これで互いの条件は出た。これからが交渉だ。ヤルスベはできるだけ多くの米が欲しかった。それでゴリンゴは最初、二十五壺欲しいと言った。もちろんそれは多すぎる。アシメックはそれを退け、多くとも十三しか出せないと言った。それではヤルスベのほうが損だ。しかしこれが交渉というものだ。互いに意見を言いながら、少しずつ詰めていく。
お互いに条件を投げ合い、折り合いをつけながら、二十壺か、二十一壺かというところまで来た。エルヅの計算によると、今年採れた米の量は去年より六壺多い。二十一壺とられても余裕はある。だが、あまりたくさんは渡したくないのが、カシワナ族の気持ちだった。しかし、ヤルスベ族は、どうしても二十一壺以上の米が欲しいようだ。アシメックは考えた。そしてちらりと、ゴリンゴの前に置いてある鉄のナイフを見た。
いい技術だ。ヤルスベはどうしても、ナイフを作る技術を、カシワナ族に教えてはくれない。テヅルカ神の禁だと言って、カシワナ族がそれを聞くだけでいやな顔をする。だが、いつかは自分たちの力でも、鉄のナイフを作れる力を持ちたいものだ。
二十壺か二十一壺かという線で、考え込みながら、アシメックはふと、ヤルスベ族の舟のことを思った。そして何げなく聞いてみた。
「ヤルスベの舟は白い。なぜ白いのか」
するとゴリンゴは答えた。
「ああ? それは、白いものを塗っているからだ」
「白いものとはなんだ?」
「うむ。ミタイト川の上流に、白い粘土の層が露出した崖がある。その土を取って、クルサゴの木の汁と混ぜたものを塗ると、舟が白くなる。仕上げには油を塗る」
「ほう、おもしろい」
アシメックの頭の中で、たちまちのうちに計算ができた。