういうのだ。
サリクは子供を背負って、山を下りて行った。軽い子供だが、やはりずっと負っているのは疲れる。だがサリクの胸は明るかった。ずいぶんと自分がいい奴のような気がしていたからだ。子供を背負ってやるなんて、なんておれはいいことをしているんだろう。
ふとサリクは、傍らの木の根元に、紫色のキノコが生えているのに気付き、「お」と言った。